前回はMP3 BeatJam XX-TREAMを用い、MP3のエンコードの設定をいろいろ変更すると音がどう変わるかについて調べてみた。MP3シリーズの第3回目となる今回は、違うソフト、違うエンコーダを使うと音が違うのかについて検証してみる。
■ 128kbps以上ではあまり変わらない理由
前回、ジャストシステムのMP3 BeatJam XX-TREAMを用いて、いくつかのデータをMP3にエンコードした。MP3 BeatJam XX-TREAMにはFraunhofer IIS-Aのエンコードエンジンが搭載されており、その設定によって、ずいぶん周波数特性が変わることが確認できた。しかし、あとからちょっと足りない情報に気がついた。
それはピークだけでなく、平均を見ると双方に大きな違いがあるということ。前回、TINGARAというユニットの「夜間飛行」という曲を題材にエンコードした結果をグラフで表示したところ、ビットレートを上げていくとかなり高い音まで出ていた。ところが、平均を見ると、ピークとはずいぶん特性が異なるのだ。ここでいう平均というのは、ソフトの仕様およびマシン性能によって、曲の最後の約1、2秒なので、全体の平均ではないものの、違いははっきりとわかる。
画面1がオリジナルのデータ、画面2~8が各設定でエンコードしたデータのピークと平均である。赤い線がピーク、青い線が平均を意味している。
【画面1:オリジナルデータ】 | 【画面2:128kbps(高速)】 | 【画面3:128kbps(高品質)】 |
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【画面4:128kbps(標準)】 | 【画面5:160kbps(高速)】 | 【画面6:192kbps(高速)】 |
---|---|---|
【画面7:320kbps(高速)】 | 【画面8:96kbps(高速)】 |
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これらのグラフを見てわかるのは、128kbpsを超えるとピークは高い周波数までしっかりと出ているもの、平均では16kHz以上ほとんど出ていないということ。よくMP3は128kbps以上に設定してもほとんど音は変わらないと言われているが、そうしたことがこのグラフからもわかる。
192kbps、320kbpsのビットレートでのエンコードにスイープ信号を与えれば、確かに高音まで出すが、普通の音楽をエンコードすると高音部分はほとんど切ってしまっていたわけだ。
■ デンコードエンジン間の違いを見るために
さて、ここからが本題。今回はソフトや、エンコーダによって音が違うのかについて検証する。題材は前回との比較ができるように、TINGARAの「夜間飛行」を用いる。また、それ以外には1kHzのサイン波、20Hz~22.5kHzのスイープ信号を用意した。前回はこのほかにピンクノイズ、ピンクノイズと1kHzの信号をミックスしたものも使ったが、音楽データでの違いほど、はっきりした違いがわからなかったので、今回は割愛した。
ここで取り上げるソフトは、以下の4本だ。
製品名 | MusicMatch MP3 JUKEBOX6 |
MP3 Studio Unreal2 |
Audio TOYBOX |
早録MP3 |
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メーカー名 | 住友金属システム開発 | ランドポート | ランドポート | ソースネクスト |
エンコーダ | Fraunhofer IIS | 303tek | GOGO | |
標準価格 | 4,800円 | 9,800円 | 6,800円 | 7,800円 |
購入価格 | 3,780円 | 7,350円 | 5,440円 | 5,900円 |
価格が結構違うが、これは性能の差というよりも発売時期の差といったほうがいいかもしれない。実際、最新ソフトである「MusicMatch MP3 JUKEBOX6」では、バージョンアップを繰り返すごと価格を安くしてきている。
エンコーダの項目を見てもらうとわかるが、それぞれ違うエンジンを使用している。また、MusicMatch MP3 JUKEBOX6のみが、前回のMP3 BeatJam XX-TREAMと同じFrounhofer IIS-Aのエンジンを用いている。というのも、エンジンが同じでもチューニングに差があるかもしれないと思い、参考までに取り上げてみた。
303tekはMP3 Studio Unreal2を開発したメーカーで、国内にあるソフトハウス。またAudio TOYBOXに搭載されているGOGOエンジンというのは、フリーウェアとしても有名な「午後のこ~だ」のエンジンである。ちなみに、午後のこ~だそのものは、Fraunhofer IIS-A、THOMSON Multimediaの特許問題により、現在バイナリコードでの配布は中止されており、ソースコードのみしか手に入らないようになっている。
そして早録MP3に搭載のXingは以前、多くのソフトに搭載されていたエンジンで、最近あまり見かけなくなってきた。このソフト自体、1年半前に発売されて以来、新バージョンは登場していないようである。
■ 基本的にはデフォルトの設定でエンコード
さて、さっそくエンコードを行なった。前回のMP3 BeatJam XX-TREAMと比較するため固定ビットレートの128kbps、それ以外の設定は基本的にデフォルトに従うことにした。また、あまり比較するものが多すぎるとわかりづらくなりそうだったので、この設定のみとした。
