レビュー

世界初、仮想アース内蔵Lu Kang Audioスピーカーに迫る。小型「Spoey 155」もチェック

OTOTENのWAPANブース

スピーカーの内部に仮想アースユニットを内蔵する――筆者が最も驚いたのは、構造もさることながら、そのサウンドだった。

先月開催されたOTOTENで、WAPANブースを訪れた時、思わず足を止め聴き入った。ごく普通の見た目のスピーカーから、極めてクリアな音が鳴っていたためだ。

ルックスは、真っ白のボディに漆黒のユニットを備えた2WAYタイプ。エンクロージャーは箱形でラウンド箇所はなく、ターミナルも含め、トラディショナルな風貌だ。

台湾Lu Kang Audioと光城精工が共同開発した「Spoey 200GD Signature Edition」

しかし、肝心の音はどうだ。音像はクッキリと浮かび上がり、ディテールは精密。サウンドステージは透明感に優れ、深さと広がりを忠実に描き出している。定位表現も正確だ。ミッドからローに掛けてブレや滲みはほとんど感じられず、フォーカスの整い方が尋常ではない。

それでいて、分析的過ぎないのも好みだった。ほのかに感じる有機的な質感は、デンマーク製のユニットによるものかもしれない。

一見すると普通スピーカーなのに、音は「このスピーカーから鳴っているの?」と二度見してしまうほどのリアリティ。筆者は、「仮想アースとスピーカー」というキーワードに心当たりがあり、まさかの“内蔵する”というエポックに強く興味をそそられたのだった。

世界初の仮想アース内蔵スピーカーを、独自取材を交えて掘り下げたい。後半ではより小型で、手に届きやすい価格のブックシェルフ「Spoey 155」(ペア598,000円)のレビューも載せているので併せてお楽しみいただきたい。

「Spoey 155」

仮想アースをスピーカーに“内蔵”する

OTOTENで披露されたのは、台湾の老舗ハイエンドスピーカーメーカー・Lu Kang Audioと、仮想アースでも知られる光城精工が共同開発した「Spoey 200GD Signature Edition」(以下、Spoey 200GD/ペア792,000円)というブックシェルフスピーカーだ。Spoeyはスポーイと読む。

「Spoey 200GD Signature Edition」

Audio Technology製の200mmウーファーと、Hiquphon製の3/4インチ(約19mm)ツイーター「OW2-FS」を採用。クロスオーバーは2.2kHz。インピーダンスは8Ω。外形寸法は26.2×30.8×47.5mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は17kg(1本)。カラーは、マットタイプのシグネチャーホワイト。2026年晩夏以降の発売を予定しているそうだ。

Spoey 200GDは、既発売のブックシェルフ型スピーカー「Spoey 200」をベースとしつつ、スピーカー内部に“仮想アースユニット”を内蔵した。仮想アースを内蔵したスピーカーは世界初だという。

同モデルは、Spoey 200の置き換えや上位機種ではなく、もう一つの選択肢として展開される。光城精工の思想「遠くのアースより、近くのアース」にしたがい、ネットワーク回路の最も近い位置に仮想アースを内蔵することで効果を最大化した。

Spoey 200GDの製品ページより、ネットワーク回路の概要

Spoey 200GDの製品ページを見ると、ネットワーク回路の内部断面図が掲載されている。プラス側からは、ツイーターの経路にキャパシタ(コンデンサー)、ウーファーの経路にインダクタ(コイル)が使われているのが分かる。これは周波数によって通過する帯域をコントロールするネットワーク回路の基本的な原理そのものだ。

マイナス側に戻る経路には、2スケ(2平方ミリメートル)という太めの銅線を使ってインピーダンスを落とす対策を施しているが、その経路にある「GND」という謎のユニットが目に留まる。これがSpoey 200GDのために光城精工が設計・製造した仮想アースユニットだ。

スピーカーの「マイナス側の経路」に「仮想アース」を使うと音が改善するというトピックは、筆者にとって身近な話だった。AV Watchでも過去に仮想アースを使った音質改善をレポートしている。

プレーヤーやアンプ、DACに使っても効果は大きかったが、アンプやスピーカーのマイナス側に使う効果があまりにも強烈で今も常用している。改善効果が大きすぎるが故にスピーカーの試聴レビューでは不使用としているほどだ。

そんな自分にとって、効果が大きいことは知っていたが、まさかスピーカー本体に仮想アースそのものを入れるなんて、どうやってその発想に行き着いたのか俄然興味が沸いた。

そこで、WAPANの代表取締役であるマックス・リー氏を通じて、メールインタビューを行なった。同社は台湾のハイエンドオーディオ機器を日本に届けている正規代理店であり、Lu Kang Audioの他にはオーディオラック専門ブランドのMYSTJ Audio Designも取り扱っている。マックス氏およびLu Kang Audioの代表であり製品の開発も兼任するロックス・シー氏に話を聞いた。

Lu Kang Audioのロックス・シー社長
WAPAN マックス・リー氏、Lu Kang Audioロックス・シー氏メールインタビュー

――ネットワーク回路の最も近い位置に仮想アースユニットが内蔵されているのがSpoey 200GDの特徴だが、その開発経緯について教えてほしい

仮想アースは、接続する機器に近ければ近いほど効果的です。ケーブルで引き回すと「基準(アース)」が遠のくうえ、余分な干渉も加わってしまいます。

開発の出発点としては、光城精工様の標準品である「Crystal E-G」や「Crystal Ep-G」といったシリーズから検証を始め、仮想アースがスピーカーの音にもたらす影響と変化を理解するところからスタートしました。

光城精工のスティック型仮想アース「Crystal Ep-G」シリーズ

外付けの仮想アースを、アンプやスピーカーといったそれぞれの機器にどのように接続するかという検証は、その多くを光城精工様が担当されました。

私たちLu Kang Audioは、スピーカー側での実験に専念しております。数々のテストの中で、やはり仮想アースは機器に近いほど効果的で、ケーブルの長さの違いによっても音が変化することが分かってきました。

そこで、干渉を最小限に抑えるために、仮想アースをネットワーク回路とともにスピーカー内部へ直接統合する——これが最良の方法という結論に至りました。

――内蔵した仮想アースユニットはSpoey 200GD専用に開発されている。特にこだわったところは

仮想アースがスピーカーに与える影響で見ますと、科学的なデータの面では必ずプラスに働くことが確かめられています。

ただ、私たちがスピーカーを開発するうえで最も大切にしてきたことは、最終的な「聴感」の部分です。

たとえばCrystal E-Gと Crystal Eでは、どちらもノイズ(干渉)を低減するという点ではデータ上いずれも良好ですが、聴感上は異なる差が出ます。これは仮想アース内部の配合の違いが音に現れていると考えています。また、取り付けるスピーカーが異なれば、同じ仮想アースでも効果が変わります。

Spoeyでは、広く豊かな音場とゆったりと自然な響きが持ち味です。スピーカーが元々持っている持ち味を仮想アースの追加によって損なうことがあってはなりません。

そのため、十分な時間を掛けて試聴を重ね、Spoeyにとって最も相応しい音、そして私が表現したい個性に合う一点を探し出すことに注力しました。

Crystal E-G

――キャビネット内に仮想アースユニットを新たに配置することで、内部の音響特性は変化すると推測する。理想の音を実現するために工夫したことを教えてほしい

スピーカー内部に設置できる位置、大きさや体積、そして仮想アース本体の素材(コンデンサーやコイルに干渉しないか)といった要素まで、一定の計算と検討を重ねております。

例えば、サッカーフィールド2面分相当にもなる約15,000m2の導体表面積については、内部共振に影響を与えずに確保できる最大の面積を採用しています。

最終的に実機でテストした際には、私たちがスピーカーの内部構造を十分に把握できていたおかげで、設置の安定性や内部での音の反射の状態などすべて想定通り、コントロールの範囲内に収まりました。そして何より肝心の音が思い描いた通りに仕上がったことを大変嬉しく思っております。

――仮想アースを適用した新しいシリーズの開発予定については

現在、Spoeyシリーズには大きさの異なる4つのモデルがございます。その中から、世界の市場で最も多くのユーザーに支持されているサイズであるSpoey 200を選び、仮想アース内蔵版を導入いたしました。

今後は、既存のモデルからも仮想アース内蔵版を展開していく予定です。こちらはもう少し試聴と調整の時間が必要になります。

また、仮想アース内蔵版とは別に、Lu Kang Audioの新たなモデルの開発にも着手しております。より若い方々にも手に取っていただきやすい、親しみやすい選択肢となることを目指しております。どうぞご期待ください。

