レビュー

デュアルBA、ハイブリッド、SMMCX。Klipsch渾身の新イヤフォン4機種を一気に聴く

 フロンティアファクトリーから順次発売が開始されている、Klipschの新イヤフォン4機種を一気に紹介する。価格は全てオープンプライスで、実売は最上位の「X20i」が72,800円前後、「X12i」が45,800円前後、「XR8i」が36,800円前後、「X6i」が27,800円前後だ。

 比較的高価格な事からもわかるように、いずれのモデルも音質を追求した完成度の高い仕上がりになっている。

 数が多いので、各モデルの主な特徴を整理しながら、音も聴いていこう。

左から時計回りに「X20i」、「XR8i」、「X6i」、「X12i」

最上位「X20i」はBA×2基でリケーブル対応

 最上位の「X20i」は、バランスドアーマチュア(BA)ユニットを2基搭載しているのが特徴だ。X10やX11といった、シングルのBAをあえて採用し、それをキッチリ耳に挿入する事で、低域から高域までワイドレンジで繋がりのいいサウンドを実現してきたKlipsch。その新フラッグシップが、2ウェイである事は大きなトピックと言える。

X20i

 具体的には、40kHzまで再生できる新設計のスーパーツイータ「KG-125」と、「KG-926」ドライバを組み合わせている。このモデルはハイレゾ対応だ。ウーファのモジュールの一部に、SonionのAcuPass技術に基づいたローパスフィルタを搭載。ウーファとツイータの干渉を最小化しているという。クロスオーバー周波数は10kHz。

 筐体はX10からの流れを組む細身で有機的なフォルム。X10やX11と比べるとハウジングがやや太めになったものの、元々細身なデザインなので、耳に入れにくいなどという事はまったくない。耳穴にマッチするサイズのピースを選んだら、抜け落ちずに安定する深さまで挿入。ハウジングが細く、耳に触れないため、何かが耳に装着されているという不快感は少ない。

 筐体の素材は耐久性と人体への優しさを兼ね合わせるという「サージカルスチール製」となっている。触れるとヒンヤリ冷たく、高級感はバツグンだ。周波数特性は5Hz~40kHz、感度は111dB、インピーダンスは50Ωだ。

X20i
使用イメージ

 もう1点の特徴はリケーブルに対応した事。ただし、これがかなり独特だ。細いハウジングのためか、着脱できる端子部はハウジングの近くには無く、リモコンの手前など、イヤフォンから少し伸びたケーブルの先にある。端子はMMCXではなく、より細身の“SMMCX”と呼ばれるもので、ネジ込み式。普通のMMCXと比べて外れにくいのは利点と言えるだろう。

 7万円を超える高価なイヤフォンであるため、リケーブルに対応してくれた事は評価したい。しかし、MMCXのケーブルは使えないわけで、新たな端子をまたイヤフォン市場に誕生させるのはあまり感心できない。また、もしイヤフォンの根本部分で断線などした場合に、この方式ではケーブル交換で容易に復活はできず、修理する必要が生じるのも気になるところだ。いずれにせよ、新たな端子を採用するのであれば、リモコン無しのケーブルやバランス接続対応モデルなど、積極的なケーブル投入を期待したい。

写真のようにリモコンの根本あたりに端子がある。細身でネジ止めのSMMCXだ

 2ウェイになった事で、シングルBAの繋がりの良い、Klipschらしいサウンドが無くなってしまうのでは? と、やや不安を抱きつつ耳に挿入。だが、音が出ると、先ほどの不安は杞憂だったと安心する。まさにKlipschのハイエンドモデルらしい、上か下まで繋がりのいい自然なサウンドだ。X10やX11と比べ、よりワイドレンジになり、低域の沈み込み、量感がアップ。高域の抜けにも磨きがかかっている。

 前述の通り、耳穴に深めに挿入するタイプのイヤフォンなので、構造としては閉塞感を感じやすいハズだ。しかし、高域の抜けがよく、クリアなサウンドなので音を出すと清涼感と開放感を感じる。スーパーツイータの追加が効いているのだろう。わずかに高域に綺羅びやかな、金属質な色付けを感じるが、それが逆に気持ち良さと清々しさにつながっていると感じる。

 また、中低域の量感が適度にあり、超高域との繋がりの良さもあるため、綺羅びやかな高域部分だけが分離して聴こえないのも自然なサウンドに寄与しているのだろう。開放感があるため、音場も広く感じ、ハウジング内の反響音でステージが限定される事も無い。音が広がる余韻が遠くまで広がって見える。

 低域は地鳴りのような沈み込みは出ないが、必要十分な深さがある。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生すると、アコースティックベースの「グォーン」という低域に凄みがあり、胸を圧迫するような張り出しの強さもある。同時に、それらが膨らみ過ぎてボワボワする感じはまったくなく、キッチリ響きが制御されている感覚もある。「ヴォーン」と低域が張り出しながら、ヴォーカルやパーカッションのキレは明瞭、楽曲が終わる瞬間にピアノのペダルから足を離す「カタン」という細かな音もしっかりと描写する微細さがある。

銘機を継承しつつ改良を加えた「X12i」

 「X12i」は、フルレンジのBAユニット1基を搭載するタイプの新モデルだ。ユニットはX20iにも使われている「KG-926」を搭載している。ハウジングはヘアライン加工されたアルミニウム製。軽くて強く、筐体の壁の厚みを減少、直径は6mmしかない。周波数特性は5Hz~19kHz、感度は110dB、インピーダンスは50Ω。ケーブルの着脱はできない。

X12i

 もはやお馴染みというか、聴くとホッとするサウンドだ。フルレンジ1基と侮るなかれ、ワイドレンジで自然なサウンドは、不出来なマルチウェイBAイヤフォンでは逆立ちしても太刀打ち出来ない魅力が溢れている。

 正直、X20iを聴いた直後にX12iを装着すると、スーパーツイータが無い事で、高域の突き抜けるような描写や爽やかさがやや低減したように聴こえる。ただ、そのまま1曲聴き続けていると、「こちらの方が楽曲本来の描写には近いのではないか?」と思えてくる自然さがある。高域がさほど強調されない事で、ヴォーカルの声の響きや感情など、質感描写の細かさに注意が向き、音楽がより深く染みこむような感覚もある。

非常に細身なハウジングが特徴だ

 この傾向は、従来のX10やX11と比べ、低域がより深く出るようになったからかもしれない。ただ低域が強すぎてボンつく事はなく、バランスの良さはキッチリ維持されている。ユニットが同じというのもあるだろうが、「Best OF My Love」の低域の沈み込み、量感はX20iに引けをとらない。

 なんというか、酸いも甘いも噛み分けた、低価格から高級機まで、あらかたのイヤフォンを使った人が、最後に戻ってくるかのようないぶし銀的なサウンドだ。X20iというハイエンドが登場しても、X12iとしてフルレンジBA×1基のモデルが引き続き存在する事からも、このイヤフォンがKlipschのアイデンティティ的な存在であるというメッセージが感じられる。

ハイブリッドタイプの「XR8i」

 大きめハウジングの「XR8i」を聴いてみよう。BAのツイータ「KG-723」と、ダイナミック型のウーファ「KG-065」を組み合わせたハイブリッドタイプだ。当然、ダイナミック型が低域を、BAが高域を担当している。AcuPassフィルタも搭載した2ウェイだ。

ハイブリッドタイプの「XR8i」

 筐体は亜鉛ダイキャスト製で、PVD(物理気相成長)手法を使い、ガンメタリック仕上げとしている。形状的にユニークなのは、ノズルが上向きかつ内側に向けて傾斜している事。筐体の“逆たまご型”も、装着感をアップさせるための工夫だそうだ。これらが効いているのか、大型のイヤフォンで金属も使われているが、確かに抜け落ちにくい。周波数特性は10Hz~20kHz、感度は110dB、インピーダンスは50Ω。ケーブルの着脱はできない。

ノズルに角度がついている
リモコンも備えている

 方式から連想するサウンドそのもので、X20iやX12iよりも低域の量感が圧倒的に豊富。「Best OF My Love」のベースが「ゴーン」と地響きのように響く。「イーグルス・ホテルカリフォルニア」の冒頭も、ベースがまるで井戸の底から噴き出してくるかのような迫力だ。最低音の沈み込みの深さは上位モデルよりもやや後退するが、量感の豊かさは圧倒的だ。

 同時に、これだけパワフルな低域が出ていながら、ベースと同時進行する「ホテルカリフォルニア」のギターの細かな旋律は極めて明瞭に描写されているのが面白い。続いて入ってくるボーカルも、不明瞭にはなっておらず、声の響きが奥の空間に消えていく様子も埋もれずに聴こえる。

 響きが膨らみ過ぎないよう、キッチリと制御されているようだ。亜鉛ダイキャストとエラストマーの、異なる素材の組み合わせで作られたハウジングも、そもそもの鳴きが少ないのだろう。

 低価格な低音重視イヤフォンは、ボンボンブンブンとパワフルな低音が出るのは良いが、中高域が全部埋もれてしまい、派手なだけですぐに飽きてしまうが、「XR8i」の描写力があればそういう事は起こらないだろう。ポール・マッカートニーの奔放なベースラインが楽しい、ビートルズの「タックスマン」のような楽曲がひたすら心地よい。

侮れないエントリーモデル「X6i」

 X6iは、フルレンジのBAユニット「KG-723」1基を備えたエントリーモデル。カラーはブラックとホワイトの2色を用意している。

X6iのホワイトモデル

 筐体は亜鉛ダイキャストとエラストマーの複合材を使っているが、上位モデルと比べるとエラストマー部分が多めで高級感は劣る。ただ18gと軽量で装着安定性は高い。ノズルには上向きと内部傾斜がつけられている。周波数特性は20Hz~20kHz、感度は110dB、インピーダンスは50Ω。ケーブルの着脱はできない。

筐体は亜鉛ダイキャストとエラストマーの複合材だが、エラストマー部分が多目だ

 上位モデルから順番に聴いてきて、「エントリーだから音もまあそれなりだろう」と予測して装着したが、なかなかどうして、侮れないモデルだ。フルレンジ1基という意味でX12iと似た構成だが、音も似ており、バランスは良好。特定の帯域だけが張り出すような感覚はなく、ナチュラルで色付けも少ない。

X6iにもリモコンがある

 恐らくエラストマー部分が多いハウジングの影響もあると思うが、金属筐体特有の響きの硬さが無く、フルレンジ1基のナチュラルな音の良さを引き立てている。“BAは音が硬い”と感じている人にもマッチしそうなモデルだ。

 上位モデルと比べると、低域の沈み込みが浅めで迫力の面で一歩劣るのは確かだ。逆に言えば、中広域の細かな描写を楽しみたい、モニターライクなサウンドを低価格で楽しみたいというニーズにはマッチするハズだ。「エントリーだから」と聴かないのはもったいない。ぜひ試聴して欲しい一台だ。

完成度の高い4機種

 音質面では文句の無い出来だが、いずれも2万円を超えるハイクラスモデルで、音にも妥協がないので、個人的にはスマホ向けリモコンを備えていないモデルも欲しいところ。日本人特有の要望なので難しい面もあるとは思うが……。X20iのようなリケーブル対応を、より下位モデルでも拡充させて欲しいところだ。

 4機種はいずれも音の違いに特徴があり、ユニット構成や個数による利点をそれぞれが活かしていると感じる。それでいて基本的な再生能力はどれも高いため、どれを選んでも満足できるラインナップと言えるだろう。

山崎健太郎