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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第20回:小型軽量のDVカメラ新モデル「SONY DCR-PC9」
~ ちっちゃすぎ? PC5からの正常進化形 ~


■ ただいま大広告展開中

【PC9 ハードウェアスペック】
レンズF1.7~2.2(バリオゾナー)
焦点距離3.3~33mm
(35mm判換算:42~420mm)
フィルタ径30mm
最低被写体照度11ルクス
入出力端子・DV入出力(4ピンコネクタ)
・S映像入出力(4ピンミニDINジャック)
・映像・音声入出力(特殊ステレオミニジャック)
・ヘッドホン端子(ステレオミニジャック)
・USB端子(mini-B)
・LANC端子(ステレオミニミニジャック)
・マイク入力(ステレオミニジャック)
外形寸法(約)58×97×104mm(幅×奥行き×高さ)
重量約490g
 毎日電車で通勤されているサラリーマンの皆様は既にご存じのことと思うが、いま駅構内や車内でバンバンに広告されているDVカメラ、それが今回の「SONY DCR-PC9」である。形を見て「ああ、アレか」とお思いの方も多いであろう。

 コンシューマのDVカメラ市場といえば、SONYの占有率はかなりのものであると見受けられる。正確な資料は手元にないが、子供の参観日や運動会などの機会で一同に集まったカメラ群を眺めると、もうSONY製が6~7割を占め、残りのパイをVictorとSharpとPanasonicで取り合っているという感じだ。

 それだけに、毎回SONYの新型カメラに対する世のお父さんお母さんの注目度は高いということになろう。

 SONYのDVカメラにおけるラインナップは、次々に新モデルが出てまた広告も派手なので、なんだかやたらとたくさんあるような印象があるが、実際には息の長い製品を中心にしてシリーズごとに集約化されている。

 具体的には、以下の3つのシリーズがある。

 今回のPC9は、「モバイルネットワークハンディカム」という看板を背負っているが、位置付けは去年の小型モデル「DCR-PC5」を継承したものと考えていいだろう。


■ 操作性は……。これちっちゃすぎない?

奥がPCシリーズ最初の「PC7」。高さは低くなったが……

 実際にPC9を見てみると、ものすごく小さいという感じはあまりしない。PCシリーズ1作目のPC7と並べて比べればさすがに大人と子供ぐらいの差があるのだが、厚みが変わらず高さが低くなったせいか、小さくなったというより、「ちょっと最近太った?」という印象になっている。

 ボディカラーも従来機のような純然たるシルバーではなく、若干青紫がかったシルバーとなり、なんかすこーしVAIO方面へすり寄ってきたのかな、という感じがする。

 ハンディカメラとして構えてみると、うーん、PC5もそうだったが、やっぱりここまでになっちゃうとちょっと勢い余って小さくなりすぎたのでは、という感じがする。手のひらの半分でしか握れないのだ。

 ホールドグリップというレバーを出して握るのだが、やはりそれだけでは本体の延長部としては頼りないし、上が重くなるのでどうしてもぐらつきやすくなる。このグリップ、垂直にまで倒れるのではなくて、少し手前の斜めで止まった方が持ちやすいように思う。

 だいたいPCシリーズは伝統的にバッテリが横に付くのだが、大容量化するバッテリがだんだん出っ張ってきて横に膨張してきているのも、なんだかかっこ悪い。それよりも思い切ってバッテリを下に付けるとかして、厚みを減らし、長さを稼いで持ちやすくした方がいいのではないかと思う。

 各種設定は、すべて液晶モニタのタッチパネルで行なう。PC7とかでは、操作ボタンがボディ横にあるため、設定を変える際には横からのぞき込んで、液晶画面と交互に見比べながら行なっていたわけだが、これによりメニュー操作がより直感的になるわけだ。またボディデザインも、前モデルPC110が「小さいボディがボタンだらけ」であったのに対して、非常にすっきりとしている。

持ってみると、小さすぎて手のひらが余る ボディ下側の開口部を開けたところ メニューは液晶のタッチパネルで操作する

 しかし、そのせいで悪くなった点もあって、液晶の上でボタンにタッチする必要があるため、当然液晶が指紋で汚れていく。一応汚れが目立たないような表面加工がしてあるのだが、野外で撮影していると、どうしても汗やホコリといった手の汚れが液晶面に付着してしまい、どんどん見辛くなってしまう。

 また、タッチボタンもある程度の大きさが必要になるため、小さな液晶の上がボタンでいっぱいになってしまい、設定中はほとんど絵柄の確認ができない状態になる。

 さらにもう1つ言うならば、右手でカメラを持っているから、当然ボタン操作は左手になる。しかし左手で操作させる割には、「決定」、「機能」、「閉じる」ボタンが右隅にあったりする。いやこれの何がイケナイかというと、頻繁に押すボタンが右側にあると、必ず指が画面を横切って押すことになり、そのたびに画面に何が写っているかが見えなくなってしまう。ズームで遠い被写体を追いかけているときなどは、こういうのは結構不便なのだ。

 左手で操作することが想定できるわけだから、それなりのメニュー配置があってしかるべきではないだろうか。


■ 実際に撮影してみる

 てなことをいつまでもブチブチ言ってないで(すいませんね)、さっそく近くの公園にテスト撮影に行った。

 木漏れ日などを撮影した限りでは、レンズはやはり上質で、フレアがほとんど出ない。またCCDも1/4インチ68万画素ともっとも製品として安定したところであり、スミアもこのぐらいなら十分許容範囲だ。これならどこにレンズを向けても、そこそこの絵は何も考えずに撮れるだろう。

DV撮影したものを静止画キャプチャした。発色や明るさという面では、1CCDの性能をぎりぎりまで引き出している

空の部分と木の部分で測光したもの。画面をタッチするだけで瞬時にこれだけ変えられる

 気に入った機能としては、「フレキシブルスポット測光」がある。これはタッチパネルで触ったところの映像を基準に測光してくれるというもので、撮りながらどんどん絞りとシャッタースピードを変えていける。オートでは意図した絞りにならないときなどに便利だ。

 様々なシーンに対してインタラクティブに使えるので、「逆光補正」よりも有用ではないだろうか。ただ、この機能を使うためにメニューを掘っていく必要があるので、瞬時にアクセスできるようにハードウエア的なボタンが欲しいところ。

 あそうだそうだ、あんまり良すぎて気が付かなかったのだが、オートフォーカスの追従が速いのは特筆すべきだ。条件にもよるが、遠景から近景へフォーカスの追従は、だいたい10フレームから20フレームで完了する。したがって、カメラ移動に伴ってフォーカスが遅れて付いてくるという感覚がほとんどない。まさにどこに向けてもフォーカスが合っているという状態であるため、次の動きが予測できない子供などを撮るには便利。

 ズームは光学で10倍、デジタルズームは20倍までと120倍までの切り替えである。えーと前々から言おう言おうと思っていたのだが、筆者は普段からビデオカメラにおけるデジタルズーム不要論を唱えている。それは以下の結果を見ていただければおわかりになると思う。

 これがハイビジョンカメラ用CCDを使ってそれのトリミングで、というなら話は別だが、所詮はVGAサイズのピクセルを拡大するしかない現状のビデオカメラでは、いくら頑張っても到底実用にはならないのだ。

左から光学10倍、デジタル20倍、デジタル120倍ズーム。120倍寄れたからといっても、何の意味もない

 撮影を行なったのが午前中であるため日差しはあまり強くはないものの、日中の日向ではやはり液晶モニタは見えにくい。パネルの明るさを上げても、白っぽくなるだけで、強く発光するわけではないのだ。しかしこれでもずいぶん改良されたと思う。

 PCシリーズ初期型のPC7では、日中は液晶モニタは全然見えなかった。このあたりはバッテリの持続時間との兼ね合いもあるので、ぎりぎりのレベルで追い込んであるのだと思われる。


■ メモリースティックへのMPEG-1録画

 PC9は、メモリースティックに対して静止画とMPEG-1ムービーを撮ることができる。ロータリースイッチで[カメラ]から[メモリー]へ切り替えるだけで、メモリースティックへの撮影が可能になる。そのモード移行はスムーズで、「モードが替わりましたから今一所懸命やってます」といったようなもたつきは全くなく、完全にシームレスである。

 メモリーモードでズームレバー横にある[フォト]ボタンを押せば、640×480ピクセルの静止画が撮れる。CCDがメガピクセルではないため、これ以上のサイズでは撮れない。しかし、ビデオカメラの静止画にありがちなインターレースによる映像のブレがおこらないよう、メカニカルシャッターを併用している。

ビデオ撮影と同じシーンを静止画で撮影してみた。静止画撮影では露出を別に取り直すため、ビデオよりも見栄えのする映像になっている

 MPEG-1録画の方は、320×240ピクセルというVGAの半分サイズと、160×112ピクセルというビデオメール用のサイズで撮ることができる。撮影秒数はメモリースティックの容量次第だが、1カットの長さに制限がある。1カットで一度に撮れる長さは、320×240ピクセルでは15秒、160×112ピクセルでは60秒である。

