真空エンクロージャーで優れた音を実現したVECLOS

コンパクトなアクティブスピーカーやヘッドホン/イヤホンで最近話題となっている「VECLOS」。これは、「Vacuum EnCLOSure(真空エンクロージャー)」を由来とするもので、真空二重構造を使った断熱性の高い魔法びんで知られるサーモスのオーディオシステムだ。

真空層を持った二重構造はオーディオにおいて、大気との圧力差で内筒と外筒に張力が発生して剛性が高まること、また優れたダンピング特性を持つため、振動の減衰特性にも優れるというメリットがある。このメリットを活かして、スピーカーやヘッドホン/イヤホンを作ってみたらどうだろうか? それがVECLOSのスタートだったという。

真空エンクロージャーは、高剛性かつダンピング特性も優秀で不要な振動の発生も少ない。しかも真空層はわずか数mmほどのため、エンクロージャーのサイズが小さくても十分に内部の容積を確保できる。エンクロージャーの素材として、かなり理想的なものだった。

オーディオシステム「真空エンクロージャー」

このため、これまでに登場したアクティブスピーカーのSSB-380SやHPT-700、EPT-700といったヘッドホン/イヤホンは、そのユニークさと音の良さで大きな話題を集めている。

そんなVECLOSの最新モデルが、9月上旬発売予定の「SPW-500WP」だ。Bluetooth対応の一体型アクティブスピーカーで、もちろん独自の真空エンクロージャーを採用。円筒形のボディにスタンドが付いたモダンなフォルムとなっている。

SPW-500WP(上がホワイト、下がブラック)。横幅は約261mm

片手で手軽に運べるコンパクトさはもちろん、キッチンなど水がかかりやすい場所でも使えるIPX5相当の防水性能を備え、内蔵バッテリーで最大約11時間の音楽再生が可能なポータブルスピーカーとなっている。

このあたりは、すでに定着した人気を持っているBluetoothスピーカーの人気モデルの傾向をしっかり研究したうえで、ユーザーにとってメリットの多い機能をきちんと盛り込んだものになっている。

片手で持ち運べるコンパクトサイズなので、どこででも楽しめる

水がかかりやすいキッチンなどでも使える

真空エンクロージャーと最先端デジタル補正技術による自然なステレオ再生

最大の特徴である真空エンクロージャーは、左右独立構造を採用。円筒の外側には直径4cmのドライバーユニットを搭載。その反対側にはパッシブラジエーターを備えている。これを左右対称に配置し、中央で連結した作りとなっている。

コンパクトな一体型スピーカーとはいえ、真空エンクロージャー採用のため内部の容積は大きく、しかもパッシブラジエーターを搭載。見た目のサイズ以上に豊かな低音を鳴らすことができることがすぐに予想できる。

直径4cmのドライバーユニットを搭載し、内部の容積は大きい

「SPW-500WP」は、スピーカー開口部が左右の真横を向いた構造

スピーカーの距離が近接した一体型だけに、左右からの音が混ざり合ってしまい、ステレオイメージが得られにくい問題がある。これについては、最新のデジタル補正技術を盛り込むことで対処した。それがDirac Research社の開発した独自のデジタル補正技術「Dirac HD Sound」と「Dirac Panorama Sound」だ。

Dirac Research社はスウェーデンの音響技術会社で、オーディオメーカーでは、フォーカルやレキシコン、モバイル機器ではファーウェイやモトローラ、カーオーディオではロールス・ロイスやベントレー、ボルボやBMWといったメーカーで、同社の技術が採用されている。また、プロの現場ではDTSのマスタリングスタジオにも採用されるなど、数多くの実績と高い技術力を評価されている会社だ。

「Dirac HD Sound」は、スピーカーユニットの指向性などによる音質の低下を改善し、理想的な音響特性に補正する機能だ。詳しく説明すると、周波数特性の乱れを補正し、さらにはインパルス応答も補正することで、一体型スピーカーでは再現の難しかった音像定位や音の立ち上がりを改善し、優れたステレオ再生を実現したという。

Dirac HD OFF時(左)とDirac HD ON時(右)

「Dirac Panorama Sound」は、より豊かなステレオ再生を可能にする機能。独自の音場制御アルゴリズムにより、スピーカーの距離が近い場合に生じる左右の音が混ざってしまうことを防ぎ、より豊かなステレオイメージを実現する。ここでの大きな特徴は独自のデジタルフィルターを使用することで、補正による位相の乱れがほとんど発生しないということだ。

こうした電気的なステレオ効果の強調は多くの場合、位相の制御によって音の広がりを再現するものが多い。バーチャルサラウンドのような、包囲感はあるがやや人工的な感じになりがちだ。「Dirac Panorama Sound」は、それとはまったく逆で、ステレオ再生の正しい位相をキープし、自然な音響が得られる。

このほか、パイオニアの低音増強機能「BEAT BLASTER」も搭載。これは、小口径のスピーカーユニットでは物理的に再生できない帯域の低音を、その音の倍音成分だけ再生させることで、あたかもその音が出ていると感じさせるもの。

BEAT BLASTERの詳細はパイオニアのページでご確認いただきたい

例えば、60Hzの音を再生したい場合、2倍(120Hz)、3倍(180Hz)、4倍(240Hz)の音を再生すると、60Hzの音が出ているように感じる人間の耳の聴感特性に基づいた技術だ。

「BEAT BLASTER」では、必要な低音に対して、最適な音響バランスの倍音を付加する高精度な処理を行っていることが特徴だ。このため、低音感はあるが中低音が過剰になったり、音が不明瞭になるといった音質的な悪影響を低く抑えている。

Bluetooth接続ながら従来とは次元の異なるステレオ感

まずは、Bluetooth接続で音楽再生を試してみた。プレーヤーは、Astell&Kernの「SP1000」を使用している。「SPW-500WP」は、SBC、AAC、aptXのコーデックに対応しており、ここでの接続はaptXだ。

Astell&Kernの「SP1000」で試聴。Bluetooth接続で音楽を再生してみた

グスターボ・ドゥダメル指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニックの「ジョン・ウイリアムズ・セレブレーション」より「マーチ(『スーパーマン』から)」を聴いたが、素の状態の再生でも、なかなか豊かなステレオ再生ができて驚いた。「素」とは、「Dirac Panorama Sound」や「BEAT BLASTER」をオフにした状態のこと。これらの機能は、前面のスイッチ操作でオン/オフを切り替えられる。

各種機能のスイッチ類は本体前面にまとまっている

横幅26cmというと、今や一体型スピーカーとしては大きめの部類だが、これまでと同じ位の大きさのBluetoothスピーカーで聴いていても、ステレオ感は感じにくかった。左右の音が混ざり合ったモノラル再生的な聴こえかたになりがちだ。

しかし「SPW-500WP」ならば、スピーカーの間隔を40~50cmくらいに広げたくらいのステレオ感が得られる。各楽器はオーケストラの配置がわかるかのように定位するし、個々の音の再現性も優れ見通しのよいステレオイメージになる。

これは、Dirac Research社の高精度な補正効果により左右の音の混濁が生じないことと、高剛性な真空エンクロージャーが不要な振動を起こさないことで、濁りの少ない明瞭度の高い音が鳴っていることも大きな理由だろう。

単にステレオ感が広々としているだけでなく、ホールの響きや奥行き感までしっかりと再現できるのには驚いた。この優れた空間再現は、本格的なスピーカーに近いものとなっている。

音質的にも色づけの少ないニュートラルな音調で、細かな音まで粒立ち良く鳴らしている。ロッシーな圧縮音声で伝送しているBluetooth再生ということがまったく気にならないレベルのしっかりした音だ。

机の上などにおいてスピーカーに手が届くような距離感で聴くと、情報量も十分に豊かだし、高域の荒れた感じや音の響きが失われるような感じもなく、自然で豊かな音を楽しめる。この状態においては、かなり本格的な小型スピーカーにも負けない音と言っていい。

低音についても、近接視聴ならば不満はほとんどないレベルで、大太鼓や低音楽器の豊かな響きもしっかりと出る。「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のサウンドトラックで「ゴジラのテーマ」を聴いても、イントロの金管楽器の出す重厚な低音の響きもなかなかの迫力だ。打楽器などによる低音のリズムもキレ味がよい。

©Warner Music Japan Inc.

強いて言うならば、リビングの棚などにおいて離れた場所で音を聴くような使いかたでは、こうした情報量の豊かさや鮮明なステレオイメージは感じにくくなる。そこで「Dirac Panorama Sound」を試してみた。

これまた凄い。スピーカーの間隔が一気に1mくらいに広がったような鳴りかたになる。面白いのが、いわゆる電気的なステレオ強調のような、音は広がるが全体にぼんやりと拡散したような感じにはならないこと。

ボーカル曲を聴けば、ボーカルはしっかりとセンターに立つ。音の定位の良さは損なわれず、音像がぼんやりと大きくなる感じもない。自然なステレオ感はそのままにより豊かな広がり感が得られるのだ。くどいようだが、従来の電気的なステレオ強調とはまったく次元の異なるステレオ感だ。

左右の音の混濁(クロストーク)をなくすための処理を行っているのがポイントのようだが、位相の乱れがほとんど発生していないことも含め、人工的な感じがまるでない。

興味深いのは、モノラル録音の曲やステレオ録音初期のピンポン録音(音の定位が右/中央/左とはっきり別れた録音)などを聴くと、センターの音はほとんど変化しないということ。ステレオ感のない(左右の音がまったく同じ)音には効果がないわけだ。

しかもピンポン録音では、左右のピアノとドラムスは1mのくらいの間隔で離れた位置に定位している。目の前にあるのは横幅26cmの一体型スピーカーだ。

これを使うと、ちょっと距離が離れた場所で聴いても、豊かなステレオ効果が得られるので、机を前に座ってじっくりと音楽を聴くのではなく、リラックスして音楽を楽しむときにも有効。もちろん、近接視聴でじっくりと音楽を聴く場合も不自然な感じはしないので、好みに応じて使うといいだろう。

ちょっと距離が離れた場所で聴いても豊かな音の広がりが得られるので、ベッドなどでリラックスして音楽を楽しむときにも有効だろう

さらに「BEAT BLASTER」も加えてみると、低音の鳴り方がよりしっかりと明瞭になる。素の音でも低音の解像感はなかなかしっかりしているが、厳しく聴けばより低い音は量感だよりで解像感も乏しいのがわかる。それが、「BEAT BLASTER」を使うとさらに低い音の解像感も高まる。いわゆる低音を増強する感じではなく、より自然で質の高い低音感になると感じた。

基本的にはそれなりの音量で聴くならば「BEAT BLASTER」オフでも低音感に不足はない。「BEAT BLASTER」は、近接距離でしかも小音量の再生のときに使うと、低音感がしっかりと出るので有効かつおすすめだ。後はこれから紹介する映画再生を楽しむときに使うのも良い。

高振幅のフルレンジスピーカーと低域増強用のパッシブラジエーターが明瞭な音を再生する

ちなみに本機はBluetoothだけでなく、アナログ音声入力(ステレオミニ端子)やUSB端子(充電兼用)も装備している。USB端子でパソコンなどと接続する場合は、48kHz/16ビットまで対応のオーディオデバイスとして使える。

薄型テレビと組み合わせる場合など、まだまだBluetoothの音声出力ができる製品がほとんどないので、アナログ接続を使うことになるし、据え置きのパソコン用として使う場合は、充電も含めてUSB接続で使うほうが便利という程度だ。基本的にはBluetooth接続が便利だろう。

これは見事なスモールシアター! 映画やゲームがなかなか楽しい

「SPW-500WP」は、音楽だけでなく映画などの映像作品もタブレットやノートパソコンで楽しむ「スモールシアター」を提案している。その提案がなかなかユニーク。タブレットやノートパソコンの後ろに「SPW-500WP」を置き、直接スピーカーが見えない状態で使うのだ。

タブレットやノートパソコンの背面に「SPW-500WP」を置くと、配信番組が広がりのある音で楽しめる

ノートパソコンなどの後ろにスピーカーを置くというのもなかなか大胆だが、スピーカーユニットは両端に横向きに配置されているので、「SPW-500WP」と同じくらいの横幅からそれ以下のノートパソコンやタブレットならば音質的な影響はほとんどないはず。

しかもスピーカーの存在があまり気にならないので、持ち前の豊かなステレオイメージがより違和感なく感じられる効果もある。不思議なものだが、目の前にスピーカーがあると、ほとんどの人はそこから音が出ているように感じるし、そうでないと違和感を覚える。それならば「SPW-500WP」を隠してしまえばいい、というわけだ。

スモールシアター状態で、Spotifyなどの音楽配信サービスを楽しむのもいいが、せっかく動画も楽しめるデバイスなのだから、映画も見たくなる。NETFLIXで映画をいくつか見てみたが、こちらもなかなかよい。Bluetooth接続なので音声はステレオだ。

しかもステレオ感が格段に広いので、不思議と包まれるようなサラウンド効果もある。左右の音の移動だけでなく、前後の音の奥行きも豊かなことがその理由だろう。もちろん、バーチャルサラウンドのような技術を使っているわけではないので、そうした人工的なサラウンド効果はない。

本格的な5.1chサラウンドと比べられるようなものではないが、手軽にスモールシアターとして使うならば十分だと思う。映画を見る場合は、音量を問わず「Dirac Panorama Sound」「BEATBLASTER」を共にオンにして聴くのがいい。映画の迫力ある音をしっかりと楽しめる。これはゲームも楽しそうだと思い、自宅の視聴室で試すことに。

自宅では、55型の有機ELテレビの手前に「SPW-500WP」を置き、PlayStation 4(以下PS4)との接続を試みる。ところが、PS4はBluetoothオーディオとの接続ができないようで、一旦AVアンプ(ヤマハ CX-A5200)を経由して「SPW-500WP」に接続し、ゲームをプレイした。

「バイオハザード:Re2」や「モンスターハンター:ワールド」などで試したが、音声出力がステレオになることもあり、映画と同様に左右のステレオ感が豊かで定位もよく、音の奥行き感もしっかりと出るので、思ったほどの不満を感じない。

ただ、後ろから音が聴こえるような感覚はないため、FPS(一人称視点のシューティングゲーム)などで背後の敵の気配をいち早く察知したい、というようなゲームでなければ十分に楽しめる。

自宅の55型テレビでは、画面の一部が見えなくなるなど少々邪魔になるため手前に置いた。置く場所を少し工夫する必要はあるが、ステレオ感の広がりはぴったり合う感じだ。

あるいは、デスクに置ける20インチ前後のパソコン用モニターならば、「SPW-500WP」を後ろに配置するレイアウトでも音質的な影響は少ないと思われる。デスクやテーブルなどで映画やゲームを楽しむ人には有効だろう。

ノートパソコンやタブレットと「SPW-500WP」をセットにすることでスモールシアターが完成

一体型Bluetoothスピーカーながら本格的な音質 ―― 八面六臂の働きをするに違いない

置き場所を気にせず使えるサイズで、手軽に持ち運べるため屋外でも使える。Bluetoothスピーカーの機動力を備えながら、他とは一線を画する本格的なステレオ再生ができることが、「SPW-500WP」の最大の魅力だ。

VECLOSの新しいスピーカーということで、どんな製品になるか楽しみにしていたが、一体型Bluetoothスピーカーをここまで革新してしまうとは思わなかった

一体型Bluetoothスピーカーは手軽でいいが、音質、特にステレオ感が乏しいことに不満を感じている人は少なくないだろう。「SPW-500WP」は、そんな不満を克服してしまった。

絶対的な音質では単品コンポーネントのスピーカー再生に及ぶものではないとしても、これは期待以上の驚きだ。十分に本格的なステレオ再生が楽しめることは間違いない。

ここで紹介したように、音楽再生だけでなく、映画やゲームなどを最小のスペースで存分に楽しむことができるし、水回りも含めてさまざまな場所で使えることも含め、様々な環境でオンライン配信サービスを存分に楽しめるだろう。SSB-380SやHPT-700に続き、大きな話題になることは間違いなしの注目のニューモデルだ