プレイバック2017

映画館の進化と個性。日比谷や吉祥寺など'18年も注目 by 編集部:中林

 身近な存在ながら、意外に知らないことも多く、取材を通じて新しい発見も多かった、映画館/シネコン関連の2017年を振り返りたい。

11月にオープンしたTOHOシネマズ 上野

 今年も、映画館の新規オープンやリニューアルがいくつもあった。都内では2月に閉館したシネマメディアージュの場所に、新たに「ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場」がオープン。9月には「イオンシネマ シアタス調布」が誕生したほか、11月には上野御徒町エリアに「TOHOシネマズ 上野」が開業。複合施設のオープンなどに合わせて、街の新たな名所になりつつある。

 シネコンが増えると、必然的に上映作品が似通ってきて、昔に比べると劇場ごとの独自色は出しにくくなったともいえる。一方で、今だから実現できる、テクノロジー+アイディアの合わせ技がシネコンの新しい個性になるのでは? という思いもあって、シネコンを運営する各社に取り組みを聞く取材を始めたことが、「シアター探訪」の連載につながった。ライターの森田秀一氏との取材を通じて、各社の取り組みや目指す姿などを深く知ることができた。

 アトラクションシアター「4DX」が一般の人にも注目され始めたのは'16年ごろからだと思う。IMAXやDolby Atmosなどの共通規格に加えて、劇場独自の新しい規格も増えてきた。'17年は、T・ジョイによるオリジナルの大画面仕様「T-LEX」が、久留米のリニューアルに合わせて登場した。イオンシネマが既に展開している大画面の「ULTIRA」は、昨年の「ガールズ&パンツァー 劇場版」人気に合わせて認知度が高まったとのことだが、その場所だから味わえる映像/音響の体験が多様化し、最新作をいち早く観るだけではない楽しみにつながっている。

 ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で6月に観た、正面+左右側面を使った映画上映システム「ScreenX」や、電動リクライニングのシネマ専用最高級シートを日本で初めて全席に完備したという、イオンシネマ シアタス調布「Gran Theater」のインパクトも大きかった。こうしたスクリーンごとの違いも、シネコンの個性の一つといえる。

ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場の「ScreenX」
イオンシネマ シアタス調布「Gran Theater」でフットレストをフラットにして鑑賞
“極上爆音上映”で知られる立川シネマシティはスクリーンを新調。「ガールズ&パンツァー 最終章」上映も始まった

 上映設備だけではなく、飲食や物販などの充実や利用のしやすさも、映画ファンにとって重要。イオンシネマやTOHOシネマズが、「冷めてもおいしい、映画鑑賞向けコーヒー」を発表。アニメなどの作品コラボや、“プレミアム感”のあるホットドッグなど、飲食メニューを充実させているのも、来場者を飽きさせない要素になっている。

 そのほか、映画館のオープン/リニューアルなどの発表会へ行くと改めて実感するのは、チケット販売/発券機の台数が増え、有人のチケットカウンターはかなり縮小していること。シネコン各社へ取材すると、有人のカウンターも必要ではあるものの、ネット購入はもう当たり前になりつつあるという話をよく聞いた。

 これに関連し、シネコンで既に95%が対応しているというオンラインの前売り券「ムビチケ」の実態も取材。映画を割安で見る方法は色々存在するが、年齢や性別を問わずスマホ/PCから安く買える便利さで、いつの間にか当たり前の存在になったようだ。サービス開始初期にムビチケが売れた作品として名が挙がったのが、映画ではなく音楽ライブ(堂本剛 平安結祈 heianyuki)だったのも興味深い。

ムビチケ(カード券)のサンプル

'18年以降に注目したい新劇場&動向

 今後注目したいの大きな動向の一つは、'18年2月に閉館する「TOHOシネマズ日劇」の近くに、全13スクリーン/約3,000席でオープンする“都心最大級”の「TOHOシネマズ日比谷」。歴史のある映画館も多い銀座エリアで、どんな存在になっていくのだろうか。

 その他にも、気になる話題として、吉祥寺に5スクリーンのミニシアター「アップリンク吉祥寺パルコ」がオープンすることも11月に発表された。アート系やインディーズなどのユニークな作品セレクトで知られ、'16年からは映画配信の「アップリンク・クラウド」も手掛ける同社が、新しいミニシアターでどんな作品を見せてくれるのかが気になる。

 そのほか、'19年度に池袋で開業予定の「IMAX with LASER」を備える「(仮称)東池袋一丁目シネマコンプレックスプロジェクト」や、'20年オープン予定の「TOHOシネマズ 池袋」に関する情報も、引き続き追っていきたい。

東日本初となるIMAX with LASERの「(仮称)東池袋一丁目シネマコンプレックスプロジェクト」外観イメージ

 新しい動向としては、“映画館の中でVR映像を多人数で楽しむ”という「VRCC(VR Cinematic Consortium)」が発表された。VAIOと東映、クラフターによる共同事業で、'18年3月スタートとのことだが、具体的にどんな作品をどうやって楽しめて、VR ZONEなどのアミューズメント施設とはどう違うのかなども気になるところ。

 上記の話題のほかにも、「シアター探訪」でまだ取材できていないところはまだたくさんある。映画館や上映技術を支える企業などにも、今後話を聞いていきたい。

中林暁