レビュー

カタツムリでも音は正統派、JBL「PEBBLES」を聴く

約5,980円の実力派USBスピーカー。ライバル比較も

 卵型やエイリアンのようなフォルムなど、個性的な形状が多いPC用アクティブスピーカー。そこに、カタツムリのような新たな製品が登場した。ハーマンインターナショナルのJBLブランドから9月上旬に発売されるUSBスピーカー「PEBBLES」(ペブルス)だ。

 価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5,980円と、有名メーカーのUSBオーディオ機能内蔵スピーカーとしては低価格だ。しかし、音を聴いてみると、奇抜なデザイン&低価格とは裏腹に、素性の良いサウンドを奏でる、完成度の高いモデルになっている。

 カラーはBLACKとWHITEの2色。今回はBLACKを試用している。

WHITEモデルも用意されている
使用イメージ

カタツムリのような独特のデザイン

 左右に筐体が分かれたステレオスピーカーで、アンプやUSBオーディオ回路は右チャンネルに搭載。そこに、モノラルミニで左チャンネルも接続する構成だ。

 目をひくのはデザインとカラーリング。真正面から見ると、細身のスピーカーだが、横から見るとカタツムリの殻のよう。BLACKモデルでは、中央に蛍光オレンジのゴム製リングが配され、ケーブルも同じカラー。JBLらしいカラーリングだが、ケーブルを黒で目立たなくするスピーカーが多い中で、逆にこれだけ主張しているのは珍しく、インパクトもあってカッコイイ。外形寸法は78×150×132mm(幅×奥行き×高さ)、重量は1kg。

カタツムリのようななんとも不思議なデザイン
外側に蛍光オレンジのゴム製リング
内側にリングは無い

 このゴム製リング、実はデザインだけではなく実用性も兼ね備えている。縦向きに設置する場合は、底面のゴムインシュレータを使うのだが、このスピーカーは横置きもできる。その際、この蛍光オレンジのリングがインシュレータを兼ねるわけだ。

リングはインシュレータも兼ねていた
このように、横置きする事もできる

 ケーブルは底面近くにある溝にグルグルと巻いて短く収納でき、プラグも底部にはめ込んでホールドできる。重量も1kgと軽いので、別の部屋に持ち運んだり、誰かの家に持っていく事も気軽にできるだろう。

ケーブルは底部の溝に巻いて収納できる

 USBスピーカーなのでセットアップは簡単。左右のスピーカーをモノラルミニミニケーブルで接続し、右スピーカーをPCのUSB端子に接続するだけ。後は自動的にドライバがインストールされ、OS側でサウンド出力をこのスピーカーに設定すれば音が出る。給電もUSBバスパワーなのでACアダプタなどは不要。消費電力は2.5Wだ。

 なお、USB DACとしての機能は16bit/48kHzまでの対応で、専用ドライバのインストールなどは不要。ハイレゾデータにも対応していれば嬉しいが、この価格なのであまり高望みはできない。通常のダイレクトストリーム再生となるが、変換されるのでハイレゾデータも楽しむ事ができる。

右チャンネルの背面。左チャンネルスピーカー接続用にアナログ出力を備えている
左右チャンネルを接続したところ。USB給電で動作するため、ACアダプタなどは無い
PCと組み合わせたところ

 右チャンネルの内側側面には、丸い円盤のようなパーツが搭載されており、これをグルグルを指で回すことでボリューム調整ができる。このボリューム操作は、Windowsのボリューム機能と連動する。PCスピーカーでは、スピーカー側にボリューム調整が無く、OS側で操作して調整するものもあるが、ロータリー式のコントローラーであれば直感的に操作できるので、急な電話などで、とっさに音量を下げたい時に便利だ。

右チャンネルの側面にはロータリー式のボリュームコントローラーを装備
横置きした方が、コントローラーは回しやすい

音を聴いてみる

 試聴にはfoobar2000やWindows Media Playerを使用した。なお、USB DACとしての対応は16bit/48kHzまでとなる。今回の試聴では、Windows 7のノートPCと接続し、CDからリッピングした16bit/44.1kHzのWAV/FLACなどを再生している。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best Of My Love」を再生。音が出てまず驚くのが中高域のクリアさだ。低価格なPCスピーカーは、筐体にプラスチックなどを使う事が多く、ボリュームを上げていくと、振動する筐体から音が出て、プラスチックっぽい、コンコン/カンカンした音が、再生音に乗ってしまう。

 PEBBLESではそうした付帯音が無く、極めてナチュラル。高域の頭が抑えられた感じも無く、音が気持よく上へ伸びる。音場の広さにも寄与しており、女性ヴォーカルの響きも、滑らかに広がり、立体的な音場が描かれる。

 そこに定位する音像も明瞭だ。ノートPCの左右に設置して聴き始めたが、キーボードの上に音像がわだかまるような事は無く、液晶ディスプレイの上、何も無い空間にポカッとヴォーカルの顔が浮かぶ。下を向いて聴き始めたのに、聴いているうちに思わず視線が正面を向いてしまうのが面白い。

 筐体が黒いのでわかりにくいが、50mm径のフルレンジユニットが、前面のやや上、ちょうどJBLのロゴマークがプリントされている近くに搭載されている。つまり、ユニットが最初から斜め上を向いているわけだ。これにより、デスクトップに設置しても、音がユーザーの耳に向かってダイレクトに放射される。

英B&Wのオリジナルノーチラス

 定位の良さには、カタツムリ風のエンクロージャ形状も寄与していると思われる。正面から見ると、普通の箱型スピーカーと比べてバッフル面が少ないのがわかる。バッフルに音が当たる回折も少なく、点音源の利点が発揮され、音場の広さや定位の明確さをアップさせているのだろう。価格もサイズもまったく異なるが、“巻き貝”チックなフォルムを採用した、英B&Wのハイエンドスピーカー「オリジナルノーチラス」を思い出した。

前面のロゴマーク付近にユニットが斜め上向きに搭載されている
正面から見たところ。バッフル面が少ない事がわかる

 付帯音が少なくクリアなため、音の質感が良く分かる。冒頭のギターも、木の響きが自然。女性ヴォーカルはキッチリと人間の声に聴こえる。当たり前だと言われそうだが、付帯音が全体にかぶさり、色づけされると、個々の音を質感そのままに再生するのは意外に難しい事でもある。

 ドライブしている内蔵アンプはデジタルアンプ。独自のコンピュータ・シミュレーションを駆使したというDSPも採用していると言うが、いわゆる“DSPでいじりまくりました”という不自然さは感じず、製品ページを見ながら「ああ、DSP入ってたのか」と思い出すレベル。

 エンクロージャはリアバスレフで、背面にポートを用意。効果を最大限に引き出すために、独自開発のスリップストリーム・ポートが採用されている。

 パッシブラジエータなどを搭載していない事もあり、低域は良い意味で“ほどほど”だ。とはいえ、「Best Of My Love」の1分過ぎから入るアコースティック・ベースは、「ヴォーン」と量感のある低音がキッチリ出ており、とりたてて不満は感じない。この低域にも付帯音が少なく、タイトで締まりがある。全体域を通じて、クリアでハイスピードなサウンドが貫かれており、JBLらしいキャラクターと言えるだろう。

 そのため、サブウーファを加えた2.1chスピーカーやパッシブラジエータを備えたモデルと比べると、地鳴りのような、ズズンと腹に響くような低音は出ない。例えばPCで映画を再生したり、ゲームをプレイした場合、爆発音などでもっと迫力が欲しいと感じるシーンもあるかもしれない。それよりも、全体のバランスの良さ、低域の情報量などを重視する人に向いたサウンドデザインだ。

ライバルスピーカーと比較

ライバルスピーカーとも比較

 次に、価格帯やサイズ、奇抜なデザインなどでライバルになりそうなスピーカーも用意し、聴き比べてみた。用意したのはOlasonicの「TW-S7」(オープンプライス/実売10,800円前後)、「TW-S5」(オープン/実売8,800円前後)、ボーズの「M3(Micro MusicMonitor)」(49,980円/販売終了、現在は直販31,500円のM2に置き換わり)、クリプトンの「KS-1HQM」(直販49,800円)だ。

 【Olasonic「TW-S5」(実売8,800円前後)】

左がOlasonic「TW-S5」

 まずは一番小さなスピーカー、Olasonicの「TW-S5」から。卵型スピーカーの小さな方で、PEBBLESと同じく、USBバスパワーで動作するモデルだ。音を出す前に、PEBBLESとの違いを実感。ボリュームがスピーカー側に無いため、マウス操作で調整しなくてはならない。卵スピーカー単体で使っている時はさほど気にならないが、指でサッと調整できるスピーカーと並べると、煩わしさを感じる部分だ。

 剛性の高い卵型エンクロージャは、鳴きが少なく、音場も広大。このサイズでも、形状の利点はしっかり感じられる。音場の広さはJBLと良い勝負だ。音色は、JBLの方が高域の抜けが良い。「TW-S5」は、高域に若干付帯音が感じられる。

 エンクロージャの振動ではないと思うので、おそらくユニットそのもののキャラクターなのだろう。小音量時はあまり気にならないが、ボリュームを上げていくと、わずかに金属的な響きが乗ってくる。PEBBLESは同じような音量でもクリアなままだ。

 「TW-S5」の低音は、背面にパッシブラジエータを搭載する事で強化されており、手のひらサイズながら、意外にしっかりした低音が出る。ただ、PEBBLESのように胸にドンと響くような低音までは出ない。TW-S5は実売8,800円前後なので、PEBBLES(実売5,980円前後)の方が低価格だが、高域、低域共にPEBBLESの方が一枚上手と感じる。

 【Olasonic「TW-S7」(実売10,800円前後)】

左がOlasonic「TW-S7」

 次に、大きな卵こと「TW-S7」と比較。TW-S5と比べると、エンクロージャの容積やユニットが大型化した事で、中低域の厚みがグッとアップ。全体のスケール感がアップし、PEBBLESと“良いライバル”と言えるサウンドだ。

 ただ、TW-S5で感じたユニットの硬質なキャラクターはTW-S7でも感じられる。TW-S5よりだいぶナチュラルではあるが、音量を上げるとやや気になる。定位や音場の広さは良い勝負だが、音像のシャープさはTW-S7の方がやや優れていると感じる。

 一方、低域にはかなり違いがある。TW-S7は、背面にパッシブラジエータを備え、TW-S5を超える、ズズンと胸に響く低域を再生してくれる。量感はPEBBLESより上だ。ただ、低音自体の解像感はあまりなく、悪く言うと“ぼんわり”した低域にも聴こえる。PEBBLESの低域は量感では劣るものの、膨張した感じはないので、低域の動きはわかりやすい。迫力が一歩足りないと言える一方で、下の音が詰まったような息苦しさは無い。

 【ボーズ「M3」(49,980円)】

右がボーズ「M3」

 ここから、価格がさらに上のモデルとも比べてみよう。M3は49,980円、現在は「M2」(直販31,500円)に置き換わっている。M2は電池駆動ができなくなっているが、スピーカーとしての仕様に大きな違いはない。7倍か8倍くらい価格に開きがあるのでPEBBLESには辛い比較だ。

 M3は高級機だけあり、金属製筐体の質感は高い。サイズは卵スピーカーの小型モデルよりは大きく、PEBBLESよりはやや小さい程度。

 M3の特徴は、クリアで爽やかな高音。こう書くとPEBBLESと同じようだが、実際に聴き比べると、M3の高域には、筐体の鳴きによる金属質なキンキンした付帯音が重なる。この金属チックな味付けが、高域の抜けが良さそうに感じさせる効果を発揮。ナチュラルさという面では今ひとつだが、爽やかで気持ち良いサウンドではある。原音をそのままにという方向とは違うが、これも1つのキャラクターと言えるだろう。

 1分過ぎからアコースティック・ベースが入ると、大小卵スピーカーやPEBBLESとは明らかにレベルの異なる、量感のある中低域が「ヴォーン」と吹き出して圧倒される。M3の音は聴き慣れているが、こうして同じようなサイズのスピーカーと比較してみると、小型ながらも突出した低音再生に改めて驚かされる。PEBBLESや卵スピーカーでは、“胸に響く低音”だったが、M3は“腹に響く”低音だ。

 ただ、M3の低域も、卵スピーカーと同様に、パッシブラジエータを応用して出しているので、量感面での迫力は十分だが、音の情報量はそれほど多くなく、ベースの音像も肥大化してフォーカスは甘い。そのため、ある程度聴き続けて驚きが薄れてくると、量感豊かな中低域と、そこから鋭く抜け出す硬質な高音という、いわゆる“ドンシャリ”系のバランスが気になってくる。この小ささで、これだけダイナミックで元気の良いサウンドを出しているのは凄いが、ピュアオーディオ的な聴き方をすると、ニュートラルさや音色の面では、味付けが“濃い”と感じる。対するPEBBLESは、パッと聴いた瞬間のインパクトは薄いが、ナチュラル志向で、いわゆる玄人好みのサウンド。このあたりは好みの問題だろう。

 【クリプトン「KS-1HQM」(49,800円)】

右がクリプトン「KS-1HQM

 価格だけでなく、サイズも一回り以上大きくなるが、クリプトンの「KS-1HQM」とも比べてみる。ご存知の通り、鉄球入りスピーカーベースや、インシュレータ、極太電源ケーブルなど、ピュアオーディオの技術を取り入れたPC用スピーカーで、24bit/96kHz対応のUSB DAC機能や、光デジタル入力も備えている。

 音が出ると、「PC用スピーカー」という枠からはみ出したクオリティの高さだ。音声の広がりや音像のフォーカスのピッシリ具合はPEBBLESより上手。正面にヴォーカルの音像が定位するだけでなく、開閉している口がそこに実在して、指を伸ばせば触れそうなリアリティが出てくる。付帯音が感じられないナチュラルな高域はPEBBLESと同じだが、「KS-1HQM」の高域にはしなやかさや、余裕のようなものが感じられる。

 エンクロージャはリアバスレフでPEBBLESと同じ。瞬間的な張り出しや、音圧の面ではボーズのM3に負ける部分もあるが、低域がストレートに伸びる素直さや、沈み込みの深さや、低域の響きの中にあるベースの解像度などは、これまで登場したスピーカーとは明らかにレベルが違う。全体としてワイドレンジでストレートなサウンドであり、「PEBBLESの音をレベルアップするとこうなるだろうな」という感じだ。とはいえ、49,800円と5,980円のスピーカーを比べて49,800円の方が良いのは当たり前であり、それどころか、その音に食い下がれるPEBBLESのコストパフォーマンスの良さは特筆すべきレベル。今回の5機種を、音だけで個人的な好みで並べるとPEBBLESは2番手だ。

まとめ

テレビとも組み合わせてみた

 PCとの接続ばかりではつまらないので、アナログ入力がある事を活かして、テレビとも接続してみた。ただ、前述の通りUSBバスパワー動作なので、手近にあったUSB ACアダプタからをかませて給電したところ動作した。ただし、サポート外の使い方なので注意していただきたい。

 前述の通り、抜けが良く、中低音も不必要に膨らまないので、ニュースやバラエティ番組で人の声が聞き取りやすい。低域も、薄型テレビの内蔵スピーカーと比べるとリッチなので、映画やアニメにも迫力が出る。近頃気に入っているアニメ「きんいろモザイク」をエンドレス再生していたが、女性キャラの入り乱れる高い声もしなやかに描き分けてくれるので、安心してほんわかできた。ACアダプタ給電で、左右スピーカー間のケーブルがもう少し長い、テレビ向けモデルなども追加して欲しいものだ。

 ユニークな外見とは裏腹に、ニュートラルで真面目なサウンドに好感が持てる。実売5,980円という思い切った価格設定から、「安っぽいスピーカーなのでは」と思いがちだが、設置面積の省スペース性、側面ボリュームの使い勝手、巻きつけられるケーブルの取り回しやすさなど、完成度の高い、“お買い得スピーカー”と言っていいだろう。ノートPCとおしゃれに、気軽に組み合わせつつ、本格的なサウンドも楽しみたいというニーズにマッチした1台だ。

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山崎健太郎