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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第7回:超ゴージャスな160万円のCDトランスポート
「ESOTERIC P-0s」を聴きに行く!!

後編


■ なんでセパレートなの?

 TEACのP-0sは、CDトランスポートである。これはつまり普通のCDプレーヤーと違って、ドライブ部分とDAコンバータ部分が別々であるということを意味する。高級オーディオの世界では、このようなセパレート構造にすると音が良くなるということは、アンプのセパレート化以来、色々な理由付けがなされている。

 シャーシを分けるからノイズが回らないとか、電源を分けるからいいのだ、とかいったことだ。しかし、本当の理由がなんなのかは、はっきりしない。

 ただ分けることによって音が変わるのは事実。TEAC技術陣も色々やってみて聴き比べた結果、一番良かった方法として、セパレート型を採用したという。

「じゃあミニコンポみたいにもっと小さいものでも、やっぱり分けた方が音が良くなるんでしょうか?」

「うーん、やっぱり分けたほうがいいんじゃないでしょうかね。ただそんな小さいものを分けても不便ですよね(笑)」

 と、P-0sの企画担当の原田氏。なるほど。確かに持ち上げようとして、バラバラにひも付きでぶら下がってきたらヤだもんな。小さいものは一個にまとまってるから便利なのだ。それに、一体型のメリットもあるのだ、という。

「セパレートにすると、今度は途中で線を端子に変えてまた線で繋ぐという部分でロスが出るでしょ。一体型ならそれがない。人によってはそっちの方が音がいいはずだ、という人もいるわけです」

 それにセパレートには、デジタル特有の問題もある。デジタル機器は、全て信号を水晶発振器、いわゆるパソコンなんかでもお馴染みの「クロック」で同期させている。一体型であれば、メカの制御からDAコンバートまで1つのクロックで行なえるので理想的。しかしセパレートにすると、それぞれの筐体に1つずつクロックが載ることになる。一応、業務用機器では、マスターとスレーブのような形で同期を取るワードクロックもあるのだが、搭載している民生用機器はほとんどない。

  「セパレートはね、当然大きくなるし高くなるし重くなるし場所取るし、もうロクなことない。ただね、僕らも色々なことを試してみたんだけど、純粋に音だけで判断すると、それでもまだセパレートの方が良かった」

 そういうわけで、13年前にスタートしたTEACの最高級ブランドESOTERICシリーズの記念すべき1号機は、P1とD1というCDトランスポートとDAコンバータのセットだったのだ。


■ 聴いたぞP-0s!!

 さあ、それでは実際にP-0sを聴いてみましょうか、ということになり、取材陣一同(といってもやっぱり2人)に俄然緊張が走る。というのも、実は今回の試聴に関して密かに計画していたことがあるのだ。それは、「その辺に売っている普通のCDプレイヤーと聴き比べ」。

 なんせここはTEACのリスニングルームであるので、そこにあるアンプやスピーカーは我が家のものとは比べものにならないぐらい高級品である。スピーカーなんかいきなり伝家の宝刀同軸2WAY搭載TANNOYの「KINGDOM15M」だ。これだけでなんと1本120万円、2本で当然240万円。パワーアンプはMcIntoshの「MC2600」。そういうレベルである。従ってP-0sだけを聴いても、どこまでがP-0sの実力なのかわからない。

「TANNOY KINGDOM15M」
「McIntosh MC2600」

 さて今回比較対象として編集部が用意したのは、SONYの「D-E777」。そう、CDウォークマンである。ヨドバシカメラで12,800円で購入した、デジタル出力付きとしては最安クラスのポータブルCDプレーヤーである。その価格差、実に100倍以上!

 しかし、ここまでの高級器郡の中で、そんなことを言い出して怒られないだろうか。オノレそこへなおれ無礼者その首たたき落としてやる、とか言われたらどうしよう。我々2人は鋭く視線を交わし合い、むむむむという無言の念力合戦の結果筆者が勝利、担当クンがイケニエとなり恐る恐るその件を切り出した。 「あ、いいよ。やっぱそういうのがないと記事としちゃあ面白くネエやなぁ(笑)」

 と快諾していただけたので、一同ほっと胸をなで下ろす。

 早速セッティングしていただいた。DAコンバータに光入力(S/PDIF)にD-E777、同軸(S/PDIF)にP-0sの出力を突っ込み、2つのプレーヤーを切り替える。それ以降のアナログアンプやスピーカーも共通になるので、かなり正確にCDトランスポータのみの違いがわかるという寸法だ。

 比較試聴したソースは、The Alan Parsons Projectの「怪奇と幻想の物語」。録音は古いが'87年に本人の手によりデジタルリミックスされたプログレ史上に燦然と輝く永遠の名作。それからUnderworldの「Beaucoup Fish」。どちらも聞き慣れたソースということで持ってきたのだが、TEACの試聴ルームにテクノを持ちこんだヤツは初めてらしい。そりゃそうだろう。オレも無茶するなぁ。


 その他にも筆者が聴いてみたいと思っていたもの、10ccの「I'm not in love」やXTCの「SKYLARKING」などを存分に堪能させて貰った。TANNOYだけに堪能なんちて。すいません、ここ編集でカットですか? もうしません。

 確かにP-0sで聴くと、今まで気がつかなかった音のニュアンスに気がつく。つまりCDにはその細かい違いまでちゃんとデータとして入っているのに、それが普通のプレーヤーでは全然取り出せてなかったわけだ。CDが登場したときにこういう問題点はこれで一気解決!だと思っていたら、実は問題はそのまま高いレベルに棚上げされただけだったということであり、我々はこれまでエラー訂正回路が作り出した「良くできた嘘」を聴いてきたことになる。

 むむ、なーんかそれって「実は奥さんがニューハーフだったのに20年間気がつかなかった男」みたいな、実用上問題ないんだけどなーんか損したような感じしないか? CDが登場してそろそろ20年、その間リリースされたタイトルは星の数ほどある。そしてそれらCDから一度も取り出されることがなかったビット総数は、まさに天文学的な数値に登るだろう。今まで購入したCDを全部P-0sで聴き直してみたい、そんなイケナイ衝動を覚えてしまった。



■ こういう世界はアリなのか?

 世の中には、プロのリスナーというのはいない。いや音楽評論家がいるじゃないか、と言われるかも知れないが、評論家とは基本的にはモノ書きなのである。ただ聴いてうむうむ、というだけでお金になると言う人はいない。従ってこのP-0sも、カテゴリーとしてはコンシューマ機なんである。160万円のコンシューマ機、一体どういう人が買うんだろう。

「高いオーディオってのは、今や見栄でもステータスでもなくなっちゃってるわけです。それでもこれを買おうって人は、やっぱり音だけの持つリアリティを追求したい人、なんですね。例えば映画なんかを見ても、これは目の前で本当に起こっていることだ、と思う人はいませんよね。でも音っていうのは、今ここで人が演っているようなリアリティを感じるわけです。聴覚ってのは、視覚よりももうちょっと脳の奥深いところにつながっているんじゃないか、と思うんです」

 3月13日のAV Watchの記事では「受注生産を再開」とある。実はこの製品は去年の11月に一度リリースしたのだが、口コミやインターネットでの反響が大きくすぐに注文が殺到したため、雑誌媒体に記事が載った頃には既に特殊部品が底をついてしまった。雑誌を見て買おうと思った人の分は、発注したくてもできない、お互いに残念な結果になってしまったという。

 そこでもう一度部品を調達し直し、生産できる体制を整えて改めて今回の発表となったわけだ。しかしその部品も、今年5月までの生産分で終わってしまうという。当初TEACが予想したよりもかなり引き合いがあった、ということだろう。下世話な話、これだけ高い物が売れればかなり儲かったのでは?

「高級ブランドの製品は、採算性は決して良くないんです。情熱と体力と時間があればどんどんよくできる。ただ、お金はかかります。なにしろ開発陣がどんどん入れ込んじゃって、どんどんいい部品を使うので、原価がものすごく高い。そりゃ商売ですから損はしないようにしてますけど、輸送費やなんかを含めると、トントンぐらいかもしれませんね」

 P-0sにはその前身となったモデル「P-0」がある。このP-0は、TEACの高級ブランド、ESOTERICの10周年記念モデルとして制作された。儲からないんだけどお祭りのドサクサで作っちゃった、というわけである。その時だけの限定品で終わらせちゃっても良かったものを、それをさらに改良してP-0sとして世に出すまでは並々ならぬ根性のいる話であろう。そこまでしていい音にこだわるメーカーというのは、もう日本にはあまり残っていない。

 そう、こういう世界をだれも否定できない。店頭に5千円やそこらでぶら下がっているCDプレーヤーだけになったら、それはとても楽しくない世の中だろう。5千円があって、160万円がある。TEACに守ってほしい世界である。

□ティアックのホームページ
http://www.teac.co.jp/
□製品情報
http://www.teac.co.jp/av/TEAC_ESOTE/p0s.html
□関連記事
【3月13日】ティアック、160万円のCDトランスポート「P-0s」の受注を再開
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010313/teac.htm

(2001年4月18日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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