レビュー

“ぶっ飛んだミニコンポ”遂に完成形に。マランツ「M-CR612」のパラレルBTLが凄い

PC用の机やベッドサイドなど、ちょっとした空間に置きやすい小型の一体型コンポ、いわゆる“ミニコンポ”の世界で、異彩を放つ製品があるのをご存知だろうか。バリバリの老舗ピュアオーディオメーカーのマランツが、低価格なミニコンポ市場に、何を考えたか上級機を手がけるエンジニアやパーツを投入、「そんなのミニコンポに必要なの!?」という社内の声も押し切ってバイアンプまで搭載した“ガチなミニコンポ”「M-CR600」シリーズだ。

「M-CR600」シリーズの最新機種「M-CR612」

製品自体トンガッててユニークだが、本当に面白い話はここからだ。シリーズの発端は2008年に発売した「M-CR502」というモデル。店頭では、他社のミニコンポが派手なドンシャリサウンドやデザインで競う中、「他社のようにセールス活動にお金かけられないし、ぶっちゃけそんなに沢山売れないだろうから、どうせなら“すごいマランツらしいものを作ろう”」と、単品コンポのつもりで真面目に音を作りこみ、さらにはバイアンプ、つまりステレオコンポなのに4chアンプを搭載し、2ウェイスピーカーのツイーターとウーファーを別々のアンプでドライブできる製品として投入した。

それだけならば、ミニコンポの売り場に「なんか変なモデルがある」で終わる話だが、音質にこだわるユーザー達が目をつけ、販売台数が徐々に拡大。海外では販路の関係で、音質をちゃんとチェックができるオーディオショップに置かれた事もあり、人気が爆発。日本でも遂にミニコンポ市場でナンバーワンを獲得。2015年に発売された「M-CR611」は、発売から現在に至るまで、なんと30カ月市場シェア・ナンバーワンという大ヒットモデルになっている(プリメインアンプ/レシーバーカテゴリ 横幅30cm以下/GFKデータ)。

「M-CR600」シリーズの歴史

まとめると「あんまり売れないだろうから、好き放題こだわりまくったマニアックモデルを作ったら、なんか好きな人がいっぱい買ってくれて人気ナンバーワンになった」という話だ。前置きが長くなったが、そんな「M-CR600」シリーズの最新機種「M-CR612」が4月下旬に発売される。ナンバーワンになって落ち着いたかと思いきや、良い意味でさらに突き進んでいる。だが、今回の“暴走っぷり”は、マニアだけが喜ぶものではなく、“多くの人に恩恵がある”のが注目のポイントだ。なお、価格は7万円で、前モデルのCR611と同じだ。

最新機種「M-CR612」

マニアックだが、多くの人に恩恵がある「パラレルBTLドライブ」

まずは気になるアンプ部分を見ていこう。先程から説明しているように、「M-CR600」シリーズには4chのパワーアンプが内蔵されている。ただ、実はこの説明、厳密には間違っている。TIのソリューションを採用しているのだが、パワーアンプは実際には8ch仕様となっている。これを、2chずつまとめて、4chとしている。要するに、単に4chアンプでスピーカーを駆動しているわけではなく、その4chアンプの1ch、1chを、2つのアンプで駆動してる。つまり、“ノーマルがBTL接続”と呼ばれる状態なのだ。この時点で、このシリーズの“変態っぷり”がよくわかる。

ノーマルモード。だが、この時点でもうBTL接続になっている
背面のスピーカーターミナル

先程も書いたバイアンプ接続は、この4ch出力を使って、ツイーターとウーファーを別々にドライブする方式だ。個別にドライブするこで、大きく振幅するウーファから発生してしまう逆起電力が、戻ってきて、ツイーターに影響を与えるのを防げる。マニアックではあるが、音質向上には効果的な技術だ。

バイアンプ接続の図。ツイーターとウーファーを別々のアンプでドライブする

……しかし、ここで1つ問題がある。当たり前の話なのだが、この“バイアンプ接続”は、ツイーターとウーファーそれぞれに、アンプを接続できるタイプのスピーカーでないと利用できない。具体的には「バイワイヤリング接続対応のスピーカー」でないと使えないのだ。

スピーカーの背面を見てみると、スピーカーケーブルを接続する端子がある。ツイーターとウーファーを備えた2ウェイスピーカーの場合、ツイーター用に2つの端子、ウーファー用に2つの端子、合計4つの端子があればバイワイヤリング接続対応であり、バイアンプ駆動できる。このタイプのスピーカーは、ジャンパーケーブルと呼ばれる短いケーブルで、ツイーターとウーファーの端子を接続している事が多い。バイアンプ駆動する時は、これを外すわけだ。

バイワイヤリング接続できるスピーカーのターミナル部分

一方で、端子が最初から合計2つにまとめられている“シングルワイヤ接続”のスピーカーでは、バイアンプ駆動はできない。つまり、せっかくバイアンプ駆動できるアンプを買っても、宝の持ち腐れだったわけだ。

こちらはシングルワイヤ接続のみできるスピーカーのターミナル部分

ここに1枚のグラフがある。マランツが、前モデル「CR611」の利用動向を調査したものだ。バイアンプの使用率は茶色の部分、日本で18%、ヨーロッパで8%、アメリカで10%。日本が一番多いのは凄いが、それでも2割に満たない。そして半数以上、65%の人は、シングルワイヤ接続のスピーカーと繋いで使っている。つまり、2ch分のアンプが使われていないわけだ。

バイアンプ使用率のグラフ。A+Bと書かれているのは、2系統の出力それぞれに、別のスピーカーを繋いで使っている人の割合だ

そこで「多くの方に、4chアンプの醍醐味を使っていただきたい」(尾形好宣サウンドマネージャー)と、開発されたのが、最新機種「M-CR612」に搭載されている「パラレルBTLドライブ」機能だ。

パラレルBTLドライブの図

どのような機能かは、上の図を見れば一目瞭然。例えば、AとB、2系統のスピーカー出力の内、Aにシングルワイヤのスピーカーを接続すると、Bは使わない。その使っていなかったB系統を、Aと合流させ、右と左のスピーカーそれぞれを、4chのアンプでドライブする……という方式だ。

これにより、シングルワイヤ接続のスピーカーでも、内蔵8chアンプをフルに活用してドライブできる。前述のように、ベーシックな状態でBTL接続なアンプを、さらにパラレル(並列)化した駆動なので“パラレルBTLドライブ”というわけだ。

パラレルBTLで、アンプのスピーカー駆動力の指標となるダンピングファクターは、通常のBTLドライブに比べ、約2倍に向上するという。より、余裕を持ってスピーカーを駆動できるというわけだ。

「開発前に、商品企画の方からパラレルBTLのアイデアを提案され、効果があるかどうか相談されました。そこで、私の方で実際に試作して、実験したところ、大きな効果を確認しました。確かにマニアックで通好みな機能ですが、今まで遊ばせていたアンプを有効に使い、そのメリットを大多数のお客様に享受していただける機能だと感じたため、CR612に搭載する事を決めました」(尾形好宣サウンドマネージャー)。

尾形好宣サウンドマネージャー

パラレルBTLドライブで音はどう変わる?

では、実際に通常のBTLドライブと、パラレルBTLドライブでどのくらい音が変化するのか聴いてみよう。組み合わせるスピーカーは、デンマークDALIの低価格スピーカーとして人気を集めた「ZENSOR(センソール)」の後継で、昨年9月から発売されている「OBERON(オベロン)」シリーズのブックシェルフ「OBERON1」で、価格は57,000円(2本1組)だ。

このスピーカーは、シングルワイヤ接続のみ対応だ。バイワイヤリング接続には対応しておらず、バイアンプ駆動はできない。

DALIのブックシェルフ「OBERON1」

CR612と接続し、アンプのメニューからデフォルトのBTLドライブを選択する。ブラームスのピアノ・ソナタや、大西 順子の「Blackberry」などをしばらく聴いた後で、メニューから「パラレルBTLドライブ」を選択する。アンプの内部で「カキン」と回路が切り替わった音がして、出てくる音が一気に変化する。

標準のBTLモードを選択した画面
「パラレルBTLドライブ」に切り替えたところ

まず驚くのは、音が広がる空間がグワッと広くなり、その音場から飛んでくる低音の押し出しがよりパワフルになった事だ。“何曲も聴き比べて違いがわかる”みたいなレベルの違いではなく、切り替えて音が出た瞬間に「うわ!! ぜんぜん違うわ」と声が出るほど違う。音像の立体感も増して、音が生々しくなる。

パラレルBTLは要するに、「今まで遊んでいた1組のアンプを、加勢させてドライブする」機能だ。こう聞くと、低音をメインに、やたらとパワフルで、野太い音……モンスターエンジンを搭載したアメ車みたいな音になるのでは? と想像する人もいるだろう。だが、実際のパラレルBTLは、そうしたイメージと、良い意味で全然違う。

まず大前提として、CR612は通常モードでもBTL接続状態なので、通常の音が非常にパワフルだ。しかし、低音過多な音ではなく、あくまでワイドレンジでバランスはニュートラル。その中で、低音の押し出し、沈み込みの深さがシッカリとしており、低重心で安定感のある、“どっしりしたサウンド”が楽しめる。とても7万円のミニコンポの音とは思えない“頼りがいのある音”なのだ。

これをパラレルBTLに切り替えると、パワフルさがアップすると同時に、音にキレが出て、サウンドがハイスピードになる。音像を描く、音の輪郭が野太くなるのではなく、よりシャープに、細かく描写される。それなのに、1つ1つの音は弱くならず、エネルギッシュで力強く耳に届いてくるのだ。

これはパラレルBTLにより、駆動力がアップし、ユニットをよりシッカリと駆動できている証拠だ。音を出す時はズバッと動かし、信号が無くなったらビシッと音が出なくなり、フラフラ余韻で動いて余計な音を出すことがない。熱気と情報量が共存したサウンドになるわけだ。

「OBERON1」

そのため、「OBERON1」から良い意味で“聴いたことのない音”がする。ブックシェルフならではの音の広がりや、まとまりの良さなど、もともとのスピーカーとしての良さがありつつ、目の覚めるような低域の切り込みや、中高域のハッとするようなシャープな描写に驚く。「OBERONからこんな音出るのか」というのが正直な感想だ。

高い駆動力は伊達ではない。マランツの試聴室に設置された、B&Wの「802D3」(1本180万円)と接続、価格やサイズ差を考えるとCR612が可哀想に見えてくるが、音を出してみると、低音も雄大なスケールで再生されて驚く。それもそのはず、開発時にはハイエンド単品コンポと同じように、この802D3をメインスピーカーとして使って音を追い込んだそうだ。

B&Wの「802D3」
CR612で802D3をドライブできている

もう少し現実的な組み合わせとして、B&Wの「707S2 B」(ペア15万7,000円)とも組み合わせてみた。ちなみにこの組み合わせは、マランツから「Premium System」(227,000円)としても提案されている。

B&Wの「707S2 B」

707S2は、バイワイヤリング接続に対応しているので、バイアンプ接続を試すと、シングルワイヤのBTL接続と比べ、音の解像度が向上。定位がよりシャープになり、低域のキレもアップ。全体的に目の覚めるようなサウンドへと進化する。もともとB&Wは高解像度なサウンドが特徴だが、その持ち味がより強化される印象だ。B&Wの場合でも、パラレルBTL駆動すると低域のキレや、メリハリはアップするが、バイアンプ駆動の方がマッチしていると個人的には感じた。

気になるのは、バイアンプ駆動とパラレルBTL駆動、どちらを使ったらいいのか? という点。シングルワイヤのみのスピーカーではパラレルBTLを選ぶしかないが、バイワイヤリング対応の場合は、悩んでしまいそうだ。

尾形サウンドマネージャーは「機種やお客様の好みにもよりますが」と前置きした後で、こう語る。「スピーカーメーカーが“どういった意図でそのスピーカーを作っているのか”が関係してくると思っています。市場では、低価格なスピーカーにシングルワイヤ接続のモデルが多く、ある程度以上の高価なモデルはバイワイヤリング接続できます。しかし、ハイエンドスピーカーであっても、メーカーによってはシングルワイヤ接続のみの製品があります。

「あくまで私の印象ですが、例えばB&Wのような、超ハイファイ、高解像度なサウンドのスピーカーはバイワイヤリング接続に対応しており、バイアンプ駆動でよりその持ち味が発揮される事が多い。その一方で、音楽性を追求するメーカーでは、バイワイヤリング対応は少ない傾向にあります。どちらが良いと一言では言えませんが、それぞれのメーカーが、“バイワイヤリング接続する事でメリットがある”、“あえてシングルワイヤ接続にする事でメリットがある”と考えているので、そうしたスピーカーが生まれたのだと思います。ですので、バイワイヤリングできるならバイアンプ駆動を、あえてシングルワイヤ仕様にしているスピーカーの場合は、パラレルBTLを使ってみていただければと思います」。

ネットワークプレーヤーとしても大幅進化

冒頭から、パラレルBTLの話しを一気にしたが、新モデルで進化したのはそれだけではない。まず、デジタルパワーアンプ自体の音質も向上している。最大出力60W×2(6Ω)という数値は同じだが、上位機の「PM-10」や「PM-12」などの開発で蓄積されたノウハウを活用し、アンプの周辺回路を刷新している。

「CR612は、前モデルのCR611から3年8カ月ほどかかっています。通常の製品サイクルからすると、2世代くらい、間があいているのです。なぜ時間がかかったのかというと、PM-10の開発にリソースを割いていたからです」(尾形氏)。

PM-10は、マランツのリファレンスプリメインアンプとして2017年2月に発売された60万円の高級機だ。「今後10年の礎となるような技術革新を実現した次世代のプリメインアンプ」として作られたモデルで、パワーアンプにスイッチング式のHypex製の「Ncore」を使っているのが特徴。CR612はTIのソリューションで、Ncoreではないのだが、デジタルアンプをどのように使いこなし、音質を練り上げていくかというノウハウがPM-10で蓄積され、それをCR612に活用している……というわけだ。

リファレンスプリメインアンプ「PM-10」
CR612に搭載されたTIのアンプモジュール

「アンプモジュール内部に手を出す事はできませんが、その周辺環境、電源周りなど、“ここに手を入れると、音がこう良くなる”というノウハウを持っています。使う部品による音の変化もノウハウの1つです。また、デジタルアンプなのですが、音の変化傾向は、CDプレーヤー作りと似ているところもあります。例えばSACDプレーヤーの『SA-12』で採用した、低位相雑音のクロックを、CD再生用にCR612にも投入しました。デジタルの電源では、クロック要素がより重要なためです。グランド周りも、プレーヤーで使ったクロックラインの配線や抵抗のノウハウも活用しています。我々はミニコンポだけでなく、単品のアンプ、プレーヤーなど、いろいろ手がけており、技術者達にも横の繋がりがあるため、そうしたノウハウをCR612に集約できました」(尾形氏)。

「SA-12」で採用した低位相雑音のクロックも投入

最終的に、パワーアンプ用電源は従来から独立していたが、他の回路と共有していた電源回路をPWMプロセッサー専用とし、ローノイズタイプを採用して電源由来のノイズを大幅に低減。PWMプロセッサー、ゲートドライバーの電源にはESR(等価直列抵抗)が低い導電性ポリマーコンデンサーを使ってノイズレベルを下げている。左右チャンネルの音質差を排除するため、グラウンドラインも含むオーディオ回路を左右対称にレイアウト。左右チャンネルの電源ラインも独立させるというこだわりぶりだ。基板上のグラウンドラインも最適化してインピーダンスを下げたのも、アンプのドライブ能力を最大限に引き出すためだ。

また細かい点だが、ボリュームカーブもCR611の60ステップから、CR612では100ステップに増加。より細かな調整が可能になった。夜に小音量で楽しむ場合などは、嬉しい進化と言える。

他の回路と共有していた電源回路をPWMプロセッサー専用とした
負荷変動に対して優れた応答性を持つ、低ESR/ESLの導電性高分子電解コンデンサを、3メーカーの3タイプ用意。これを適所に配置する事で、低ノイズ化を高音質化を実現したという

CR612には、CDプレーヤーとワイドFM対応のFM/AMチューナーも搭載。さらにネットワークプレーヤーとしての機能も備えている。進化したのはアンプ部だけでなく、このネットワークプレーヤー部分も機能向上した。デノン、マランツの両方で採用しているワイヤレスオーディオシステム「HEOS」の最新テクノロジーが搭載されたためだ。

CDプレーヤー部分

スマホ/タブレットからHEOSアプリを使い、セットアップや音楽の選択が可能。ストリーミングサービスは、従来モデルはSpotifyのみだったが、新モデルではAmazon MusicやAWA、SoundCloudなどに対応した。インターネットラジオの受信も可能だ。

LAN上のミュージックサーバー(NAS/PC/Macなど)や、USBメモリーに保存した音源の再生も可能。Bluetooth受信もできる。同一のネットワークに接続した、他のHEOSデバイスに再生中の音楽を配信することも可能だ。再生対応ファイルは、DSDが5.6MHzまで(前モデルは2.8MHz)、PCMは192kHz/24bitまで対応。DSD、WAV、FLAC、Apple Losslessのギャップレス再生にも対応している。

こうしたスペック面の進化に加え、HEOSの採用で、ネットワーク再生時のレスポンスなども劇的に良くなったという。HDDを接続しての再生は、従来モデルから可能だったが、新モデルではNTFSに新たに対応するなど、より使いやすくなっている。

iOS 11.4で追加されたAirPlay 2をサポートしている点も注目だ。iOSデバイスからのApple Musicの再生や、複数のAirPlay 2対応機器によるマルチルーム再生ができる。AirPlay 2では、操作してから音声が再生されるまでの時間の短縮や、動画再生時の映像と音声との同期精度も向上しているので、iPadで映像配信を楽しみながら、音楽はCR612から再生するといった使い方もできるだろう。

無線LANは、IEEE 802.11 a/b/g/nに対応。前モデルは2.4GHzのみだったが、新モデルは2.4/5GHzのデュアルバンドWi-Fiで、より安定した通信を可能にした。

付属のリモコン

テレビやパソコンとの組み合わせも

個人的に新機能で嬉しいのは、最大192kHz/24bitまで対応する2系統の光デジタル入力を備え、信号の入力を検知してCR612の電源が自動でオンになる「自動再生」機能を備えている事だ。

背面端子部

光デジタル出力を備えたテレビと繋いで、テレビスピーカーとしてCR612のセットを活用できる。パソコンと繋ぎ、PCディスプレイ用スピーカーとして使うのもアリだろう。最近では、NetflixやAmazon Prime Videoなど、パソコンの前で映像コンテンツを楽しむ人が増えている。CR612+ブックシェルフスピーカーから音を出せば、並のサウンドバーやPCスピーカーでは相手にならない高音質環境が構築できる。

ヘッドフォンアンプが強化されているのもポイントだ。マランツの代名詞とも言える「HDAM-SA2型」のディスクリート高速電流バッファーアンプを投入している。ハイスルーレートオペアンプに高速電流バッファーアンプを組み合わせた、本格的なヘッドフォンアンプで、3段階のゲイン切り替え機能も搭載。鳴らしにくいヘッドフォンもドライブできる。デスクトップに設置し、ヘッドフォンリスニングを楽しみたいという人にも嬉しい進化だ。

ヘッドフォンアンプ部には、マランツの代名詞とも言える「HDAM-SA2型」のディスクリート高速電流バッファーアンプを投入

オーディオ入門に加え、同シリーズからの買い替えも

外形寸法は280×303×111mm(幅×奥行き×高さ)、重量は3.4kgと、従来モデルとほぼ同じだが、デザインが変わっており、よりスッキリとした印象を受ける。やや膨らんでいたサイドパネルが、平らになったのでそう感じるのだろう。

カラーはブラック(左)、シルバーゴールド(右)の2色

カラーはシルバーゴールドとブラックの2色。シルバーゴールドモデルはトップパネルの色を従来のブラックからシルバーゴールドに変更しているため、全体としてより明るい色になった。ハイエンドモデルにも通じる、ピュアオーディオ機器らしいエレガントなデザインだ。なお、トップパネルには硬度が高く、擦り傷に強いハードコート・アクリルを採用している。

