レビュー

汎用DAC使わず圧倒的な高音質。“持ち運べる”約24万円のUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「Hugo」

 屋外で音楽を楽しむためのポータブルイヤフォン/ヘッドフォンにおいても、10万円近い高価な機種は珍しくなくなった。それに合わせ、ポータブルのUSB DAC/ヘッドフォンアンプも高機能&高音質化。さらには「AK240」のような、30万円近いハイレゾポータブルプレーヤーも登場し、人気を集めている。ユーザーの“屋外で音楽を楽しむ”事への投資の意識が、変わってきたと言えそうだ。

 「外で聴くための機器に大金をかけるのもちょっと……」という心情もあるが、忙しい人の場合、平日に家でゆっくりコンポ+スピーカーで音楽を聴く暇が無く、土日もそんなに時間を割けないという場合、音楽を楽しむ時間は通勤・通学などの移動中がメインになる。一番長時間音楽を楽しむ環境に、お金をかけ、良い音を追求するというのは、合理的な考え方でもある。

CHORDのDAC内蔵のポータブルヘッドフォンアンプ「Hugo」

 一方で、屋外用、屋内用という区別は曖昧になってきている。AKシリーズのように、基本はポータブルプレーヤーだが、USB DAC機能も備え、パソコンと接続してUSB DAC兼ヘッドフォンアンプとして機能すれば、屋内でも活躍できる。USB DAC兼ヘッドフォンアンプも同様で、外ではバッテリ駆動でポータブルプレーヤーと接続、家の中ではパソコンと接続し、USBバスパワーで動作と、一台二役が当たり前。ハイレゾ配信の拡大により、ハイレゾを楽しむためのDACという重要な役割を担うようにもなっている。

 こうした流れの1つの集大成のような製品が登場した。タイムロードから販売されている、CHORDのDAC内蔵のポータブルヘッドフォンアンプ「Hugo」(ヒューゴ)だ。価格はオープンプライスで、実売は24万円前後。今回はこのモンスターマシンを聴いてみる。

価格もサイズも超弩級

 CHORDブランドの製品を手がけているChord Electronicsは、1989年にジョン・フランクス氏が立ち上げたイギリスのオーディオメーカーだ。スイッチング電源や、FPGAと独自のアルゴリズムを駆使したデジタルオーディオ機器、エレガントな製品デザインなど、先進的でありつつ、ユニークな技術で存在感を発揮している。

 新製品の「Hugo」は、USB DAC機能搭載のヘッドフォンアンプだが、光や同軸デジタル入力、アナログRCAのライン出力も備えており、単体DACとしても利用できる製品だ。

 箱から取り出すと、「大きい」というのが第一印象。発表会などで何度か目にしているので驚きは薄れてはいるが、外形寸法は97×132×23mm(幅×奥行き×高さ)と、やはりインパクトのあるサイズだ。三角に切る前の“はんぺん”をイメージすると似ているだろうか。重量は332gと、大きさからするとそれほど重くはない。ただ、ポータブル機器としては全体的に大柄な印象だ。

 筐体は航空機グレードのアルミニウムブロックからの削り出しで、質感は良好。表面はビーズショット仕上げというもので、サラサラしていて、掴んだ時に滑るような不安感は無い。

 天面はユニークなデザインで、大きなHugoのロゴが彫り込まれ、中央に窓のようなレンズがある。覗いてみると、内部を観察でき、FPGAなどのパーツがレンズの効果で拡大されて見える。“内部のこだわりを見て!”と訴えかけてくるようなデザインだ。

ポータブルとしては大柄な筐体
AK100と並べたところ
天面のレンズから内部のパーツが見える

 右側にある小さな丸いパーツがボリュームコントローラー。これを奥に向かって回すとボリュームアップ、手前に向かって回すとダウンだ。

 入力端子として、右側面に光デジタル、同軸デジタルを各1系統用意。左側面にUSBを2系統備えている。1つは「SD USB」としてUSB Audio Class 1.0に対応し、16bit/48kHzまでサポート。もう1つは「HD USB」としてUSB Audio Class 2.0をサポートし、32bit/384kHzのPCMと、5.6MHzまでのDSDを入力できる。

 USBは、PCと接続する事でUSB DACとして動作する。さらに、ポータブルプレーヤーとしてiOS機器やウォークマンとのデジタル接続もサポートしている。

側面
左側面にはUSB端子や操作ボタンを搭載
右側面には出力端子をまとめている

 出力として、右側面に標準ヘッドフォン×1(8~600Ωのヘッドフォン対応)、ステレオミニのヘッドフォン×2、アンバランスのアナログ(RCA)×1を装備。アナログRCA出力にアクティブスピーカーやアンプなどを繋ぎ、コンポの中に組み込み、据え置きDACとして使う事も可能。その際にはボリューム固定機能も利用可能だ。ヘッドフォン出力は100dB(300Ω時)、ダイナミックレンジは120dB。

Bluetooth接続にも対応する

 また、ユニークな機能として、Bluetoothレシーバ機能も搭載。対応スマートフォンとワイヤレスで接続し、音楽を楽しむ事もできる。プロファイルはA2DP、aptXコーデックもサポートする。

 内蔵リチウムイオンバッテリの充電は付属のACアダプタを使い、連続再生可能時間は8~12時間(44.1kHz再生時)。所要充電時間は約4時間となっている。

LEDを使った“魅せる”ステータス表示

 デザインもユニークだが、操作方法やステータス表示もユニークだ。左側面に黒い2つのボタンがあり、外側のボタンが入力切替。これを押すと、入力がHD USB、SD USB、光デジタル、同軸デジタル、アナログRCA、Bluetoothと順番に変わっていく。

 ただし、写真で見るとわかるように、Hugoにディスプレイは搭載されていない。そこで、“現在の入力”が何なのか示すために、LEDインジケーターを活用している。前述の透明レンズの奥、本体の基板にLEDが複数搭載されており、その中の1つが光る“色”で入力モードを教えてくれるのだ。

 具体的には、HD USBが白、SD USBが黄色、光デジタルが緑、同軸デジタルが赤、Bluetoothが青といった具合。ちなみにバッテリ残量もこうしたカラーで表示される。

 LEDが上から3つ並んでいるのがわかるが、一番上がバッテリ残量、真ん中が入力ソース、一番下が頭内定位を調整する「クロスフィールド・フィルタ」のモードを示すLEDだ。さらに、レンズから見えるLEDだけでなく、そのレンズから左上に伸びた白い窓もLEDで光るようになっている。この窓の色は、入力された信号のサンプリングレートによって変化する。96kHzならば緑、192kHzなら青、DSDなら白といった具合だ。

中央のレンズ内に3つ並んだLEDが見える
LEDの色でステータスを表示する
左側の丸い部分の色は、サンプリングレートを示している

 ボリュームにもLEDを活用。前述のように、丸いパーツを奥/手前に回すのだが、ボリュームの値に連動して色がリニアに変化していく。音を小さくしていくと赤に、大きくすると白に近づくのだ。イヤフォン・ヘッドフォンを装着する前から、色を見ただけで「どのくらいの音が出ているか」がわかるのは面白い。

ボリュームダイヤルにもLEDの光が。音が小さい時は赤くなる
ボリュームアップさせると黄色に
さらに回していくと、青から白へと変化していく

 つまり、使っている時は、複数の場所がカラフルに光る事になる。世の中のポータブルヘッドフォンアンプ/USB DACは、黒いカタマリが多く、どちらかと言えば地味で目立たないデザインだ。Hugoは大きさもさることながら、光で存在を強くアピール姿勢がユニークだ。

癖のある操作系

 ただ、見た目は綺麗なのだが、使い勝手としてはどうかなという気もする。例えば入力切り替えのSD USB(黄)と、光デジタル(緑)。言葉で書くと違う色だが、LEDの黄色は黄緑っぽくも見え、緑色も黄緑色っぽく見える。そのため、入力切替を押しながら「お、緑色になったから光デジタルになったな」と思っても、「あれ? これ緑色だよな? 黄色かな?」と念のためもう一度ボタンを押し、「ああ! これが緑色で、さっきのは黄色だったんだ!」と判明する……といった具合。自信が持てずに切替を行き過ぎてしまうと、また一周して戻ってくる必要があるが、ぼんやりしていると再び「あれ? これは黄色? 緑?」と悩んでしまう。

 切替の順序を暗記すれば、この迷いは断ち切れる。使い慣れていけば気にならなくなるのだろう。ただ、できればLEDでアルファベットを形作って、Bluetoothならば「B」など、もう少しわかりやすい表示にして欲しかったところ。切替スイッチもスライド式やダイヤル式の方が良かっただろう。

黄色と緑の表示は似ていて、とっさに見分けがつかない
赤や青のLEDはすぐに判別できる
左の入力切替ボタン、ファンクションボタンは姿がまったく同じで、説明表記も無い。隣のHD USB/SD USBも外観的には同じだ

 入力切替ボタンとファンクションボタンが同じ形状で2つ並んでいるのも間違いやすい。ボタン名も書かれていないので、配置を覚えるまでは、「あれ? 入力が切り替わらないな」と思っていたら、間違ってファンクションボタンを押していたという事が数回あった。どちらのボタンを押しても、LEDの色は変化するので、間違いに気が付きにくいのだ。

 ボリュームダイヤルの位置も気になる。据え置きDACとして使っている時は、サッと手と延ばして操作しやすい絶好のポジションなのだが、ポータブル機器として使う場合は今ひとつだ。一般的なポータブルアンプは前面や背面にボリュームツマミを搭載している。これは、ポータブルプレーヤーやスマートフォンを天面に乗せて、重ねて持ち歩いた時に、ボリュームツマミにアクセスしやすくするためだ。

 Hugoの場合、ボリュームが天面に搭載されているので、上にスマホなどを重ねるとボリュームに触れなくなる。それではと、底面にスマホを重ねて、スマホを操作しながら、背面にあるHugoのボリュームを手探りで操作するという形に落ち着いた。しかし、裏側にあるので、どちらに回せばボリュームが増減するのかとっさにわからない。ちょこっと回して「あ、こっちだ」と学習してから操作するという手間が必要になる。

 また、ゴムバンドでスマホと密着させた状態で机の上などに置く時も、スマホを下にするのか、Hugoを下にするのか迷ってしまう。

Hugoの上にAK100を重ねたところ。このくらい小さなプレーヤーであればボリュームにアクセスできる
AK240のサイズになると、ボリューム本体ズラさないとボリュームに触れない
プレーヤーをHugoの背面に設置してみた
このように持てば、裏返すだけで楽曲選択、ボリューム調整は可能だ

 ただ、Hugoはサイズが大きいので、重ねるプレーヤーが小さければ、少しズラせばボリュームダイヤルにアクセスできる。いずれにせよインジケータLEDを確認する窓は塞がれてしまうので、操作性や視認性が低下するのは間違いない。スマホやプレーヤーとHugoを合体させて持ち歩くよりも、2つの機器をコンパクトに収納できるケースなどを探したいところだ。

プレーヤーと固定するためのバンドも同梱している
底面にプレーヤーを固定してみたところ
本体の溝にバンドを合わせれば、ボタン操作の邪魔にはならない

 上手い持ち運び方法が無いものかと試行錯誤した結果、Hugoが背広の上着の内ポケットにギリギリ入る事を発見した。ワイシャツの胸ポケットにはプレーヤーのAK240を入れ、光デジタルでHugoと接続、音を鳴らすというスタイルを試してみた。だが、大きなHugoとAK240が、洋服越しとはいえ重なり、歩くとぶつかるのはあまり気分が良いものではない。左胸だけ異様にモッコリ膨らんでしまうのもちょっと恥ずかしい。やはりリュックやショルダーバッグ、腰ポーチなどに上手く収納する工夫が必要だろう。

ワイシャツの胸ポケットには入らない
上着の内ポケットになんとか収納できる事を発見
AKのプレーヤーをワイシャツの胸ポケットに、Hugoを上着の内ポケットに入れたところ。歩くたびに洋服越しに2つの筐体が当たるので、ちょっと心配になる

 このサイズから考えると、歩行や電車内でバリバリ使うというよりも、家で据え置きUSB DAC/ヘッドフォンアンプとして活用し、別の部屋に移動したり、長期の旅行・出張先などにも持って行って使うとか、喫茶店でちょっと音楽を楽しむなんて使い方がマッチするかもしれない。

あえて汎用DACは使わず、FPGAにこだわり

 USB DACとして動作している際の対応フォーマットは、384kHz/32bitのPCMや、5.6MHzまでのDSDなど、現時点ではほぼ完璧と言って良い仕様だ。

 Hugoの音質面最大の特徴は、バーブラウンやESSなどの汎用のDACチップを使っていないない事だ。

 その代わりに「FPGA」を使っている。FPGAとは、簡単に言えば、自由にプログラミングできるLSIの事。Hugoには、Xilinxの第6世代Spartan-6 FPGAが搭載されている。このFPGAと、ディスクリート構成のパルスアレイDACで信号処理をしているという。

 開発者のロバート・ワッツ氏によれば、FPGAの自由度の高さを重視しており、独自のアイデアを盛り込める事から、FPGAを使っているという。

Hugoの内部。
2,048倍のオーバーサンプリングフィルタも通す事で、ジッタを低減
ブロックダイヤグラム

 技術面では、トランジェント(音の立ち上がり)のタイミング精度にもこだわっている。サンプリングレートが44.1kHzから96kHzなどに向上すると音が良く感じられるのは、高域の帯域が伸びる事だけでなく、“可聴帯域内のタイミング精度が上が事も良い影響がある”と考え、FIRフィルタのタップ数(処理の細かさ)を重視。トランジェントエラーを引き起こす率を低下させるために、独自の「WTAフィルタ」を開発。「Hugo」ではさらに、2,048倍のオーバーサンプリングフィルタも通す事で、ジッタを低減している。

 なお、こうした処理を行なうために、DSPは16コア、208MHzの強力なものを搭載している。

 また、電源部では、大容量バッテリを搭載。大きな筐体サイズは、このバッテリによるところが大きい。あえてUSBバスパワーから電源をとらない仕様にする事で、様々なUSBデバイスで使える製品にするという思想だそうだ。この考え方には共感できるが、欲を言えば少しバッテリ容量を減らしたコンパクトなモデルも作って欲しい。

細かな不満を吹きとばす圧倒的な高音質

PCとUSB接続し、USB DACとして動作する

 まずUSB DACとして使ってみる。Windows 7パソコンに専用ドライバをインストールし、foobar2000で192kHz/24bitの「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を再生してみた。ヘッドフォンはe☆イヤホンのオリジナルブランドヘッドフォン「SW-HP11」、イヤフォンはUE 18 Proなどを使っている。

 音が出た瞬間にわかるのは、凄まじいまでの解像感だ。冒頭、分厚いベースが「グォーン」と音圧豊かにせり出し、そこにギターのフレーズが重なるが、ベースの熱風が背中にあるにも関わらず、ギターの輪郭が、針で描いているかのようにシャープで緻密。まさに“目の覚めるような音”で、この解像感は今まで聴いたことがないレベルである。

 付帯音やノイズはまったく感じられず、シャープな音が邪魔されていない。清涼感のある広大な音場に、音像がヴォーカル、ギターと、間隔をもって定位。隙間の無音空間もキッチリ音が無い。まるで広角レンズでステージを撮影し、パンフォーカスで全てのオブジェクトにピントがバシッと合った写真のようなサウンドだ。

 既存のDACで例えるならESS製のDACのような清涼感だが、気品があって大人しい感じのESSと比べ、Hugoは良い意味で“素のまま”、“むき出しのサウンド”という感じで、よりモニターライク。線は細いが、弱々しくはなく、1音1音がエネルギッシュ。人によっては高域などにもう少し潤いが欲しいと感じるかもしれない。

 解像感や定位の凄まじさと共に特筆すべきは、ドライブ能力の高さだ。強力な電源部を搭載しているので「凄そうだな」と予想しながらヘッドフォンを装着したが、ここまで凄いとは思わなかった。ホテルカリフォルニアの分厚い、地鳴りのようなベースが、頭蓋骨をズズンと突き進み、背骨に響くような低さで振動する。にもかかわらず、無駄な膨らみは一切なく、低音がパツパツに締まっている。シャープさは高域から低域まで一貫して維持されており、ヘッドフォンのユニットをキチンと制御できているようだ。

 音量を上げていっても、シャープさや分解能は維持されたまま、音の出方が強くなっていく。そのため、ボリュームをやや上げすぎにしてもうるさい音とは感じない。音像がくっついたり、低域の膨らみがボワボワになったりもせず、シャキッとシャープなまま、勢いだけが増していく。気持ちが良いので、ついついボリュームを上げたくなってしまうので注意が必要だ。魅惑的なサウンドと言っても良いだろう。

アンプのドライブ能力は高い

 アンプのドライブ力の高さは、トランジェントの良さにも繋がっている。音の立ち上がり、立ち下がりがハイスピードだ。音がバッと出て、サッと消える。余計な余韻が残って後の音にかぶさったりしない。単に音が細かいだけでなく、出てから消えるまでの流れがキチッとしているため、解像度の高さという利点がより映える。これはD/A変換だけでも、アンプだけでも実現できない音で、双方が高いクオリティを持っているからこそ引き立て合える関係になっている。

 ただこのサウンド、聴き慣れると今まで気付かなかった音が聴こえ、すこぶる楽しいのだが、最初に聴いた時は面食らった。他のDACやアンプと比べても解像感が極めて高く、同時にハイスピードであるため、一瞬聴いただけでは“音が軽く”感じるのだ。1音1音が軽やかでパワフルなためで、普段、モッタリとトランジェントの悪い、膨らんだ低音ばかりを聴いていると、「低音 = ボワッをした音」というイメージが出来上がってしまう。そこにHugoの音を聴くと、あまりに今までのイメージと違い、戸惑うのだ。ハイスピードで軽やかながら、沈み込みは深いという音は、とにかく新鮮だ。

 一方で、気になる点もある。1つ1つの音がパワフルで、皆同じようなパワーで「ウリャー!!」と飛び出してくるので、“綺麗に整理された音”ではない。音作りをしていないというわけではないと思うが、ほとんど手を加えず、D/A変換した後の音をそのまま聴いているようなイメージ。オーディオメーカーの思想のようなものがあまり感じられず、むしろ無色透明で、とにかく情報量の多さを追求するのが思想なのだろう。

 ヘッドフォンやイヤフォンと組み合わせた時の“聴きやすさ”や“まとまりの良さ”は、あまり考慮されていないように感じる。フロア型スピーカーを相手にしたライン出力をヘッドフォンで聴いているような印象だ。

 なお、前述の「クロスフィールド・フィルター」は、ヘッドフォン再生時の脳内定位を前方へと移動させるDSP機能だという。効果はゼロ/ミニマム/ミディアム/マキシマムから選択できる。強くしていくと低域の響きが増加し、音場にも若干の変化が感じられたが、音像の移動は正直あまり感じず。Hugoのクリアなサウンドに、響きを増加する効果は悪くはないが、今回はOFF(ゼロ)で使用した。

AKやウォークマン、iPhoneなどと接続してみる

 ポータブル機器ながら実売24万円前後という価格がインパクト大のHugo。となると、気になるのは高級ハイレゾプレーヤー「AK240」(直販税込:293,143円)との比較だろう。ポータブルハイエンドの頂上決戦というわけだ。

 「ホテル・カリフォルニア」で、まずは「PC+Hugo」と「AK240」単体を比較してみる。

 PC+Hugpは、とにかく分解能と情報量が多く、低域の分解能ではAK240より一枚上手だ。全体のシャープさもHugoには鋭さがある。だが、前述のようにベースの伴奏のパワーが強く、ヴォーカルも強く、皆強く主張してくるので、ボリュームを上げると、悪く言うとガチャガチャした音になる。

 一方でAK240は、まとまりが良く、伴奏が一歩引いた位置を維持し、ヴォーカルが中央でスッと浮き上がり、歌声がストレートに耳に入ってくる。整理された音作りの良さを感じさせる。どちらが“ソースをそのまま出しているのか”というとHugoの方なのかもしれないが、音楽的な味わいのわかりやすさ、聴きやすさではAK240の方が上手いと感じる。

 もちろん、どちらも音は凄まじく良い。好みの問題だろう。釣り船に乗って、沖合いで釣った魚をその場でさばいて、まだ動いてるところを醤油をつけて食べた美味さ(PC+Hugo)と、釣った魚を近くの料亭に持ち込んで、美味しい日本料理にしてもらった美味しさ(AK240)と言えばイメージしやすいだろうか。

 次に、AKシリーズでも低価格な「AK100」(直販税込:56,366円/32GB)を用意。光デジタルで接続してみた。このセットで約30万円になるので、AK240と比べるのにピッタリと考えたのだ。

AK100 + Hugoを光デジタルケーブルで接続

 AK100 + HugoとAK240単品の音のクオリティは、かなり肉薄している。「Suara/星座」では、ヴォーカルの口の開閉やフォーカスの鋭さはAK100+Hugoが若干上手だ。一方で、AK240は高域の質感が豊かで、音のコントラストも深く、味わい深い。これを聴いた後でAK100+Hugoに戻ると、淡白でクールなサウンドだが、悪く言うと素っ気なく感じてしまう。もう少しこのセットの音にはコントラストが欲しい。

AK240 + Hugoという夢の組み合わせ

 最後に、禁断(?)とも言える「AK240+Hugo」の光デジタル接続も試してみた。合わせて約54万円という、ポータブルという世界を完全に突き抜けた組み合わせだ。

 いやぁいい音だ。聴いているだけで勝手に口元がニヤけてしまう。AK100 + Hugoよりも明らかに良い。AK240の質感の良さ、コントラストの深さがありつつ、Hugoのドライブ能力の高さやトランジェントの良さが加味され、“魅惑の世界”に突入する。

 編集部で少し試そうと思っただけなのだが、あまりに良い音なので、聴きながら帰りたくなった。だが、夜道を歩いていると、音楽の力が強すぎて、思考がまとまらない。気を抜くとすぐに音楽に“持っていかれて”しまい、横断歩道で信号が変わっているのにボーっと突っ立ってしまう。夢見心地で歩きながら帰ったが、外を歩いているのに、脳が強制的に“部屋でオーディオをまったり聴いてるモード”に移行しようとしてしまう感じで、今までにない経験だった。

タイムロードの光デジタルケーブル「TL-OP1」

 なお、テスト中、Hugo付属の光ケーブルを使っていたのだが、AK100とHugoを接続した時、192kHz/24bitの楽曲を再生すると、たまに音が途切れる事があった。AK100側の端子をグリグリすると直ったので、私のAK100の固体と、ケーブルの接触によるものだろう。AK120/240では同じ楽曲でもまったく問題無い。

 試しにタイムロードがポータブルオーディオ機器向けとして発売している、光デジタルケーブル「TL-OP1」(オープン/実売2,500円前後)に交換してみたが、それにより接続安定度が良くなった。業務用通信機器の仕様に準拠した伝送特性を持たせたというケーブルで、コネクタも業務用のものを採用し、グラつきを低減して光軸を安定化させているそうだ。

 なお、AKシリーズだけでなく、iPhone 5やウォークマンとも接続してみた。iPhoneの場合はカメラコネクションキット、ウォークマン(NW-F880シリーズ)の場合はハイレゾ対応のUSB変換ケーブル「WMC-NWH10」が必要だ。

 iPhone 5ではプレーヤーアプリとしてハイレゾ対応の「HF Player」、ウォークマンは標準プレーヤーを利用。どちらもハイレゾ楽曲をHugoから再生する事ができた。音の傾向としては、パソコンとのUSB接続と同様で、癖のないサウンド。ウォークマンのF880は単体でも高い音質だが、分解能や情報量、ドライブ能力など、多くの面でHugoが圧倒。価格を考えれば当然だが、格の違うサウンドに変化する。一度聴くと、なかなか単体には戻りたくなくなる音だ。

 なお、ウォークマンでDSDファイルを再生したところ、Hugoのサンプリングレートのインジケーターが水色に光った。DSDファイルであれば白く光るのだが、これはウォークマンF880からDSDを出力する際は、176.4kHzのPCMに変換されるため。176.4kHzを示すのが水色のLEDなのだ。

左がウォークマンで利用するハイレゾ対応のUSB変換ケーブル「WMC-NWH10」、右がLightning対応のカメラコネクションキット
ウォークマンと接続しているところ
iPhoneと連携しているところ

 ポータブルだけでなく、据え置きのDACとしても使ってみた。音の良いアクティブスピーカーとして、クリプトンの「KS-1HQM」を用意。このスピーカーにはUSB DAC機能も備わっているが、これを使わず、パソコンと接続したHugoからのアナログ出力を、スピーカー内蔵アンプに入力した。

 結果として、非常にワイドレンジかつ、イヤフォン/ヘッドフォンで聴いた時と同じように高分解能でクッキリとしたサウンドが楽しめる。KS-1HQMはもともと、オーディオボードやインシュレータがセットになっており、雑味の少ないクリアな音を特徴としているが、その能力がさらに拡張されたようだ。ノートパソコンの液晶モニタの上空にポッカリと浮かぶボーカルの輪郭が明瞭で、聞き慣れた曲でもハッとする実在感がある。本格的なオーディオシステムにDACとして組み込んでも、活躍してくれるだろう。

クリプトンのスピーカー「KS-1HQM」と組み合わせたところ

この凄まじい音を、どう使いこなすか

 Hugoは非常に高音質なUSB DACであり、ドライブ能力の高いヘッドフォンアンプだ。ポータブル使用もできて約24万円という価格だけを見ると高価な印象を受けるが、据え置きのUSB DAC/ヘッドフォンアンプにも退けとらない実力を備えており、その音が家の中だけでなく、外でも楽しめるモデルと考えれば、高価すぎるとは言えないだろう。

 素のあま、ありのままの音を出すタイプの製品であるため、ユーザー側にもそれを使いこなし、組み合わせるヘッドフォンやケーブルなどを選択し、自分好みの音へとまとめていく工夫が求められる。おそらくこの製品を買う人は、その過程も楽しみとして感じられるだろう。その試行錯誤に応えられる再生能力を備えているのは間違いない。予算的にちょっと厳しいなという人も、店頭やイベントなどでぜひ一度聴いて欲しい。圧倒的な分解能やシャープさ、トランジェントの良さは、短時間の試聴でもわかるはずだ。

 DACだけで音が全て決まるわけではないのだが、オーディオ機器では「どのDACが入っているのか?」をつい気にしてしまいがちだ。新しいDACが登場すると、そっちの方が良いんじゃないかという気になってくるが、Hugoであれば「もうどんなDACが登場しても気にしない」という境地に到達できそうだ。ただ、Hugoの新モデルが登場したらやっぱり気になってしまうかもしれないが……。

 仕様の面では、昨今のトレンドからすると、バランス出力に対応していないのが気になるところ。価格を考えると、バランスにも対応した究極のポータブルアンプであって欲しいという気持ちもある。

 また、“ポータブル利用時の使い勝手”も改善して欲しい。屋内で据え置きで使うのであれば特に問題はないが、ポータブルとしては、持ち運びにくいサイズや、操作性、視認性などの点で不満がある。サイズを小さくして、操作性を改善した「Hugo mini」のような製品も登場して欲しいところ。同時に、こうした細かな不満も忘れさせる音質が最大の特徴でもある。

山崎健太郎