念のため、各設定画面を確認しておこう。MusicMatch MP3 Jukebox6ではファイル変換画面において、ビットレートのみ設定できるようになっていたので、これを128kbpsにしている。MP3 Studio Unreal2はデフォルトでは可変ビットレート(VBR)になっていたが、これを128kbpsに設定した。また設定画面を見ると、「Joint Stereo」になっていたのが、前回すべてこの設定は行わなかったので、これのみ「Stereo」に変更。
MusicMatch MP3 Jukebox6では、ビットレートのみ設定できるようになっていたので、128kbpsに設定 | MP3 Studio Unreal2のデフォルトは、可変ビットレート(VBR)になっていたが、これを128kbps(CBR)に設定した。さらに、「Joint Stereo」になっていたので、「Stereo」に変更 |
そして、ちょっと気になったのが、AudioTOYBOX。おそらくスピードアップのためだと思うが、デフォルトではローパスフィルタがオンになっていた(。これではやはり高音が最初からカットされてしまうので、デフォルトの場合とオフにしたものと2種類をそれぞれテストしてみることにした。また、せっかくなので、ローパスフォルタをオフにするとともに、「心理音響モデル演算を行なう」にもチェックをいれてみた。
4つ目の早録MP3は、ビットレートの設定とともに、現在インストールされているエンコーダを選択することができ、Xingのエンジン以外にFrounhofer IISも現れたが、ここでは当然Xingを選択した。
AudioTOYBOXでは、スピードアップのためだにデフォルトではローパスフィルタがオンになっていた | 早録MP3は、現在インストールされているエンコーダも選択することができ、Xingのエンジン以外にFrounhofer IISも現れた。もちろんXingを選択した |
■ エンコードエンジンによって、特性はかなり違う
上記の設定で、各WAVファイルをエンコードしてMP3ファイルを生成し、それをSoundForge5.0を用いてWAVファイルへと変換。これを、例によってefu氏のフリーウェア、WaveSpectraで分析することにした。 まずは、音楽データから。冒頭のものと繰り返しになるが、オリジナルのものと、MP3 BeatJam XX-TREAMで128kHz高速モードでエンコードしたものとともに、今回の5つの結果を並べてみたがいかがだろうか(画面17~23)。また、実際の音もダウンロードできるようにしているので、興味があったら聞き比べてみると面白い。前回同様、曲の最初の部分のピアノと重なっている音を比べてほしい。
【オリジナルデータ】 | 【BeatJam XX-TREME】 | 【JUKEBOX6】 |
---|---|---|
WAVファイル 約7.57MB(original.wav) |
MP3ファイル 約704KB(128khs.mp3) |
MP3ファイル 約704KB(juke.mp3) |
【Unreal2】 | 【早録MP3】 |
---|---|
MP3ファイル 約704KB(unreal2.mp3) |
MP3ファイル 約704KB(haya.mp3) |
【Audio TOYBOX(ローパスOFF)】 | 【Audio TOYBOX(デフォルト)】 |
---|---|
MP3ファイル 約704KB(toybox.mp3) |
MP3ファイル 約704KB(toyboxd.mp3) |
あくまでも個人的な感想ではあるが、この曲の先頭を聞き比べた感じでは、いちばんよかったのが、早録MP3、次にMP3 JukeboxかAudioTOYBOXをローパスフィルタオフにしたもの、ちょっと落ちてそのデフォルトモード、いちばん妙な音になっていたのがUnreal2。みなさんはどう感じられただろうか。
また、MP3 Jukeboxの音とMP3 BeatJam XX-TREMEの音はほぼ同じに感じられた。これはグラフをみてもそっくりである。
(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/
■ スイープデータと1kHzでのS/N、THDについてもチェック
そして、もう1つ見ておきたいのがスイープデータの結果。音楽のときのピークや平均とちょっと結果が違うのが興味深い。
以下のグラフがオリジナルとMP3 BeatJam XX-TREMEを含めて比較した結果だ。これをみると、MP3 Unreal2およびAudioTOYBOXのローパスフィルターをオフにした状態ではいずれもほぼすべての音域で減衰はなく、しっかり音が出ている。ただし、これがそのまま音質を意味するわけではないことは、先ほどの音楽データを通した結果を見れば明らかだ。つまり、MP3は単に高音さえ出ればいいというものではないことがはっきりわかる。
【オリジナルデータ】 | 【BeatJam XX-TREME】 | 【JUKEBOX6】 |
---|---|---|
【Unreal2】 | 【早録MP3】 |
---|---|
【Audio TOYBOX(ローパスOFF)】 | 【Audio TOYBOX(デフォルト)】 |
---|---|
さらに、もう1つ見ておきたいのが1kHzのサイン波をエンコードした結果からわかるS/NやTHDだ。これについても以下のグラフで比較して欲しい。
【オリジナルデータ】 | 【BeatJam XX-TREME】 | 【JUKEBOX6】 |
---|---|---|
【Unreal2】 | 【早録MP3】 |
---|---|
【Audio TOYBOX(ローパスOFF)】 | 【Audio TOYBOX(デフォルト)】 |
---|---|
以上、今回は4つのソフトを取り上げてみたがいかがだっただろうか? エンコーダが異なると、やはりその結果の音はだいぶ違うということがわかったと思う。次回は、さらに特殊なエンコーダを取り上げる。
(2001年5月21日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp