レビュー

AIでボーカルやギターを消せる、JBL「BandBox Solo」がギター好き中年に最高だった

JBL「BandBox Solo」

JBLの「BandBox Solo」は、本体に内蔵したAIプロセッサによる“マイナスワン”再生が目玉。さらにギターアンプの機能も内蔵したことで、「聴く」と「弾く」の両方を楽しめるBluetoothスピーカーだ。

マイナスワンといっても、センターに定位する音だけが消えるといったレベルではなく、AI処理で楽器のパートごとに音量バランスを変えられる。これをPCソフトやスマホアプリを使わず、スピーカー単体で使えてしまうのがJBL BandBoxシリーズの面白さなのだ。

珍しい製品ということで、販路はクラウドファンディング経由。当初は9月上旬から順次発送予定となっていたが、好評につき早期出荷も行なわれる模様。一般販売価格の35,200円に対し、先着で割り引きも行なっている。

今回は「学生時代はバンドサークルに所属しててさ〜」を口癖にしている筆者がBandBox Soloを借用。新たな音楽ライフの相棒として相性を試してみた。

耳コピに始まり耳コピに終わる

楽器の練習にはコピーがつきものだ。かつては同じ場所を何度もリピート再生するしかなかったのが、音程を変えずに再生速度を落とせるようになったり、テクノロジーの進化で耳コピの作業負担も軽減されている。

そこで注目なのが「AIステム分離」。AI技術によって完成音源から楽器ごとの音を抽出する機能で、「ギターだけ」「ドラムだけ」の音を抜き出して、これまで聞き取れなかったような演奏のディテールまで発見できるようになった。ステムとは“楽器パートごとのトラックの集まり”みたいなイメージで、DTM界隈でよく聞く言葉だ。

この技術に特化したアプリとしては、スマホやPCで使える「Moises」などが有名。ただし、これらはサブスク音源やYouTube動画をそのまま読み込めなかった。

スピーカー内でステム分離しちゃうパワープレー

JBL BandBox Solo。何の変哲もないBluetoothスピーカーに見えるサイズ感だ

そこに颯爽と登場したのがBandBoxシリーズ。スマホから音楽を再生すれば、消したいパートをダイヤルで選んで数秒待つだけで“マイナスワン”できる。このシンプルな使い勝手がサイコーにありがたい。

練習熱心・研究熱心な現役人ならまだしも、「俺も昔、楽器やってたんだよ〜」ぐらいの筆者には、いちいち音源を用意してアプリに読み込ませて……といった準備をするほどの根気が、もはやない。だからこそ、このBandBox Soloに注目した。

スピーカーとしての操作はごくシンプル。普通のBluetoothスピーカーと同じようにペアリングするだけだ。音楽再生中にダイヤルを回すと音量が変わる
Bluetoothスピーカーとしてアウトドアにも持ち出せそうな雰囲気。興が乗ったらギターを繋ごう

AIステム分離を試す。日常から“ギタリスト聴き”が楽しい

「AI STEM」ボタン。ステム分離の操作画面が開く

では、どのように操作するのか。音楽再生中に「STEM AI」のボタンを押すと、「G/V/O」と、右に縦棒が表示される。G=Guitarがギター系、V=Vocalがボーカル系、O=Otherがそれ以外の音だ。

ダイヤルで音量を変更したいパートを選んで決定ボタンを押すと、「ミュート→50%→100%」の順で切り替わる。最初に特定パートの音量を削るときは、再生音楽が一度途切れて、2〜3秒ほどで復帰する。この間にAIステム分離がオンになっている。

ここでは操作手順と効果のデモ動画を撮影すべく、商用利用もOKとなっている楽曲をYouTubeで探してお借りしてみた。

JBL「BandBox Solo」AIステム分離
AIステム分離の動作中。写真は、ギターがミュートされて他の音だけが鳴っている状態

連続動作時間が公称で6時間ほどというのは、このAIステム分離のためにNPUを動作させたり、ギターアンプとしての信号処理のために負荷が大きいのだろう。

背面にUSB Type-C端子と3.5mmヘッドフォン端子。USBは充電だけでなく、オーディオインターフェースとしても動作する

実際には、ギターといっても、それと近い帯域やバランスを持つ音が「ギター系」として抽出される。例えばベースが高い音を弾いてギターの音域に近づいてきたりすると、検出が迷うのかギターの音量が上下したり、ざっくりとはしている。

とはいえ、ボタン1発でこれだけできれば十分だと思う。ギターの音とひとくちに言っても、クリーントーンもディストーションサウンドもあるし、単音弾きもコードバッキングもあるわけで、健闘している印象のほうが強い。

アプリのように曲ごとの読み込みがいらないので、例えばサブスクのプレイリスト機能を再生しながら、ずっとギターの音量が少し大きめの状態で聴けたりするのも楽しい。再生時は他のパートの音も50%ぐらい出ていたほうが、抽出精度の違和感も少なく楽しめる。音量バランス的には、「誰かが音源に合わせてギターを弾いている」ぐらいの感じになる。

お気に入りの曲でも「こんなカッコいいカッティングが入っていたのか!」という新たな発見があったりして、日常から“ギタリスト聴き”が捗りそうだ。

AIステム分離の音量バランスは、アプリで微調節も可能

期待以上に良質なギターサウンド

側面にシールド(ギターケーブルのこと)の差し込み口がある

ギターアンプのスピーカーユニットとしてJBLは有名だけど、さすがにギターアンプ自体は初物。アンプといっても「まあ、鳴りますよ」ぐらいの感じだろうと思っていた。でも実際に弾いてみると、結構イケる感じだったとご報告したい。ギターの音色自体は、クリーンも歪みも十分に演奏を楽しめるレベルだ。

まず、スピーカーから出るギターサウンドのバランスの良さに驚いた。通常、こうした小さなスピーカーを搭載したギターアンプでは、その口径の小ささから中音域にクセのあるヌルっとした音になりがち。

しかしBandBox Soloでは、歪ませてブリッジミュートでリズムを刻んだ時のズンズンした低音の感じも、クリーントーンでタッチを強めた時のはじける感じも、各音域がバランス良く前に出てくる。これはJBLの小型Bluetoothスピーカーを作るノウハウが存分に発揮されているのだろう。

ギターのシールドを接続。「GUIT IN」の状態で使う。ボーカルマイクを使う場合は「MIC IN」を選択
ダイヤルの中央ボタンを押すごとに、音楽再生の音量と、ギター音量の調節が切り替わる
写真のボタンを長押しするとチューナーが起動。短押しではギター音色のプリセット選択メニューが開く
メトロノームやドラムマシン、ルーパーの機能も内蔵していた

弾き心地は、いわゆるコンプ感が多少あってラクに弾ける感じ。耳コピしながら弾いて確認したり、ちょっと息抜きに演奏したり、仲間とワイワイ楽しく弾くのに向いた雰囲気だ。JBLのカラフルなBluetoothスピーカーに見られるような、アメリカンなパーティー風味と解釈した。

JBL「BandBox Solo」アンプ機能&エフェクター

試しにエレキベースを繋いでみても、驚くほど低音がしっかり出た。ただ、ベースアンプのモデリングも搭載されているけれど、音楽再生のAIステム分離はベース抽出には非対応だったり、やはり全機能をフルに楽しめるのはギタリストだ。

音楽用のスピーカーとして手元に置いておきつつ、ふと思いついた時にギターを繋げばそのまま弾ける。これだけでも、かなり幸せ感のあるアイテムと言えよう。

iPadでの活用例。右の映像はギターのチューニングが半音下げなので、左のJBLアプリでスピーカーの再生音を半音上げて、手元のギターをレギュラーチューニングのまま弾けるようにしている。便利な時代だ

詳しい操作は「JBL One」アプリから

「JBL One」アプリを起動。接続はスムーズで、画面はシンプル

アプリでギターの音作りをしてみる。接続動作に安定感があり、さすが大手メーカーのアプリだと痛感させられる。アンプやエフェクトは、ノブに触れて上下にドラッグすることでパラメーターを変更する。これ自体は馴染みのある操作と言える。

エフェクターを並べたような画面で、細かく音作りできる。近年のデジタル機材でよく見るレイアウトだ
アンプのノブをプレスして上下にドラッグすると値が変わる

ただ、このアプリでは上にドラッグすると数値が減って、下にドラッグすると数値が増える。これは先入観と逆の動きなので、もしアプリのアップデートで対応できるなら反転してほしい。そのほうがスムーズに馴染める人が増えそうだ。

お気に入りの音色は7つまで本体に保存できる。個人的には、クリーン、クランチ、イギリスの歪み、アメリカの激歪み、ベース用、ぐらいが使えればいいので必要十分。保存したプリセットの入れ替えはアプリから容易に可能だ。

スピーカー本体に保存しておく7つのプリセットを選べる
プリセットの一例。どこかで見たようなアンプとキャビネットのアイコンがわかりやすい。各種の揺れ物やタッチワウなども揃って楽しいが、歪み系はクリーンブーストが1種類だけで、定番のファズやディストーションは見当たらない。ノイズゲートが効果的
こちらはアメリカンなクリーン系アンプに、ブティック系キャビネットという雰囲気。キャビの変更でキャラクターを微調整できる

(たぶん)JBLだからこそのスピード感とシンプルさ

AIステム分離の技術自体は、音楽制作ソフトやサンプリング機材、専用のアプリで既に実現されていた。それらでは、より高度な分離も可能だ。

JBLのBandBoxシリーズが絶妙なのは、「サクッとイイ感じに使える」というトータルでのユーザー体験だ。これが実際にギターアンプや音楽ソフトで有名なメーカーが製品化しようとしたら、なかなかこうはいかないと思う。

シンプル極まりない操作部。電源オフ時は表示画面が隠れているのもカッコいい

というのも、楽器メーカーの製品となれば、AIステム分離にも更なる正確さを求められるだろうし、「ツインギターは片方だけ消せないのか?」とか「バリトンギターや5弦ベースはどうする?」など、作る側も買う側も、かなり厳しい目でジャッジしてしまうに違いない。すると、このシンプルな使い勝手は実現できないだろう。

ある意味、楽器メーカーではないJBLだからこそ、こだわればキリがないマニア目線をスルーして、このスピード感で他に先んじて製品化できたのではなかろうか。

JBL | BandBox Solo | Compact AI-Powered Practice Amp and Speaker

実はこれと近いタイミングで、ギターアンプのメーカーであるBlackstarがAIステム分離のMoisesを内蔵したミニアンプ「Beam Mini」を発表した。ただ、8月にソフトウェアアップデートで提供する追加機能だという。海外楽器店のレビュー動画を見る限り、AIステム分離はスマホから操作する模様。JBLとは手軽さで棲み分けられそうだ。今後もAIステム分離に対応したギターアンプは続々と出てきそうで、買い時が悩ましいと感じる人も多そう。

Introducing Beam Mini | Mini Amp. Major Tone. | Blackstar

では、誰におすすめか?

BandBox Soloは、趣味でエレキギターを弾く人。それも、バンドを組んでいて毎日ガッツリ弾くという人より、たまに思い出したように手に取って弾くような人にマッチしそうだ。まさに筆者のような「昔は頑張って練習してたけど……」ぐらいのノリで、日々ユルく楽しむにはピッタリだと思った。

BandBox Soloを生活に取り入れてサクッとギターを手に取れる頻度を増やし、演奏技術のサビを落とし、再びギタリストとしての誇りを取り戻す……そんな中年の未来をも明るく照らしてくれるような、ゴキゲンなパッケージングが魅力の1台だった。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」