最初にMP3 BeatJam XX-TREAMを使い、前回はMusicMatch MP3 Jukebox、AudioTOYBOX、MP3 Studio Unreal2、早録MP3の4本をチェックしてみた。MP3シリーズの第4回目となる今回は、その他のちょっと変わったソフト3本を取り上げる。
■ 特殊なエンコーダを採用した3つのソフト
前回までに計5本の市販のMP3パッケージソフトを用い、エンコードした結果を比較してみたところ、エンコーダによってずいぶん特性が異なり、また実際に音を聴いても違いが出てくることがわかった。
今回も、またその続きということで、別のソフトを使って同じ実験を行なってみたいと思う。今回とりあげるソフトは以下の3つだ。いずれも、エンコーダエンジンにちょっと特殊なものを用いている。
製品名 | THE LEGEND of MP3 |
MP3 Audio Magic |
SmartJukeBox Ver2.0 |
---|---|---|---|
メーカー名 | アンリアル | TDK | NEC |
エンコーダ | M3SE/GOGO/LAME | Kenwood | NEC |
標準価格 | 5,800円 | 6,800円 | 4,800円 |
購入価格 | 4,350円 | 5,100円 | 3,980円 |
特にTHE LEGEND of MP3の場合、MP3のエンコーダだけで3種類も搭載しており、それぞれのエンジンを使ってのエンコードが可能となっている。M3SEは元々wata-ken氏が作成したM3eというフリーウェアのエンコーダ(現在は配布中止)を株式会社アストラザスタジオが商用化したもの。またGOGOは前回もAudioTOYBOXでも採用されていた「午後のこ~だ」、そしてLAMEはLAMEコミュニティが開発するGNUプロダクトだ。
ちなみにGOGOもLAMEの仲間であり、ここから派生したエンコーダだ。なお、現在はGOGOもLAMEもソースコードのみでの配布であり、バイナリでの配布は行っていない。
また、THE LEGEND of MP3を最新版のアップデータを用いて1.5というバージョンにしたところ、各エンコーダのバージョンは、以下のようになっていた。
TDKのMP3 AudioMagicは、オーディオメーカーであるKenwoodが開発したエンコーダを搭載しているということが目をひく。詳しくは次回触れる予定であるが、このソフトはSupreme/D.R.I.V.E.というテクノロジーを用いたデコーダを搭載しているのが売りとなっている。
SmartJukeBoxに関しての詳細はわからなかったが、エンコーダはNEC独自開発のものを用いている。このソフトはMP3よりもAACのエンコードの評価が非常に高いのだが、それについては、またいずれ取り上げてみたいと思う。
■ さっそく試聴してみよう
では、さっそく試聴してみよう。試聴の素材は前回と同じ。TINGARAの「夜間飛行」の中の45秒だ。早速、今回の3種類のソフトでのエンコードも、デフォルトの設定で行なおうとした。が、デフォルトでは、ジョイントステレオになっていたり、ローパスフィルターが効いているなどしていたので、これまでのテスト条件となるべく同じになるようにした設定を変更。特にTHE LEGEND of MP3ではかなり変更している。
もちろん、THE LEGEND of MP3ではM3SE、GOGO、LAMEのそれぞれの設定を使っているが、各設定状態は画面のとおりだ(画面1~3)。また、MP3 AudioMagic、SmartJukeBoxも画面4、画面5のとおりに設定した。
【画面4】MP3 AudioMagicの設定画面。高品質モードに設定 | 【画面5】SmartJukeBoxの設定画面。128kbpsに設定 |
こうしてできた、MP3ファイルを一旦SonicFoundryのSoundForge5.0(デコーダはFraunhofer IISが搭載されている)を用いて、WAVファイルに変換。それをefu氏のフリーウェア、WaveSpectraを使って、分析した結果が、以下のグラフだ。オリジナルのWAVデータの波形と比較することで、その違いが視覚的にわかるだろう。
グラフの見方は前回と同じであるが、赤い線がピーク値、青い線がラスト数秒の平均値である。いずれも、オリジナルとはずいぶん違うし、それぞれの結果も違う。ぜひ、その違いを聴き比べていただきたい。
今回も、私個人の感想をいうと、LAMEがいちばんオリジナルに近い感じで、もっとも遠かったのがMP3 AudioMagic、その他の3つは比較的似た感じに思えた。
【オリジナルデータ】 | 【THE LEGEND of MP3(M3SE)】 | 【THE LEGEND of MP3(GOGO)】 |
---|---|---|
WAVファイル 約7.57MB(original.wav) |
MP3ファイル 約704KB(m3se.mp3) |
MP3ファイル 約704KB(gogo.mp3) |
【THE LEGEND of MP3(LAME)】 | 【MP3 AudioMagic】 | 【SmartJukeBox】 |
---|---|---|
MP3ファイル 約704KB(lame.mp3) |
MP3ファイル 約704KB(magic.mp3) |
MP3ファイル 約704KB(smart.mp3) |
(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/
■ スイープデータによる高域の比較
前回同様、20Hzから22.05kHzまで連続的に変化していく120秒のサイン波でできた、-10dBのスイープデータを、先ほどの「夜間飛行」でエンコードしたのと同じ設定でMP3にエンコード。どこまでの音が出ているかも比較した。
前回でもすでにわかっていたが、高域までフラットに出ていれば必ずしもいいエンコーダであるとはいえない。一般のオーディオ機器の場合、これが大きな意味を持つが、MP3は不可逆圧縮のため、単調なサイン波ですべてを語ることができないのだ。複雑な周波数成分を持つ音楽をエンコードすると、先ほどのように結果は大きく変わってくる。
とはいえ、単調なサイン波で高音まで出せるものと16kHzあたりまでしか出ないものがあることは確かだ。この結果を見ると、THE LEGEND of MP3のLAMEとSmart JukeBoxの2つが16kHz以上がカットされており、それ以外はほぼフラットな出力となっていた。
【オリジナルデータ】 | 【THE LEGEND of MP3(M3SE)】 | 【THE LEGEND of MP3(GOGO)】 |
---|---|---|
【THE LEGEND of MP3(LAME)】 | 【MP3 AudioMagic】 | 【SmartJukeBox】 |
---|---|---|
■ S/NおよびTHDで、各エンコーダを比較
そして、もう1つの実験がS/NとTHDの測定だ。これを1kHzだけに限定しては、正確な比較はできないだろうが、とりあえず参考値としてみてほしい。
実験方法は、やはり-10dBで1kHzのサイン波を作り、これを各MP3エンコーダでMP3に変換。それをWAVにして、WaveSpectraを用いて周波数の解析をしている。MP3化すると違う成分の周波数もいろいろまじってくる。これがノイズであったり、歪みであったりするわけだが、それをWaveSpectraではTHD、S/Nという形で数値化してくれる。それぞれの結果が以下のグラフだ。
【オリジナルデータ】 | 【THE LEGEND of MP3(M3SE)】 | 【THE LEGEND of MP3(GOGO)】 |
---|---|---|
【THE LEGEND of MP3(LAME)】 | 【MP3 AudioMagic】 | 【SmartJukeBox】 |
---|---|---|
また、この画像クリックして表示される画面写真の左側にTHD、S/Nが表示されているのが確認できるだろう。この数値を前回のものも含めて以下の表にしてみた。MP3 Unreal2がちょっと低い結果になっている以外は、それほど大きくは違わないようことがわかる。
製品名 | エンコーダ | THD(%) | S/N(dB) |
---|---|---|---|
MP3 BeatJam XX-TREAM | Fraunhofer IIS | 0.00035 | 85.61 |
MusicMatch MP3 Jukebox 6 | Fraunhofer IIS | 0.00036 | 85.67 |
MP3 StudioUnreal 2 | 303TEK | 0.00188 | 67.54 |
Audio TOYBOX | GOGO | 0.00050 | 82.68 |
早録MP3 | 0.00042 | 85.37 | |
MP3 AudioMagic | Kenwood | 0.00054 | 82.61 |
Smart JukeBox Ver2.0 | NEC | 0.00055 | 83.86 |
THE LEGEND of MP3 | LAME | 0.00051 | 83.80 |
THE LEGEND of MP3 | M3SE | 0.00036 | 84.51 |
THE LEGEND of MP3 | GOGO | 0.00057 | 82.84 |
以上、市販のMP3ソフトのエンコーダの性能について、いろいろと実験してきたが、いかがだっただろうか? 設定によっても音は変わるし、エンコーダが異なるとまた、だいぶ違ってくことがおわかりいただけると思う。ただ、こうして出したグラフなどはある程度参考にはなっても、はっきりとどれがいいのかを判別するのはなかなか難しい。また、軽く聴いている分には、どのエンコーダであっても、違いは気にならない程度であることも確かだ。
あとは、自分の耳だけが頼り。それなりにいいサウンドでMP3ファイルを生成するためには、ここに示したグラフとともに、音を聴いてみて、自分の好みのエンコーダ、設定を探してみるといいだろう。
(2001年5月28日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp