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第398回

「PSNユーザーこそがPlayStationだ」。PS4の“次”とVitaの“後”をSIE小寺社長に聞く

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の社長兼CEO、小寺剛氏への単独インタビューをお届けする。SIEは昨年10月に、アンドリュー・ハウス氏を会長、小寺氏を社長とする経営体制変更を行なっている。これまで、小寺氏はメディアの前にあまり出ていなかったが、5月22日にソニーが経営戦略説明する「IR Day」で、SIEのトップとして壇上に立った。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント 社長兼CEOの小寺剛氏

 PS4の成功を受け、「次世代」も視野に入ってくる今、小寺氏はSIEの舵をどのようにとっていこうとしているのだろうか?

一体化したSIEで「ハードとサービスが一体化したPS4」を開発

 小寺氏は1992年、ソニーに入社した。「小さいものはみなやってきた」と本人は笑う。ポータブルオーディオに携帯電話やPCと、小型のコンシューマデバイスを多く手かげた後、2010年、ソニーのネットワークサービスをてがける「ソニー・ネットワークエンタテインメントインターナショナル(SNEI)」に戦略担当シニア・バイスプレジデントとして着任、2013年以降、プレジデントとして事業を率いてきた。

 ご存じの通り、現在のSIEの事業は、ネットワークサービスの売上が支えている。ゲームおよびネットワークサービス分野の2017年度の売上は約1兆9,000億円。ネットワークサービスはそのうち約1兆円を稼ぎ出しており、ネットワークサービスの成長こそが、SIEのビジネスを支えている。その部門を率いてきた小寺氏がSIEの舵取りをするのも、ある意味納得できる結果ではある。

ソニーの2017年度決算説明会資料より。ネットワークサービスの売り上げは一兆円を超える水準に達した

 しかし小寺氏は「ネットワークがあったからゲームが伸びた」という見方はしていない。

小寺社長(以下敬称略):ネットワークが大きな伸張をしたのは事実です。しかし(前社長)アンドリュー・ハウスともそういう発想で進めていたのですが、ネットワークの成長といっても、ネットワークが単独で成長してきたわけではないです。やはりコンソール(家庭用ゲーム機、特にここではPS4)の成功も、成長条件としてありました。

「今後は包括的な戦略なしに、成長はなりたたないね」ということでアンディさんと合意し、SNEIとSCEを統合し、現在のSIEを設立したんです。

 SIE設立(2016年4月)に合わせ、私は2つの責任を担うことになりました。

 ひとつは、プロダクト&ビジネスマネジメント。要するに、ハードウェアからネットワーク、アプリケーションを含めた商品企画です。お客様の視点でいえば、どれがネットワークでどれがハードウェアの体験なのか、もはや見えないものです。そういった意味で、エンドtoエンドで商品企画の責任を担えたのは、とても大きなことでした。ネットワークのビジネスマネジメントもプラットフォーム全体を見て、「ならばネットワークサービスはどういう形であるべきか」という話ができるようになりました。これが、SIE設立のポジティブな面だと思います。

 もうひとつの職責がいわゆるコンソールの「システムソフトウエア」の開発で、これも一体として見ることができたのは大きいです。アメリカ・日本・その他場所を問わず、システムソフトウエアとネットワークのエンジニアが、グローバルで連携をとって働けるようになりました。これまでは個々に働いて最後にくっつけるような形だったのですが、企画の段階から、全体視点で商品企画・開発を連携して行えるようになったのは、大きなメリットだったと思っています。

 ゲーム機に限らず、世の中には「ネットワークを利用する家電」が多数ある。しかし、OSからハードウェア、サービスまでを一気通貫にコントロールして作れているものは非常に少ない。ネットワーク連携が重要なスマートフォンであっても、それぞれをうまく統合して開発できる企業は少ない。同じAndroidというOSを使っていても、統合が比較的うまくいっている企業もあれば、そうでない企業もある。一般論として、日本企業はそうした「統合」が上手くない。

 では、SIEはどうやって統合し、その結果なにが可能になって、PS4の成功に結びついたのだろうか?

小寺:PS4導入当初は、いろいろチャレンジもありました。しかし今に至るまで好調です。ひとつあるのは、PS3に至るまで学んだことをPS4にうまく反映した、ということです。それは「ものづくり」の視点でPS4に反映した、ということだけではなく、技術や世の中のトレンドの中でエンドユーザーがどう楽しむかを反映できました。また、こちらとエンドユーザーの視点だけでなく、PS4では「ゲーム開発者」の視点を意識して作れたことが大きいです。

 あとは、出す「タイミング」です。タイミングというのは、インターネットをベースにしたお客様の「自分以外とのつながり方」が、SNSも含めて、ちょうど花開く時でした。その時にタイムリーに、ゲームコミュニティに最適化されたソーシャルな機能を反映できたのは、ひとつの成功の要因だと思います。

 PS4は「多様な形でのゲームの楽しみ方を活かす」ということを意識して開発していました。しかし、PS4開発当時は(ネットワークサービスとゲームが)別の会社でしたので、そこの連携が良い学習になり、結果的に、ひとつの会社になることに大きな理由になりました。いい方を変えれば、PS4の開発が「すべてを一体化して作り上げるべきだ」という意識を芽生えさせるいいきっかけになったと言えるでしょう。

PS4の「次」は? キーワードは「エンゲージメント」

 PS4は成功した。

 そうなると気になるのは「次はどうするのか」ということだ。PS4は今年の秋で発売から5年が経過する(欧米での発売時を起点に計算)。そろそろ次のプラットフォームがどうなるか、気になる時期である。

 ソニーは次期プラットフォームの計画の公表について「戦略的な問題である」として、非常に慎重な姿勢を採っている。それはSIE・小寺社長も同様だ。このインタビューでも、いつ・どのくらいの投資で「次世代を出す」のか、という問いへの返答はない。しかし、次のように戦略を説明した。

小寺:IR Dayに、ソニーのCEOである吉田(憲一郎氏)からも、私からもお話ししましたが、ひとことでいえば「エンゲージメント」。お客様との接点をいかに大切にするか、ということが重要なところです。

 一番重要なのは、お客様が求める「最高の遊び場としてのPlayStation」の確立です。遊ぶ側が提供するのは、「遊び」という体験です。遊びを体験するための手段として、コンソールもあればネットワークもあれば、この他のテクノロジーもあります。それを複合的に見て、お客様の期待に添えるタイミングに、それらの手段を組み合わせて「プラットフォーム」、コンソールではなく「プラットフォーム」を進化させる、ということが重要かと思います。

 そういう意味では、視点がハードウェアというよりはプラットフォームの進化のサイクルで考える時代に入ってきたのではないかな、と思っています。

ソニー IR Dayの資料より。「ユーザーエンゲージメント」を重視し、プラットフォームの価値を高める戦略を採る

 この発言をどう読み解くか、それはなかなか難しいことだ。「発売時期についての言及を避けた」というシンプルな見方もできるが、むしろ「進化はハードウェアに依るものだけでなく、プラットフォームに依存するものだ」と明言した、という見方もできる。

 以前、PS4のリードアーキテクトのマーク・サーニー氏は「次があるとすれば、その時は、体験も変わるだろう」と答えている。すなわち、仮に「PS5」があるとすると、ハードウェアの進化に加え、プラットフォーム面での「遊び方の進化」もあるのだろう、と予測できる。

 一方で、小寺社長はこうもいう。

小寺:構成要素としてコンソールが重要であることは、今後もかわらないと思います。ゲーム体験というのは、特定のハードやモノに縛られないような技術の発展が行なっています。構成要素として技術の進化を見つつも、「より良いゲーム体験」をその場その場に応じて提供できるようになることも、PlayStationにとっては重要なことだと思っています。

 そういう意味では、リビングルームで提供するソリューション、すなわちコンソールというものは「最高のもの」でなくてはいけない、という不文律は残っていると思います。ただ、今の技術進化を考えると、それを超えた世界でお客様とのエンゲージメントを維持拡大するか、お客様のコンテンツへのプレイアビリティという意味で、他のソリューションをどう組み合わせてご提供できるのか、ということも、同時に考えなければいけない、と思っています。

 この発言から想像できることはいろいろある。シンプルに考えれば、今の「リモートプレイ」に代表される、ネットワーク経由でのプレイを強化するのだろう、と読めるし、また、「PlayStation Now」のようなクラウドベースのプレイも関連するのか、とも思える。

 さらに気になるのは「携帯型ゲーム機」のことだ。SIEのプラットフォームとしては「PlayStation Vita」があるが、これは欧米ではビジネスがかなり小さくなっており、日本・アジアでのみ生き残っているようなところはある。Vitaの発売は2011年末で、すでに7年が経過したデバイスだ。一方で、任天堂の「Nintendo Switch」は、据え置き型と携帯型の両方の要素を備え、「どこでもゲームに触れる」というニーズを満たしていることが、特にアジア圏のユーザーには支持されているように見える。

 では、SIEの「携帯型」への施策はどうなるのだろうか?

小寺:ひとつのハードウェアに特化して考えてしまうと、どうしても制約・トレードオフがでてきてしまう部分があります。他社の戦略にコメントすることはしませんが、もちろんそこには強みも弱みもあります。没入的な体験をするという意味では、我々に強みもあります。その辺のトレードオフを意識しつつ、そうした手段の「組み合わせ」でより良いゲーム体験・エンタテインメント体験を提供することを念頭に置きつつ、ものづくりとビジネス作りをすることが重要になってくると思います。

今は「かがむ」時期、「いくぜ、1億MAU」がキーワードに

 ゲーム機のビジネスは「山と谷」の繰り返しだ。ゲーム機の世代変化で市場がリフレッシュされる「プラス」の側面がある一方で、新しい世代のゲーム機は開発にもマーケティングにも大きなリスクを抱えている。業績的にはそこで「谷」ができやすい。SIEの過去でいえば、PS3では「谷」が深くなりすぎ、山を登るのに苦労した。では、PS4から「次」に向かう時、SIEはどのような判断を下すのだろうか?

ソニー IR Day資料より。プラットフォーム立ち上げの時期にリスクを抱えるのがゲーム機事業の難点。PS4の「次」はどうなるのか

小寺:私はIR Dayで、将来より高く飛ぶための「かがむ時期」という表現を使わせていただきました。より高みに向かうためには、助走なりかがむことなりが必要な時期なのかな、とは思います。

 しかし、いままでと違うのは、単にコンソールのライフサイクルだけを念頭に置いて言っているのではない、ということです。「プラットフォーム、最高の遊び場としての価値を高める」ために努力をする、投資や開発をする時期なのかな、と考えています。

 立ち上げる時には、コンソールそのもの開発投資やローンチタイトルへの投資など、色々あります。しかしいままでと違うのは、PS4を皮切りとしたネットワークビジネスを含めた成功があり、ネットワークサービスのアクティブユーザー資産があります。そのユーザー様とのエンゲージメントを「継続」することで、プラットフォーム立ち上げの時期に見られる「落ち込み」を是正しつつ、逆にエンゲージメントをテコにすることで、ジャンプ台のように、より高いところに向かえるのではないか、という期待があります。

 ですから、なによりも「エンゲージメントを続ける」努力がより重要になっている、と思います。

 エンゲージメントを続けつつ、変化してくことはあり得ます。しかし、エンゲージメントを断絶してしまうことはないです。いろんな視点で。サービスから、機能から。

 小寺社長のいう「エンゲージメント」には色々な取り方がある。具体的なことを示さない言及である。

 ただ、こう考えることはできるだろう。

 過去、SIE(SCE)のゲームプラットフォームは、OSやその上に載るサービスが毎回大きく違っていた。PSP以降は同じ「PlayStation Network」アカウントを使っているが、使えるサービスの内容や機能には違いがあったし、ユーザー同士のつながりには、そこまで強い継続感がなかった。

