オーディオCDをCD-Rにコピーして音質が落ちるのか、というテーマの記事の4回目。当初は軽く2、3回で終了を考えていたのだが、書いているうちに、書き足りないことに気付いたり、読者のみなさんから質問や疑問といったものも寄せられたため、ロング企画となってきた。
まだ、もう数回このテーマで続きそうだが、今回はオーディオCDプレーヤーでの読み込みの仕組みについて紹介しよう。
■オーディオCDプレイヤーの構造
オーディオCDプレーヤーが登場してもう約20年。コンピュータの世界では5年も前の規格のものでは古くて使いものにもならないが、CDは今でも現役バリバリであり、また古さもあまり感じない。もちろん、この20年の歴史の中で、いろいろと進歩はしてきているものの、根本的な仕組みは大きく変わってはいない。
そのオーディオCDプレイヤーの構造を表した模式図が第1図である。今回は、この図を元にオーディオCDの再生の仕組みを考えていきたい。
【図1:CD再生概念図】 |
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あまり見慣れない図だと思うので、まず簡単に流れを追うと、図の左上にあるのがCDメディアである。これをスピンドルモーターで回転させながら、レーザーダイオードから照射したレーザー光をCDに反射させ、それをフォトダイオードで受け取る。それをRFアンプで増幅して、電気信号とする。
さらにこれを同期のための回路を経て誤り訂正などを行なった上で、デジタル信号へと復調し、DAコンバータを通して音になる。また、フォーカスサーボやスピンドルサーボといったものがあることからもわかるように、CDを読み取った信号を復調する過程で、これらサーボ系にフィードバックしていき、正確な信号を取り出せるように制御しているのだ。
■3つのサーボと送り制御で正しくデータを読み出す
第1回目でも少し触れたが、CDの再生はLPなどのレコードと少し似ているが、LPが外側の溝から中に向かって再生していくのに対し、CDは内側から読む。また、LPの回転スピードが一定であり、LPディスクから見ると角速度一定(CAV:Constant Angular Velocity)であるのに対し、CDは回転速度をコントロールして線速度一定(CLV:Constant Linear Velocity)となっている。具体的には1.2~1.4m/secというかなり高速の状態で一定にしている。つまり、CDの再生においては、いかにしてCLVを保って制御するのかが1つの肝になっているのだ。
このようにCLVを実現させているのがスピンドルモーターを制御するスピンドルサーボだ。これはCDから読み取った信号のクロックが一定になるように回転を制御している。しかし、CDからデータを読み出すのはこの回転の制御だけではうまくいかない。ほかにも、2つのサーボと送り制御というものが存在する。
まずはフォーカスサーボ。これは照射したレーザーの反射がフォトダイオードで焦点があうように制御するためのもの。見た目には平面に見えるCDではあるが、厳密には凹凸があったり、変形して反り返っていたりするため、レーザー照射位置が完全に固定されていると、きちんと焦点が合わない。このため、こうした制御が必要になっている。
さらに、トラッキングサーボはデータの書き込まれた線を間違えなく追うためのもの。この線のピッチは1.6μmという細かいものであるために、非常に微妙な制御が行なわれている。そしてもう1つがトラッキングサーボとも大きく関係する送り制御。これはレーザーダイオードによるレーザーの照射位置、またその反射を受けるフォトダイオードの位置をCDの円の中心からどの位置に置いて読み込むのかを決めるためのもの。これも各サーボと一緒に制御していくわけである。
■4.3218MHzでロックさせるPLL
CLVを保つため、実際にCDに書き込まれている信号をデータ化するための大切な役割をこなしているものがPLLというものだ。
PLLとはPhase Locked Loopの略であり、2つの信号の位相を合わせてロックをかける。その2つの信号とはCDから読み取った信号=RF信号と、そのRF信号を利用して作ったクロック信号の2つだ。そして、2つの信号のロックをかけることで、非常に正確な読み取りが可能になる。もちろん、この正確な読み取りを行なうためにはスピンドルサーボが大きな役割を担っている。
ところで、やや余談となるが、このPLLでのクロックは4.3218MHzという周波数だ。なぜ、こんな周波数なのだろうか? それは第2回で解説した1フレームが588チャンネルビットであるということと大きく関係する。この1フレームには実質的なデータは24バイト=192ビット分入っている。44.1kHz、16ビット、ステレオというCDのフォーマットにおいては、これは6サンプル分のデータということになる。したがって
1/44100×6sec
という時間になる。周波数でいえば7.35kHzだ。
そしてこの時間が588ビットで構成されているわけだから、
7.35kHz×588=4.3218MHz
となるわけだ。
■クロックの揺れで発生するジッターノイズ
さて、この4.3218MHzで完全に安定していればいいが、クロックが揺れる可能性もある。とくに、プレスCDと比較して、書き込んだ結果のピットがはっきりしないCD-Rの場合、その可能性が増大する。
そうした時間軸の揺れのことを、ジッターとも呼んでいる。この揺れが大きいと、データを読み誤る可能性も出てくる。
ただし、そうした誤りは第1回でも紹介したEMF変調(14ビットのパターンを8ビットに変換するもの)、さらにはCIRCデコードというCDの強力な誤り訂正機能によって、ほとんどが取り除かれると言われている。CIRCデコードはランダムなエラーに対応するC1デコード、バーストエラーに対応するC2デコードの2パスになっているため、非常に強力なものであるからだ。
とはいえ、このジッターは問題を起こす可能性を持っている。PLLクロックでは4.3218MHzであるが、EMF、CIRCを経て最終的に音の信号へと復調する場合は44.1kHzのクロックで行なわれる。このクロックが揺れていると、音質的に変化してしまう可能性があり、これをジッターノイズと呼んでいる。
もっとも、オーディオCDプレーヤーでは、44.1kHzの周波数はPLLクロックを分周して作ったものではなく、水晶発振器を用いて発生している。また、正確な水晶発振器を利用した再生ができるように、CDから読み取ったデジタルデータは一旦バッファメモリに入れてからDAコンバータへと流れる。これらにより、理論的にはジッターノイズは発生しないことになっている。ちなみに、バッファサイズを大きく取れば、携帯型CDプレーヤーなど音が途切れないような処理が可能となる。
■「音が良くなる?十字の傷」、再び
以上、オーディオCDプレイヤーの再生の仕組みについて見てきたが、かなり簡略化しており、実際にはもっと繊細な制御が行なわれている。また、これらがすべて理論通り動いていれば、CD-Rで再生してもノイズが乗ったり、音質変化はしないことになるのだが、実際にはそう甘くはないようである。このあたりは次回以降で、実験を交えながら検証していきたいと思う。
さて、概念図の中でも触れなかった機能の1つにデータ補正というものがある。CIRC機能でエラー訂正を行なっても、訂正しきれなかったデータを処理するためのものだ。本来CDに刻まれた音のデータの並びは連続的になっているはずだが、これが不自然に並んでいる場合に補正する機能だ。
たとえば本来00、10、20というデータが羅列があったとしよう。このデータをCDから読み込んだ際、2番目の10が300になっていたら、いかにも不連続であり、そのまま再生するとノイズになってしまう可能性がある。そこで、明らかに不自然なデータである場合は、補正して10前後にしてしまうというわけだ。これによって、CIRCのC1、C2のいずれでも修正しきれなかったデータもある程度直すことができ、聴いた際に気にならないものとなる。ただし、実際にはピッタリの値に戻せる保証はないため、ここに音質の変化が生じてくる。
第1回で、オーディオの迷信の例としてCDに十字の傷を入れても、音質がよくなることはないと説明したが、補足すれば多少音質の変化が生じることはある。それは誤り訂正でフォローできなかったものが、データ補正で修正されて出てくるからだ。もちろん、その補正された音が好きだという人は、それでもいいが、本来の音でないことは確か。(もちろん、音質変化の原因をこの補正だけに求めるわけではないが)
また、傷によってはノイズが入ったり、下手をすればトラッキングが狂ったりして、そもそも再生そのものができなくなる可能性もあるから、やはり万人にお勧めできるものではない。
(2001年4月2日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp