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第12回:パッケージソフト全盛時代の「現代MP3事情」


~その4:毛色の変わったエンコードエンジンを試す~


 最初にMP3 BeatJam XX-TREAMを使い、前回はMusicMatch MP3 Jukebox、AudioTOYBOX、MP3 Studio Unreal2、早録MP3の4本をチェックしてみた。MP3シリーズの第4回目となる今回は、その他のちょっと変わったソフト3本を取り上げる。


■ 特殊なエンコーダを採用した3つのソフト

 前回までに計5本の市販のMP3パッケージソフトを用い、エンコードした結果を比較してみたところ、エンコーダによってずいぶん特性が異なり、また実際に音を聴いても違いが出てくることがわかった。

 今回も、またその続きということで、別のソフトを使って同じ実験を行なってみたいと思う。今回とりあげるソフトは以下の3つだ。いずれも、エンコーダエンジンにちょっと特殊なものを用いている。

製品名
THE LEGEND of MP3

MP3 Audio Magic

SmartJukeBox Ver2.0
メーカー名 アンリアルTDKNEC
エンコーダM3SE/GOGO/LAMEKenwoodNEC
標準価格5,800円6,800円4,800円
購入価格4,350円5,100円3,980円
表中の購入価格は、AV Watch編集部が5月14日に店頭で購入した価格です。
編集部では、個別のメールや電話でのお問い合わせにはお答えいたしかねます。

 これまでも解説してきたように、多くの著名ソフトはMP3の各種特許をドイツのFraunhofer IIS-Aおよび、フランスのTHOMSON Multimediaが押さえているなどの理由もあって、Frounhofer IISエンコーダを用いている。それに対し、今回とりあげるいずれのソフトも、異なるエンジンを搭載しているのが特徴だ。

 特にTHE LEGEND of MP3の場合、MP3のエンコーダだけで3種類も搭載しており、それぞれのエンジンを使ってのエンコードが可能となっている。M3SEは元々wata-ken氏が作成したM3eというフリーウェアのエンコーダ(現在は配布中止)を株式会社アストラザスタジオが商用化したもの。またGOGOは前回もAudioTOYBOXでも採用されていた「午後のこ~だ」、そしてLAMEはLAMEコミュニティが開発するGNUプロダクトだ。

 ちなみにGOGOもLAMEの仲間であり、ここから派生したエンコーダだ。なお、現在はGOGOもLAMEもソースコードのみでの配布であり、バイナリでの配布は行っていない。

 また、THE LEGEND of MP3を最新版のアップデータを用いて1.5というバージョンにしたところ、各エンコーダのバージョンは、以下のようになっていた。

 GOGOエンジンは、4月末に最終版である2.35を発表し、今後開発を行なわないことが表明されている。

 TDKのMP3 AudioMagicは、オーディオメーカーであるKenwoodが開発したエンコーダを搭載しているということが目をひく。詳しくは次回触れる予定であるが、このソフトはSupreme/D.R.I.V.E.というテクノロジーを用いたデコーダを搭載しているのが売りとなっている。

 SmartJukeBoxに関しての詳細はわからなかったが、エンコーダはNEC独自開発のものを用いている。このソフトはMP3よりもAACのエンコードの評価が非常に高いのだが、それについては、またいずれ取り上げてみたいと思う。



■ さっそく試聴してみよう

 では、さっそく試聴してみよう。試聴の素材は前回と同じ。TINGARAの「夜間飛行」の中の45秒だ。早速、今回の3種類のソフトでのエンコードも、デフォルトの設定で行なおうとした。が、デフォルトでは、ジョイントステレオになっていたり、ローパスフィルターが効いているなどしていたので、これまでのテスト条件となるべく同じになるようにした設定を変更。特にTHE LEGEND of MP3ではかなり変更している。

 もちろん、THE LEGEND of MP3ではM3SE、GOGO、LAMEのそれぞれの設定を使っているが、各設定状態は画面のとおりだ(画面1~3)。また、MP3 AudioMagic、SmartJukeBoxも画面4、画面5のとおりに設定した。

【画面1】THE LEGEND of MP3のM3SEエンジンの設定画面。かなり詳細な設定が可能。 【画面2】THE LEGEND of MP3のGOGOエンジンの設定画面。全てのオプションをオフにして、固定ビットレート、最高品質に設定した

【画面3】THE LEGEND of MP3のLAMEエンジンの設定画面。ジョイントステレオをステレオに変更し、固定ビットレート、normal qualityに設定した

【画面4】MP3 AudioMagicの設定画面。高品質モードに設定

【画面5】SmartJukeBoxの設定画面。128kbpsに設定

 こうしてできた、MP3ファイルを一旦SonicFoundryのSoundForge5.0(デコーダはFraunhofer IISが搭載されている)を用いて、WAVファイルに変換。それをefu氏のフリーウェア、WaveSpectraを使って、分析した結果が、以下のグラフだ。オリジナルのWAVデータの波形と比較することで、その違いが視覚的にわかるだろう。