CR611のブラックモデル。サイドパネルがやや膨らんでいる
CR612のサイドパネルは膨らみが無くなり、スッキリしたデザインに
トップパネルには硬度が高く、擦り傷に強いハードコート・アクリル

フロントパネルにはイルミネーションを配しており、デフォルトのカラーは従来のブルーからホワイトに変更された。ただし、ホワイト、ブルー、グリーン、オレンジの4色から、ユーザーの好みで選択する事も可能だ。上位モデルと同じブルーも良いが、ホワイトのほうが色の主張が少ないため、インテリアなどとは組み合わせやすいかもしれない。

7万円という価格は、ミニコンポとしては高価に感じる。だが、中身は完全にピュアオーディオのプリメインアンプ、CDプレーヤー、ネットワークプレーヤーであり、それらをギュッとコンパクトにまとめた製品と考えると、“激安”と言っていい。ピュアオーディオ入門用としても、PCやテレビまわりで良い音を手軽に楽しみたいという人にもマッチしそうだ。

同時に、「従来シリーズからの買い替えもおすすめ」と尾形氏は言う。「マランツに入社する前、オーディオファンとして様々な製品を買いましたが、新しいモデルを買う時は“2クラス上のものを買おう”と決めていました。同じクラスの新製品でも音は進化していますが、頑張ってお金を貯めて2クラス上を買った方が、音が良くなった事がわかりやすいからです。しかし、CR612に関しては違います。従来から音質の正常進化だけでなくパラレルBTL機能、最新のネットワーク機能と劇的にアップしていますので、CR611のユーザーさんにもおすすめです」。

CR612のようなミニコンポでも、追求した音は上位モデルと同じだと語る尾形氏。「やはり“生演奏がそこで行なわれているような音”ですね。等身大の音像が定位し、スケール感があり、まるで目の前にドラムがあるような感覚です。オーディオにもいろいろなジャンルがあり、リアルよりも美しい、美音を追求する製品もあります。それはそれで素晴らしいのですが、マランツとしてやりたいところはやはり“生で聴いているような音“、“オーディオ越しに聴いている事を忘れる音”です」。

尾形氏はそんな理想の音の“届け方”にもこだわりがあるという。「もし、パーツや開発納期に一切制限がなく、いくらでもお金や時間をかけられるとしたら、凄いオーディオ機器を作れます。しかし、実際にそんな高価な製品では、多くの人に楽しんでいただく事はできません。限られた条件の中で、最高の音を出すのが我々の仕事であり、こだわりでもあります。CR612に買い換えていただければ、今お使いのスピーカーがより良くなる。そしてネットワークプレーヤーとしても、最新・最高のものになる。尖った機能で支持されてきましたが、全てのお客様に、その性能を享受していただけるようにしたのがCR612の特徴です」。

確かに、パラレルBTL機能だけでなく、ベース部分のアンプ自体も進化しているのがわかる。ネットワーク系の進化、仕様のこなれ方もあわさって、決定版的なモデルと言っても過言ではない。

尾形氏の言葉通り、どんなにユニークでマニアックな機能を搭載したコンポでも、目玉が飛び出るほど高価だったり、部屋に置けないほど巨大なら、そもそも買えない。CR612の魅力は、「ちょっと頑張れば買える」値段と、使いやすい小さなサイズ。それでいて、オーディオらしいマニアックさを“薄める”のではなく、より発展させながら、普通の人でも効果を実感できやすくしたところにある。その他機能の進化もあわせて、「CR600」シリーズの1つの完成形と言ってもいいだろう。

メーカーの熱いこだわり、マニアックさを楽しむのが、趣味としてのピュアオーディオの“醍醐味”の1つだ。CR612が掲げるキャッチフレーズ“いちばん小さなマランツシステム”には、「小さいからってあなどるな」というピュアオーディオメーカーらしいプライドが垣間見える。

(協力:ディーアンドエムホールディングス/マランツ)

山崎健太郎