鳥居一豊の「良作×良品」

第131回

ECLIPSE、新卵スピーカー「TD508MK4」をデスクトップで。サブウーファ追加で実力を引き出す

筆者も愛用しているイクリプスの卵型スピーカーが今年「TD508MK4」としてモデルチェンジした。直径8cmのフルレンジユニットを使い、時間軸方向の波形再現性にこだわった「正確な音」を追求するイクリプスの主力モデル。1本7万4,800円、ペアで15万円ほどとなり価格も手頃だ。なんといっても横幅185×高さ289×奥行264mm、重量約5kgとサイズも大きすぎず小さすぎずのちょうどいい。

頑丈なスタンド付きなのでデスクトップに置いても気軽に使えるし、スタンドを使って設置して本格的なステレオ再生をしても十分満足できる実力を発揮する。別売のブラケットなしで壁掛けや天井吊りにも対応するので、ホームシアターのトップスピーカーやサラウンドスピーカーとしても使いやすい。さまざまな活用ができる多芸なスピーカーなのだ。

TD508MK3をトップスピーカーとして天井吊り下げで使っている筆者も、久しぶりのモデルチェンジとなるTD508MK4にはおおいに期待していた。すでに何度か試聴をさせていただいているが、聴けば聴くほどその製品の良さがわかってくる。そこで今回は、TD508MK4の進化ポイントを詳しく紹介するだけでなく、同じイクリプスのサブウーファーTD725SWMK2を2台組み合わせてTD508MK4の実力をフルに引き出してみようと思う。

見た目はほとんど同じだが、実は何から何まで変わっている

自宅に届いたTD508MK4を開梱してみると、見慣れたTD508MK3と大きく変わった部分はないと感じた。8cmのグラスファイバー振動板を使ったドライバーも、特徴的な卵型のエンクロージャーも、頑丈なテープルトップスタンドもみな同じに見える。外見上で変わったと感じるのは、エンクロージャーとスタンド部分を接合する部分が改良され、無段階の角度調整機構が備わった点だけだ。

TD508MK4。特徴的な形状はほぼそのまま継承している。カラーはお借りしたホワイトのほか、ブラックがある
正面から見たところ。ほぼ正円の形状になっているのがわかる。独特な見た目だが見慣れると可愛らしい
ドライバーユニットは前モデルと同じく直径8cmのグラスファイバー振動板を採用
真横から見ると、水滴のような流線形の形状をしている。個人的にはスポーツカーのような格好良さがあると感じている

この独特な形状はユニットから出た音がエンクロージャーのバッフル面や角で不要な反射(回折)を起こして音波を乱さないためのもの。また、エンクロージャー内部でのユニットの裏側から出た音波による定在波の発生を抑えるなど、理にかなった形状だ。これらと同じく、複数の支柱でフローティング設置するディフュージョンステー、高速でピストン運動をするスピーカーユニットの動きを受け止めるグランド・アンカーの採用など、基本的な設計コンセプトはすべて踏襲している。

TD508MK4の後ろ側。楕円の断面でフレア形状にもなっているバスレフポートとスピーカー端子がある
スピーカー端子部のクローズアップ。比較的手頃な価格ながらもバナナプラグ/Yラグ端子にも対応する大きめの端子を備える

外見上の大きな変更点であるエンクロージャーとスタンド部の接合箇所は新しい支持構造を採用。-20度~+35度の範囲(前モデルは-10度~+15度)で無段階に調整でき、しかも角度の微調整を行なう時に便利な手で締められるダイヤル式の調整ネジを採用。これまでは付属の六角レンチを使って角度調整をする必要があったので、特に天吊りや壁掛け時の角度調整がなかなか大変だった。手締めである程度固定できるので、何度も角度を微調整するのがやりやすい。もちろん、最終的な調整が完了したら六角レンチでしっかりと固定できる。見た目の変化だけでなく使いやすさが大きく向上している。

-20度~+35度の範囲で無段階に調整できる
スタンドとの接合部分。ローレット加工されたダイヤル式の角度調整ネジを新採用。微妙な角度調整がしやすくなった
スタンドの台座部分の裏側。壁掛けや天吊り用の取り付け穴が用意されている

角度調整機構が改良されたくらいで、エンクロージャーなどはそのままかと思う人もいるだろう。筆者もそう思っていた。それだけに音を聴くと激変しているのでかなり驚くのだが。実はエンクロージャー自体も別物となっていて前作からの流用ではない。

TD508MK3の長所は、優れた空間表現、クリアな再生音、時間軸方向の波形再現性などがあるが、フルレンジユニットということもあり低音の再生能力には限界がある。

TD508MK4では低音再生能力の向上が目標のひとつにあげられた。そのためエンクロージャーは容積を400ccに拡大。スピーカー部は正面から見るとほぼ正円に見えるがその直径が5mm拡大されている。

これに合わせて、スピーカーユニットも同じパーツがほとんどないレベルで改良。振動板を支えるダンパーの振幅範囲を1.3倍に拡大して直線動作領域を1.8倍とした。振幅の拡大に合わせてスピーカーユニットの後端に取り付けるグランド・アンカーも重量を38%増量。スタンド部分の剛性を高めるなど、低音域再生向上のための改良が行なわれている。このほか、中域や高音域の特性向上のため、配線材の変更やボイスコイルの補強紙(シリカ含浸のCNF:セルロースナノファイバー)など、さまざまな変更が行なわれている。

これにより、周波数特性で低域を10%向上したほか、中域を1.1dB音圧を高め、高域の不要なピーク・ディップを低減するといった改善が施された。一見マイナーチェンジのようだが、実はフルモデルチェンジというレベルの大幅な進化を果たしているのだ。

公式推奨スピーカースタンドがTAOCから発売!

今回紹介する製品はもうひとつある。それが「イクリプススピーカー公式推奨スピーカースタンド」の「WST-C60EC」。発売したTAOCは、鋳鉄を使用したスピーカースタンドのほか、オーディオボードやインシュレーター、AVラックといったオーディオ用アクセサリーで知られるメーカーだ。

筆者はわりと何度も触れているが鋳鉄信者で、インシュレーターやスピーカースタンドなどはTAOC製を愛用しているし、AVラックもTAOC製としている。というわけで、今回TD508MK4を紹介するならばぜひWST-C60ECも一緒に紹介したいと思い、TAOCから製品をお借りすることにした。

WST−C60ECは、TAOC製スピーカースタンドの中でも人気の高い「WST-C60HB」を特別にカスタマイズしたもの。大型の底板と鋳鉄粉入りの支柱に、摩擦制振機構と二重構造を採用した天板を組み合わせ、剛性と振動減衰性を両立している。WST-C60ECでは、最新技術である三層構造天板を採用。しかもTD508MK4、TD508MK3、TD307MK3の台座部分に合わせた形状とした。

一緒にお借りしたWST-C60EC。卵型になった天板はかなり厚みがあり、鳴きも少ない

一般的なスピーカースタンドの四角形の天板と違ってスタンドの台座と同じ形状になっているので、TD508MK4などを置くと足元がピタリと揃って見た目にもスマートだ。TAOC製のスタンドは組み立て前の底板、支柱、天板が分離した状態だと軽く、叩くと「カーン」と残響の長い響きが出て心配になるのだが、説明書通りにきちんと組み立てると不要な響きがピタリと収まる。シンプルな作りなのに非常によく出来ていると感心する。WST-C60ECも同様だ。唯一の難点があるとすれば重いことだが、制振性や剛性を考えると頼もしい部分でもある

TD508MK4を置いた状態。わかりやすく少しずれた位置に置いているが、実際にはぴたりと台座部分と形状が一致する
付属のスパイク類。後方にあるスパイク受けは別売の「PTS-N」(実売8,500円前後、4個1組)。ステンレス製だ

ラックに置いて普段使いのイメージで聴いてみる

では試聴だ。まずは薄型テレビ用の背の低いAVラックに置いて聴いてみた。記事冒頭の写真のようなデスクトップ設置に近いイメージだ。あるいは薄型テレビの両脇に置いてテレビ用スピーカーとして使うときもこれに近いイメージになるだろう。試聴でのスピーカーの間隔は1.2mほど、比較的近接試聴に近い設置だ。

再生機器はMac mini + Audirvana ORIGINで、USB出力をFIIO K9 AKMに接続し、バランス出力をベンチマークのHPA4に入力、パワーアンプはベンチマークのAHB2が2台だ。

クラシックのオーケストラ演奏を聴くと、音場の広さと奥行きのあるサウンドステージが目の前に現れる。個々の音の粒立ちがよく音像定位も明瞭だ。ここまでは音の不要な反射を抑えた卵型のエンクロージャーやフルレンジユニットならではもので、イクリプスのスピーカーに共通する美点。

