“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第16回:ナナオ神話は健在か? 「FlexScanL461」をネット買い!
|
■ 読者の平均的モニタ環境
先日PC Watchにおいて「読者環境調査」が行なわれた。もう結果はご覧になっただろうか。さすがにWatch読者だけあって、CPUのレベルやメモリ量などは市場に対してリニアに対応しているのがわかる。おそらくパソコン本体の読者平均は「一般のパソコンユーザー像」よりも随分とハイスペックであろうと思われる。
ところが過去の調査結果からの推移を見て逆の意味で驚くのは、ディスプレイ環境の変化の無さだ。'99年5月に行なわれた最初の読者環境調査でトップであった17インチCRTが、2年経った現在でもトップのままである。率は10%ほど下げてはいるが、その大部分はそのまま19インチCRTに移ったと見ていいだろう。つまりほとんどの読者は、ディスプレイは2年前から買い換えていないということが読みとれる。通常古いものをリプレースする場合は、1ランク上のものを選ぶだろうからだ。
一方解像度に関しては、'99年の時点ではビデオカードのメモリ量やチップの性能から考えて17インチで妥当な「~1,024×768ドット」がもっとも多く、ついで「~1,280×1,024ドット」が僅差に付けている。現在までディスプレイに変化がないためこの傾向は変わらないが、最新の調査では「~1,280×1,024ドット」が「~1,024×768ドット」と並ぶまでになっている。同じディスプレイを使っていても、解像度は1ランク上げていると考えてもいいだろう。つまり、モニタを買い換えるほどではないが、やはり画面は狭く感じてきているということである。
筆者がよく使うソフト、「Lightwave3D」。ダイアログを出したままでも作業を続行できるのは便利だが、メイン画面が見えなくなる |
しかし実際に17インチCRTで1,280×1,024ドットという解像度は、辛くないだろうか。筆者も17インチCRTを持っているが、文字を読むのに現実的な解像度という意味では、1,152×864ドットぐらいが限界ではないかと思っている。
■ 値下がりの激しい「FlexScan L461」
でも、ディスプレイを買い換えるのに必要なエネルギーが生まれない気持ちはわかるような気がする。CPUやビデオチップの革新性に比べると、ディスプレイというのは今ひとつ劇的な技術革新が現われにくく、1年で突然性能2倍値段半額とかになったりしない。さらに言えば現状のものでも使えないわけではないし、ディスプレイ代えたらマシンが速くなった、ということもない。しかもパソコン買うとディスプレイなんてタダで付いてきたりもする昨今である。
しかしここに、
という不動産広告のような条件が提示されたらどうだろう。そういうモニタが、EIZO の液晶カラーディスプレイ「FlexScan L461」なのである。EIZOはナナオのユニバーサルブランドだ。
グラフィックスをやる人間の間では、「モニタはナナオ」と決めている人が多い。ここでいうモニタとは、CRT方式、つまりブラウン管型のことである。実際にナナオのモニタは解像度の高さや発色の良さ、キャリブレーションの細かさなどで、非常に使いやすいCRTモニタを作り続けていた。また同時にハイエンドな液晶ディスプレイも早くから着手している。
この液晶ディスプレイ「FlexScan L461」は既に3月から発売が開始されており、各メディアでもニュースやレポートなどで取り上げられているのに、それをなぜ今更と思われるかもしれない。しかし今だからこそ値段的にこなれてきて、まさにいい具合で買い時なのである。ショップ店頭での実売価格はまだまだ8万円半ばから8万円後半で粘っているところだが、インターネットで通販ショップを調べてみると、既に7万円後半まで下がっている。
16インチモニタで解像度1,280×1,024ドット、DVI-I入力対応のEIZOブランド品が7万円後半なら、悪くない。そう思って筆者は展示品の実物をじっくり見たあと、ネット通販で購入した。
■ 購入! 大満足ぅ...う?
17インチCRTと並べてみても、面積大きさは遜色ない |
|
届いたディスプレイを17インチCRTと並べてみると、16インチといっても表示面積はほとんど変わらない。
CRTの実測サイズはディスプレイガラス面のサイズである。表示エリアはこれよりも5mmほど内側に入る事になるが、そのあたりはユーザーが自由に調整できてしまうので計測対象外とした。一方液晶ディスプレイはパネル面のわずか1mm程度内側に表示される程度で、この表示エリアは固定である。
液晶ディスプレイの特徴として、表示性能をフルに発揮させるためには、解像度をピクセル通りに固定しなければならない。このL461は1,280×1,024ドットで表示すべきもので、その他の解像度はピクセルを補間した疑似表示になる。
ピクセル補間ではとうてい高い認識性は期待できないので、もう1,280×1,024以外では使えないと思った方がいいだろう。CRTディスプレイがスペックが許す限り自由に解像度を変えてそこそこ綺麗に映るのとは根本的に違う。
筆者は今までこの17インチディスプレイで、解像度1,152×864ドットで使用してきた。いくら液晶ディスプレイとは言え、同じ面積で1,280×1,024ドットで字が読めるのかといぶかったが、文字はちょい小さいかなと思うぐらいで、認識性はばっちり。右よしっ! 左よしっ! 問題なしっ! と思われたその瞬間、ん? んん?
■ 気になり始めると止まらない!
フェーズがズレた状態。横方向にモアレが出る | フェーズを調整した状態。モアレは出ていない |
ビデオカードはグラフィックスチップに「GeForce2 GTS」を搭載した、カノープスの「Spectra8400」を使って、アナログ接続した。確かに液晶ディスプレイだけあって、ハイコントラストなのだが、な~んかこう、文字にゴーストが乗っているような……。なんとなくいやぁな空気が流れ始めちゃった感じである。
これは調整が甘いのかもしれないと思い、付属の調整ユーティリティを使ってみる。あら、なんと全然ズレてるではないか。
このディスプレイ、どうもAUTOボタンを押したぐらいじゃ調整が追いつかないようだ。特に「フェーズ」の調整が非常にシビアで、数値を1つ変えただけでもう適正値から外れてしまうのである。なるほど、これが原因か?
しかしちゃんと調整しても、どうも文字がにじんで見える感じは収まらない。あれっ、オレってこんなに目が悪かったっけ? という感じの微妙なぼけ具合なのだ。
いや実は筆者のディスプレイ設置環境というのは、アナログ接続には非常に辛い状況なのである。ディスプレイ台と机を兼ねて、ホームエレクタという金属製の棚を使っており、そこにはディスプレイばかりではなくAVアンプやスピーカ、VTRデッキなどが積み上げられている。筆者はこれを「電子の要塞」と呼んでいるのだが、家人は「ヲタクの檻」などと失敬な事を言う。この巨大金属棚+電子機器の山が、アナログ高周波の伝送に悪影響を与えていると思われるのだ。
ケーブルの這わせ経路とかコンセント位置とかいろいろ変えて試してみたが、状況はこれ以上改善しない。気にしなければ実用範囲ではあるのだが、こう言うのって一度見つけてしまうとヒジョーに気になるのである。こう言う人は多かろう。1週間ほど我慢して使ってみたが、イライラ感がつのるばかりである。
やはり液晶ディスプレイは、デジタルで入力しないと威力が発揮できないってことなのか。そうかそうかオレに挑戦してるのか。
■ デジタル接続ってすげえ
DVI-I端子。左の4つのピンとその仕切りの金属部分でアナログ信号も伝送する |
さっそくデジタルによる表示に切り替えてみると、おおっ! あれほど悩まされていた文字のにじみがウソのように消えてなくなったではないか。うわマジっスかこれ。DVI-IケーブルはEIZOの純正品を使いたいところだが、これは高いので市販品を使っている。それでも全然大丈夫だ。デジタルによる伝送は、アナログにとってきびしい条件下であっても、そのメリットを発揮するのである。
そーかそーか、このテストをしてみて、はっきりわかった。液晶ディスプレイは、デジタル接続しなければ何の意味もないことが。もし液晶ディスプレイを持ちながら、かつDVI端子がありながらそれを使ってないという人がいたら、これを読んだ瞬間アキバに走るかネットに潜るかして、DVI対応ビデオカードを購入すべきだ。オレは今までいったい何を見てきたのだ、うわーんオレのバカバカ、となること請け合いである。
ただ画面の切れが異常にいいので、文字がずいぶん痩せて見えるのには驚いた。白地に黒文字という普通の画面では、ディスプレイの輝度を40%ぐらいにまで下げないと、白地の発色に負けて見にくくなってしまうのだ。今後ノートパソコンの普及と合わせて、DVI接続による液晶ディスプレイ一般化したら、フォントの改良が必要になるかもしれない。
アナログ表示状態のモニタ接写。肉眼では文字がにじんで見える | デジタル表示状態のモニタ接写。肉眼では文字のにじみはない |
■ あっ、もう1個見つけちゃった
全面白を表示させると、輝度の差は全くないのだが…… | 映像を表示すると、若干上部が濃い。肉眼で見てもだいたいこんな感じだ |
もう1点気になるところを見つけてしまった。このディスプレイ、画面の上から下にかけて、若干彩度に変化があるのだ。個体差もあるだろうが、筆者のものは上に行くほどグラデーション的に少しずつ濃くなるのである。まさか蛍光管が切れているということはないだろうが、どうも液晶の視野角の差でこうなってしまうようなのだ。スペックでは、視野角上下130度、左右160度(CR≧5)とあるが、視野角は純粋に白と黒の輝度のコントラスト比でしか計測しないので、スペック的にはこの数値通りなのだろう。しかし色を乗せてみると、明らかに均一には見えないのである。このあたりもスペックだけではなかなかわからないところだ。
ディスプレイを若干下に向けてみるとほぼ均等に見えるが、いつもこの状態で見ているわけにも行かない。これも実用上はあまり問題ないのだが、気にし始めると気になるのである。
また中央部でも常に正面から見ていないと、ちょっと上から見ただけで彩度がかなり変化する。もちろん見る角度で見え方が変化するのは構造上当然なのは知っているが、それにしても変化率が非常に大きいのだ。コントラストの変化は少ないが、ほんの10度ほど傾けただけで変わる。極端な話、首を上下に振っただけで色が違うのである。 どこかへ行くたびに他の液晶でディスプレイを気にして見ているのだが、割と高級モデルの液晶ではそう言う現象は起こらないみたいなのだ。くぅー、やっぱりそこは値段分なのか? そこが妥協点だったのか?
■ 総論
ディスプレイのナナオといえば、多少値は張ってもいいものを買いたいというグラフィックスユーザーのニーズをがっちり受け止めていたメーカーである。しかし時代の波というか、そう贅沢ばかりも言ってられないというか、廉価なディスプレイも製造して他社と競争していかなければなければならないシビアな状況もあるだろう。
「FlexScanL461」は、16インチ液晶でこの解像度、この値段は確かに手応えがある。価格でいえばちょっと前の15インチディスプレイ相当であるにも関わらず、解像度では10万オーバーのランクという、ちょうど間がすっぽり抜けているところにぴったりはまるところに位置している。値段と性能で、丁度買いやすいところなのだ。次にディスプレイを買うなら液晶だと密かに心に誓っている人も多いと思う。どうせ買うのなら17インチより大型を狙っていることだろう。L461は面積では17インチCRTと同じだが、それよりも高解像度でキツくないという点では、ぎりぎり合格ラインではないかと思う。
L461にはDVI-I端子が1つあるのみで、ケーブルの構造によってデジタルとアナログの入力に対応する。設置場所の問題から、アナログ接続で我慢してでもモニタ切り替え器を使いたいという人もあろうが、それはさすがにどんな人でも許容範囲を超えてしまうと思う。フェーズの調整があまりにもシビアなので、たとえケーブル長や品質が同じでも、ビデオカードが違うだけでもうマシンごとの見え具合がズレてしまうのである。DVIの切り替え器もぼちぼち出始めているようなので、機会があれば試してみたいところだ。
またDVIで入力すれば、液晶ディスプレイは恐るべき実力を持っていることがわかった。その繊細は表示は、文章作成やデータ表示、CG制作では抜群の威力を発揮するだろう。3~4年前に購入した17インチCRTでがんばっている人は、もうそろそろ液晶ディスプレイを検討してもいい時期ではないだろうか。CRTディスプレイは、経年変化で確実に特性が落ちている。
筆者もL461を購入するまで、現状のCRTディスプレイもまだまだいけると思っていたのだが、隣に並べてみてその特性、特にコンバージェンスやフォーカスの落ち具合に愕然とした。時間をかけてゆっくり特性が劣化するので、毎日使っていると気が付かないのだ。少なくとも現在では、もうCRTの方で文字を読む気がしない。
ただ世の中うまい話はないもので、「L461」固有の問題として見る角度によって色が大きく変わるというのは、シビアなグラフィックスユースではちょっと辛い。色がなかなか決められないのだ。筆者の場合は、色味が大事なグラフィックス作業では、CRTディスプレイも併用していくことにした。L461の購入を検討されている方は、どんな作業を中心にするのかをよく考えてみて貰いたい。また実際に店頭などでこの色味の差が許容できるかどうか、検討してみてほしい。この点さえ許容できれば、お買い得のディスプレイであると言える。
□EIZOのホームページ
http://www.eizo.co.jp/
□製品情報
http://www.eizo.co.jp/products/lcd/l461/contents.html
□【1月30日】ナナオ、実売10万円の16インチSXGA液晶ディスプレイ(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010130/nanao2.htm
(2001年6月27日)
= 小寺信良 = | 無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。 |
[Reported by 小寺信良]
00 | ||
00 | AV Watchホームページ | 00 |
00 |
ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp