現在、PCベースのデジタル・オーディオというと、誰もが思い浮かべるのがMP3ではないだろうか? Napsterなどによる著作権を無視した音楽のやり取りなど、アンダーグランドなイメージがある一方、手持ちのCDをエンコードしてポータブルプレーヤーで聴くなど、その利用法はさまざま。このMP3について、これから数回にわたって、オーディオ的特性などについてチェックする。
■ 非可逆圧縮のMP3
知っている方にとっては当たり前のことなのかもしれないが、まずは、MP3についてごく基礎的なことについて紹介しておこう。
MP3はMPEG-1 Audio Layer 3の略であり、ビデオCDなどで用いられている動画圧縮規格「MPEG-1」のオーディオに関する圧縮法の1つとして定められた。なぜ、オーディオ圧縮が必要なのかというと、単に非圧縮のデジタル・オーディオのデータのサイズが大きいから。たとえば、CDの規格である16ビット、44.1kHz、ステレオで3分間のデータをWindowsのwavファイルにすると30.2MBにもなる。
これをインターネットで転送するとなると、CATVやADSLなどブロードバンド化が進む現在の通信速度でもかなり大変だ。従来から使われている可逆圧縮方式「LHa」や、「Zip」を使って圧縮すればいいじゃないかと思うかもしれないが、実はこれがうまくないのだ。
実際に、前述の3分間のデータを圧縮したところ、結果はLHaで27.5MB、Zipで27.6MBと10%も圧縮されていない。そこで登場してくるのが、MP3のようなオーディオ専門の圧縮技術だ。これはLHaなどとは異なり、完全に元の形には復元することのできない非可逆型の圧縮方式であるのが特徴。つまり、特殊なアルゴリズムによってデータを間引くことによって高い圧縮率を実現しているのである。また、再生する場合も、通常はwavデータに展開せずMP3データのまま行なうという点でも有利だ。
上がWAVEファイルそのままのサイズ。下はMP3変換後(Windowsのプロパティ画面) |
MP3へ圧縮=エンコードする際に、ビットレートを設定することになるのだが、当然ながらこの値が大きいほど音質は良くなる。ただし、128kbpsを超えるとあまり音質が変わらないと言われているため、128kbpsという設定が標準的に用いられている。また、固定ビットレート(CBR)に対し、可変ビットレート(VBR)というものがある。VBRは、ビットレートを変えながら効率よく最適なデータにしていくというもの。
加えて、MP3ソフトによっては、ビットレートが同じであっても、高音質モードや高速モードというものが設けられている。さらに、エンコードエンジンによっても、当然ながらその結果は異なってくる。
MP3ソフトのパンフレットなどを見ると、「音質がほとんど損なわれることなくデータ圧縮できるMP3」などと書かれているが、今後、これがどこまで本当なのか検証していく。
■ フリーではないMP3の使用料
ここで堅い話しを少し。MP3はMPEG-1のオーディオフォーマットと説明したが、誰でもこれをフリーで利用できるというものではないようだ。
MP3に関しては、ドイツのFraunhofer IIS-AとフランスのThomson Multimediaが各種特許を取得しており、彼らはMP3利用においてライセンス料を支払うよう主張している。両社の運営するライセンスに関するホームページによると、MP3再生のためのデコーダーが1つにつき0.5ドル、エンコーダが2.5ドル、さらにMP3で音楽配信を行なった場合は1ダウンロードにつきその料金の1%、最低でも0.01ドルが必要とある。
現在WindowsにもMacintoshにもMP3を再生する機能は搭載されており、MicrosoftもAppleも両社のパートナーとなっていることを考えると、我々ユーザーもMP3を利用していなくても間接的に特許料を支払っていることになる。
Fraunhofer IIS-Aと、Thomson Multimediaがこうした特許料に関する主張をはじめたのは、2年ほど前からのこと。このことがオンラインソフトなどにも影響しはじめている。たとえば、かなり昔から存在しているフリーのエンコーダーである8hz-mp3や、国産フリーウェアで定評のある午後のこ~だなどはバイナリでの配布を中止し、ソースコードでのみの配布となっている。
また、理由は明確ではないが、市販のMP3ツールにおいても変化が出てきている。2年前まではXingのエンジンを搭載したものが圧倒的だったが、最近ではFraunhofer IIS-Aからエンジンの提供を受けているものが大半となっているのがそれだ。
当初、ドイツとアメリカでの特許であるため、日本国内における特許の有効性について疑問とする指摘もあった。しかし、ライセンスに関するホームページには、日本ですでに7つの特許が下りており、8つが申請中とある。実際、その番号を特許庁のホームページで検索すると確かに公開されている。
■ MP3ソフトも市販パッケージソフトが主流に
特許問題なども絡んできたためか、最近MP3ツールの主流はオンラインソフトから市販のパッケージソフトに移ってきている。また、オンラインソフトの場合、リッピングソフトやエンコーダ、デコーダーなどがバラバラに提供されていることが多いが、パッケージソフトはこれらが統合されているのも強みだ。さらに、CDDBへのアクセス機能があったり、ライブラリ管理機能など多機能で、価格も5,000円前後と手ごろ。
現在Windows用、Macintosh用に市販されているツールを調べてみたところ、下表のようなものがあった。現在手元にすべてのソフト、資料があるわけではないので、一部はっきりしないものもあったが、それぞれのツールで用いられているエンコーダについても掲載してみた。なお、発売日については表記しなかったが、最近発売されたもののほとんどが、Fraunhofer IISのエンジンが搭載されている。そのため、どのソフトでエンコードしても出力されるMP3ファイルは同じになるかもしれない。
とはいえ、各社独自のチューニングをしているかもしれない。もちろん、エンコーダによる違いも気になるところだ。というわけで、次回からは、これら市販のソフトを中心にエンコード結果を分析してみたいと思う。分析対象としては、異なるエンコードエンジンを搭載したソフトでの結果を見るとともに、同じソフトでもビットレートを変えたり、CBR、VBRを変更するなどしてどう違うかを見ていく予定だ。
また、その方法については、30Hz~22kHzのスイープ信号をエンコードし、その周波数特性を見ることや、実際の楽曲をエンコードして確認することなどを計画している。
●Windows版
製品名 メーカー名 エンコーダ 価格 MP3 BeatJam XX-TREAME ジャストシステム Fraunhofer IIS 4,800円 MusicMatch MP3 JUKEBOX6 住友金属システム開発 Fraunhofer IIS 4,800円 MP3 Jet-Audio2000 ノバック Fraunhofer IIS 6,800円 MP3 Studio Unreal2 ランドポート 303tek 9,800円 Audio TOYBOX ランドポート GOGO 6,800円 RealJukebox2 Plus アスキー Fraunhofer IIS 6,800円 B's Fun! Mp3 BHA GOGO 4,500円 早録MP3 ソースネクスト 7,800円 MP3 Audio Magic TDK Kenwood 6,800円 MP3 Music Collector TDK 6,800円 HyCD Play & Record 3iTechnology 8,800円 SmartJukeBox Ver2.0 NEC 独自 4,800円 THE LEGEND of MP3 アンリアル M3SE/GOGO/LAME 5,800円
●Macintosh版
製品名 メーカー名 エンコーダ 価格 MusicMatch MP3 JUKEBOX 住友金属システム開発 Fraunhofer IIS 4,800円 B's Fun! Mp3 BHA Fraunhofer IIS 9,800円 MacMP3 Version3 アクト・ツー ??????? 12,800円
(2001年5月7日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp