レビュー

ケンウッド、ガラス振動板とMEMS採用、80周年の“尖ったイヤフォン”「GLASS Core Pro」

上位モデルのGLASS Core Pro

KENWOOD 80周年記念モデル

イヤフォンの音を決める要素には、ハウジングやケーブルなど、ワイヤレスイヤフォンではSoCなども重要だが、やはり影響が大きいのは“振動板”。長年研究されているから種類はいろいろ、パルプやカーボンといった繊維系、樹脂に代表される化学/高分子系などもあるが、最近は新顔の「ガラス系」が話題を集めている。

ここでいうガラス系とは、薄いガラス板を加工した振動板全般のことだが、実際のところ選択肢は限られる。ガラス素材の振動板は、スピーカー向けも含めれば数十年前から存在するものの、長らくHi-Fi製品に採用されることはなかったが、最近画期的なガラス振動板が登場した。それが「Sonarion(ソナリオン)」だ。

かんたんにいうと、Sonarionは「そのままでは音質を確保できない超薄板ガラスに適切な立体加工を施した振動板」。日本電気硝子/NEGが製造した超薄板ガラスを、台湾GLASS Acoustic innovations/GAITの特許技術でドーム状に加工し、スピーカーやイヤフォンで使えるようにしたものだ。

Sonarion

前置きが長くなったが、このSonarionと推測されるガラス振動板を採用した完全ワイヤレスイヤフォン「GLASS Core」(オープン/実売27,800円前後)と「GLASS Core Pro」(同49,900円前後)が、あのKENWOODから発売された。

KENWOODといえばJVCケンウッドを構成するブランドの1つで、目下トランシーバーなど無線機器が絶好調だが、往年のオーディオ全盛期を知る人間には、旧名をTORIOというFMチューナーが得意な純然たるオーディオブランドに映る。音響製品ではここしばらくペースを落としていたところが、ガラス振動板というホットな技術を他社に先駆けて採用、しかもTWSを選択するとは。KENWOOD 80周年記念に相応しい、なんとも胸熱な出来事ではないか。

本体にKENWOODロゴ。物理ボタンにも注目

GLASS CoreとGLASS Core Proの違い

下位モデルのGLASS Core

GLASS Core(KH-CRZ90T)とGLASS Core Pro(KH-CRZ100T)は兄弟機であり、ガラス振動板の採用、ANCのサポート、リキッドシリコン素材イヤーピースの標準装備など共通項が多い。

しかし、物理ボタンの搭載やK2テクノロジーのサポートなど機能差もあり、明確にGLASS Core Proが多機能な兄貴分と位置付けられている。詳しくは後述の比較表を見て欲しい。

最大の違いは、ドライバー構成にある。GLASS Coreはガラス振動板をダイナミックドライバーとして使うシングルドライバータイプ。GLASS Core Proは同様のガラス振動板ダイナミックドライバーにMEMSドライバーを加えたハイブリッド構成、それを2ウェイ/バイアンプで駆動するという尖った仕様となっている。

両機に搭載されているガラス振動板についてJVCケンウッドに確認したところ、どちらにもGAITで生産/加工されたガラス振動板を採用しており、サイズは口径10mmと同一だが、「フルレンジでの音作りとMEMSとの2ウェイ構成での音作りが異なるため、同じガラスでもそれぞれ最適な仕様に変えています」(JVCケンウッド広報)とのこと。つまり、同一仕様ではなく、音にもそれぞれキャラクターがあるというわけだ。

そして今回レビュー機に選んだのは後者、GLASS Core Proだ。ガラス振動板が奏でる音を確認できるだけでなく、MEMSドライバーとのつながり、2ウェイ/バイアンプのメリットを確認してみたい。

モデル名GLASS Core ProGLASS Core
ドライバーφ10mmガラス振動板+MEMSφ10mmガラス振動板
コーデックLDAC、AAC、SBC
ANC◎(アダプティブモード対応)
イヤーピースリキッドシリコン素材
連続再生時間12時間(ANC ON)
14.5時間(ANC OFF)
13時間(ANC ON)
17時間(ANC OFF)
連続再生時間
(充電ケース込み)
最大49時間最大44時間
空間オーディオ×
高音質化技術K2 Technology×
本体操作物理ボタンタッチセンサー
防塵防水IPX4
重量
(本体)
片側6.7g片側5.85g
重量
(充電ケース)
58.4g39.2g
GLASS Core。充電ケース上蓋はクローム調&鏡面仕上げ
このようにエチケットミラーとしても使えそうなほど反射する

ガラス振動板+αの魅力

GLASS Core Pro

GLASS Core ProをLDAC対応のスマートフォンにペアリング、ハイレゾ音源を中心に試聴を開始した。なお、ガラス振動板搭載のイヤフォンは初体験ではなく、SIVGA「Que UTG」など発売済製品のほか、有線イヤフォンを中心に開発段階のものもいくつか聴き込んでいることを告白しておく。

SIVGA「Que UTG」

Ralph Towner/John Abercrombieによるギターデュオアルバム収録の「Half Past Two」は、いきなりガラス振動板らしい凛とした音で始まる。高速なアルペジオは運指が見えるようで、音がほどよく解れる。それでいてハーモニクスの倍音成分が心地よく、スムーズに伸びる。

アコースティックギターとガラス振動板の相性は抜群で、張りと光沢感を兼ね備えつつもキレがよく、歪みのないその音につい聞き惚れてしまう。そう、金属系素材とは異なる精細感と収束速度、繊維系素材とはキャラクターの異なるクリアネスがガラス振動板の魅力なのだと思う。

千葉史絵の「Ringlight」は、輪郭が明瞭で張りのある彼女のピアノもいいが、シンバルを刻む音がいかにもガラス振動板という音。繊細でありつつも無機質でなく、軽やかでありながら芯を感じるところは、ジャズ系の楽曲を好む向きにはたまらなく感じるはずだ。高域方向に感じる粒立ちのよさと繊細な余韻は、MEMSドライバーがいい仕事をしているのだろう。

一方、課題もありそう。Tom Mischの「Crazy Dream」は、スネアのキレよくサキソフォンの金属感も申し分ないものの、バスドラとベースがやや大人しい。低域はクリアで制動とスピード感もあるが、沈み込むほどではない。もう少し低域の存在感が欲しいのだ。ドライバーの特性というよりチューニングの話かもしれないし、結局はジャンルによる得手不得手なのかもしれないが、伸び代はまだあるように感じる。

やはり物理ボタンがいい

試聴しながら、GLASS Core Proのいろいろな機能も試してみた。音というか、ガラス振動板+MEMSというドライバー構成に注目が向いてしまいがちだが、なかなかどうして、細かい部分まで目が行き届いている印象を受けた。

ANCの効きは、「世界最高クラスノイズキャンセリング」を標榜するだけあって、なかなかのもの。騒がしいカフェで機能をオンにしたところ、周囲のざわめきはすっと後退し、カトラリーがカチャカチャする音もそれほど気にならなくなる。電車の走行音も、音楽鑑賞の妨げにならないレベルにまで低減される印象だ。

ANCオフ時との音質差も気にならず、満足度は高い。いざというときの外音取り込み(ヒアスルー)やアダプティブモード(周囲の騒音レベルにあわせてANCの効きを最適化)にも対応しているため、常時オンにしたほうが快適に過ごせることだろう。

物理ボタンもいい。兄弟機のGLASS Coreもまた然り、操作機構にはタッチセンサーを採用するTWSが多いものの、本機は敢えての物理ボタン。意図せず曲が止まったり、ふいに音量が上がったりすることがないから、ストレスがない。高級機らしい心配りだ。

新開発のリキッドシリコンイヤーピースが付属することもうれしい。リキッドシリコンという素材は表面摩擦力が高く、ずれにくいうえに高い遮音性を発揮するからだ。楕円形で適度に柔らかく、長く装着していても疲れが少ない。工場出荷時から装着されているMのほか、S/MS/M/MLをくわえた計5サイズが用意されているところは、パッシブノイズキャンセリングの効果を考慮してのことなのだろう。

計5サイズのリキッドシリコンイヤーピースが付属する
イヤーピースは半透明でやや楕円形
専用アプリ「KENWOOD Headphones」
聴こえにあわせ音質を最適化する機能も用意されている

まとめ

話題のガラス振動板をTWSに採用したことで注目必至の本機だが、MEMSドライバーとのハイブリッド、それを2ウェイ/バイアンプで駆動するという点こそ重要だ。他のガラス振動板搭載イヤホンは、ボーカルや楽器の主要な音が含まれる帯域は十分に魅力的でも、音場や空気感といった高域の描写がもうひと声という印象があったため、MEMSはその有効な解決策と映る。

気がかりがあるとすれば、兄弟機・Glass Coreの存在だ。短時間ながら試聴した経験でいうと、MEMSなど他のドライバーによる高域のアシストがないぶん音場の表現力、奥行きや定位感はあっさりしているが、各帯域のキャラクターに一貫性がある。それに、アコースティックギターの色艶あるアルペジオ、ボーカルの口もと、キレのいいシンバルロールにスネアアタックと、ガラス振動板の"美味しい"部分は持ち合わせているから、こちらを選ぶという選択肢も大いにありうる。

もっとも、2ウェイ/ハイブリッドかシングルかで話を単純化するのは心得違いだ。ガラス振動板の仕様は異なるというし、ANCの効きが違うということはSoC(詳細非公表)の性能差も考えられる。KENWOODはGlass Core ProにMEMSドライバーを追加する道を選択したが、同じ役割を平面磁界ドライバーに担わせていたら...案外BAドライバーもイケるのでは...興味は尽きない。

ともあれ、このGlass Core Proは、実力においても話題性においてもKENWOOD 80周年記念を飾るに相応しいモデルだ。これを機に、より攻めたモデル、価格的にこなれたモデルをラインナップに追加するなど、次の展開を期待したい。

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。