TD508MK4は中域の密度が上がって音像もより厚みのあるものになるし、なにより低音感が良くなっているとわかる。もちろん、床を震わせるようなローエンドまでの伸びがあるわけではないが、コントラバスのような低音楽器の音を聴いても実音としては不足のないレベルの低音感がある。これは、もともとイクリプスのスピーカーがバスレフ型ではあるが低音の特性としては密閉型に近いなだらかに減衰していく特性に仕上げてあり、特定の帯域だけ強調されることやある帯域より下がストンと落ちてしまうようなことがないため。

だが、TD508MK3では80Hzあたりから低音域の減衰が目立ち始めるところを、TD508MK4では60Hzくらいまでは減衰が穏やかで60Hz以下になるとゆるやかに減衰が始まるような特性となった。そのおかげで見た目はほぼ同じくらいに見えるスピーカーとしては思った以上に低音が出ているように感じる。

音色そのものは色づけの少ない傾向で変わらないのだが、オーケストラのステージの見通しがよく、楽器の配列とか後方にある打楽器や低音楽器、手前にある弦楽器といった音の出ている場所の距離感がよくわかる。鮮やかな音色で勢いよく吹き上がる金管楽器もその立ち位置がよくわかる。このあたりが前半で紹介したスピーカーユニットやエンクロージャーの改善による効果だとわかる。一言で言って鮮明。音色的に明るいとかキラキラと派手なものになったのではなく、音の粒立ちや奥行きや広がりの良さ、しっかりとした音像定位の良さが出て、見た目に音の解像度が高まったように感じる。

「No Promises to Keep」SACDマルチハイブリッド
(P) 2024 SQUARE ENIX CO., LTD. (P) 2024 Sony Music Labels Inc. (C) SOLID / SQUARE ENIX (C) SQUARE ENIX CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA / ROBERTO FERRARI

今回の良作である「FINALFANTASY VII REBIRTH」の主題歌である「Loren Allred/No Promises to Keep」を聴くと、ボーカルの存在感たっぷりに浮かび上がる。特徴的な高い声の表情の豊かさも見事だ。伴奏のピアノなども自然な音色でよく弾む。ベースやドラムのリズム感というだけでなく歌も含めた楽曲全体のリズム感がいい。

テーブル設置でもうひとつ気付くのは、セッティングに対する反応の良さ。テーブル置きではスピーカーの位置が少し低かったので角度を少し上向きにしていたのだが、左右で少しずれていた。左右の角度をきちんと揃えると、特に音場感や音像定位が大きく変わる。写真のフォーカスが合ったような見通しの良さが出てくる。コンパクトなスピーカーだし、角度調整も容易になったので、ユーザーとなった人は徹底的に微調整をしてほしい。やればやるだけ応えてくれるスピーカーだ。

スピーカースタンド設置で本領発揮!

続いてはTAOCのスピーカースタンドで設置。スピーカーの間隔はさらに広くして2m弱。筆者の試聴室では一般的な小型スピーカーを置くときの設置位置だ。セッティングでは、スピーカースタンドを置いた状態でスパイクの高さを微調整して4点がきちんと接地してグラつきのないことを確認。天板がきちんと水平になっているかも確認した上でTD508MK4を置く。

スピーカーの角度はほぼ水平になるように再度調整。スピーカースタンドも本格的なものだと決して安い買い物ではないし、せっかくスピーカースタンドを使うならば最低でもこれくらいきちんと設置しよう。余談だが、グラつきのないきちんとした設置は日本という国では避けようがない地震への対策にも有効。グラついた置き方ときちんと接地した安定した置き方では地震の時の転倒などのトラブルを最小限に抑えられるのは自明だろう。

スピーカースタンドでの設置で一番大きく変わったと感じるのは音場感だ。スピーカーの間隔が広くなったこともあって、ステージがより広々と広がるし、奥行きもさらに豊かになる。個人的にはTD508MK4の最大の進化点は、低音域の伸びでも中域の密度でも高域のスムーズさでもなく、音場の奥行きの再現だと思っている。音場の見通しがよく、まさに立体的なサウンドステージが楽しめる点だ。

ここまで音が情報量を増したのは、スピーカースタンドでTD508MK4の本領を発揮できた点が大きいだろう。安価なテレビ用ラックではどうしてもスピーカー自身の振動を受け止めきれずに不要な振動を発してしまい音が濁る。その点、重量があって剛性もはるかに高いWST-C60ECなら音を濁らせてしまうようなこともない。

「No Promises to Keep」でもボーカルがさらに一歩前に出てくるような立体感が出て、しかも表情がより豊かになる。伴奏のピアノや各楽器の音もより鮮明で個々の音の分離が良いというよりも、それらが重なって出る和声の美しさが際立つ。

TD508MK4の進化点として、周波数特性の改善だけでなく不要残響音の低減も果たしている。これはインパルス応答のテストのような単音の信号を入力すると山がひとつだけできるのが理想だが、スピーカーの動きは一度動くとその反動で動き続けてしまう。これが不要残響音でオーバーシュートなどとも呼ばれる。これは音楽信号にはない成分なので不要な音でありノイズだ。この点でもTD508MK4は前作より大きく改善しており、不要な残響を10%低減したという。これによって、イクリプスが追求する「正確な音」により近づいた。

ここまでのインプレッションでも、鮮明だとか音の解像度が上がったという表現をしているが、決して音色がブライトになったとか、解像感の高い音になったのではなく、不要な音が出ないことで本来の音が際立ってきたという言い方が正しい。ネットワーク回路が不要で、音原位置もひとつなので低域から高域まで音が揃う。イクリプスがフルレンジ型スピーカーにこだわる理由もここにある。シンプルな作りだから実現できる純度の高さ。その理想がTD508MK4で大きく進歩したと思う。

理想のその先へ。サブウーファーを2台追加し、2.2.ch再生

今度はサブウーファーだ。TD508MK4は低音域の再生能力も向上し、音楽再生ならば実用上不足を感じない程度まで低音感が得られるようになった。だが、大型スピーカーの低音と比べれば差はあるし、アクション映画などの爆発や銃撃といった低音のたっぷり入った音を出すと、非力さも感じる。そこでサブウーファーだ。 たまたま我が家にはイクリプスのサブウーファー「TD725SWMK2」が2台あるので、それを流用することにした。

サブウーファー「TD725SWMK2」×2台

ステレオ再生でサブウーファーを接続する場合、サブウーファー出力やプリアウトがあればそれを使うのが便利だが、2系統のプリアウトを備えるものは少ない。たいていサブウーファーには音量調整やクロスオーバー周波数の設定もできるので、経験豊富な人ならばきちんと2.2ch再生ができるのだが、きちんと調整するのは難しい。

実は一番簡単なのはAVアンプだ。AVアンプでは当たり前のことだが、スピーカーとサブウーファーのそれぞれの距離や音量の設定、クロスオーバー周波数の設定なども可能。これができるステレオプリメインアンプはあまりない。最近のAVアンプはステレオ再生での音質もかなり良くなっているので、小型スピーカーでサブウーファーを加えた構成を考えている人はぜひともAVアンプを候補のひとつとして検討してほしい。

というわけで、たまたま家にあったマランツの「AV 10」を使ってみることにした。サブウーファー同様にTD508MK4と組み合わせる製品ではないが、本領発揮のさらにその先を見てみるには十分だろう。実際にはステレオプリメインアンプならばスピーカーと同じ10万円後半の優秀なモデルでも十分に鳴るし、AVアンプでは音質が心配という人はもうちょっと上のクラスのモデルを選ぶといい。

FIIOK9 AKMのバランス出力をAV10のバランス入力に接続し、サブウーファー、パワーアンプのAHB2へバランス接続している。ちょうど先ほどまでのステレオ再生と比べて、プリアンプが「HPA4」から「AV 10」に変わっただけだ。サブウーファーの設定はすべてAV10側で行なった。スピーカーとサブウーファーの距離は実測で入力し、音量は騒音計を頼りにして調整。クロスオーバー周波数は80Hz。サブウーファー側はLPFをバイパスとしている。

音量調整や距離の微調整を追い込んでいくと、スピーカーやサブウーファーの存在が消えていく。最終的にはほとんどの人が隣りにある常設のB&W「Matrix 801 S3」から音が出ていると勘違いするレベルになる。距離の微調整は突き詰めると本当に難しいのでAVアンプまかせでいいが、音量の微調整は最終的に聴感で合わせた方がいい。コツはサブウーファーから音が出ているとわかったら大きすぎる。サブウーファーの電源を落とすと違いがわかるくらいのバランスがちょうどいい。

出てくる音はもはやTD508MK4という感じはしない。クラシックを聴くと低域の鳴り方は大型スピーカーと遜色がない。例えば、小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラによる「奇蹟のニューヨーク・ライヴII ベルリオーズ:幻想交響曲」を聴くと、4楽章などでの大太鼓がかなり力強い鳴り方をするが、その太鼓の膜を叩くときのバチッとした音と太鼓全体の震えるような響きがエネルギーたっぷりに鳴る。そして、ホール全体に響く音の迫力やスケール感もまさに小型スピーカーとは思えないもの。それでいて、各楽器の音色や整然と再現される楽器群の配列など、音場の見通しの良さと定位の良さは大型スピーカーでは得られない精密な再現になる。超高級なスピーカーにもこうした発想(小型スピーカー + サブウーファーによる2.2ch構成)のものがあるが、「これってオーディオ再生の理想なのでは!?」と感じるくらいの素晴らしい音が出る。

「No Promises to Keep」は、ボーカルはまさに実物大。ニュアンス豊かな声が緻密に再現され、ゴールドソーサーのステージで歌うエアリスの姿が思い浮かぶ。主題歌だけでなく、「FINAL FANTASY VII REBIRTH」のサントラの曲もよい。前作も十分広大だったが、さらにスケールを拡大した広大な世界を感じる「グラスランド -広がる世界-」をはじめ、各エリアのフィールド曲が雄大でしかもきめこまやかだ。

なお、イクリプスによるとこうしたサブウーファーを組み合わせるときのクロスオーバー周波数は80Hz(TD508MK3も同じ)だが、TD508MK4は低音域の能力が拡大しているので60Hzくらいでクロスオーバーさせてもつながるという。もちろん試してみた。低音域はややタイトになるものの、よりフラットなバランスだと感じた。低音がタイトだと雄大なスケールや迫力にも少なからず影響はあるので好みはわかれるが、TD508MK4がそのまま大きくなったような持ち味を活かした鳴り方になるのは好ましい。このあたりはよりじっくりと使い込んで、設定や調整を追い込んでいくとますます一体感のある音になるに違いない。

最後は宿敵であるセフィロスやJENOVAとのバトル曲を聴いて締めよう。本作はドラマとゲームの一体感をより高めたものになっていて、クライマックスでありがちなボスとの連戦(第2形態とかそういう展開)がそれぞれ別の曲も用意されていてバチバチに盛り上がる。

筆者のようなアクションゲームはどちらかというと苦手な人はゲーム中は必死でプレイしていて音楽を楽しむ暇もないが、こうしたサントラ盤を聴いて反芻していると、めちゃくちゃに楽しい。

TD508MK4 + TD725SWMK2のような組み合わせで聴いていると、ゲームらしい迫力やスケールを味わえるだけでなく、ゲームのオリジナル版の曲をモチーフとしたメロディーを主旋律として展開していく音楽としての面白さもじっくりと味わえる。編成を増しより魅力を増したアレンジもよいし、要所でFF VIIのテーマやエアリスのテーマをモチーフとするなど、楽曲自体も緻密に構成されていることがわかる。そんな音楽を学ぶような感じで曲と向き合えるのも楽しいし、なにより音楽の一体感がある。

TD508MK4は音楽が身近になるスピーカー

アクション性が増したゲームではコントローラーを操作するタイミングが重要になるし、ボタンの連打にしてもリズム感がある。ちなみに映像が1フレーム遅れると誰でも遅延を感じるが、音の場合は1フレームどころか1msec遅れても誰でも気付く。だからクラシックの同じ楽譜を演奏しても演奏者や指揮者によって異なった表現になる。そういう違いがはっきりと出るのがイクリプスのスピーカーの魅力だと思う。

FF VIIのサントラならばプレイ中に必死で操作していたときのリズム感が甦るし、ドラマシーンでの感動もそのまま再現される。シンプルなフルレンジ型構成で音楽成分以外の不要な要素を可能な限り少なくし、さらに改善を重ねて理想に近づくことで、音楽との距離も近くなるのではないか。そのように感じた。

音楽をより身近に感じられるというのは、イクリプスのスピーカーに共通する美点だが、最新作であるTD508MK4はその理想にもっとも近づいたスピーカーだと思う。これが15万円ほどで手に入るというのは破格だ。初めてのスピーカーとして最適であり、一生付き合えるスピーカーでもある。これが大げさな表現ではないことをぜひ自分の耳でも確かめてみてほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。