 グラフの見方は前回と同じであるが、赤い線がピーク値、青い線がラスト数秒の平均値である。いずれも、オリジナルとはずいぶん違うし、それぞれの結果も違う。ぜひ、その違いを聴き比べていただきたい。

 今回も、私個人の感想をいうと、LAMEがいちばんオリジナルに近い感じで、もっとも遠かったのがMP3 AudioMagic、その他の3つは比較的似た感じに思えた。

【オリジナルデータ】 【THE LEGEND of MP3(M3SE)】 【THE LEGEND of MP3(GOGO)】
WAVファイル
約7.57MB(original.wav)
MP3ファイル
約704KB(m3se.mp3)
MP3ファイル
約704KB(gogo.mp3)

【THE LEGEND of MP3(LAME)】 【MP3 AudioMagic】 【SmartJukeBox】
MP3ファイル
約704KB(lame.mp3)
MP3ファイル
約704KB(magic.mp3)
MP3ファイル
約704KB(smart.mp3)
編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)

□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/


■ スイープデータによる高域の比較

 前回同様、20Hzから22.05kHzまで連続的に変化していく120秒のサイン波でできた、-10dBのスイープデータを、先ほどの「夜間飛行」でエンコードしたのと同じ設定でMP3にエンコード。どこまでの音が出ているかも比較した。

 前回でもすでにわかっていたが、高域までフラットに出ていれば必ずしもいいエンコーダであるとはいえない。一般のオーディオ機器の場合、これが大きな意味を持つが、MP3は不可逆圧縮のため、単調なサイン波ですべてを語ることができないのだ。複雑な周波数成分を持つ音楽をエンコードすると、先ほどのように結果は大きく変わってくる。

 とはいえ、単調なサイン波で高音まで出せるものと16kHzあたりまでしか出ないものがあることは確かだ。この結果を見ると、THE LEGEND of MP3のLAMEとSmart JukeBoxの2つが16kHz以上がカットされており、それ以外はほぼフラットな出力となっていた。

【オリジナルデータ】 【THE LEGEND of MP3(M3SE)】 【THE LEGEND of MP3(GOGO)】

【THE LEGEND of MP3(LAME)】 【MP3 AudioMagic】 【SmartJukeBox】


■ S/NおよびTHDで、各エンコーダを比較

 そして、もう1つの実験がS/NとTHDの測定だ。これを1kHzだけに限定しては、正確な比較はできないだろうが、とりあえず参考値としてみてほしい。

 実験方法は、やはり-10dBで1kHzのサイン波を作り、これを各MP3エンコーダでMP3に変換。それをWAVにして、WaveSpectraを用いて周波数の解析をしている。MP3化すると違う成分の周波数もいろいろまじってくる。これがノイズであったり、歪みであったりするわけだが、それをWaveSpectraではTHD、S/Nという形で数値化してくれる。それぞれの結果が以下のグラフだ。

【オリジナルデータ】 【THE LEGEND of MP3(M3SE)】 【THE LEGEND of MP3(GOGO)】

【THE LEGEND of MP3(LAME)】 【MP3 AudioMagic】 【SmartJukeBox】

 また、この画像クリックして表示される画面写真の左側にTHD、S/Nが表示されているのが確認できるだろう。この数値を前回のものも含めて以下の表にしてみた。MP3 Unreal2がちょっと低い結果になっている以外は、それほど大きくは違わないようことがわかる。

製品名エンコーダTHD(%)S/N(dB)
MP3 BeatJam XX-TREAMFraunhofer IIS0.0003585.61
MusicMatch MP3 Jukebox 6Fraunhofer IIS0.0003685.67
MP3 StudioUnreal 2303TEK0.0018867.54
Audio TOYBOXGOGO0.0005082.68
早録MP3XING0.0004285.37
MP3 AudioMagicKenwood0.0005482.61
Smart JukeBox Ver2.0NEC0.0005583.86
THE LEGEND of MP3LAME0.0005183.80
THE LEGEND of MP3M3SE0.0003684.51
THE LEGEND of MP3GOGO0.0005782.84

 以上、市販のMP3ソフトのエンコーダの性能について、いろいろと実験してきたが、いかがだっただろうか? 設定によっても音は変わるし、エンコーダが異なるとまた、だいぶ違ってくことがおわかりいただけると思う。ただ、こうして出したグラフなどはある程度参考にはなっても、はっきりとどれがいいのかを判別するのはなかなか難しい。また、軽く聴いている分には、どのエンコーダであっても、違いは気にならない程度であることも確かだ。

 あとは、自分の耳だけが頼り。それなりにいいサウンドでMP3ファイルを生成するためには、ここに示したグラフとともに、音を聴いてみて、自分の好みのエンコーダ、設定を探してみるといいだろう。

(2001年5月28日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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