レビュー
B&W、ゼンハイザー、アップル……急に面白くなってきた10万円前後のハイエンドヘッドフォンを一気聴き
2025年12月25日 08:00
最近、Bluetoothヘッドフォン界隈で、“10万円前後のハイエンド帯”が急に面白くなってきた。
2025年9月にBowers & Wilkins「Px8 S2」(実売129,800円前後)、10月にゼンハイザー「HDB 630」(実売95,700円前後)と、名門オーディオブランドから最新世代のフラッグシップ機が相次いで登場したのだ。
また、市場的“基準機”のひとつであるアップル「AirPods Max」も、現行モデルの価格は84,800円で、しっかりこのラインである。
そこで今回は、この“10万円前後のハイエンド帯”3機種を借りて、一気に体験してみた。音質は元より、Bluetoothヘッドフォンとしての機能性やデザインまで含めた総合力という視点で、ご紹介していきたい。
“10万円前後のハイエンドヘッドフォン”が、線から面になった感覚
機種ごとのレビューに入る前に、ちょっとだけ市場の動きを振り返っておこう。というのも、今回の“10万円前後のハイエンド帯”という切り口が生まれたきっかけとして、ゼンハイザーからHDB 630が登場したことがひとつ大きい。
3機種のうち、最初に発売されたのは、2024年9月に登場したアップルのAirPods Max(第2世代)。2020年の初代モデルが約6万円台だった時点でも、その高価格っぷりが驚かれたが、今やがっつり8万円台である。立派に高級機の地位を築きながら、依然として強力な市場の基準機として君臨している。
そしてその1年後、2025年9月に登場したのが、Bowers & Wilkins(以下、B&W)のPx8 S2。こちらに関しては、2022年発売の前世代モデル「Px8」がすでに11万円超えだったので、その後継機で13万円弱の価格設定はまあ想定の範囲内。
Px8の時点で高級ヘッドフォンの代表格になっていたが、その進化版であるPx8 S2もすでに各所で高評価を獲得しており、2025年を代表する1台に挙げられるのは間違いない。
で、さらにその1カ月後、予想外の方向から登場したのが、ゼンハイザーのHDB 630だった。アップルやB&Wのように前世代モデルを持たない、ブランドの新たなフラッグシップラインとして誕生したのだ。
型番が「MOMENTUM」ではなく「HDB」であることに、多くの人が驚いたのではないだろうか。詳しくは後述するが、その名称だけで“明らかにハイエンド”とわかる形で登場した。
それまで、アップルとB&Wそれぞれの最上位モデルが点と点で存在していて、その価格差は4~5万円あったので、何となく両者を“線”で結ぶと上の方にB&Wがいる……という感覚だったが、そこにゼンハイザー HDB 630いう新たな点が加わったわけだ。
これら3点をつなぐことで、10万円前後という市場が一気に“面”として立ち上がってきた感がある。
というわけで、そんなゼンハイザーの意欲作、HDB 630からさっそくご紹介したい。
ゼンハイザー「HDB 630」
改めてHDB 630は、“オーディオファイル向け”を謳うBluetoothヘッドフォンとして開発された。
それまでゼンハイザーのワイヤレスヘッドフォンといえば、圧倒的人気の「MOMENTUM」シリーズだったわけだが、今回は新しく「HDB」という型番を付与。
さらにナンバーは「630」ということで、同社の有線ヘッドフォンのハイエンドライン「HD 600」シリーズの系譜にあるワイヤレスヘッドフォンであることが、感覚的にわかる設定である。
この時点ですでに、“オーディオファイル向け”というコンセプトがビシビシ伝わってくる。
スペック的には、内部に42mm径のダイナミック型ドライバーを搭載。振動板自体はMOMENTUM 4 Wirelessと同一ながら、新開発のアコースティックシステムと組み合わせることでさらなる高音質化を図っている。
Bluetoothのバージョンは5.2準拠で、aptX Adaptiveをサポートし、ハイレゾワイヤレス再生に対応。さらにUSB-C有線接続にも対応しており、有線で最大96kHz/24bitのハイレゾ再生が行なえる。
デザインは、モニターヘッドフォンのブランドらしく、業務用機材に通じるシンプルさがありつつ、モニター的無骨さはクールなカジュアル感に昇華されていて、男女問わず幅広い年齢層に合いそうな雰囲気にまとめられている。シンプルでカッコいい。
あと実は、今回使用した3機種の中で装着性が最も良かったのが、HDB 630だった。もちろん頭部の形状やサイズには個人差があるので、あくまでも筆者個人の感覚となるが、ふかふかなイヤーパッドによる包み込まれ感が心地よく、適度な側圧で締め付けも強すぎず……とかなり好印象だ。
ノイズキャンセリング機能もそれなりに高いが、自然さも失っていないバランス。
そして、本機ならではの仕様として注目なのが、aptX Adaptiveに対応したUSB-Cドングル「BTD 700」が標準で同梱されていること。これにより、iPhoneと組み合わせた場合でも、ハイレゾワイヤレス接続が可能となるのだ。
「音質優先のBluetoothヘッドフォンを見るときに、iPhoneとの接続をどう考えるか?」はポータブルオーディオ要素のひとつであるが、HDB 630はUSB-Cドングルを標準同梱することでそこに対応してきた。
せっかくなので、今回はこのBTD 700を活用し、他の2機種もハイレゾワイヤレス接続で試してみたのだが、すっごい便利。なお、3機種ともUSB-C有線接続に対応するので、もちろんそれも体験している。
……のだが、その結果、実はほとんど有線で楽しんでしまったことを先に告白しておく。当たり前なのだが、やはりこのクラスになると有線接続の方が明らかに音にピュア感があって、真価を発揮する。
まあ有線でも無線でも地のサウンド傾向は共通しているということで、音質については、双方を体験した上での総合的なインプレッションとして語らせていただきたい。
で、HDB 630のレビューに戻ると、その音は「HD 600」型番を冠したモデルとしてかなり追求されているのを感じる。
フラット傾向でニュートラルかつ繊細な方向だが、特に低域は「MOMENTUM 4 Wireless」より抑えつつ開放型の有線ヘッドフォン「HD 650」よりは持ち上げたとのことで、これがちょうどバランス良く、ジャズ・クラシックからポップスまで幅広く合う。
量感ではなくナチュラル側の低音で、階調が感じられるのが凄いし、そんな低域との対比もあって「HD 600番台を踏襲した」という高域も際立っている。
おなじみのジャズ、「ビル・エヴァンス・トリオ/ワルツ・フォー・デビイ」(Qobuz:配信スペックは192kHz/24bit)を再生すると、ウッドベースのしなりがちゃんと感じられ、弦のアコースティック感があり、上述の通り、そこに階調が見えるようだ。音の響きの真ん中に自分がいる感覚になれる。
今どきのJ-POPとして、HANAのミディアムバラード「Blue Jeans」(Qobuz:配信スペックは48kHz/24bit)を聴いてみると、ボーカルが近くて臨場感があり、歌唱力推しのグループの魅力がよくわかる。
メロウなギターのアルペジオとノイズエフェクトが鳴るイントロはクリア。とにかく全体的に見通しが良く、レイヤーがくっきりしていて、純度の高い音にスッとフォーカスが合う感覚がある。
音質は元より、装着感や機能性、さらにUSB-Cドングルを標準で同梱することも踏まえると、「さすが後発モデルとして、求められることに全方位対応してきた」という感じで、総合的力でかなり“つよつよ”な1台だった。
あとバッテリー持ちが良くて、充電状態を気にせず使いまくることができたのも、かなり快適だったポイントだ(公式で最大60時間の連続再生が可能)。
Bowers & Wilkins「Px8 S2」
では続いて、今年9月に発売されたB&WのPx8 S2を見ていこう。まあAV Watchでも何度も取り上げられていて、読者の皆さんもよくご存知だと思うので、サクッと概要を説明する。
2022年発売のPx8から大きな進化を遂げたB&Wのフラッグシップモデルで、発売直後から市場の高評価を獲得している1台だ。スペック的には、内部に40mm径のカーボンコーン・ドライブ・ユニットを搭載。
BluetoothはaptX Adaptive(96kHz/24bit)やaptX Losslessの高音質コーデックに対応し、HDB 630と同じくUSB有線接続でハイレゾ再生も行なえる。
デザインの良さは言わずもがなで、箱を開けた瞬間から、同社のヘッドフォンに共通する有機的な美しさに見惚れる。
特に今回使用したPx8 S2は、シリーズの中でもフラッグシップならではの美しい仕上げで高級感があり、イイ歳した“大人の音楽ファン”にこそしっくり来る面持ち。見た目の時点でもうハイエンドの風格である。装着感も軽くて使っていて疲れにくいし、ノイズキャンセリングは自然な効きで好印象。
そしてそのサウンドは、様々なジャンルの音楽の世界観を、広い音場でワイドレンジに鳴らす。大前提として、フラット傾向でニュートラルなB&Wサウンドなのだが、HDB630と比べると低音に量感があって濃く聴こえる。
こちらはこちらで、低域の量感とキレの良さを両立したバランスが心地よい。リッチな音だがシメるところはシメるというか、解像度が高く冷静さも失っていない感じ。ピアノソロ曲なんかを聴くと魅力的で、木製鍵盤の深みや余韻が感じられる。有線で駆動すると、そういう基本の特徴がより濃厚になる。
「ワルツ・フォー・デビイ」は、何よりも、音源が演奏されたヴィレッジ・ヴァンガードの空間性が濃く伝わってきて良い。これぞ、往年の名盤を最新の良い音響で聴く醍醐味ではなかろうか。ドラムが入ってきた瞬間の、細かいスネアの音でパッと華やぐ空気感とか、キックの躍動感がグッと伝わってくる。
「Blue Jeans」は、出だしのノイズフェクトが濃く出て、楽曲のノスタルジックな世界感がかなり増しているのが印象的だった。イントロのアルペジオが奏でる静かな空気感から、ちょっと平成感があるミドルテンポなR&Bの展開で、だんだんドラマチックに広がっていく楽曲にどっぷり浸ることができる。
総合的に見ると、ノイズキャンセリングや高音質コーデックへの対応といった今どきの基本性能を押さえつつ、B&Wらしいデザイン性の高さ、そして何より「ワイヤレスの究極サウンドを目指したヘッドフォン」として、圧倒的な存在感を誇る1台であることを再確認した。
アップル「AirPods Max」
そして最後に、いよいよAirPods Maxである。これこそ多くの人がよく知っている1台だと思うので、仕様は基本をサクッとご紹介していく。
製品のプロフィールとしては、専用設計のドライバーにより、歪みを抑えた高音質再生を図ったフラッグシップモデル。パーソナライズされた空間オーディオとダイナミックヘッドトラッキングといった最新の売り機能に対応するほか、イヤーパッドの吸着度と密閉度に合わせてサウンドを調節するアダプティブイコライゼーションなども搭載している。
対応するBluetoothコーデックはSBC/AACのみだが、追加機能として話題になったのが、USB-C有線接続で48kHz/24bit再生に対応したことだ。iOS/iPadOS 18.4、macOS Sequoia 15.4以降のデバイスとの組み合わせで利用可能になった。
デザインは、筆者が語るまでもなくさすがの一言で、そのシンプル&ミニマムで洗練されたフォルムには、ひと目でアップル製品とわかる共通の言語がある。酸化皮膜処理されたアルミニウムのイヤーカップが光を反射する際の美しい質感まで計算づくであろう。
カラーバリエーションはブルー、パープル、ミッドナイト、スターライト、オレンジの6色と、今回の3機種のなかでもっとも豊富で、自分のスタイリングなどに合わせてカラーを選べるのもポイント。
ヘッドバンドの頭頂部にはメッシュ生地が使われていて、装着時の快適性も高められている。そしてノイズキャンセリング性能は言わずもがな高い。
ちなみに筆者個人の話をすると、実はこの手のメタリック&スタイリッシュなモノがあまり似合わない牧歌的な顔をしているので、自分が装着するとなるとAirPods Maxは難しい1台ではある。
これに関してはアップルは全く悪くなく、筆者の顔が100%悪いのだが、現実にそういう人間もいるということで……。
繰り返すが、一般的にはめちゃめちゃカッコいいので、見た目で選ぶ人は多いだろうし、所有欲を掻き立てるのは間違いない。結論としては、こういうモノが似合う人に私はなりたい。
その音質は、こちらもフラット基調でニュートラル寄り。見通しが良くクリアで、たとえば「ワルツ・フォー・デビイ」のウッドベースにはきしみ感や沈み込みもあり、心地よく音楽を楽しめる……が、他の2機種と比較してしまうと、価格差もあるのでさすがにフェアではなかった。
簡単に言うと、HDB 630やPx8 S2の方が音楽との距離が近く、楽曲がダイレクトに自分の体内に流れ込んでくる感覚がある。サウンドに特化して語ろうとすると、さすがに同2機種の一騎打ちだった。ただ繰り返すが、この2機種と比べるとそうなってしまうだけで、AirPods Maxも単体で聴くとフラッグシップとして十分に高クオリティな音だ。
そして何より、AirPods Maxは、これまで見てきた「音質」「デザイン」に加え、「先進機能」との合わせ技で強力なヘッドフォンなのだということを忘れてはいけない。というかそこが肝。
おなじみの高いノイズキャンセリング機能はもちろん、やはりiPhoneやMacと組み合わせての「空間オーディオ+ダイナミックヘッドトラッキング機能」は、素晴らしいエンタメ体験をもたらす。もう本当にこれは凄い。そういう、“ならでは”の先進性能を享受できると考えたら、8万円台という価格の価値は十分にある。
つまりは、オーディオだけでなく“エンタメ性”という文脈からも選べるヘッドフォンとして考えても、揺るぎない価値があると言えよう。それでいて、USB-C有線接続によるサウンドの奥深さも体験できる点を加えると、かなりスケールが大きい1台だった。
3機種それぞれに「さすがのハイエンド」と納得できる魅力
さて今回、3機種のハイエンドヘッドフォン使ってみて強く感じたのは、10万円前後という価格帯が、もはや単なる高級ラインではなく、ブランドごとの価値観を提示するステージになっているということだ。
“オーディオファイル向け”というストイックなテーマを、音質だけでなく“iPhoneでのハイレゾワイヤレス再生”に対応することでも体現したゼンハイザーHDB 630の説得力はあっぱれだし、ワイヤレスという制約の中で真正面から音質を突き詰め、デザインの風格も含めてハイエンドな世界観を具体化しているB&WのPx8 S2が与える満足感は圧倒的。
そして、音質・デザイン・先進機能が高次元で融合しているAirPods Maxの、エンタメ全体を引っ張り上げるような総合力は“さすがアップル”なスケール感だ。
今やヘッドフォンの比較軸は単純ではなく、ハイエンドならではの選び方の多様性はどんどん広がっている。そんなことを実感させてくれた濃密な体験だった。








































