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Dolby Atmos/DTS:X×シネマDSPの掛け合わせ可能な初のAVプリ、ヤマハ「CX-A5100」

 ヤマハは、11.2ch AVプリアンプのフラッグシップモデルとして、Dolby Atmosの音声に独自のシネマDSP処理を適用して再生できる初のモデル「CX-A5100」を10月上旬に発売する。価格は28万円。カラーはチタンとブラックの2色。後日のファームアップデートにより、DTS:Xにも対応する。

11.2ch AVプリアンプのフラッグシップモデル「CX-A5100」。チタンカラー

 なお、11chのパワーアンプ「MX-A5000」はモデルチェンジせず、現行製品が引き続き生産される。

Dolby Atmos×シネマDSP HD3

 ヤマハAVアンプの特徴でもある音場プログラム「シネマDSP HD3」を、Dolby Atmosと掛けあわせて利用できるのが特徴。DTS:Xでも掛けあわせに対応する予定。「シネマDSP HD3」は33プログラムから選択できるが、いずれのプログラムもAtmosとの掛け合わせを想定し、一からアルゴリズムを見直している。従来のTrueHDなどのHDオーディオ利用時も引き続き「シネマDSP HD3」は利用できる。

 また、「ドルビーサラウンド」選択時は、Atmosソフトの場合はAtmosで、非対応のソフトはアップミックス再生する。処理能力を強化するため、DSPチップは従来モデルの2枚から3枚に増加している。ゾーンアウトとの併用も可能。

チタンとブラックの2色を用意する

 プレゼンススピーカーはフロントスピーカー上方壁に設置する「フロントハイト」、天井に設置する「オーバーヘッド」、「ドルビーイネーブルドスピーカー」の3パターンから選択可能。別売の11chパワーアンプ「MX-A5000」と組み合わせる事で、5.1.2ch、5.1.4ch、7.1.2ch、7.1.4chのスピーカー構成に対応できる。

 また、仮想のプレゼンススピーカーを空間上に生成することで、プレゼンススピーカーを設置しなくてもシネマDSP HD3再生が楽しめるバーチャル・プレゼンススピーカー機能と、バーチャル・リアプレゼンススピーカー機能も備えている。

「CX-A5100」のブラックモデル

 部屋固有の初期反射音を積極的に制御し、最適化する「YPAO-R.S.C.」と、その計測結果に基づいて再生時の周波数特性が音量に応じて聴感上フラットになるようにコントロールする「YPAO Volume」も搭載。設置した各スピーカーの距離と方角、プレゼンススピーカーの高さを自動計測することで音場空間を立体的に補正する「YPAO 3D測定」も装備し、Dolby AtmosやDTS:X、シネマDSP HD3再生における3次元立体音場の再現性を高めている。

 なお、このYPAOの処理を64bit演算で行なう「YPAO High Precision EQ」を初採用。演算誤差を低減でき、DACの直前で32bitに戻して処理を行なっている。これにより、ノイズを大幅に低減したという。

 ウルトラロージッターPLLも搭載。DACは192kHz/32bitに対応する、ESS製の「SABRE32 Ultra DAC ES9016」を11.2ch用として2基搭載している。

その他の特徴

 筐体には、理想の機械的強度と重量バランスを発揮するという左右対称コンストラクションと、強度を高めるH型クロスフレーム、ダブルボトム構造を採用。底部には“5番目の脚”も備え、設置安定性を高めている。

左右対称コンストラクションと、強度を高めるH型クロスフレーム、ダブルボトム構造を採用

 電源部は、オーディオ回路用、デジタル回路用、アナログ映像回路用、FLディスプレイ回路用をそれぞれ独立させてステージ間の相互干渉を防ぐ4回路分離型。

 HDMI端子は8入力、2出力。その内、7入力、2出力でHDCP 2.2に対応。4K/60p/4:4:4映像をパススルーできる。HDR(ハイダイナミックレンジ)映像にも、ファームウェアのバージョンアップで対応する予定。

 音の明瞭度をアップさせ、自然で原音に近い忠実な音質が実現できるという「PMLコンデンサ」や、ROHMと共同開発した新ボリュームも搭載。低ノイズ化に寄与しているという。

 無線LAN機能も内蔵。IEEE 802.11b/g/nに対応。Ethernet端子も備えているが、LANもケーブルを使わずにネットワークオーディオ機能や、スマートフォン/タブレットからの操作が可能。ルータに接続し、LAN内のNAS(ネットワークHDD)などに保存した音楽ファイルも再生できる。

 Bluetoothにも対応。対応プロファイルはA2DP/AVRCPで、コーデックはSBC/AAC。ルータを使わずに機器と直接ワイヤレス接続する「Wireless Direct」機能も用意。AirPlayにも対応し、AVアンプ制御用アプリの「AV CONTROLLER」によるワイヤレス再生もサポートする。

 ネットワークオーディオプレーヤー機能では、192kHz/24bitまでのWAV/FLAC、96kHz/24bitまでのApple Lossless再生に加え、192kHz/24bitのAIFF再生にも新たに対応。DSDの再生も可能。ネットワークモジュールも刷新。ネットワーク/USB/Bluetooth再生時に有効なもので、高精細かつロージッタのクロックを搭載し、ノイズレベルを大幅に低減している。

