本田雅一のAVTrends

“既存Blu-ray”もリッピング可能に。規格化が進む4K対応Blu-rayの意外な一面

 2014 International CESを振り返ってみると、電機メーカー各社は“4K(Ultra HD)対応”を前面に押し出し、4K対応テレビに対して一様に4K映像のネット配信サービスへの接続機能を搭載。YouTubeなどがすでに4Kサービスを開始しているが、ここに映像配信サービストップのNetflixが参入。大手メーカーの発表会にNetflixのCEOがゲスト参加し、簡単に接続できることを訴求した。

 このような状況に加え、昨年、ソニーが4K映像のダウンロード購入・再生が可能な専用メディアプレーヤーを発売したことで、“ハリウッドの映画会社がいよいよ4K映画の配信に前のめりになり始めたのか?!”期待した読者もいるのではないだろうか。あるいは“4K映画なんて売れないよ”と冷めた見方の読者もいるかもしれない。

 しかし、年内にスペックが固まる予定のUHD Blu-ray(いわゆる4K Blu-ray)規格は、4Kに期待する消費者にも、ネット配信への流通シフトに期待する業界ウォッチャーにも、興味深いものになりそうだ。

 というのも、4K Blu-rayでは単純に解像度やフレームレートが上がるだけでなく、“BD Bridge(仮称)と呼ばれている枠組みが導入され、すでに“販売済みのBlu-ray Disc”も含めて”ハードディスクやメモリカード、情報端末にリッピング可能になるからだ。

フルHDから4Kまで、BD Bridgeは合法的なリッピングを可能に

 まずは多くの人にとって初耳であろう“BD Bridge”について紹介しよう。この機能はBlu-ray Disc Association(BDA)に参加する映画スタジオから提案され、昨年後半から検討が始まったものだ。将来登場する4K対応のBlu-rayにも対応するが、どちらかと言えば既に発売済みのBlu-ray Discの拡張としての要素の方が、エンドユーザーにとってみれば大きい。

 BD Bridge対応機器を用いると、すでに発売済みのものを含め、市販ソフトに収録された映像を取り出し、HDD、フラッシュメモリ、情報端末などに合法的なコピーが行なえる。

 BD Bridge対応機器を用い、Bridge機能でリッピングを指示すると、ライツロッカー(著作権管理サーバー)への照会を行ない、制限される回数以下であれば、手元にあるBD Bridge対応HDDやメモリに映像が、そのままの品質で複製できる。

 ハードディスクなどに保存されるファイルは、現時点で仮にSFF(Standard File Format)と呼ばれるもので、形式を統一・公開することで幅広いプラットフォームで再生可能にすることを目論んでいる。ちなみにファイル形式を変えるといっても、エレメンタリーストリーム、すなわち映像や音声などのコーデックや形式は幅広くBlu-rayの規格を包含しているため、解像度変換や再エンコードは行なわれず高速リッピングが可能になる。

Blu-rayとデジタルの関係。ネット配信、BDのそれぞれからSFFを使って他の機器への転送が行なえる

 “そのまま”といっても、本当にまるごと抜くだけでは再複製の保護ができない。そこで保存先には再複製が行えないよう保護されたHDDやメモリカードなどが用いられる。どのような技術が用いられるかは、まだ決まっていないが、現時点ではふたつの候補がある。

 ひとつはSCSA(Secure Content Storage Association)のプロジェクト・フェニックス。セキュリティ機能を搭載する特別なハードディスクやメモリカードを用い、そこに記録。コンテンツ内容はハードウェアに埋め込まれた鍵で保護される。ワーナー、20世紀フォックス、サンディスク、ウェスタンデジタルが推進しており昨年、ライセンスを開始。ただし、ライセンス先によると、まだ詳細仕様は決まっていない。

 もうひとつはソニー、サムスン、東芝、パナソニックなどが企画策定、製品化をおこなっているSeeQVault。SeeQVaultはかつてNSM(さらに以前はNSMI)と呼ばれていたもので、メモリコントローラ内に暗号化と秘密鍵を埋め込むことでコンテンツ保護を行なう仕組みだ。こちらはすでに製品サンプルができており実働している。USBケーブルのコネクタ内に入れることも可能で、一般的な市販USB HDDやメモリカードを活用できる利点がある。

 いずれにしろ、誰がどのようにしてライツロッカーを管理するのか、セキュリティ技術に何を使うのかといった議論はあるものの、映画会社を中心にしたBlu-rayのリッピングを可能にしようという動きに、家電メーカーも賛同しているため、BD Bridgeは4K Blu-rayの仕様策定時に盛り込まれることは間違いないと目されている。

 日本ではレコーダが主流ということもあり、レコーダ内蔵HDDへのリッピングといった使い方も提案されるようになると予想される。リッピングデータのDLNAを用いた家庭内共有も行なえるため、何度も見返すことが多い音楽ソフトではかなり有用ではないだろうか。

それぞれの思惑

 ところで、4K Blu-rayに関連したところでひとつハッキリさせておきたいことがある。それは、今回は標準規格を争う“フォーマット戦争”なるものは存在していないことだ。映画スタジオと電機メーカーも、それぞれに異なる思惑で動いているものの、Blu-rayの技術を基礎に新たな機能や拡張の定義を行なおうということで一致している。

 年内には仕様を確定させ、来年のInternational CESで発表というのが基本的な流れである。早ければ秋ぐらいにはドラフト案がまとまるだろう。

 4K Blu-rayに関しては、実は以前にも作業部会を編成して検討がされていたものの、企画案としてはまとまらず、昨春にいったん解散となっていた。技術論というよりも、どのように産業として立ち上げるかが、まとまらなかったためだ。

 しかし、今回のUHD Blu-ray作業部会は、幹事企業それぞれの思惑があり、上記のような新たな運用規定の導入も含めて検討が進んでいる。Blu-rayにしろ、インターネット配信にしろ、規格としてまとめるには機器メーカーとコンテンツメーカー、両者にそれぞれ“やる気”が出る要素が必要だ。“4K”はモチベーションの軸ではあるが、それだけでは規格拡張とはならず、逆にBD Bridgeだけでも全社のやる気にはつながらない。そこで両方を一度に盛り込もうということで、あらためて4K Blu-rayの検討が始まった背景にある。

 たとえばソニーとソニー・ピクチャーズは、昨今の“One Sony”活動もあって一体化が進み、平井社長の号令の元に“4K”を推進しているため、映画制作の4K化投資も積極的に進めており、インターネットへのストリーミング配信(Video Unlimited 4K)はもちろんのこと、Blu-rayの4K化やBD Bridgeの仕組みを使った4Kダウンロードサービスに強い意欲を持っている。

 20世紀フォックスは4K Blu-rayも“販売できるというオプション”を持ちたいと考えているようだが、BD Bridgeの実現がもっとも強く主張している部分だ。ワーナーブラザースも4K映画配信への興味はあるが、どちらかというとBD Bridgeのモチベーションが高い。

 映画会社は各社とも、映像作品を楽しむ手段として、これまでのBlu-ray+テレビ(もしくはプロジェクタ)という組み合わせだけでなく、タブレットやスマートフォン、あるいはPCも含めた“マルチスクリーン”で楽しめる環境を作らねばならないとは理解している。しかし、NetflixやHuluのようなストリーミングサービスでは、映像作品を生み出せるようなキャッシュフローも作れない。

 そこで、手持ちのBlu-rayも含めてリッピングを可能にし、パソコンに接続するHDD(あるいはBlu-rayレコーダのようなサーバ的要素を持つ機器など)にリッピング可能にし、電子的に映像ライブラリを管理。家庭内LANによる共有など利便性を提供しながら、ストリーミングでは実現できない画質・音質を”買い切り”で楽しむ使い方を提案したいと考えたわけだ。

 このように4K Blu-ray(UHD Blu-ray)といっても、単純に解像度が上がる、あるいはフレームレートや色深度が深くなるといった高画質化の要素以外に、これまでの光ディスクとは異なる流通を高品位映像でも実現したい一部企業の意志も一体となっていることがわかる。高画質+高可用性が4K Blu-rayが目指すところで、しかも4K Blu-ray対応プレーヤー/レコーダであれば、従来のBlu-rayをリッピングすることができる。

ネット配信とBD Bridgeの密接な関係

 さて、上記のように4K Blu-ray対応プレーヤー/レコーダを用いると、セキュアなストレージに対し、4K、フルHD区別なく、そのまま高品位映像をストレージ機器にリッピング可能になる。さらに、ポータブルビデオサーバー(ソニーが発売しているポータブルDLNAビデオサーバのような装置)などを通じた持ち出しや、ポータブル機器、スマートフォンなどへの書き出しも考えられている。

 この時に使われるファイル形式は前述したようにSFFという形式だが、実はこの形式はディズニーを除く米ハリウッド映画スタジオが推進しているUltra Violetが使っているCFF(Common File Format)との互換性を備えるよう設計される見込みだ。CFF対応プレーヤーは、電機メーカーの積極的な協力が得られず、Ultra Violetはパソコンやスマートフォン、タブレット専用の映像配信、ダウンロード販売サービスにとどまっている。

 しかし、BD Bridgeは4K Blu-rayに対応するすべての民生機器で利用可能になる。ほぼCFF=SFFであることから、Blu-rayプレーヤー/レコーダを、インターネットを通じた映画の売り切り販売(Elecronic Sell Thru=EST)の端末として活用できることになる。

 つまり、ディスクが欲しい人はディスクを購入。過去のBlu-rayも含め、家庭内LAN共有やモバイルでの持ち出しがしたい場合は、BD Bridgeを用いてCDと同じようなリッピング利用を可能にする。さらに物理的なディスクが不要、あるいはネットでのダウンロード(もしくは場合によってはストリーミング)がいいならば、パッケージを買わずにESTで楽しめる。

 レンタルのようなカジュアルな視聴は、Netflixに代表されるようなストリーミングサービスが使われるようになるだろうが、“インターネット時代のパッケージ販売”となると、なかなかその行き先がなかった。そこでリッピングを許容した上で、ESTのプラットフォームとの一体化を狙った。こう考えると、“Bridge(橋渡し)”という名称にも、なるほどと納得がいく。

 さて、4K Blu-rayは“4K”というだけあって、高画質という要素も含まれる。また、BD Bridge機能が録画機に対してどのように作用するかについても興味深いところだ。これらはまだ規格策定中で、また日本での録画映像の扱いとなるとARIB(注:一般社団法人電波産業会。日本におけるデジタル放送の技術仕様などを策定している)での検討も必要となる。まだ不明な部分もあるが、次回は今回は書ききれなかった部分……すなわち、BD Bridge以外の部分に関して、お伝えすることにしよう。

本田 雅一