【レビュー】「もっとTV」にみるテレビ向けVODの可能性

“見逃し番組”に最適。放送局ならではの良さと制約


 民放キー局5局と電通が共同で推進するインターネットTV用VODサービス「もっとTV(テレビ)」が4月2日にサービスを開始した。

 これまでもテレビ向けのVODサービスは、アクトビラやTSUTAYA TV、T's TVなど多数展開されている。また、放送局によるサービスも民放の各キー局が展開しているほか、NHKもNHKオンデマンドを展開している。「もっとTV」は、自社のWebサイトやISP、CATVサービスに組み込むなど、様々な提供方法にわかれていた放送局のVODサービスに対し、テレビ向けのインターフェイスなどを標準化し、統合したものといえる。

 そのため、視聴には対応テレビが必要となるが、1台のテレビでかんたんに各局の見逃し番組にアクセス可能になる。放送局が満を持して取り組むVODサービスとなる「もっとTV」は、いまひとつパッとしない日本のVODを変えるのか? テストしてみた。



■ 視聴には対応テレビが必要

VIERA「TH-L42DT5」

 まずもっとTVの視聴には、対応テレビとインターネット回線が必要となる。テレビは、パナソニックのVIERA 2012年モデル、もしくはBlu-rayレコーダのDIGA 2012年モデルが必要となる。もっとTVのWebページにも対応機器を案内しているので、参考にして欲しい。ネット回線は実行速度10Mbps以上が必要となる。

 今回は、パナソニックの42型液晶テレビVIERA「TH-L42DT5」でもっとTVを試用した。このL42DT5は、デザインを一新したVIERA新シリーズで、もっとTV対応だけでなく、ネットワーク機能や3Dなども搭載した液晶VIERAのフラッグシップモデル。一新されたデザインもスタイリッシュで、これまでのVIERAの印象を大きく変える仕上がりだ。


VIERA「TH-L42DT5」超狭縁ベゼルのデザインが特徴的側面

 もっとTVでは、日本テレビ放送網やテレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョンの民放キー局5局がコンテンツを提供、電通がシステムを提供する。具体的には各放送局のVODサービス「日テレオンデマンド」、「テレ朝動画」、「TBSオンデマンド」、「テレビ東京オンデマンド」、「フジテレビオンデマンド」がテレビ上で提供され、さらに日本放送協会(NHK)の「NHKオンデマンド」も参加予定となっている。

 配信方式はストリーミングのみで、ダウンロードや録画はできない。価格はコンテンツ提供者(放送局)が決定し、一話105円~となっている。各社のサービスをみてみると、だいたい1時間のドラマは1話315円、30分のアニメは1話210円が相場といえる。また、ドラマの「まとめ買い」などのメニューも用意されている。

 視聴期間はコンテンツ次第だが、最新のアニメやドラマでは、購入後「2日間」というものもあるが、購入後「30日間」というものもある。

 

【概要】

コンテンツ提供者民放5社+
NHK(予定)
システム電通
方式ストリーミング
レンタル
価格105円~
支払い方法クレジットカード
視聴端末もっとTV対応テレビ
タブレット/スマートフォン
(初夏に対応予定)

 決済手段としては、現時点ではクレジットカードのみ。今後は携帯電話(モバイル)決済への対応も予定している。クレジットカード情報は開通画面から設定できるほか、コンテンツ購入時にも登録可能。

 もっとTV対応テレビでは、開通画面で認証コードが発行されるので、この認証コードに対してパスワードを設定。続いてクレジットカード情報登録画面でカード情報を登録する。一度カード情報を登録すれば、後は購入画面でパスワードを入力するだけで、購入決定画面に移行できる。

 操作としてはパスワードを登録し、カード番号、カード有効期限(月、西暦)を入れるだけとシンプル。リモコン操作を前提とし、全て数字入力だけで完結できるようになっているのはありがたい。

 ただし、ちょっとわかりにくい箇所もあった。カード有効期限の年号は4桁入力する必要があるのだが(例:[2012])、「月」と同じ2桁の入力ボックスサイズに見えるので、下二桁だけ入れて[決定]し、なんどもエラー表示されてうんざりした。また、このカード情報の入力画面での文字の消し方もわからなかった。このあたりは改善の余地があると感じた。

開通画面で6桁のパスワードを指定して登録完了決済方法はクレジットカード
設定したパスワードでクレジットカード入力画面に購入が完了すると[見る]が可能に。4月12日まで視聴可能

■ “局主導”が特徴。起動以外のレスポンスは良好

リモコンのVODボタンでもっとTVを呼び出し

 テレビをネットワーク接続し、リモコンの「VOD」ボタンを押すと、もっとTVが起動する。この時は選択している局のもっとTV画面が現れる。つまり日本テレビを見ている場合は日テレオンデマンド、TBSの場合は、TBSオンデマンドといった具合だ。VOD画面に遷移すると、左上に放送中の番組を表示しながら、コンテンツの一覧が現れる。

 つまり、日テレの場合は、最初に「もっとTV」画面でなく、「もっとTVの日テレ画面」が出る。この仕様からわかるのが、基本的には局の番組編成に紐づけたサービスと言うこと。この特徴を把握していることが、もっとTVの使いこなしのポイントといえる。

 もっとTV設立時のニュースリリースにも、「生活者の視聴スタイルの多様化に対応し、番組の視聴機会を確保することで、リアルタイム視聴に繋げ、テレビの価値最大化を図る」と書かれており、“見逃し”番組に対応することで、リアルタイム視聴につなげていこうという考えだ。

 なお、VODページが無い放送局を視聴している際にVODボタンを押すと、NHKの場合は、NHKオンデマンドが「準備中」と案内される。東京MXや放送大学などでは、もっとTVのメインページ(ポータル)が表示される。


日テレを見ながら、VODボタンを押すと「日テレオンデマンド」が起動。左上には日テレの放送中番組メインメニュー(ポータル)NHKオンデマンドは準備中

 VODボタンを押すと、各局の「もっとTV」メニューが立ち上がる。呼び出しに10秒ぐらいかかり、結構待たされる印象だ。また、時間や日時によっては20秒ぐらいかかるときもあった。起動さえ終われば、メニュー間の遷移などは2~3秒程度で、順次描画されるのでそれほど待たされる感はない。

 局ごとにデザインは違うが、基本的な操作体系は共通。リモコンの青ボタンでコーナー毎の検索、赤ボタンで機能呼び出し、緑ボタンでズーム/縮小、黄色ボタンでポータル(トップメニュー)移動が可能となっている。

全話パック

 あとは、ページを見ながら任意の番組を選択するだけ。番組には1話ごとの販売のほか、全話パック(シリーズ購入)なども用意されている。また、番組選択画面には関連番組のほか、同じ局の今後の放送予定の番組なども案内される。ただし、この番組の録画予約や視聴予約などは行なえず、あくまで案内しているだけだ。

 4月5日に各社のタイトル数を調べたところ、下記の通りとなっていた。各局のコンテンツも見せ方も異なっており、ドラマが中心のところや、スポーツや映画なども充実させる局があるなど、各社のVODに対する姿勢の違いがうかがえて興味深い。


サービス名タイトル数
日テレオンデマンド680
テレ朝1,278
TBS4,531
テレ東370
フジ204

 「日テレオンデマンド」は、「HUNTERXHUNTER」、「コナン」などアニメや、「家政婦のミタ」、「理想の息子」などのドラマや映画、「バラエティ・スポーツ」などをラインナップ。

日テレオンデマンド。画面の表示領域を3段階で選択できる

 「テレ朝動画」は、「特命係長・只野仁」や「交渉人」などの人気ドラマや映画を中心にラインナップ。スーパーヒーロ大全など特撮ものが多いのも特徴だ。

テレ朝動画
サムネイルを縮小した細かい表示も可能だが、さすがに42型テレビでも見づらいマップ表示でページ遷移

 「TBSオンデマンド」は「SPEC」、「運命の人」などのドラマ、「おくりびと」などの映画、「けいおん!」などのアニメを中心に、4,000本以上の充実したラインナップ。ジャンルもドラマやアニメだけでなく、スポーツや音楽、バラエティなども揃えているのが特徴だ。

TBSオンデマンド「おくりびと」などの映画も
縮小表示すると多数の番組を確認できるスポーツや音楽、バラエティなども揃えているのがTBSの特徴マップ表示も広大だ

 「テレビ東京オンデマンド」は、「鈴木先生」などのドラマや「ダンボール戦機」などのアニメをラインナップ。ジャンル分けで「あにてれしあたー」や「ゴルフコーナー」などを用意しているのはテレビ東京ならではと言えるだろう。

テレビ東京オンデマンド
あにてれしあたーやゴルフコーナーを用意するのがテレ東らしい

 「フジテレビオンデマンド」は、一番タイトル数が少なく「ストロベリーナイト」、「最後から二番目の恋」、などの人気ドラマが中心。「2011年7-9月期」、「2011年10-12月期」「2012年1-3月期」など、放送クールごとのメニュー構成となっているのが特徴だ。“テレビ放送”のイメージに最も近いメニュー構成といえる。

フジテレビオンデマンド
検索機能

 また、検索機能も搭載。ジャンル検索のほか、ポータル(メインメニュー)からは、キーワード入力による番組/出演者検索が可能となっている。局を横断して検索できるのだが、検索結果は局ごとに表示され、無駄になる表示領域が多い。このあたりは局単位の割り切りがはっきりした「もっとTV」らしいのだが、正直見づらい。


リモコンで入力局ごとに検索結果を表示するので、表示画面の無駄が気になる「長谷川」で検索

 各局のメニュー画面からの検索では、「注目のワード」での検索にも対応。注目度の高い出演者や番組名が選択肢として用意されているので、検索しやすい。これは便利なので、出演者などは局をまたいで利用したいと感じてしまう。

局ごとの検索画面には、「注目のワード」検索も可能に。フジテレビオンデマンドで検索新着リスト

■ 画質はコンテンツ次第

 番組の購入方法はシンプル。一度クレジットカードを登録しておけば、任意の番組を選んで、6桁のパスワードを入力するだけだ。家族で利用する場合パスワードの共有方法などの運用面での工夫は必要だろうが、テレビ単体でコンテンツ購入を実行できるのはとても手軽。テレビの録画番組を指定して再生するのと、操作感覚はそれほど変わらない。

再生画面

 再生を開始すると、画面左下にリモコン操作のナビ画面が現れる。リモコンの4色ボタンは2分/5分スキップに、カーソルキーの左右は30秒スキップに割り当てられる。また、カーソルキー上は番組の先頭に戻るで、カーソルキーの下は再生時間指定メニューが立ち上がる。

 レスポンスは良好で、スキップは1秒と経たずに反映される。また、レジューム再生にも対応。一時再生停止し、テレビ放送を見た後に再度番組を選ぶと前回停止したポイントから再生開始する。購入済みの番組には「購入内容」からアクセスできる。


操作メニュー再生開始画面は数字を入れて、任意のポイントを呼び出せる再生終了すると関連が番組をナビ
購入内容

 画質はドラマやアニメでチェックした。TBSの「運命の人」を見ると、一見してHDらしい解像度の高さが感じられ、動きの少ない風景などは相当に高画質に見える。

 ただし、顔のクローズアップを見ると、階調が潰れてしまい、化粧に失敗してしまったかのような肌になってしまっている。また、ディテールも欠落し、鼻の周りなどにはノイズも感じられてしまう。夜の室内にランプを焚いているシーンなどではトーンジャンプなども起きており、正直あまり高画質とは感じられない。最近のBDレコーダの一番低レートなモードでAVC圧縮録画した、といった印象だ。

 アニメ「ダンボール戦機」は、動きの少ないシーンで驚くほど解像感があり、クリア。地デジの映像とも見分けはつかず、画質に不満は感じない。シーンチェンジ、特にディゾルブのかかるような変わり目ではノイズがのってしまうが、それほど醜くはない。動きに弱い印象はあるが、概ね画質には満足できた。このあたりは、製作時のエンコードにも依存するので番組次第かもしれない。ただ、ドラマにしろアニメにしろ、縦の横のカメラのパンや、画面の変わり目に弱い印象は残った。


■ 見逃し番組視聴には最適

 リモコン操作に特化したUIの使い勝手は良く、起動時間以外のレスポンスも良好。クレジットカード情報登録で、若干わかりにくい部分はあったものの、「テレビのリモコン操作だけで登録できる」という点ではすごく簡単でわかりやすい。会員登録などが必要ないので、パスワード以外覚える必要が無いのも、もっとTVならでは。

 「対応テレビやレコーダが必要」ということで、これが当たり前の環境になるにはまだ時間がかかるだろう。ちょうどデジタル移行でテレビが行き渡った後だけに、今後の普及を促すためにも、コンテンツの充実とタブレットなどの他端末の連携も必要となりそうだ。

 もっとTVの利用方法としてもっとも想像しやすいのは、“見逃した”、“録画を忘れた”ドラマなどを1話購入するケース。価格も300~400円程度なので、シリーズ物の見逃しの残念感を考えれば十分納得できる額かと思う。個人的にも何度かVODサービスを利用したことがあるが、PCとテレビをとHDMI接続したり、各局のサービスに登録したりと面倒だった。その点、「もっとTV」対応テレビ1台で完結できるメリットは大きい。テレビの録画番組を呼び出すのとあまり変わらない感覚で番組を買えるというのは、もっとTVの最大の特徴だ。

 これらは、テレビの操作系や放送局のコンセプトを継承していることによるメリットだが、一方でそれ故の限界も感じる。まずは、ページ構成が局単位であること。見たい番組というのは、「この局だからみたい」というより、「誰が出ているか」とか「今人気の番組」、あるいは「友達におすすめされた」とか、そういった要素が契機になることが多いだろう。その点で、ページ構成だけでなく、検索結果も局単位で表示されるという仕組みには疑問を感じる。

 「生活者の視聴スタイルの多様化に対応し、番組の視聴機会を確保することで、リアルタイム視聴に繋げる」というもっとTVのコンセプトを考えると、現状こういう仕組みになるのも仕方ないのかな、とは思う。ただ、局の都合が、結果として“わかりにくさ”にならないように配慮して欲しいと感じる。

 放送局が関わっていることのメリットは大きいはず。豊富なメタデータを活用した検索機能の改善などには期待したい。番組との出会いを局単位でなく、もっとTV全体で提案して行って欲しいと感じる。また、例えば、今期のドラマ視聴率ランキングを出して、それを一括して購入する、みたいな提案などができれば面白いと思うのだが……。もっとも、見逃し番組視聴だけでも、十分に魅力的なサービス。今後始まる予定のスマートフォン/タブレット向けのサービスや対応機器の拡大とともに、さらなるサービスの進化に期待したい。


(2012年 4月 6日)

[ Reported by 臼田勤哉 ]