Cakewalk「SONAR」日本語版 |
“digital multitrack recording software”というコピーがあるとおり、音楽制作用のレコーディングソフトなのだが、大きな注目を浴びている。そこで、このSONARを含め、最近のレコーディングソフト事情について紹介してみたいと思う。
■ 通信カラオケで広く普及したMIDIサウンド
パソコンを用いた音楽制作というと、これまでMIDIが中心となっていた。主にホビーユースのDTMではローランドのGS音源やヤマハのXG音源といったものをパソコンに接続し、MIDIシーケンスソフトを用いて曲を作っていく。プロユースにおいても事情は変わらない。音源に各ミュージシャンが好みのシンセサイザを接続して作るだけであって、ときにはGS音源やXG音源が用いられることだってある。
そして、現在ではローランドはGS音源とMIDIシーケンスソフトをセットにした「ミュージ郎」シリーズを、ヤマハはXG音源とMIDIシーケンスソフトをセットにした「Hello!Music!」シリーズを発売。DTMの2大製品としてこれまで競いあっている。これらの音源からのサウンドを聴いたことのある方ならご存じだと思うが、かなりリアルで迫力あるサウンドが鳴る。パソコンで作る音楽なんてピコピコ音だろ、などと思っている人もいまだに少なくないが、聴いただけでは、それが生楽器を演奏したものなのか、DTM音源で演奏したのか区別つかないほどである。
現在ヒットチャートにランクインするCD作品に、これらの音源で作られた音も多用されている一方、まさにDTM音源“だけ”で作られたサウンドも広く普及している。読者の方もご存知と思うが、通信カラオケのサウンドはGS音源かXG音源で演奏されているのだ。つまり、手元にDTMのシステムが揃っていれば、通信カラオケ程度のサウンドなら自分で作り出すことが可能なのである。
ところで音楽制作という世界においては、これまでMacintoshが強力なプラットフォームとなっていた。それは、プロユースにおいては現在でも変わることなく、おそらく9割以上がMacintoshという状況である。
それが、DTMとなるとWindowsが圧倒的。これは、一般のパソコンのシェアから考えても当然のことなのかもしれない。ローランドやヤマハに聞いても、DTM製品の出荷比率は8割近くがWindows用という。
■ PCベースのレコーディングはMIDIからオーディオへ
MIDIを使うのが従来のPCベースの音楽制作であったが、ここ数年で状況は大きく変わってきた。CPUの処理速度が向上したり、HDDの容量が大きくなったことにより、MIDIだけでなく、オーディオも扱えるようになってきている。
MIDIは基本的に外部に接続した音源をコントロールするだけのものだが、オーディオが扱えるようになると、これまでは入れられなかったボーカルやアコースティック楽器のサウンドが利用できるようになる。当初はMIDIシーケンスソフトを少し拡張し、ほんの数トラックのオーディオを扱う程度だったが、現在では32トラックや48トラック、さらにはそれ以上のオーディオトラックが扱えるようになった。つまり、従来用いていたマルチトラックのテープレコーダーが不要になり、完全にPCだけで完結できるようになっている。
それに伴いシーケンスソフトの勢力図も大きく変化している。従来は、前述のとおりMacintoshが強く、2~3年前までのMacintoshの4大シーケンスソフトといえば
であった。音源ではヤマハ、ローランド、コルグ、カワイといったメーカーのある日本が強いのだが、見てわかるとおりシーケンスソフトでは海外勢が圧倒的。一方のWindowsはというと、従来は以下のとおり、国内においては、日本メーカー製品が広く普及していた。
しかし、現在では状況が大きく変わった。まずVisionとレコンポーザは事実上撤退し、それ以外のメーカーはオーディオ機能を強化してきた。また、その過程でCubaseはCubaseVSTへLogicはAudioLogicと名称を変えるとともに、Windowsにも対応。そして、Singer Song Writer、XGWorksはミュージ郎やHello!Music!にバンドルされていることからもわかるように、ホビーユースのソフトとなっている。
■ プロの世界で圧倒的なシェアを握る「Pro Tools」
このように、各MIDIシーケンスソフトがオーディオ機能を追加し、強化してくる一方で、最初からオーディオ機能に特化した製品もある。その代表的存在がdigidesignの「Pro Tools」だ。なお、digidesignは現在、ノンリニアビデオ編集システムのメーカーAvid Technologyの一部門という位置づけになっている。
このPro Toolsはハードとソフトをセットにしたレコーディングのシステム。一応、MacintoshとWindowsの両方に対応しているが、やはりMacintoshが中心。とくに国内の導入事例を見れば99%Macintoshという状況だ。現在国内のほとんどのレコーディングスタジオにPro Toolsが導入されており、それがプロの世界でMacintoshが中心になっている大きな理由でもあるようだ。
ちなみに、導入するシステムにもよるが、Pro Toolsは通常200万円以上はする。というのも、Macintosh側はあくまでもコントローラであり、ほとんどの処理はPro ToolsのハードウェアにあるDSPが行なっているからだ。
このDSPによってさまざまなエフェクトをかけることができるし、その設定をMacintoshからコントロールすることもできる。また、外部に接続したミキシングコンソールを用いてフェーダーなどの操作も可能。さらに、このPro Toolsで利用できるサードパーティーのハードウェアやプラグイン形式のエフェクトソフトなどもあり、レコーディングの世界におけるデファクトスタンダードとなっている。
それに対し、CubaseVSTやAudioLogic、さらにはCakewalkといったCPUベースのオーディオレコーディングソフトが力を付けてきており、Pro Toolsに対抗しつつあるという勢力図が描ける。とくにMacintoshで動作するCubaseVSTやAudioLogicに注目するミュージシャンやレコーディングエンジニアも少なくない。
というのも、CPUが高速化された今、10万円程度で手にはいるソフトだけで、Pro Toolsに匹敵する機能を実現できるからだ。
■ Cakewalk SONARに見る、最近のレコーディングソフトの実力
画面1:Calkewalk SONAR |
以上のような機能の詳細は、またいずれ紹介していきたいと思うが、今回はその触りということで先日発表された「Cakewalk SONAR」(画面1)」(58,000円)の機能概要を見てみることにしよう。
これまでCakewalkは、「Cakewalk Pro Audio 9」という製品が最新のものであった。この名前からもわかるようにVersion9にあたる。
しかし、ユーザーの関心度も薄れつつあり、CubaseVSTやAudioLogicそしてPro Toolsに対抗するため、ユーザーインターフェイスを含め大きくシステム変更し、「Cakewalk SONAR 1.0」として登場した。
仕様的にはMIDIもオーディオもトラック数無制限であり、実際手元でPentium III 667MHzのマシンで再生させたところ、48トラックでもなんらストレスなく使うことができた。もちろん、エフェクトの利用も自由自在。DirectXプラグインに対応しているため、これまで豊富にあるライブラリを利用することもできる
また、SONARには予めリバーブ(画面2)、コラース、ディレイ、フランジャー、イコライザ(画面3)、アンプシミュレータ、コンプレッサ/リミッタ(画面4)……と23種類ものエフェクトが用意されており、それらを各トラックで自由に組み合わせて使うことも可能だ。
画面2:リバーブ設定画面 | 画面3:ローパスフィルタ | 画面4:コンプレッサ |
各トラックのレベル調整やパンの設定が1つずつできるだけでなく、曲の進行にしたがって、フェーダーを動かしそれを記憶させるといったこともサポートしている。
一方、MIDI関連も大幅に強化されている。その中心となるのが、DXi(DirectX Instruments)に対応したソフトウェアシンセサイザ機能だ。MIDIシーケンス機能としては、従来のものと大きくは変わらないが、そのサウンドの出力先が外部のGS音源やXG音源だけでなく、ソフトウェアシンセサイザに設定することが可能となった。 そして、そのソフトウェアシンセサイザが3つインストールされている。GS音源として動作するバーチャル・サウンド・キャンバス(画面5)、Moogっぽいサウンドのアナログ・フィジカル・モデリング音源DreamStation(画面6)、バーチャル・アコースティック・シンセサイザTassaman SE(画面7)の3つ。とくに後者の2つはプロのレコーディングにも十分耐えうる音源となっており、SONARのオーディオレコーディングとともに、すべてCPUベースで動かすわけだ。
画面5:バーチャル・サウンド・キャンバス | 画面6:DreamStation | 画面7:Tassaman SE |
SONARにはほかにも数多くの機能があるが、さすがにこのスペースで紹介しきれるものではない。また、いずれほかのソフトとともに紹介していきたいと思う。SONARはWindowsベースのソフトということで、すぐに国内のプロユーザーに受け入れられるとは思わないが、CubaseVST、AudioLogicとともに十分プロユースに耐えられるシステムになっている。
□関連記事
【4月24日】ローランド、DTMソフト「SONAR 日本語版」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010424/roland.htm
(2001年5月1日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp