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第5回:迷信だらけのデジタルオーディオ

~ CD-Rメディアによる音の違いを検証する その1 ~

 オーディオCDをPCを使ってCD-Rににコピーすると音質は変化するかというテーマの記事の5回目。これまで4回に渡りその理論的なことを解説してきたが、今回、次回はもう一歩踏み込み、音質が変わるかを実際に実験して試してみたいと思う。

 実験方法はいろいろある中で、誰もが簡単に実行できる方法を考えてみた。


■複数のメディアに書き込んで比較する

 第3回において、CD-Rメディアには、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、そしてアゾ系色素を使ったものの大きく3種類が存在していることを紹介した。もちろん同じシアニン系色素を用いたメディアでもメーカーや型番が異なると、化学的、光学的特性は異なるとだろうが、ここでは代表的なものをピックアップするということで、以前にも取り上げた以下の3つを使ってみることにした。

【太陽誘電 CDR-74TY】
シアニン系色素を使用 反射層は銀

【三菱化学 CDR74AA1】
アゾ系色素を使用 反射層は銀

【コダック KCD-R74G1】
フタロシアニン系色素を使用 反射層は金

 さらに、比較対象として音楽専用CD-Rも入れてみたいと思う。音楽専用CD-Rとデータ用CD-Rの違いは、著作権法によって私的録音補償金が上乗せされているとともに、それに対応したメディアであることを示す情報がメディア上に書き込まれていること。

 そのためPC用のCD-Rメディアよりもやや高めの値段設定になっているのだ。また、音楽専用であるために高音質である旨を記述しているメディアも多い。確かに、基板の材質に良質なものを用いたり、基板の形成状態の管理を強化したり、さらにはレーベルの印刷色やインクの量など最適化するなど、より精密な製品にしているものもある。そして、こうしたメディアを使うと音が断然いいという人もいるので、比較してみる価値はありそうだ。

 秋葉原のメディアショップに行ってみたところ、音楽専用CD-Rメディアはいろいろなメーカーのものが置いてあったが、以前にくらべずいぶんと安くなっていた。太陽誘電の「CDR-A74CP」が179円/枚という価格。そのショップで最も高かったのが日立マクセルの「CD-R AUDIO PROX 80」で480円/枚だった。

【太陽誘電 CDR-A74CP】

【日立マクセル CD-R AUDIO PROX 80】


■データ素材は3種類を使用する

 次にCD-Rに書き込むデータ素材をどうするかだ。ここでは特に根拠があるわけではないが、100Hzと1KHzの2種類のサイン波をデータ化して書き込むことにした。単純な波形であれば、オリジナルとコピーを比較する際、それぞれの周波数分析をした結果を見るとはっきり違いがわかりそうだと思ったからだ。

 こうした単純なサイン波を発生させるソフトはいろいろあるが、私が個人的に長いこと使ってきているSonicFoundryの波形編集ソフト「SoundForge」のシンセシス機能を用いることにした。ただし、つい先日発売された最新バージョンの5.0が、まだ手元に届いていないので、今回はバージョン4.5を使用。

 手順としては、まずCDに焼くことを前提としているから16bit/44.1KHz/Stereoというフォーマットで、100Hz、1KHzともに15秒ずつのサイン波を作った。また音量は-6dB(最大音量のちょうど半分)に設定した。

 ただし、最終的にはオーディオCDプレーヤーで再生させることを考えているため、突然大音量が出て、突然レベル0になるとその際にブチッというノイズが入る可能性がある。

 そこで、最初の1秒、最後の1秒でそれぞれフェードイン、フェードアウト処理をかけた。こうして完成したデータをWAVファイル形式で保存した。

 さて、この2つのデータで比較するだけでもいいのかもしれないが、やはり音楽として完成されたデータも比較してみないと、はっきりしたことはいえない。また元々この企画では、音楽CDとCD-Rに焼いたものの差がどうなのかを検証するのが目的だから、音楽CDをコピーして比較するのは当然必要だ。

 本来ならばクラシック、ロック、ジャズ……といろいろな曲で比較すべきなのだろうが、とりあえず1曲だけテスト。ここで選んだのはアイルランドのミュージシャン、ENYAの「ORINOCO FLOW」という曲だ。このCDをCD-ROMドライブを用いてリッピングし、WAVデータにしておいた。

 このリッピングに用いたドライブは、後でライティング時にも用いるPlextorのSCSI接続の内蔵ドライブ「PX-W124TS」。また、リッピングソフトにはこのドライブに付属の「PlextorManager2000」を用いた。

 さらに、第2回で、リッピングが完全にうまくいかないことがあることを解説したが、リッピングミスを避けるため、複数回リッピングをし、それらのコンペアをかけてミスがないことを確認した。


■WinCDRでデータを焼き込む

 以上で材料は揃った。さっそく書き込んでみることにする。

 ここで行なうのは単に3つのWAVファイルをオーディオCDとして焼くだけなので、基本的にはどんなソフトでもOK。そこで、手元にあったアプリックスのWinCDR6.0を使用した。

 なお、ここで使用するドライブは先ほども登場したPlextorの「PX-W124TS」。またPCは自作のもので、CPUはPentium III 667MHz、マザーボードはIwill「BD100Plus」、メモリ256MB。SCSIカードはAdaptecの「AHA-2940UW」で、OSはWindows Me。

 書き込みはトラック・アットワンスで行ない、速度は12倍速を指定した。また、このドライブには元々BURN-Proof機能などは付いていないので、これに関する設定も行なっていない。

 オーディオCDを焼くならばディスク・アットワンスが当たり前、書き込み速度も等速にすべきだという意見もあるだろうが、今回の実験においてはプリギャップ、ポストギャップなどは設定しないし、できるだけ普通に書き込んだほうが比較しやすいと思い、あえてこのようにしている(トラック・アットワンスにしたのは、単にこれらのメディアを再利用しようと思っただけのことなのだが)。


■最初のテストは再リッピング

 そして、無事、4枚のメディアにそれぞれ3種類のデータをオーディオCDとして書き込むことができた。ここからが、実際の比較ということになるわけだが、まず最初の実験は、データが間違いなく書き込めたかのテストだ。方法は簡単で、書き込んだCD-Rを再度リッピングし、オリジナルと相違ないか比較をする。

 このリッピングで、最初に書き込んだ「PX-W124TS」を用いてもいいのだが、多少厳しくチェックするためパイオニアのDVD-ROMドライブ「DVD-104」を使用した。ATAPI接続のごく標準的なドライブだ。リッピングには先ほどと同様にPlextor Manager 2000を用いた。

 リッピング自体は簡単に作業できたが、ちょっとおかしなことがおこった。オリジナルのデータとCD-Rに焼いたものをリッピングした結果、ファイルサイズが異なるのだ。ちなみにここでリッピングした4つのメディアの結果はいずれも同じであった。

 このように変わってしまった理由は難しいことではない。さきほど、書き込む際、トラック・アットワンスを選択したため、曲間にマージンが入り、その空白分も含めてリッピングしてしまったからだ。これでは、第2回で行ったようなMS-DOSのFC(ファイルコンペア)コマンドを使っての比較はできない。

 しかし、そんな問題を簡単に解決してくれるフリーウェアがある。efu氏開発の「WaveCompare」というソフト。このソフトは空白部分をカットして比較することができる。また同氏は、100Hz、1KHzといった周波数のWAVファイルを作るツールやスペクトラムアナライザソフトなどもフリーウェアとして提供しているので、SoundForgeの替わりにこれを試してみてもいいだろう。

 さて、結果はというと、すべてがピッタリ合致した。やはりサイズの違いは空白によるものだった。また、PCのCD-ROMドライブから見る限りは、いずれのメディアも差はないことがわかった。

 というわけで、次回はいよいよ、この4つのメディアを用いてオーディオ機器で再生させた結果を比較してみる。

(2001年4月9日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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