“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第571回:VODの新形態。月額590円のau「ビデオパス」

~スマホ/PC両方で楽しめるマルチウインドウ型サービス~


■サブスクリプションで飛躍するau

 本連載ではスマートフォンやタブレットなどのうち、AV関連のハードウェア的特徴などを取り上げてレビューすることが多いが、今回のポイントはそこではない。

 5月15日に行なわれたau新製品発表会で、即日サービスインが発表されたのが、「ビデオパス」というサービスである。これは月額定額で映像作品見放題の、いわゆるサブスクリプションサービスである。

 有料の動画配信と言えば、VOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスとして通信会社が光回線を使って提供するものがある。NTT系の「ひかりTV」やKDDI系「auひかり」のビデオ・チャンネルあたりがそれである。

 一方回線サービスからは離れているが、デバイス縛りのテレビ組み込み型VODもある。「アクトビラ」、「TSUTAYA TV」などだ。

 これらは一部定額見放題コンテンツを提供しているところもあるが、新作や話題作などのプレミアムコンテンツは単体課金である。そもそも単体課金しかないというサービスも多い。

 auのビデオパスは、月額590円で映画やドラマ、アニメなどの映像作品見放題がベースとなるサービスだ。しかもスマートフォンを使って提供する。

 すでに同タイプのサービスはNTTドコモが昨年末からdマーケット内で「VIDEOストア」を展開しており、auの参入でケータイキャリアによるVODサービスがトレンドとなりそうな気配だ。今回はこのビデオパスを中心に試してみたい。



■なんでも定額の時代へ

 今回サンプル機としてお借りしたのは「XPERIA acro HD IS12S」である。4.3型ディスプレイで、1,280×720ピクセルという、いわゆる720p解像度が等倍で表示できる「HD Reality Display」を搭載している。またガラス面と液晶の間の空気層をなくして乱反射と拡散を低減してClear Black Panelでもある。

 比較的最近の端末ではあるが、すでに4月に発売済みで、この夏に向けた新モデルではない。しかしHDMI出力付きというあたりが、ちょっと変わったモデルだ。

今回のサンプル機、XPERIA acro HD IS12SビデオパスアプリのアイコンHDMI端子付きがポイント

 筆者は普段ソフトバンクのiPhoneを使用しているので、auのサービスを利用した経験がない。したがって初めてauのスマホを購入した人目線でのレビューになることをあらかじめご了承願いたい。

 まず今回のサブスクリプション型サービスだが、そもそもの発端は今年3月1日から開始された「auスマートパス」というサービスである。これはau独自のアプリダウンロードサービス「au Market」で提供されている約500本のAndroidアプリが、月額390円で使い放題になるというものだ。加えて10GBのオンラインストレージやクーポンなどの特典も利用可能になる。

 これまでスマートフォンに限らず、アプリケーションというのは単体でお金を払うものであった。アプリごとに価格が違うから、ある意味当然と考えていたわけだ。これを、値段に関係なくサブスクリプション型にしてしまうというのは、斬新な発想だった。

 これが好調で、加えて映像配信も定額で、という流れのように見える。さらに音楽のサブスクリプション型サービス「うたパス」も6月中旬にサービスインの予定だが、執筆時点ではまだ開始されていない。

au提供のコンテンツサービス。新旧交代が行なわれるのか

 スマートフォンによるコンテンツ販売はもちろん今に始まったことではない。過去にもauでは多くのコンテンツ販売サービスを投入しているが、特に過去着うた系で音楽販売が伸びたこともあり、音楽系が熱心である。現時点でもサブスクリプション型サービスとしては、全国のFMラジオが聴ける「LISMO WAVE」、月額1,480円で洋楽聞き放題の「LISMO unlimited」がある。ビデオパスやうたパスは、それらのサービスと共存していく格好になるようだ。

 au主体のコンテンツサービスがどれぐらいあるか、プリインストールされているアプリアイコンを集めてみた。昨年からサービスインしているサービスについては、LISMOくんが何かを抱えているアイコンだが、auスマートパス以降にサービスインしたものに関しては、LISMO系とは別ということで、auカラーであるオレンジでPASSの文字をあしらったアイコンになっている。




■使い勝手はどうか

 ではさっそく、ビデオパスを試してみよう。専用アプリを起動すると、まずau IDが確認される。これは課金情報をチェックするためだろう。

 メイン画面には今のお勧め映画のサムネイルが表示されており、ここをタップすると映画の詳細情報画面に飛ぶ。画面下にはおすすめという意味だろうか、「ピックアップ」という項目があり、複数のコンテンツが掲載されている。

 「ジャンル」をタップすると、洋画ジャンル、邦画ジャンル、海外ドラマ、国内ドラマ、韓流、アニメといったジャンルごとにコンテンツが分類されているのがわかる。見放題コンテンツ数は、執筆時点で3,020作品だ。

アプリを起動したメイン画面。VOD画面としてはオーソドックスジャンルも細分化されている

 各ジャンルの内容を見てみると、共通したタブとして「人気順」「新着順」「50音順」の3つのタブがある。タブの機能は書いてあるとおりだが、例えばドラマを50音で見ると、1話から全部出てくるので、同じタイトルのものが延々と並ぶことになる。ドラマはタイトルが同じなのだから、サブ項目を作ってシリーズでまとめたほうがいいだろう。

 見たいコンテンツをタップすると、コンテンツの詳細情報が出てくる。ここで再生するか、お気に入りに追加を選択する。お気に入りに入れると、あとでまとめて見るときに便利だ。

ドラマではタブ分類が役に立たないコンテンツ詳細画面。関連動画もわかる

 また画面の下には同じジャンルの作品が紹介されており、関連性のあるものが探しやすくなっている。シリーズ物は、ここに「シリーズ」という項目でまとめられているが、この部分をもっと上の階層で見せて貰いたいものである。

 さらにfecebook用のシェア、Twitter用のツイートボタンも用意されており、これらSNSにお勧めとして情報を投稿することもできる。

見放題以外にもレンタル作品がある

 ここまでは見放題プランを見てきたわけだが、これとは別に時間レンタル作品もある。これは執筆時点で324点あるようだ。

 作品ごとに、購入してから視聴するまでの時間と価格が設定されている。だいたい映画は48時間限定で525円というものが主流のようだ。

 では実際に、見放題コンテンツを視聴してみよう。今回画質評価に使用したのは、映画「マトリックス・レボリューションズ」である。

 まず3G回線で接続して再生してみた。画質設定はデフォルトで240pの「自動」が選択されている。ディスプレイは720pの実力があるのだが、240pを拡大表示している格好なので、解像度の甘さは感じる。ただ、受信状態が悪くなければ、ブロックノイズなどは出ない。近くで見ると甘さを感じるが、30~40cmほど離して見れば、甘さはほとんど分からなくなる。

 Wi-Fi接続していれば、480pに変更することができる。変更するといったん再生が停止して再度読み込みがスタートする。480pでは、240pになかった「超高画質」という選択肢が出てくる。

 この画質では、IS12Sの720pディスプレイでの表示も十分綺麗と言って差し支えない。特に字幕のなめらかさは240pとは全然違うレベルだ。環境が許せば480pの視聴がお勧めだが、回線接続が3GからWi-Fiに変わっても、解像度は自動的に240pから480pに変わるわけではないので、手動選択が必要だ。


3G接続では解像度は240pのみWi-Fi接続では480pも選択可能


■auスマホ以外でも視聴可能

 今回お借りしたIS12SにはHDMI端子が付いているので、液晶テレビに接続してみた。東芝REGZA 37Z3500である。特に問題なく出力できるが、おもしろいのはIS12S側の表示も消えず、そのまま同じ画面が表示されることだ。ミラー状態になって出力されるという仕様らしい。デジカメやビデオカメラなど多くの機器が、HDMI接続すると本体画面が消えてしまうのに、珍しい仕様である。

 テレビ側でDot By Dot表示にしてみたが、画面サイズはフルのままだった。どうやらIS12Sが出力時に1080pにアップコンしているようだ。

 このサイズで映像を見ると、さすがに少し解像感の甘さを感じる。平坦な壁などは圧縮による偽色も見られる。「テレビに表示しても十分か?」という点では、720pでの配信ができるHuluのほうに分がありそうだ。

 ただ視聴に支障があるほどかというと、それほどでもない。3mも離れてしまうと、普通に地デジ放送を見ているかのようだ。どうしてもテレビ放送を越える画質で見たいというコダワリがなければ、視聴には十分耐える画質である。

 さらにビデオパスでは、auと契約したスマホだけでなく、6月1日よりPCでも視聴できるようになった。これは「ケータイPC連動」という設定を行なうことで、PCでもau IDを利用したサービスが受けられるという機能を利用したものである。

 専用サイトにアクセスすると、おそらく殆どの場合は、MicrosoftのSilverlightのインストールが要求されるはずである。これはAdobe Flashと同じように、Web上で動画やアニメーションを再生するための仕掛けで、ブラウザに対するプラグインという形で供給される。

 PC向けのサービス画面は、スマホアプリよりも機能が少ない。単に見放題とレンタルのどちらかを選ぶだけで、コンテンツのジャンル分けがされていないため、見たいものを探すのは大変だ。スマホアプリ側で設定した「お気に入り」も共有されないので、タイトルが分かっているものを検索で探すぐらいしか機能がない。

 動画再生では、やはり同じように画質設定があるが、240pや480pの選択肢はなく、単に画質レベルの設定があるだけだ。おそらく解像度は480p固定なのだろう。

PC向けサービスのほうが機能的には少ないPC再生画面では解像度選択は出てこない

 全画面表示も可能なので、テレビほどではないにしても、そこそこ大きな画面で見ることもできるだろう。今回はデスクトップPCを使って視聴したが、特にHDCP対応モニタでなくても視聴できるようだ。使用中のPCには、HDCP非対応モニタが2台、対応モニタが1台繋がっているが、どれでも全画面で再生できた。

 まあ所詮480p解像度だし、セキュアな部分はSilverlightが面倒を見ているからできることなのだろうが、Blu-rayやデジタル放送がガチガチに条件を固めて結果不便になり、PCではほとんど使われなくなってきていることを考えると、人を疑ってかかる仕掛けでコンテンツは拡がらないのだなぁということが分かる。



■総論

 VODサービスとしてのビデオパスは、auのスマホユーザー対象という縛りがあるものの、月額590円は破格である。ただコンテンツ数約3,000が多いか少ないかは、議論の分かれるところだろう。

 例えば、レンタルビデオ店では1店舗平均4万本強、アクトビラでは6万本を用意している。その中で、多く出る作品は当然限られてくるわけだが、その規模と比較すると、まだまだ少ないと感じる。現時点で見たいコンテンツがあればラッキーだが、auに乗り換えてまで利用するかという判断は、これからのラインナップ拡充にかかっている。

 しかし、少なくともその再生プラットフォームがスマホになったことで、VODで映画を見る、ドラマを見るというのが、凄く身近になったことは間違いない。4型程度の画面で映画を見るのは、正直迫力に欠けるので、もう少し大きな画面で見たいところだ。

 そういう点では、HDMI搭載スマホはアドバンテージがあるし、PC連携もいい仕掛けだ。タブレット端末も増えてきた事だし、今後はマルチスクリーン対応が差別化のキーになるだろう。

 ビデオパスのようなコンテンツ販売スタイルは、コンテンツ単体売りの時代を終わらせるだろう。これは違法ダウンロード対策としても、非常に有効な手段だ。数多くの問題点を引きずりながら違法ダウンロードを刑罰化してまで法で対処するよりも、海賊版に対しても価格競争力があり、かつ利便性が高ければ、わざわざ違法な事までしてコンテンツを得ようとはしない。かつてAppleがiTunes Storeでやり、実績もある方法である。

 機器縛りのVODサービスは、ここで一気に厳しくなるだろう。高画質だが使いづらい、あるいはわかりにくいサービスを求める消費者は少ない。何よりもシンプルさと、手に届きやすさが一番の武器になる。今後ケータイキャリアは、その資本力をバックに、メディアハブとしての役割を強く果たしていくことになるだろう。

(2012年 6月 13日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]