 しかしおそらく、だ。メモリースティックにMPEG-1を直接撮影することは、実際にはほとんどないと思う。わざわざ画像をMPEG-1にする意味はどこにあるかというと、やはり何らかの形でネットワークを通じて転送するためであろう。誰かに向かってメッセージをしゃべるといった「決め打ち」ならば15秒で完結できるかもしれないが、運動会のような生映像を撮影しながら「あ、ここからはおじいちゃんにメールするからMPEG-1で撮ろう。えーとモード切り替え」などと悠長なことは、普通できない。

 PC9では、テープで撮った映像をMPEG-1にしてメモリースティックに転送することができるので、ほとんどの人はこの方法を採ることだろう。転送は簡単で、ビデオモードでテープを再生中に、良きところで録画スタート/ストップボタンを押すだけである。

 メモリースティック内の動画は、別売の「接続キット」を買ってUSBでパソコンに転送するか、メモリースティックのリーダー/ライターを使って転送することになる。

 ……しかしなぁ、SONYがどうというわけではなく、これはDVカメラを作っているほとんどのメーカーがそうなのだが、こういったUSB接続キット別売って、要はケーブルとドライバ、あとはオマケのどーでもいいソフトの詰め合わせである。端子まで本体に付けておいてそっから先は有料ですって、どこぞのアコギな有料道路じゃあるまいし、そういう商売はもうそろそろどうかと思うのだがなぁ。思い切って「全部コミコミでどうだぁ!」という企業があったら、応援しちゃうのに。

 んーまあいいや、とにかくだ、そんなこんなでメモリースティックからパソコンへ転送したファイルがこれだ。この映像はテープからではなく、カメラから直接メモリースティックに録画したもの。

 参考までに同様のシーンをDVで撮影した映像も付けるが、そのまま掲載するわけにも行かないので、カノープスのソフトウェアエンコーダを使ってMPEG-2にエンコードしたものを一応オリジナルに近いものだと思って見ていただきたい。

メモリースティックにMPEG-1で撮影したもの。コマ落ちは仕方がないが、画質は悪くない DVで撮影して、カノープスのソフトウェアエンコーダを使ってMPEG-2にエンコードしたもの



■ 総論

 全体的に見て、PC9はDV映像装置としてはものすごく小さくまとまっていると思う。アナログの入出力も全部あるし、DV端子、USB端子、はてはLANC端子まである。テープデッキとしてのレスポンスも良く、2倍速やスロー再生なども軽快に動作する。小さいからという理由で機能的に妥協したところはどこにもない感じだ。

 しかし、ビデオカメラとして撮りやすいかというと、それはそれで別問題だ。あまりにも小さすぎて、手持ちではちょっと握りにくい形になってしまっている。ボディ下のほうだけちょびっと握っている感じなので、長時間固定しているのが難しくなるのだ。

 ほぼ同じ大きさの「CANON IXY DV」は、本体をわしっと持つため、非常にホールド感が良い。やはり、ホールドグリップという設計が、長時間同じ体勢を維持しなければならないビデオカメラにとってはイマイチなのではないかと思う。ビデオカメラを作り慣れていて、そのあたりのノウハウはよくわかっているはずのSONYだが、ちょっと策に溺れたという感じがしないでもない。

 さらに「モバイルネットワークハンディカム」といいつつも、できることと言ったらMPEG-1圧縮だけ、しかも、1年前のモデル「PC110」からできているというのでは、ちょっと寂しすぎる。いや、もう1つあった。メモリースティックに記録した静止画を、パソコンを使ってカラーiモード端末に送るというソフトが付いている。が、これはカメラ本体の機能とは言えない。

 確かにPC9は、PC110よりは小さいし、デザイン的にもすっきりしている。しかし、PC5から比べると、ベーシックなところではほとんどなにも変わっていない。機能が同じならば、もっとデザイン的に思い切って冒険しても良かったのではないだろうか。と、個人的には思った。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/sd/CorporateCruise/Press/200104/01-0426/
□製品情報
http://www.sony.co.jp/sd/products/Models/Library/DCR-PC9.html
□関連記事
【4月26日】ソニー、メモリーステイックにMPEG-1撮影も可能な縦型DVカメラ「PC9」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010426/sony.htm

(2001年7月25日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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