レビュー

放送画質をそのまま外でスマホ視聴。SeeQVault対応microSDで録画視聴はどう変わる?

 テレビ録画番組の新たな視聴方法として、東芝からSeeQVault(以降はSQV)対応microSDカードと対応カードリーダー/ライターのセット「MSV-RWシリーズ」が発売された。SQV対応のmicroSDカードにレコーダの録画番組を保存することで、PCやスマートフォンで録画番組を視聴できるというもの。

 レコーダの録画番組をスマートフォンやPCで視聴する方法はこれまでも存在したが、データの保存先がスマートフォンなどの本体メモリや内蔵カードではなく、外部メディアと専用リーダーを使うのは珍しい。端末に外付けする手間は発生するものの、端末の内蔵ストレージを圧迫せずにすみ、テレビ番組をそのままの高画質で視聴できるというメリットもある。テレビ番組の視聴スタイルに対する新しい提案として、SQV対応microSDカードを試してみた。

東芝のSQV対応microSDカードとカードリーダー/ライター

DR録画番組もHD高画質のまま視聴。外付け方式のため内蔵ストレージも負担なし

 前述した通り、録画したテレビ番組をスマートフォンやPCで視聴する方法は何種類か存在するが、その多くはスマートフォン用に作成した持ち出し用のファイルだったり、ストリーミングで再生するためにビットレートを下げていたりと、画質はテレビやレコーダで視聴するよりも下がることが多かった。

 一方、SQVはDR画質の番組もそのままのHD解像度で保存でき、圧倒的な高画質で番組を視聴できるのが特徴だ。最近はスマートフォンの解像度もフルHDが主流になっており、中にはフルHDを超える解像度のスマートフォンも存在するなど、画面サイズは小さいながらテレビを超える解像度が当たり前になっている。そうした環境の中で、通信も利用せず、自宅のテレビやレコーダと同じ画質で番組を視聴できるというのはSQVならではのメリットと言えるだろう。

レコーダからHD画質のまま番組持ち出しができる
カードリーダー部
分離/連結可能
microSDリーダー部。携帯ストラップも取り付けられる

microSDカードとカードリーダーがセット。Windows/Androidで視聴可能

 今回使った「MSV-RWシリーズ」は、SQV対応microSDカードとUSB/microUSB対応のカードリーダー/ライター、SDカードアダプタの「ADP-HS01」がセットになった製品。対応カードリーダーが同梱しているため、SQV対応レコーダがあれば本製品のみで番組を保存し、PCやスマートフォンに接続できる。容量は16GBと32GBの2種類が用意されており、価格はオープンプライスで、店頭予想価格は16GBの「MSV-RW16GA」が3,980円前後、32GBの「MSV-RW32GA」が7,480円前後。

パッケージ。32GBの「MSV-RW32GA」(左)と、16GBの「MSV-RW16GA」(右)

 新しい著作権保護技術というと難しく感じるかもしれないが、使い方は非常にシンプル。それぞれの機器がSQVに対応している必要はあるものの、基本的には録画した番組をSQV対応のmicroSDカードに保存し、同梱のカードリーダーを利用してスマートフォンやPCに装着するだけで再生できる。

 対応製品は東芝の場合はレグザサーバーの「DBR-M590」やレグザブルーレイ「DBR-Z520」など計5機種が対応。視聴する側のスマートフォンはAndroid 4.2.2以上、CPUがARM 32/64bitを搭載し、H.264/AACの動画再生に対応した端末に、無料の対応アプリ「SeeQVault プレーヤー」をインストールするだけで視聴可能。必要な条件がいくつも並んではいるものの、携帯電話キャリアのAndroidスマートフォンはほとんどがARMを搭載しており、MPEG-4 AVC/H.264も最近では一般的な動画フォーマットだ。

SQV対応microSDカードの32GBモデル
東芝のレグザサーバー「DBR-M590」
「SeeQVault プレーヤー」アプリで動作確認済みのスマートフォンの「ARROWS NX F-02G」

 SeeQVault プレーヤーを開発するピクセラでは動作確認機種を公開しているので、まずは自分の端末が対応しているかを確認してみよう。なお、Android 5.1にアップデートした手持ちのNexus 7 2013でも再生できたので、対応一覧にない端末でも実際は対応している端末も多そうだ。