仮想アースをスピーカーに繋ぐ効果として、マックス氏は「大地を模した“基準”をスピーカーの回路内に設けることで動作をより安定させ、ノイズに対する許容度を大幅に高めることにある」と説明してくれた。

仮想アースは、これまで電源周り、あるいはオーディオ機材(アンプやプレーヤーなど)との組み合わせが注目されてきた。一方、スピーカーとの組み合わせは、あまり一般化してないように思われ、ましてやスピーカーへの内蔵は本機が世界初。この分野の今後の盛り上がりに期待をしたい。

Spoey 155を聴いてみた

Spoey 200GDの発売は今年の晩夏以降と、もう少し先であり、立ち位置としても上位モデルとなる。

Spoeyシリーズの音をもっと聴いてみたくなったので、仮想アース内蔵ではないが、既に発売されており、価格もペア598,000円と、Spoey 200GDより抑えられた「Spoey 155」を自宅で聴いてみた。

「Spoey 155」

Lu Kang Audioが日本市場に本格参入したのは2024年と、比較的最近だ。Spoeyシリーズ自体は、それよりも前の2017年に誕生している。

台湾の厳選されたパーツと職人の手作業により、一台一台を丹念に製作されており、ペアごとに厳密に調整を施し、最高の音響特性を実現しているという。

Spoey 155は1インチの厚みをもつ超高密度MDFエンクロージャーを採用。箱から取り出したスピーカーは、見たよりも重い。ユニットはSpoey 200GDと同様のデンマーク製を採用し、155mmのウーファーに3/4インチのツィーターの2ウェイでリアバスレス方式。クロスオーバーは2.2kHz。インピーダンスは8Ω。外形寸法は23.2×31.0×34.0mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は11kg(1本)。

155mmのウーファー
3/4インチのツィーター

スピーカーをグルッと眺めてみると、シンプルなユニットと真四角なボディに懐かしさを覚える。筆者がオーディオ趣味に深く入り始めた2000年代初頭を回想したくなるが、高級機らしく繋ぎ目は一切ない。天板のブランドロゴにも趣がある。

エンクロージャーに繋ぎ目が無く、高級感がある
天板にブランドロゴ

自宅の防音スタジオに設置。Soundgenicのハイレゾ音源をメインソースに、DST-LacertaからUSB-DACのNEO iDSDへ、アンプはL-505uXIIで鳴らした。

なお、付属の真鍮インシュレーターを使ったところ、硬質な音色感が乗ってきたのであえて無しとした。音像のディテールや空間のクリアさを重視される方は、スタンドとの相乗効果も確かめつつ活用するとよいだろう。

付属の真鍮インシュレーター

まずはバランスや音色感からチェック。自身の音楽ユニットであるBeagle Kickの「Anyway」。低域は過不足なく、適正な案配だ。中域は音楽を楽しむのに十分な量感を保ちつつ、過剰さはない。高域は、感覚的に1~5kHz近辺がややブライト気味だ。ドラムの金物のシャカシャカ感は若干気になる。

女性ボーカルの現代的なPOPSを聴いてみると、飾り気を抑えた素直なバランスが心地よい。トラディショナルなスピーカーでは、中音域が盛り盛りになっているケースもあるが、そういった演出は排除しているようだ。

男性ボーカルのJ-POPでフラチナリズムの「青春よもう一度」。ギターメインのJ-POPも全然イケる。エレキやバスドラの存在感がちょうどよく主張していて、先ほどアコースティック系では気になっていた高域のブライトさは逆にPOPSではプラスかもしれない。

サウンドステージの描写力はどれほどか。響け!ユーフォニアム 10周年吹奏楽アルバム「espressivo」より、「一年の詩 ~吹奏楽のための (全国大会金賞 Ver.)」をQobuzで。天井の高さはグッとくるほどリアル。センター付近の奥行き感は特に深い。楽器の音像はやや前に押し出してくる印象。

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2023より「モーツァルト: 交響曲第36番 ハ長調 「リンツ」 K. 425 - III. Menuetto」。こちらもQobuzから。

同じく音像が前にグッと出てくる感覚はある。定位が左右に寄っている楽器はその傾向が強いようだ。音場は透明感が高く、奥行き方向の見通しも良い。コンバスの重低音の密度感やホールの反響は演出がかっておらず、サイズ相当で無理なく描く。

「FINAL FANTASY VII REBIRTH Orchestra World Tour LIVE」から「FFVIIメインテーマ Battle Edit」を聴くと、ステージ全体を捉えたマイクと、要所要所でフォーカスされるオンマイク成分との調和が絶妙だ。ミックスによって後から整えられたようなコンサート音源でも個々の要素が浮くことなく、演奏会として楽しめるまとまりの良さを備えている。

音像の描き方は、特にボーカルで顕著なクリアさを感じた。キミのねの「レイドバックジャーニー」は舞氏の奏でるバイオリンが特に聴きどころであるが、ディテールは生々しく、楽器のボディまで見えそう。ピチカートもシャープに決まっている。シンセのパーカッションやエフェクトも解像度が高い。

新生AiScReamの「NEXT CARD」では、重低音のブオーンという音が部屋を包みこんだ。シンセによる前後感の幅がえらいことになっている。2つだけのスピーカーとは思えない。コーラスの解像感は高く、ユニゾンもグチャッとしない。

映画『木の上の軍隊』主題歌、Anlyの「ニヌファブシ」。生ピアノの右手の輪廓が心地よい。バスドラやベースは結構な量感で鳴っているが、ボーカルは曇りなくシャープに描いている。

スピード感の再現は、見た目から感じるおっとりしたイメージを覆すなかなかのもの。和製ネオ・ジャズピアノトリオSANOVAの復活シングル「明日へ ~After the Graceful Day~」は、疾走感溢れるキーボードプレイを軽快に鳴らしてくれる。

同じくZIPANG 弐ndからタイトル曲を聴くと、生ドラムのシンバルが刻むリズムと超速のスネアがもたつくことなくこちらのテンションを爆上げしてくる。ときおり登場する三味線もキレがいい。SANOVAのようなハイテンポのジャズを鳴らせるのは意外だった。

特別音が早いスピーカーとまではいえないが、アコースティックからPOPS、打ち込み中心のサウンドまでどんなジャンルを聴いても、ガッカリすることは少ないのではないかと思う。

最後に質感表現もチェック。ここは、予想していたよりあっさり目であった。OTOTENで聴いたSpoey 200GDと近い傾向で、オーガニックな質感がほんのりとさりげない程度に乗っている。

熱帯JAZZ楽団XVIII ~25th Anniversary~より「LA VERDAD」。CDからのリッピング音源を聴いた。サックスをはじめとしたブラスセクションは、空気感が心地よく、ほのかな暖かみのある音色には生命が宿っている。ラテンパーカッションも適度にオーガニックで柔らかい自然な手触りだ。

ゼノブレイド3より「Where We Belong」では、ギターやドラム、ストリングスといった楽器に、わずかだが有機的な質感が乗っている。ほんのわずかであっても、それがあるだけで、生演奏が無味乾燥でなくなる。この辺りの案配は、デンマーク製の高級ユニットの他に、厳選された3つのネットワークコンポーネントも影響していると思われる。

低音用インダクタは自社で丁寧に巻き上げ、小数点以下3桁まで精密にマッチングされており、高音用キャパシタは1%未満に誤差を抑えた特別発注品を使っているそうだ。

仮想アース内蔵スピーカーの今後に注目

Spoey 155は、ウェルバランスな音色と高い解像感、広い音場再現性に、隠し味のような質感表現を備えたスピーカーだった。特定の音楽ジャンルとの相性を示さず、アコースティックからPOPS、アニソンまでどれを聴いても一定の満足感をもたらしてくれた。

だからこそ、このサイズのスピーカーでも、仮想アースユニットを内蔵したSpoey 155GDの音も、ゆっくり聴いてみたくなった。 端的に言えば、仮想アースをスピーカーに使うメリットは、より制御されたスピーカー駆動を実現し、ソースに込められた音楽情報だけを鳴らしてくれるところにある。

Spoey 200GDは、単なるアクセサリーの組み合わせではなく、効果の度合いやスピーカーの個性を踏まえた最適化を施している点が特徴だ。“仮想アース内蔵スピーカー”の今後の展開に期待したい。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site