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第6回:迷信だらけのデジタルオーディオ

~ CD-Rメディアによる音の違いを検証する その2 ~

 前回から実際にCD-Rメディア間での比較検証に入り、いよいよ今回はさらに一歩踏み込んだ実験をしてみる。その結果は私も予想しなかった驚くべきものとなった。その実験にどのような準備をし、どのような手法で行なったのか、そしてその結果を公開する。


■ 数多く寄せられる電子メール

 これまで5回ほど連載してきて、本当に驚かされるのは読者のみなさんから数多くの電子メールが寄せられることだ。私も15年以上雑誌や単行本のライターをしているが、これだけ読者からの声が届くのは始めての経験で、とても驚いている。

 もちろん、その多くは記事の内容に対する厳しいご指摘であったりするが、誹謗に近いものがある一方で、なるほどスルドイ指摘だと思わされるものも多い。

 たとえば、前回は3つの素材を5つのメディアにWinCDRを用いて書き込んだが、これに対し「トラック・アットワンスで書き込むなど常識外。メディアなどケチらずにディスク・アットワンスで書き込むべき」、「12倍速で書き込んでいるが、音楽CDを焼くのであれば等速で行なったほうがいいのではないか」といったもの。さらには「Plextorの内蔵ドライブを使っているようだが、真剣に取り組むのであれば、SONYのCDW-900Eを使うべきではないか」というご意見まである。

 順に私なりの見解を書くと、まずトラック・アットワンスについては、確かにケチな性格が出たところもあった。しかし、今回は後述するように、実験を追加したため、それはディスク・アットワンスで焼いてみることにした。はからずも、トラック・アットワンスの結果とも比較することになった。

 次の12倍速の件は、読者からのメールだけでなく、知人数名からも同様の指摘をいただいた。当初は、悪条件のまま比較して、結果が悪ければ等速でも焼いてみようかと思っていた。しかし、せっかくいただいた指摘なので、手元に大量にある太陽誘電のCDR-74TYのみ等速で焼いてみて、12倍速と比較することにした。

 が、さっそく試そうとしたら、使っていたPlextorの「PX-W124TS」は等速がサポートされておらず、書き込むことができないことに気付いた。そこで、手元にPowerMac G4に接続されているPlextorの「PX-W1210TS」があったので、それをはずしてPCに接続。これは12倍速も等速もサポートされているので、今回はこちらを使ってみることにした。

 さらにもう1つはSONYの「CDW-900E」の件。個人的にも非常に懐かしいドライブで、以前会社で購入し、使っていたものだ(当時は別の部署だったが)。確か100万円以上したのではなかっただろうか。本当に初期のドライブであり、かなり苦労しながら使った記憶がある。まだCD-Rのメディアも数千円と非常に高価なのに、何枚も失敗して……。

 その後、もっと高速でかつ低価格なものが登場したため、自分でPinnacleMicroのドライブを購入したり、さらにはYAMAHAの「CDE100II」といったものを購入し使うようになり、CDW-900Eなどというドライブはすっかり忘れていた。確かにWebで検索するとCDW-900Eが掲示板などで話題になっており、オークションサイトでは、結構な価格で売買されている。そこで、さっそく会社の倉庫を漁ってみたが、残念ながらどうも数年前の引っ越しで捨ててしまったようだ。

 というわけで、どこかで借りることなどできたら、いつか試してみたいと思うが、やはり今回はPX-W1210TSで実験させてもらうことにする。


■ 試聴可能なデータをアップロードするため1曲追加

 先日、担当編集者と打ち合わせをしていた際に出てきたアイディアが、「音質云々を文字で表現するのは難しい。Webメディアだから、いっそのことデータをそのままアップロードして読者のみなさんに聴いてもらうのはどうか。ということ。

 私としても、エンジニアであってオーディオ評論家ではないし、自宅にすごい試聴機器があるというわけではない。「このメディアは高音の抜けがいい」、「こちらは中音が弱い典型的なドンシャリ型のサウンドだ」などという、文学的表現は書けそうにない。はっきりデータとして見せられるものを見せ、微妙なニュアンスは各自聴いて判断していただくという形は好都合(逃げの姿勢だと批判されるかもしれないが……)。

 さて、そうなると素材が必要だ。前回はENYAのOrinoco Flowという曲と100Hzのサウンド、1KHzのサウンドの3つを素材とした。100Hzや1KHzの音では、やはり味気ないし、音楽のニュアンスの違いを聴くにはあまり適当な素材とはいえない。かといってENYAの曲を公開するのはまず無理。

 そこで思い付いたのが、知り合いのミュージシャンの曲を使わせてもらうこと。Arearea(アレアレア)という女の子2人のユニットで昨年5月にアルバムをリリースしている。実はAreareaは、今ちょうど、次の作品のレコーディング中なのだが、私自身がそのレコーディングのお手伝いをさせてもらっている。さすがに、現在レコーディング中のものを使うわけにもいかないので、所属レコード会社であるREALROXにも許可をもらい、ファーストアルバム「arearea」の中から「SEASON IN THE FLOWERS」という曲を“プロモーションにもなりますよ!”と説得して、使わせてもらうことにした。

 もっとも1曲丸ごとだと、やはり著作権の問題に触れてしまうのと、そもそも容量が大きくなりすぎて読者のみなさんにダウンロードしてもらうのも大変。そこで、音量変化の大きい25秒分を切り出して使うことにした。なお、メディアごとの試聴用のファイルは、今回は後述する予想外の結果が出たので、次週公開する予定。

 方法は例によって、PCのCD-ROMドライブからリッピングし「SoundForge」を用いて、切りだすというもの。先週は「SoundForge4.5」を使ったが、その後最新版であり32bit、192KHz対応の5.0を手にいれたので、さっそくこれを使ってみた。

 そして、前回の3曲にAreareaの曲を追加した計4トラックを、6種類のCD-Rメディアにディスク・アットワンスで書き込んだ。

□Arearea (C)REALROX Inc.
http://www.arearea.net/


■ ミニコンポのCDプレーヤーからS/PDIFでキャプチャする

 さて、今回の実験だが、できるだけ感覚的な部分を廃した結果を出してみたいので、S/PDIFを用いることにした。

 具体的にはCDプレーヤーのS/PDIF出力をパソコンへ入力し、その結果を比較しようというものだ。本来ならかなり高価なプレーヤーで実験しないと、また批判メールなどをいただきそうではあったが、まあ、とりあえず手持ちのものでやってみようということで、3、4年前に購入したONKYOのミニコンポ「CR-185」を使うことにした。当時、S/PDIF出力を持ったコンパクトなプレーヤーが欲しくて購入したものだ。

 一方、PC側のS/PDIF入力はSEK'Dの「PRODIF32」というPCIバス接続のカードを用いる。最近は安いサウンドカードでもS/PDIFの入出力を持ったものがあるが、ほとんどが48KHz対応であり、44.1KHzをそのまま取り込むことができない。

 またデジタル入力であるにも関わらず、途中にミキサーを挟んでいるものが多く、正確なデジタルキャプチャリングが不可能。それに対し、PRODIF32はプロ仕様のもので、私もこれまでレコーディングの仕事などで愛用してきた機材だ。

 PRODIF32はオプティカルもコアキシャルも装備しているが、CR-185側はオプティカルしか持っていない。また、PCとCR-185がやや離れていおり、手持ちの光ケーブルでは届かない。CR-185に接続されている各種配線を取り除き、PCの近くに持って行こうかと思ったが、面倒なので、3mの光ケーブルを買ってきた。こんな長いケーブルだとまた指摘されるかなとは思いつつ……。まあ、問題が出たら、それから考えようということで、接続は下図のような構成だ。

 というわけで、このシステムを用いて各メディアに書き込まれた4つのトラックを読み込み、オリジナルとともに比較しようと思う。当初、私と担当編集、知人の数名で予想していたのは、このS/PDIFでの転送結果はメディアによってかなり異なるだろうということ。ファイルコンペアなどかけても無駄なほどエラーは出まくるから、FFTアナライザを通して周波数分析して見てもらうといいのではないかと考えていた。

 FFTアナライザを見れば違いが一目瞭然だろうと予測した人と、微妙でわからないだろうと予測した人と意見は分かれたが、まあやってみようと。

 FFTアナライザはやはりSoundForge5.0のものを使うことにした。これならWAVファイルから時分割で分析し、立体的に表示させることが可能だ。というわけでAreareaの曲を含め4つのデータの分析結果が画面1~画面4だ。これは横軸が周波数、縦軸がdB(音量)、奥行きが時間となっている。なお、いずれも15秒だけを切り抜いており、時間的には64分割された表示結果である。このうち100Hzのサイン波と1KHzのサイン波は見やすくするために横軸を指数表示にしている。

100Hz1000Hz

Arearea
SEASON IN THE FLOWERS
ENYA
ORINOCO FLOW



■ なんとファイルコンペアで完全一致!

 まずは太陽誘電のCDR-74TYに12倍速で書き込んだものをキャプチャしてみた。準備には結構時間がかかったが、このキャプチャ作業自体は10分程度でできてしまった。

 まあ、どうせダメだろうと思っていたが、念のため前回に利用したefu氏のWaveCompareを使ってみることにした。これなら空白部分を取り除いての比較が可能で便利だからだ。

 で、100Hzのサイン波をいまキャプチャしたデータとオリジナルを比較してみると、なんと完ぺきに一致する。そんなことってあるのだろうか、とちょっと興奮してしまう。さらに1KHzでもまったく同様の結果。さらにAreareaの曲、ENYAの曲でも完ぺきに一致してしまうのだ。そう1ビットの狂いもなく完全に同じデータをCDプレーヤーのS/PDIFから取り込めたことになる。

 もしかしたら他のメディアならばエラーも起こるだろうと思いつつ、さらに別のメディアでも同じ実験を繰り返した。しかし、シアニン系、アゾ系、フタロシアニン系といった色素の違いもデータ用か音楽用か、さらには12倍速か等速かもまったく無関係に完ぺきにすべて一致してしまったのだ。3mの光ケーブルも問題なかったし、S/PDIFのオプティカルは民生用でエラー率は高いといった噂も吹き飛ばしてしまった。

 そう、ここまでの結論は、D/Aコンバータに入る前のデジタルに限定して言えば、音楽CDをCD-Rにコピーしても音質劣化、音質変化はまったく生じていないということになる。もちろん、メディアによる違いもまったくない。

 どのCDプレーヤーでもS/PDIFの出力を持っているものなら、すべて同じなのだろうかと思い、追加実験を行なった。利用したのは、Panasonicの結構昔のポータブルCDプレーヤー「SL-S400」。SL-S400の端子は丸型であったため、3mのケーブルを取り外し、手持ちの50cmのものに変更。これで同様の実験を行なってみた。

 ところが、今度はファイルコンペアをかけてオリジナルと比較してもまったく一致しない。どのメディアもダメだ。また各メディアからキャプチャしたもの同士を比較してもダメなのだ。試しに、CDR-74TYに12倍速で書き込んだ1KHzのデータをFFT分析してみた結果が右図だ。

 これを見てもわかるように、どうも低音に妙な信号が加わっているようなのだ。ほかのメディアもほぼ同様の結果だった。また、Arearea、ENYAの曲でも微妙に低音がブーストされている。試しに、プレスCDを用いてキャプチャしたが、これも同じ結果となってしまい、メディア間の差というよりも、このプレーヤー自身の問題ということのようだった。今回は時間切れで、ここまでだが、この件は次週に理由を探ってみたい。

 というわけで、今回Areareaの曲での試聴も予定していたが、全部同じ結果だったので、無駄になってしまった。

 ただし、この結論を持ってCD-Rにコピーして音質劣化が生じないと言い切ることはできない。事実、多くの人たちがメディアでの音の違いを主張しているし、実際私も聴いて違うように感じた経験はある。となると、CDプレーヤー内部のアナログ回路がメディアによる違いをなんらかで拾ってしまったか、44.1KHzの周波数が微妙に揺れてしまって、音に影響を与えたということになるのだろう。

 今回の結論からは、まともなCDプレーヤーからS/PDIF出力したものを離れたところにある別のDAコンバータに送ればメディアによる音質の違いはないと言えそうだが、通常はそういった使い方はせず、内部のDAコンバータを用いているだろう。その結果なんらかの影響がでていることが検証できるかもしれない。いよいよ次回は、このシリーズ最終回ということで、CDプレーヤーのアナログサウンドをキャプチャし、比較してみる。

(2001年4月16日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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