 「ハイレゾリューション・ミュージックエンハンサー」も用意。MP3などの圧縮音楽ファイル再生時や、Bluetooth音楽再生時などに利用できる。失われた高域の情報などを補って再生する「ミュージックエンハンサー」を強化したもので、ロスレスの音源も高音質で再生する。16bit、44.1/48kHzのPCM(WAV)/FLAC音声を再生する場合、「ハイレゾリューション・ミュージックエンハンサー」でアップサンプリングする。RX-A3050などの下位モデルでは24bit化だが、A5100では32bitまで対応する。

 GUIのフォントをHD対応とし、滑らかな表示が可能。AM/FMラジオも内蔵し、FMラジオはFM補完放送もサポートする。

 スマートフォン/タブレットのアプリ「AV CONTROLLER」も利用可能。シネマDSPの音場効果をピンチ&スワイプ操作で直感的にカスタマイズできる「DSP調整」や、操作感・視認性にこだわったというロータリー型音量調整、音楽ファイルへのアクセス改善、フラットデザインの採用などが特徴となる。

 MusicCastにも対応。家庭内に設置した複数のMusicCast対応音響機器の操作や、対応機器間での音楽コンテンツの共有などが、スマートフォンのアプリから行なえるもので、専用アプリ「MusicCast CONTROLLER」も用意する。

 アナログ音声入力は11系統(Phono入力含む)で、RCAアンバランスが9系統、XLRバランスが1系統。8chのマルチチャンネル入力も備えている。光デジタル×3、同軸デジタル×3も搭載。

 映像入力はHDMI×8、コンポジット×5、コンポーネント×3。ヘッドフォン出力、サブウーファ出力×2も搭載。ゾーンアウトも備えている。

 サブウーファ用の0.2ch出力を含む11.2chすべてのプリアウトには、RCAアンバランス出力に加え、XLRバランス音声出力端子も装備。MX-A5000など、バランス入力端子付きパワーアンプやアクティブサブウーファと組み合わせられる。XLRバランス入力も搭載。全てのバランス入出力端子には、ノイトリック製の金メッキ仕上げが採用されている。

 消費電力は65W。外形寸法と重量は、435×474×192mm(幅×奥行き×高さ)で、13.5kg。

背面端子部

音を聴いてみる

 Atmos×シネマDSP HD3の効果が気になるところだが、その前に要注目なのが、YPAOの処理を64bit演算で行なうようになった事だ。まず、YPAOの処理を行なわない「ピュアダイレクト」モードとYPAOを加えた「ストレート」を聴き比べてみる。

 従来はどうしてもDSP処理を通すと、音の鮮度が低下していたが、A5100ではそれが無い。サウンドの生々しさが、ストレートでもまったく変わらないのだ。64bitの演算により、演算誤差がほぼゼロになり、ノイズが抑えられた事で、両モードの音の変化がほぼ無くなっているわけだ。

 YPAO処理を行なうと、試聴室の一次反射の影響を低減し、バランスを整えたサウンドで再生されるため、当然ながら音像の立体感や音場の広がりはストレートモードの方が優れている。その上で、音の情報量の低下が感じられないので、ピュアダイレクト/ストレートを切り替えると、ストレートモードの方が“ピュアダイレクトっぽい音”に聴こえるのが面白い。これは他のAVアンプではなかなか味わえない現象だ。YPAOを従来のAVアンプより積極的に使いたくなる、音質面で極めて重要な進化と言えるだろう。

 その他にも、各入力モード毎にウルトラロージッターPLLの値が、OFFも含めて4段階から設定できる。範囲も従来モデルと比べ、4オクターブ以上改善しているという。OFFにするとウルトラロージッターPLLを使わず、ESSのDACに搭載されているジッタ除去機能を使う形になる。なお、DACのデジタルフィルタ設定も3タイプから選択でき、ウルトラロージッターPLLと組み合わせると、12通りの音の組み合わせが可能。非常にマニアックだが、好みの音に近づけられるポイントだ。

 いよいよAtmos×シネマDSP HD3も聴いてみよう。前述のとおり、シネマDSPの全プログラムはアルゴリズムが変更されている。従来のプログラムをAtmosに適用すると、トップやハイトの上方スピーカーからの圧迫感が強く、開放感が出にくい事がわかったため、Atmos対応として全プログラムを見直したそうだ。

 Atmosソフトの「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」を、プログラムの「ムービーシアター アドベンチャーモード」を適用して再生。素のAtmosと比較しながら聴いてみると、空間の広がりがアドベンチャーモードの方が広い。面白いのは、単純に音が遠くなったのではなく、背後の空間だけが広くなり、その手前に定位する音像の位置は後退せず、明瞭さや情報量も低下していない事だ。広がって欲しい音は広がり、グッと近くから出て欲しい音は近くからという、従来では難しかった異なる要素が同居できており、AtmosとシネマDSP HD3を掛けあわせた方が、旨味が多いサウンドになると感じる。

 「ゼログラビティ」で、サウンドがドラマチックになる「ロールプレイングモード」を適用してみると、中低域の張り出しが強く、素のAtmosより迫力が増す。一方で、定位や分解能に気を配ると、単に全体の音を音圧豊かにしたのではない、サウンドの生々しさも備えている。音の鮮度の低下を恐れ、シネマDPSモードをあまり使ってこなかったという人も、Atmosと掛け合わせたサウンドを聴いてみれば、考えが変わるかもしれない。

 なお、発売を記念し、9月12日に東京会場、9月19日に大阪会場にて先行視聴会が開催される。詳細は専用サイトを参照のこと。

(山崎健太郎)