 だが「エンゲージメントを断絶しない」ならば、少なくとも、今PS4でできていることはそのまま可能であり、ユーザー間のつながりやプレイ環境は引き継げる可能性が高い。これが「ゲームそのものの互換性」を意味するわけではなく、もちろん言質もないことは留意しておく必要がある。しかし、ハードウェアの特性を考えると「期待したくなる」状況であるのは間違いない。

 SIEのIR Dayの資料は、次のようなスライドで終わっている。

「いくぜ、1億MAU(月間アクティブユーザー数)」

「いくぜ、100万台」から「いくぜ、1億MAU」へ

 時期は判然としないものの、この数字のユーザーから「体験を断絶しない」ことが、次期プラットフォームの最低条件とみて間違いはない。

顧客との接点を増やすために「ストリーミング」「地域対策」

 他のプラットフォーム対抗という意味では、クラウド型ゲームビジネスも今後競争が激化しようとしている。Googleがクラウド型のゲームプラットフォームの立ち上げを準備している……との噂はあるし、それ以外にも、色々なプラットフォーマーが存在する。SIEは「PlayStation Now」を展開しているが、大成功しているとはいえない状況だ。そもそもクラウド型ゲームが、成功のビジネスモデルを描けずにいる。ライバルの登場も含め、SIEはどう見ているのだろうか?

小寺:プラットフォームのレバレッジを図るという意味はもちろんあります。そうでないと「PlayStation」としてやる意味はありません。

 これから、巷でも言われているように、クラウド技術を使ったゲームへの新規参入やサブスクリプション・サービスがあり得ます。ひとつの事業モデルでひとつに入ることと、我々のように、ひとつのプラットフォームの上でコンテンツの楽しみ方のチョイスを提供するところはあると思います。「PlayStation」というプラットフォームの上で、そういう色々なお客様にとっての選択肢を提供することが、ひとつの「遊び場」を作る、ということには価値がある……という点がひとつあります。

 それともうひとつは、独立したプラットフォームで運営するより、複合的なビジネスができる、ということです。我々のところであるがゆえに、コンソールがない場所でも、PCで数百あるゲームタイトルから楽しめます。それがトリガーになり、コンソールなど、次のゲーム体験に興味をつなげることができるのが、我々の強みかと思います。

 コンピュータゲームが産業になって、そろそろ50年が経過しようとしている。もはや「一度も、なんのゲームもしたことがない」という人は少なくなった。「昔はやったがいまはあまりしない」「スマホの軽いものしかしていない」といった風に、ゲームの体験が「まだら」に広く存在する形に変化している。その中で、いかに「濃いゲーム体験」に触れ、PlayStationの顧客になってもらうかが、SIEにとって大きなチャレンジとなっている。PlayStation Nowはゲームへのエンゲージメントを増やす施策のひとつだが、これ以外のことを、SIEとしてはどう考えているのだろうか?

小寺:コンソールを唯一の顧客獲得の間口と考えるのは限界があるのかな、と思っています。もちろんコンソールも重要ですが、PlayStation Nowのような形でPCで楽しんでいただいて間口にする、という手段も出てきました。


 また別の切り口として「IP」という手段もあります。モバイル(スマホ向け)でのフォワードワークスのゲームのように、「PlayStationのゲームはモバイルにもあるんだ」という風に思っていただくところから、過去に触れたゲームIPに戻っていただく、ということもあるでしょう。IPそのもので、という考え方もあります。過去タイトルの掘り起こしで強化する、というやり方です。先日発売された「GOD OF WAR」が、1カ月で500万本を売り上げましたが、エクスクルーシブ(PS4のみで発売)のタイトルとしてはすばらしい結果だと思っています。皆様の記憶に残るタイトルの掘り起こしやリフレッシュは、重要なんですが、色々な形でお客様がPlayStationに来てくださる、もしくは戻ってくださる間口を広げるのは、とても重要になってくると思います。

 では、そのための施策はどうだろう? 文化は国によってまちまちだ。我々は「欧米」とくくりがちだが、アメリカとヨーロッパでは違うし、ヨーロッパも国によってまったく状況が違う。ご存じの通り、日本も特殊だ。SIEになり、各地域のビジネスユニットがより責任をもってビジネスを進める体制になっているのだが、その点は、小寺体制でも継続される。

小寺:その点は、今回組織変更をした大きな理由のひとつです。ネットワークプラットフォームはグローバルでひとつの大きなものであり、「PlayStation」として地域を問わず体験を提供することで、ブランドバリューや課題を持つことも大切です。しかし、それだけに留まらず、各リージョンの視点で、各リージョンのレンズを通したコンテンツポートフォリオ戦略などが必要になってきます。今の世の中、どのように我々が運営しても、お客様はグローバルにつながっているんです。それを意識してタイトルの提供やプロモーションの仕方も考える必要があります。

 同時に、リージョンの特性を活かしたエンゲージメントが必要です。エンゲージメントというのは、ゲームプレイだけではありません。マーケティングにも固有のアプローチも必要です。グローバルを活かす運営と、リージョンの価値を活かす運営をうまく組み合わせることを、今回は意識しました。

課題も多い新領域、事業戦略の修正も

 PlayStationが持つプラットフォームは多彩だ。その中で我々がすぐに思い浮かべるのは、やはりPS4やVitaのような「ゲーム機」だが、他にもいろいろある。特に現在SIEが力を入れているのが、アメリカ向けにCATVの番組をネット配信する「PlayStation Vue」と、VRプラットフォームの「PlayStation VR」だ。どちらも先端技術を使ったもので、SIEはリーダーシップを担う位置にあるが、一方、他社の競争が激しく、ビジネスを大きく伸ばせずにいる印象も強い。これらのビジネスの進展・てこ入れをどう考えているのだろうか?

PlayStation VueやPlayStation VRなどの新領域はまだ課題も多い

小寺:PlayStation Vueは現状アメリカだけで展開していますが、PlayStation Now同様、顧客との接点を広げる期待を担っています。新しいメディアカテゴリーをとっかかりとしたエンゲージメントの獲得が狙いです。

 重要な点は、Vueの利用者はより深いエンゲージメントがある、ということです。一旦サブスクライブ契約をしていただけた顧客の皆さんの使用データをみると、ものすごくエンゲージメント(利用率)が高いんです。既存の映像配信だけでなく、CATVの視聴者に比べても、視聴時間が長い傾向がみてとれます。

 間口を広げるという視点でいえば、コンソールに留まらず、「Fire TV」や「Roku」、「Apple TV」などのストリーミング・ボックスにも展開しています。SIEはゲームを中心としたビジネスをしていますが、「インタラクティブ」という言葉が入っているのは、どんなメディアであれ、我々が提供する体験には「インタラクティブ」な要素がある、ということです。テレビを新しいインタラクティブなものにするという意味では、新しい試みなのかな、と思っています。

 いったんプラットフォームができあがれば、あとは事業判断です。地域展開や事業モデルの変更もプラットフォームの上で柔軟に組み立てられます。それも含め、これから検討していきたいと思っています。

 VRですが、おっしゃる通り、まだまだ進化の余地があります。逆に言えば、あまりに進化の余地が多岐に渡るがゆえに、市場の期待が過度に高まってしまった……という点が、今修正期に入ってきているところです。

 ただ、VRの成長は続いています。その中でPlayStationが担うべき役割というのは、コアな事業は「ゲーム」です。スタンドアローンなVR機器もどんどん増えてくるとは思いますが、我々が注力するのは「コンソール」と「VRヘッドセット」のコンビネーションです。そこでより良い、よい深いゲームを提供すること、場合によってはゲームを超えたエンタテインメント体験を提供することです。

 やはり、このコンビネーションであるからこそできるユニークな体験も、ひとつの差異化になると思います。スタンドアローンでは技術的なハードルや、コントローラやポジショントラッキングの問題もあります。スタンドアローンにはスタンドアローンの強み・弱みがあるように、PSVRにも強み・弱みがあります。我々の強みはまずゲームに活かすべきところだと思いますので、そこにフォーカスを当てることで、VRを成長させることもありますが、「VRを通してユニークな体験をPlayStationのプラットフォームで提供する」ことで、最高の付加価値のある遊び場としての価値を高めるのが重要かと思います。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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