レビュー
「唯一無二の個性」iBasso×e☆イヤホン共同開発ドングルDAC「DC-Tonfa」を使いこなせ
2026年7月23日 08:00
iBasso×e☆イヤホン共同開発のドングルDAC「DC-Tonfa」
iBassoといえば、ポータブルオーディオファンにとって老舗的存在。いまでいう"ポタオデ"の概念が希薄だった2000年代、「D1」や「P2」といったポータブルDACアンプで一躍名をあげ、2010年代には「HDP-R10」といったハイスペック&物量重視のDAPで存在感を高めた。
そんなiBassoの近年の動向は、2023年発売の「DC-Elite」抜きに語れない。自社開発の4セクションステップアッテネーターを積むアナログボリュームを採用、DACチップにはコンポ級のROHM「BD34301EKV」を奢るなど、コンパクトながら妥協のない設計により刮目のサウンドを実現した、発売から2年を経た現在も人気のロングセラーモデルだ。
確かに、コンパクトなUSB-DACは使い勝手がいい。ストリーミングが主要な音源となった現在、セルラー回線に直接つながるスマートフォンとUSB-DACを組み合わせたほうが機動力は高まる。PCにストックしている音源も、USB-DACを使えばSDカードにコピーせず直接再生できる。
DC-Eliteの「ドングルDACより大きいがコンポ級の音を志向する」というコンセプトが2025年発売の小型真空管搭載モデル「Nunchaku」に継承された事実からは、このカテゴリを深化させたいというiBassoの意志を読み取れる。
そして登場した「DC-TonFa」(54,450円)。ひと目でDC-Eliteとのつながりがわかるシルエットもさることながら、琉球古武術由来と思われるネーミングがNunchakuとの縁を連想させる。
e☆イヤホンのゆーでぃ氏がチューニングとカラー選定の中核を担当したという共同開発モデルだが、れっきとしたiBasso/DCシリーズの新モデルだ。
このサイズでR2R DACを搭載
まずはDC-TonFaのスペックを紹介していこう。
目玉はやはり8chフルバランスのR2R DAC、60基の高精度抵抗で構成されたハードウェア抵抗補償ネットワークとFPGAによる補正アルゴリズムにより、リニアリティとチャンネル間の整合性を高めたという。
ROHM BD34301EKVを積むDC-Eliteとも、Cirrus Logic「CS43198」をデュアル搭載するNunchakuとも大きく異なる、本機のアイデンティティだ。
Hi-Fiオーディオ向けのR2R DACは、信号の各ビットに対応する抵抗器の精度と整合性が肝とされるが、DC-TonFaでは独自開発のFPGAアルゴリズムによりR2R抵抗ネットワークを構成する抵抗器ごとの誤差をリアルタイムで補償する。さらに、マスタークロックにはAccusiliconフェムト秒水晶発振器を2基搭載するという徹底ぶりだ。
アナログ段も抜かりなし。増幅回路はTI製デュアルオペアンプを2基、バッファにBUF634Aを4基搭載した「オペアンプ + バッファ設計」を採用、L/Rそれぞれに1基ずつオペアンプを配しセパレーション向上を狙うだけでなく、バッファを増やし電流供給能力/駆動力を持たせている。
出力も最大800mW+800mW(32Ω時)とパワフル、並みいるドングルDACとのパワーの差を感じさせる。
ポータブルUSB-DACとしての実用性にも注目したい。専用プロテクトケースはOLEDディスプレイが見えるようカットされているから、ボリュームの数値やサンプリングレートの確認も問題なし。しかもMagSafe対応、スマートフォンの裏側にしっかり吸着できる。こういったユーザ目線・販売の現場目線のひと工夫は、e☆イヤホンの面目躍如といったところだ。
R2R DACのサウンド
DC-TonFaが到着して最初に着手したのは、DC-Eliteとの外観の比較。フォームファクタをそのまま流用しているのだろうと軽く考えていたが、同じなのは全体のフォルムやイヤフォン端子、USB-Cの位置くらいなもの。
筐体素材はDC-Eliteがチタニウム合金であるのに対し、DC-TonFaはアルミニウム合金と、手にしたときの重量感が異なるうえ、ボリュームノブのローレットの深さや周囲の囲いの高さ、ノブを回したときのクリック感など、多くの部分で違いがある。
同じくポタフェス 2026夏 秋葉原で人気を集めていたSGENEのIEMイヤフォン「Kaimei」で試聴を開始したところ、そのサウンドキャラクターに少し驚いた。
デルタシグマ(ΔΣ)DACとの発想の違いというか、音に対するアプローチの違いというか、R2Rではない、いわゆるDACチップとはだいぶキャラが違う。言い方を変えれば、しっかりiBasso(と共同開発にあたったe☆イヤホン)の音ができている。
このR2R DACの音で特徴的なのは「輪郭」だろう。解像感はしっかり出ているが、一音一音の輪郭に柔らかみがある。それがギターやピアノなどの弦楽器、ボーカルにも当てはまるから、デジタル的な急峻さとは趣きが異なる穏やかさ、しっとり感、ライブ感が生まれてくるのだ。
その印象は、フィルターで変わる。DC-TonFaには4種類のフィルター(Fast Roll off、Slow Roll off、Low Latency Fast Roll off、Low Latency Slow Roll off)とNOS(Non Over Sampling)モードが用意されており、アプリの設定画面からかんたんに変更できるのだが、それぞれでキャラが違う。広がり感やボーカルの位置、シンバルアタックの残響やリバーブといった音の微妙なテイストが変わるから、曲/アーティストによって変えて楽しむのもいいだろう。
「唯一無二の個性」をどう感じるか
かれこれ2年ほどDC-Eliteを日常の道具として使っている筆者にとって、ほぼ同じデザイン、(ドングルDACより大きいが)コンポ級の音を志向するというコンセプトを持つiBasso製品は興味深い。それだけ関心と期待をもってDC-TonFaの試聴に臨んだわけだが、どうやらその「先入観」は排除したほうがよさそうだ。
というのも、R2R DACには「唯一無二の個性」がある。音作りにはメーカー独自のノウハウが反映されるうえ、FPGAで大量の抵抗器をコントロールするなどアルゴリズム/機種固有の事情に大きく左右されるため、同じシリーズの製品だからこうだろう、というサウンドキャラクターの予測が難しい。かんたんにいえば、実際に聴いて気に入るかどうか、という感じ方の違いが現れやすい製品なのだ。
自分はどうなのかと問われれば、「あり」と答える。滑らかな音像描写はアナログ的で、DSDとの親和性が高いし、フィルタで変わる部分もある。アコースティックギターなど弦楽器は得意分野だ。
デザインと質感は上々、MagSafe対応のケースも慎重にデザインされている。正直なところ、NOSでは聴かないかな……という部分はあるが、コストパフォーマンスの部分も含め完成度は高い。
「唯一無二の個性」をどう感じるか。トンファーという武器を使いこなせるかどうかは、そこにかかっているように思う。