 Windows PCの場合、東芝のスタンダードノートPC「dynabook Tシリーズ」のT95/75/55/45、11.6型モバイル「dynabook N51」(いずれも'15年夏モデル)の5機種がSeeQVaultに対応するほか、ソニーの「SeeQVault Player for Windows」などSQV対応プレーヤーソフトも提供されている。そのほかの対応モデルはSeeQVaultのWebサイトを確認して欲しい。なお、現在のところ対応する視聴端末はAndroidとWindowsのみで、Mac OSとiOSには対応していない。

PCのdynabook T45('15年夏モデル)もSQV対応

レコーダからmicroSDへHDのままダビング。録画直後のダビングも

レグザサーバーのDBR-M590にSQV対応microSDを挿入。SDカードアダプタ、またはUSBリーダー(背面のUSBポートのみ対応)を介して接続する

 今回は、SQV対応のmicroSDカードとカードリーダーに加え、SQV対応機器として9ch同時録画が可能な東芝のレコーダ「DBR-M590」、富士通のAndroidスマートフォン「ARROWS NX F-02G」、シャープのAndroidタブレット「AQUOS PAD SH-06F」、SQV対応の東芝製ノートPC「dynabook T45」を利用し、それぞれの環境で視聴方法を試した。

 まずは最初の手順である録画番組の保存だが、9ch同時録画に対応したDBR-M590の場合、番組の録画方法によってmicroSDカードへの保存方法が異なる。手動で録画した番組の場合は「スタートメニュー」から「ダビング」を選択し、ダビング元を「HDD」、ダビング先を「SDカード」に設定。後は録画リストからダビングしたい番組を選んで「決定」を押せば操作は完了だ。

スタートメニューから「ダビング」を選択
HDDからSDカードへダビング
ダビングする番組を録画リストから選択
ダビングしたい番組を選んで決定
確認画面
画質を変更せずそのままダビングできる

 同時録画の場合はリモコンの「タイムシフト」から番組を選び、「保存する」からバックアップ設定を「する」に切り替えて実行すると該当の番組をmicroSDカードに保存できる。このときバックアップ先が「SDカード」になっているかを確認しておこう。

タイムシフトから番組を選ぶ
該当の番組で「保存」を選択
バックアップ設定を「する」に選択
バックアップ開始
録画予約終了後に自動でバックアップすることも可能
ダビング実行中

 ダビング時間は画質や時間によって異なるが、DR画質で録画した1時間番組は20分弱でダビングが完了した。なお、手動で番組の録画予約を設定する場合、録画終了と同時にバックアップを設定することも可能だ。深夜番組などは録画とバックアップを同時に設定しておき、寝ている間に自動でmicroSDカードへダビングしておく、という使い方もできる。

スマートフォンにmicroUSB接続、圧倒的な高画質の視聴体験

 動画の保存が終わったら、あとはmicroSDカードを取り出して視聴端末に接続するだけ。スマートフォンやタブレットの場合は同梱のカードリーダーにmicroSDカードを装着して端末に接続。あとはSeeQVault プレーヤーを起動すれば保存した動画を再生できる。なお、スマートフォンやタブレットにはmicroSDカードスロットを搭載している機種もあるが、SeeQVault経由で動画を再生するのはmicroSDカードスロット経由ではなく、カードリーダーを使って視聴する必要がある。

専用アプリ「SeeQVault プレーヤー」。Google Playから無料でダウンロードできる

 再生時は画面にタイムバーのみが表示され、画面をタップすると15秒スキップ、5秒戻しや早送り/早戻しなどのトリックプレイが操作可能。音声に関してはメニューから主音声と副音声の切り替えが可能だ。

スマートフォンに接続して再生

 画質はさすがのクオリティで、DRモードで録画した番組は非常に美しい画質で再生できる。今までも録画した番組をスマートフォンで視聴することは多く、そこまで画質に不満は感じていなかったものの、実際に地上デジタルと同等の画質を目の当たりにすると違いは歴然だ。

 番組はmicroSDカードに保存されているため外出中はいつでも再生が可能。ただし、再生位置は記憶されないので、途中で視聴を止めてアプリを終了してしまうとまた再度続きから再生するのが手間だ。このあたりはアプリのアップデートで続きから再生にも対応して欲しい。

外出先でも録画番組を高画質のまま楽しめる
早送りなどのトリックプレイも行なえる
タブレットに装着して再生しているところ

 画質が良い分ファイル容量も大きくなるが、保存メディアが外付けとなるため、スマートフォンの内蔵ストレージを圧迫しないのもメリット。スマートフォンの内蔵ストレージはアプリや写真、音楽などのファイルでいっぱいで動画ファイルを保存する余裕がない、という場合も、外付けのmicroSDカードなら余計なストレージ容量を使用することもなく動画を楽しめる。

 録画番組はローカルに保存されているため、視聴の際にインターネット接続も不要。外出中や移動中も常に高画質の動画を楽しめる。長距離通勤や移動が多い仕事の合間に動画を見たいという時も環境を気にしないというストレスのなさはうれしいところだ。

 見終わった番組はメニューから選択して削除することも可能。移動中に見終わった番組は削除しておけば家に戻って再度番組を保存するときにも便利だ。なお、削除機能は機種によって異なるようで、Nexus 7では削除できた一方、ARROS NX F-02Gでは削除できなかった。

端末によっては番組の削除も可能。複数番組の一括削除もできた

 なお、32GBのSQV対応microSDカードを使った場合、地デジ(約17Mbps)の場合は約4時間6分、BS/110度CSデジタル(24Mbps)の場合は約2時間54分、AVC AEモード(12倍モード)の場合は約34時間18分まで記録(ダビング)が可能。16GBカードの場合はそれぞれの約半分となる。

microSDカード記録(ダビング)可能時間(SDカードへの直接録画は不可)
画質地デジ
(17Mbps)
BS/110度CS
(24Mbps)
AVC AF
(2倍モード)
AVC AS
(4倍モード)
AVC AE
(12倍モード)
32GB約4時間6分約2時間54分約5時間24分約11時間34分約34時間18分
16GB約2時間2分約1時間26分約2時間41分約5時間46分約17時間3分

PC画面でも手軽&高画質に再生。東芝PCはSDカード経由でも利用可能

dynabook T45のSDカードスロットに挿して視聴

 PCの場合も同様に番組を保存したmicroSDカードを装着する。スマートフォンの場合はカードリーダー経由のみだったが、東芝のSQV対応PCの場合、microSDカードアダプタを使ってSDカードとして読み込むことも可能だ。他社PCの場合、スマートフォンと同様カードリーダー経由で接続することになる。

 dynabook T45には「CyberLink SeeQVault Player」がプリインストールされており、microSDカードを装着した状態で起動するとSeeQVault対応ドライブとしてSDカードを認識し、カード内の動画が一覧に表示される。

サイバーリンクのPC用再生ソフト「SeeQVault Player」
SQV対応メディアを自動で認識
録画番組のリスト

 操作方法はAndroidと異なり、早送り/早戻しのほかはスキップ機能の代わりに次の動画を再生する頭出し機能が利用可能。右クリックからは早送りの倍速を選択することも可能なほか、副音声のほかに字幕表示も対応可能だ。一方、Androidでは可能だった削除機能は搭載されていない。

SDスロットにSQVカードを挿して再生。右クリックからメニューを選択できる
USBリーダー経由でも再生できる

 スマートフォンでも十分以上に美しい画質だったが、画面の大きいPCで視聴すると画質の違いはより如実に現れる。Blu-ray Discに保存するよりも手軽で、アダプタもコンパクトなため持ち運びもしやすい。高画質と手軽さを両立するという点でSeeQVaultは非常に魅力的な存在だ。

録画番組の“機器縛り”解消が目的のSeeQVault

 ここまでSQVを使った視聴方法を紹介してきたが、そもそもSQVとは何かという点についても触れておこう。SQVは「シーキューボルト(SeeQVault)」の略称。SeeQvaultは東芝、パナソニック、ソニーなどが中心となって推進する著作権保護技術のことで、デジタル機器向けの著作権保護技術はこれまでにも存在していたが、SQVが異なるのは録画番組の“機器縛り”を解消するための技術という点だ。

 最近ではテレビに外付けHDDを接続して番組を録画できる機種が増えているが、HDDに録画した番組は他社メーカーはもちろんのこと同じメーカーでも別のテレビでは再生できず、テレビが壊れた場合は録画した番組が見られなくなる、という問題があった。

 こうした機器固有の縛りを解消するために開発されたのがSQVだ。SQV対応のHDDに録画した番組は、他のテレビにつなぎ替えても再生することができる。前述の例で言えば、テレビが壊れた場合も新しいテレビにつなぎ替えるだけで、以前に録画した番組を失うことなくいつでも見られるようになる。東芝のUSB HDD「CANVIO DESK HD-QB10TK」などもSQV対応製品だ。

 東芝以外でSQVに対応している機器は、シャープ製レコーダやソニーのnasne、パナソニック製テレビの最新モデルなど。対応機器と組み合わせることでSQVのメリットが活用できる。SQVはレコーダ間の録画番組を共通化するために策定された仕様でもあるため、SQVを搭載したレコーダは今後も登場すると見られる。

 SQVの技術はHDDだけではなくSDカードでも利用することが可能。というよりSQVはもともとSDカードでの利用を想定して規格化された技術であり、製品としてはSDカードのほうが先行しているというのが実情だ。今回レビューする製品もその1つで、レコーダで録画した番組をSQV対応のSDカードに保存し、番組をスマートフォンやPCで楽しむことができる。

「高画質」と「外付け」、「ネット不要」が魅力

 最後にSQVの特徴を確認しよう。繰り返しながら録画した番組をスマートフォンやPCで視聴する方法はいくつも存在し、最近では自宅の録画番組を外出先から視聴できるリモート視聴の環境も整いつつある。そうした中で新たな録画視聴スタイルとしてのSQVのメリットは「高画質」「外付け」「ネット不要」という3点だろう。

 筆者はこれまでもスマートフォン本体へのダビングやリモート視聴などいくつもの視聴方法を試しているが、SQVの画質は体験すると大きな違いを感じる。元々画質にさほどこだわりはないのだが、リモート視聴などは動きの大きいシーンだと画面が乱れることも多い。これまではそういうものだと割り切っていたのだが、SQVのように地上デジタル相当の画質をスマートフォンで体験できるのは大きな違いだ。

 外付けというのも一見すると面倒に思えるがメリットもある。内蔵ストレージを圧迫しないだけでなく、スマートフォンに装着するだけですぐに視聴できる。スマートフォンもmicroSDカードスロットを搭載しているが、本体内部にスロットが搭載されている端末も多く、装着のたびにカバーを開けて装着しなおすのは地味ながらも手間だ。SQVならアダプタを装着してアプリを起動するだけで手軽に番組を楽しめる。

 データとして保存されているためインターネット接続を気にせず移動中でも気軽に楽しめる。当然ながらパケット通信費用も発生しないし、インターネット経由ではとても視聴できない大容量のDR画質でも問題ない。

 毎回視聴のためにmicroSDカードへ保存するのが手間ではあるが、見たい番組がある程度絞り込まれているのであれば逆にメリットも大きい。筆者は最近リモート視聴で番組を見ることが多いが、録画している番組が多く該当の番組を探すのにも一苦労する。また、ドラマやバラエティなど複数回番組の場合、どこまで見たのかがわからなくなることも多いが、SQVで見たい番組だけをダビングしておけばそうした手間も回避できる。

 画質が非常に良いだけに、世界観に没頭したい作品が向いていると感じた。そういう意味ではバラエティ番組よりもドラマやアニメなどが向いているかもしれない。まだ登場したばかりの技術で対応機種は少ないものの、今後SQV対応製品の拡充に期待したいところ。今回登場したmicroSDカードリーダー/ライターは、既存のスマホなどに追加すれば気軽に使えるという意味で、これからの録画視聴のスタイルをちょっと便利にしてくれそうだ。

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MSV-RW32GA(32GB)
MSV-RW16GA(16GB)

(協力:東芝)

甲斐祐樹