レビュー

“小さく”て“軽い”ハイエンドヘッドフォン、ULTRASONE「Edition M」を聴く

 独ULTRASONEの「Edition」シリーズと言えば、ハイエンドヘッドフォンではお馴染みの存在だ。かつては「Edition9」がハイエンドモデルとして君臨していたが、開放型の「Editon 12」や「Editon 10」、ウッド素材を活用した「Edition 5」、小ぶりな「Edition 8 Palladium/Ruthenium/Carbon/Romeo/ulia」と様々なモデルが展開され、ライフスタイルに合わせて選べるようになっている。

Editionシリーズ初のオンイヤータイプとなるポータブルヘッドフォン「Edition M」。写真は最終外観前のモデル

 そんな中、8月15日から発売されるのが、Editionシリーズ初のオンイヤータイプとなるポータブルヘッドフォン「Edition M」だ。小型、軽量なモデルだが、その筐体の中に「S-Logic Plus」など、ULTRASONE独自の機能を盛り込んだ注目機だ。

 個人的な話だが、ポータブルタイプのヘッドフォン選びに長年不満があった。なにをもって「ポータブル用」とするかという話はあるが、密閉型の小型ヘッドフォンで、音の良いモデルを選ぼうとすると、なかなか好みに合うモデルが無かったのだ。

 ポータブルタイプは低価格なモデルがメインで、音のバランスは低域が派手目なモデルが多い。ハイファイでバランスの良い音を屋外で楽しみたいと思って探すと、選択肢が限られてくる。そこに登場する「Edition M」。どんな音がするのか非常に興味がある。なお、ポータブルではあるが、店頭はEditionシリーズらしく12万円前後と、室内向けハイエンドヘッドフォンと遜色無い価格帯になっている。

手にすると驚く軽さ

 「かるっ!!」というのが、実物を手にした最初の感想だ。重量はケーブルを省いて146gしかない。重量自体も軽いのだが、見た目とのギャップが拍車をかける。金属の質感が漂う外観は“いかにも重そう”なのだ。その外観を見ながら手にとると、あまりの軽さで、ギャップに戸惑う。

手にすると驚くほど軽い
最終的な外観はこの写真のようになり、ハウジングのロゴ部分の光沢がアップしている
ヘッドバンド部に保護用のアルミプレートが装着されている。内側の刻印は確認しやすい色を採用
フエルト時

 軽さはポータブルヘッドフォンにとって大きな利点になる。だが、ともすると安っぽく感じる要因にもなる。だが、Edition Mに関しては金属パーツがふんだんに使われているので、肌触りに高級感があるのでチープには感じない。購入後の満足度も高いだろう。今、喫茶店でEdition Mを聴きながら、金属筐体でヘアライン仕上げのノートパソコンを叩いているが、両者の見た目的なマッチングは良好でなんだか気分が良い。

喫茶店でパチリ
装着イメージ
Edition8 CarbonやEdition 5と並べたところ

Editionシリーズらしいしなやかさサウンドを屋外で

 見た目だけ良くてもはじまらないので音を聴いてみよう。その前に装着感だが、その軽さにより、頭部に装着した際の負担はとても少ない。一方で側圧はやや強めだ。

 イヤーパッドはオンイヤータイプだが、耳全体にパッドを押し当てるタイプではなく、イヤーカップが耳の周囲を覆うタイプ。それゆえ、耳が押しつぶされて痛くなる事は無い。耳が大きめの人は装着時、耳がカップの中にすっぽり入るよう、ちょっと動かしながら装着すると良いだろう。

このようにハウジングが動いて頭部に追従するようになっている

 特筆すべきはエチオピア・シープスキン・レザーの肌触りだ。イヤーパッドの柔軟性はどちらかというと固めなのだが、耳のまわりにピッタリとフィットするレザーの肌触りが非常にソフトなので心地が良い。ペトペトし過ぎず、でもしっとりと吸い付くような感覚は、高級ヘッドフォンならではのものだ。密閉度も高いので、低音再生にも寄与しそうだ。小さいヘッドフォンだが、装着した瞬間に「あ、Editionシリーズだ」と感じるのは、このレザーのおかげだろう。

エチオピア・シープスキン・レザーの肌触りは良好。ハウジングは耳をスッポリと囲むタイプだ
試用した機体と異なり、製品版ではアーム部分のエッジ処理がより滑らかになるという

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」の96kHz/24bitハイレゾファイルを再生する。プレーヤーは「AK380」だ。

 冒頭、音場の左側にギターが現れるが、その段階で音場の広さに驚く。ハウジングの小さなポータブルヘッドフォンは、どうしても音葉が狭く、音像も近い“狭苦しい”サウンドになりがちなものだが、Edition Mは奥行きが深くて驚かされる。ハウジングが軽量で薄いためか、音が気持よく広がり、閉塞感も少ない。長時間聴いていても、息苦しくはならないだろう。

 空間の広さというか、頭内定位がキツくない心地よさは、独自技術「S-Logic Plus」も寄与しているだろう。この技術は、ドライバを鼓膜の軸上から意図的にオフセットした位置に配置する事で、ユニットからの音がそのまま内耳の中に入らず、外耳に反射してから聴こえるようにするものだ。要するに、自然に音が耳に入る経路をヘッドフォンでも再現するもの。「S-Logic Plus」は、その技術をさらに進化させたものとなる。

 ULTRASONEでは定番と言える技術だが、コレの良いところはアナログな構造による工夫であり、DSPで電気的に音をいじっていないため、音が不自然にならない事だ。バーチャルサラウンドヘッドフォンのように、音が背後に定位するようなものではなく、あくまでキツイ頭内定位をふわっと和らげてくれる感じだが、逆にこの適度な効き具合が自然で良い。

バンド部分に「S-Logic Plus」ロゴが

 空間描写の次に印象的なのは低域の描写だ。先程、ポータブルヘッドフォンでは低域がパワフルなモデルが一般的に多いと書いたが、実はEdition Mもその例に漏れない。Editionシリーズの中ではバランスとして、低域が強めなモデルと言っていい。

 では「ボンボン」、「ドンドン」と低域が膨らんだ、派手なだけのサウンドなのかというとまったくそうではない。前述のように音場が広いため、まず音が詰め込まれたような圧迫感がなく、低域が強くても息苦しい感じはしない。

 搭載しているユニットは30mm径で、チタニウムプレイテッドマイラーを採用。インピーダンスは40Ω。再生周波数帯域は10Hz~38kHzだ。

AK380と接続したところ

 音圧豊かに押し寄せてくる低音自体は適度にタイトだ。「Best OF My Love」の1分過ぎから入ってくるアコースティック・ベースの低音は、強めに張り出し、圧迫されるようなボリュームだが、響きが適度にタイトでスッと消えるため、食傷気味にならない。低音が膨らみすぎると、それに全帯域が覆われてモワモワした不明瞭な音になってしまうものだが、Edition Mはそうはならない。ブワッとパワフルに出つつ、スッと消えるところは消えてくれるため、低域の中の描写が見やすいのだ。低音の中にあるベースの弦の動きがちゃんと輪郭として認識でき、ブルンと震える様子もわかる。ゆるんだゴムひものようにダラダラとは震えない。マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」も、ビートがタイトで心地良い。

 そのためか、ボーカルの描写にも悪い影響は与えておらず、声は自然だ。「茅原実里/NEO FANTASIA」から「この世界は 僕らを待っていた」(96kHz/24bit)を聴いても、音場が広いため、低域はキチッと音楽の下部に位置し、そこから溢れ出さない。中域、高域がしっかりとクリアに描写され、バランスは良好。声の響きや、弦楽器を再生した時に感じるしなやかで、艶やかな描写は、Editionシリーズ独特の魅力でもある。

 プレーヤーを「AK240」に変更、同じ部分を再生すると、低域の細かな表現、音場の広さの違いをキチッと描写しわけてくれる。分解能が高いため、ハイレゾ楽曲やプレーヤーによる違い、アンプによる違いを聴き取りやすいモデルとも言えるだろう。低音がボンボンと膨らんでしまうと、ドライブ機器やソースを変えても違いがよくわからないという事になってしまう。

AK380とAK240の違いも的確に再生できる

リケーブルでさらなる音質向上も

 進化の余地も残されている。MMCX対応なので、リケーブルができるのだ。最近はバランス駆動や、グラウンド分離駆動などが話題だが、ドライブの方法を変えることで、さらにマニアックにサウンドを追求できるモデルだ。

 ただ、今回お借りした試作機は、MMCX端子が日本で実際に発売されるものと違うそうだ。試作機のMMCX端子は、純正の、製品に付属しているMMCXケーブルとの相性を最優先にして、接続も「カチッ」と強固にできるものを選んだという。ここまでは当たり前の話だが、この端子がリケーブル用として各社が採用しているものとは少し異なり、交換ケーブルを装着すると、接続が甘くて、抜け落ちやすいのだ。

 試しに別のケーブルを接続しようとしたが、指で押さえていないと少しの振動でポトッと落ちてしまうほどだ。この接続では、音質比較は適さないので今回は割愛する。

 純正ケーブルとはキチッと接続できるので、それはそれでいい。だが、日本ではリケーブルをするユーザーが多いため、日本からの要望で「日本向けモデルは変更し、リケーブルしやすいMMCX端子になる」という。

左がEdition M、右がEdition8 Carbon。どちらもMMCX端子だが、ちょっと形状が異なる
付属のケーブルにはリモコンも搭載

 「ヘッドフォン祭り」などのイベントに脚を運んだことがある人にはお馴染みだが、同社はCEOのMichael Willberg氏などが頻繁に来日し、日本のユーザーの声を良く集め、製品に反映させている。日本のユーザーにとってはありがたい話だ。もっとも、Editionシリーズがここまで多様なモデル展開をするようになったのも、日本のユーザーが中心となり盛り上げた結果と言っても過言ではないかもしれない。

 音の良いポータブルタイプとして、屋外でもEditionシリーズらしい、質感の高いサウンドが楽しめるのは魅力だ。静かな室内で試聴していた際は、「もうすこし低域の量感が少なくいいかな?」と思っていたのだが、地下鉄などで使ってみると、このくらい低域が出てくれたほうが聴きやすく、むしろバランスが良く聴こえる。積極的に屋外で使いたいヘッドフォンだ。

 気になるのは12万円という価格。Editionシリーズらしいといえばらしいのだが、ポータブルタイプに12万円はちょっと払えないという人も多いだろう。

ULTRASONE GO

 実は、海外のイベントにおいて「ULTRASONE GO」というポータブルヘッドフォンが既に発表されている。機能やサイズ感を見るに、Edition Mの弟分的なモデルになるようで、米国では149ドルという値段がついている。日本円では2万円台くらいのイメージだろう。Edition Mに手が届かないという場合は、こちらも気になる製品になりそう。日本での登場にも期待したい。

山崎健太郎