【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第25回:画質にこだわった小型DVカメラ「キヤノン PV130」
~ カメラメーカーの底力!! 2台目におすすめの完成度 ~


■ DVカメラは早くも秋の新製品ラッシュ

 ここのところ秋の運動会シーズンへ向けて、各メーカーからDVカメラの新型が次々と発売になっている。幼稚園の運動会は本当に体育の日あたりにやったりするのだが、小学校の運動会は意外に早く9月中にはだいたい終わってしまうので、カメラ量販店ではこの時期が一番のかきいれ時であろう。

 この時期に売れる普及クラスのDVカメラというのは、カメラに詳しい人よりもむしろあまり詳しくない一般ユーザーの意見を反映してきたために、デジタルカメラよりも家電寄りになってきている。趣味で写真をやる人は多いが、趣味でビデオを撮る人があまりいないあたりも、その傾向に拍車をかけていると言えるだろう。

 筆者の回りを見てみると、DVカメラを持っている人は大抵子供がいたり、あるいは孫がいたりということが条件になってくるようだ。独身者にいくらDVカメラを売り込んでも今ひとつ乗ってこないのは、すなわち子供でもいない限り「ビデオで撮るものがない」というのが現実だからだろう。在宅で仕事する人に携帯電話を勧めても買わないのと同じことだ。

 では、たとえば子供を撮るというニーズを中心に考えていくと、筆者の経験では、以下の項目が条件になる。

  1. 小型軽量
  2. バッテリ長持ち
  3. 操作が簡単
 早い話があんまりジャマになんないで、気楽に絵が撮れることが重要。その代わり、画質の面ではかなり妥協することになる。小型カメラではいい絵は無理、なんとなくそう割り切ることで小型カメラの存在を納得していたようなところがあるのではないだろうか。

 ところがキヤノンの新モデル「PV130」は筆者が見るに、小型ながらも以下のようなポイントを持ってきたカメラだ。

1. 小型モデルながら光学手ぶれ補正
 従来の感覚では、「小型モデルでは電子式手ぶれ補正」というのが定番であり、光学手ぶれ補正が搭載できるのはコスト的にも3CCDクラスから、というのが通説であった。電子式手ぶれ補正はCCDの有効面積の一部分を切り出しているため暗くなりがちで、せっかくの光学特性の良さをスポイルしてしまう。また若干残像を引いたりする場合もあり、画質的にはやはり光学式のほうが有利。

2. 新開発の大口径ガラスモールド非球面レンズ
 レンズというのは基本的には球面をしているのであるが、レンズ径が大きくなると、レンズ周辺部にいくほど焦点がズレてくる。例えばでっかい虫眼鏡を覗いてみると、この現象を確認できる。これを解決するのがガラスモールド非球面レンズだ。これは断面を見ると、中央部分は山になっているが、周辺に行くにしたがって逆向きに反り返るような形をしており、その裾野の微妙なカーブで周辺部のフォーカスのズレを解消するのである。

 従来このレンズは高級ビデオカメラや一眼レフ用のレンズに使用されてきたが、普及モデルの小型DVカメラでこれを搭載したのはおそらく初めてではないだろうか。PV130のレンズはフィルター経43mmと、縦型モデルとしては破格のサイズである。

3. メガピクセルで静止画撮影にも注力
 キヤノン初であり、同社製の現行機種でも唯一のメガピクセル機がこのPV130である。総画素数は約133万で、動画撮影時の有効画素数は約69万、静止画記録時の有効画素数は約125万とある。静止画像は最大1,280×960ドットで撮影できる。またストロボを内蔵し、暗い場所での静止画撮影時の便宜も図っている。

 メディアはMMCかSDカードが使用可能で、アクセサリーキット内にはUSB接続のカードリーダー「MICROTECH ZIO!」が付属する。

 全体的に見て、「小さいカメラは絵的にはダメ」という常識をうち破る、画質にこだわりを見せたモデルであるようだ。ではさっそくチェックしていこう。


■ 使いやすい新設計ボディ

 まずボディ回りから。PV130はごらんのような縦型であるが、同社の縦型機であるIXY DVシリーズよりは若干厳つい形になっている。もちろん大型レンズを搭載したため全体的に設計しなおしているわけだが、それだけにとどまらず、各所に新しいアイデアが盛り込まれている。

 まず持ってみて驚いたのが、非常にホールド感がいいことだ。グリップベルトが丁度いい具合に斜めで固定されるため、持っている手首の角度に無理が来ない。四角いモノを斜めに持たせるという不条理な状態をしっかり固定するための優れた工夫だ。

ベルトが斜めに固定されるため、安定したホールドが可能 ココが痛いのだココが

 またベルトも幅広く、材質もソフトで、きつめに締めても手に痛みがない。ベルクロも外側から簡単に外せるので、サイズ調整の面倒も軽減されている。ただ一点、前側のベルトの折り返しの部分の切り口が尖っていて、長く使用しているとそこがちょっと痛くなるのが残念。かっこわるいがベルト側にバンドエイドでも貼って凌ぐことも考えなければならない。

 縦型カメラでは初というチルトアップビューファインダは、下向きの撮影する際に便利だ。そう、子供を撮るときは、大抵下向きに撮ることになる。その際にチルトアップさせると、首と手首の角度が窮屈にならない。小さなことだが、このあたりを一所懸命なんとかしようとするところが、カメラメーカーとしての意地とド根性なのかもしれない。

 必要な操作部分はほとんど背面に集中している。特筆すべきは、親指で操作しやすい位置にあるマルチダイアル。メニュー選択はもちろんのこと、カメラモードでは一回押し込んで回すだけでプログラムAEの選択になり、露出やマニュアルフォーカスといったパラメータの増減もすべてここに集約させ、撮りながらの操作性を大幅にアップさせている。

縦型DVカメラでは初のチルトアップビューファインダ 右手の親指で回しやすい位置にある、マルチダイアル 前面に集中した外部コネクタ群

 前面には、外部電源、DV端子、AV出力、ヘッドホン、LANC端子といった接続端子類を全部ひとまとめにしてある。コネクタの位置が散らばっていると、いろんなものを同時に繋いだ時にやたら設置面積を取ってしまうが、これなら非常にすっきりする。マイク入力だけは側面にあるが、これは市販の外部マイクをアクセサリーシューに付けたときの配慮であろう。


■ 上品なレンズとCCD

 ではテスト撮影してみよう。レンズも明るめということで、今回は敢えて夕方の5時頃を狙って撮影してみた。

PV130によるテスト撮影。露出が簡単に決められるため、自由度が高い

【MPEG-2形式】
pv130.mpg
(15.1MB)

 花など色味の濃いものの発色は、やはり従来の1CCDモデルよりもいい感じ。光の弱い夕暮れ時にしては、S/N良く撮れているし、薄暮特有のしっとり感も出ている。

 プログラムAEの「ポートレート」モードでは、絞りを開け気味にして被写界深度を浅くすることができる。これで撮ったものは先日のXL1sには及ばないが、それでも結構いい感じの立体感のある映像になっている。先日のレポートでは「小型カメラでは出せない味」とか書いたが、小型カメラでもここまでできるようになるとなかなか侮れない。

 光学式手ぶれ補正に関しては、電子式と切り替えられるわけではないため比較のしようがないが、従来機では手持ちの時と三脚を使うときとでは、手ぶれ補正をON/OFFする必要があった。いやONのままでもいいのだが、やはり画質が少し落ちるのが気になるので、いちいちOFFにしていたのだ。それを心配しなくても良くなった点は非常に楽になった。


 CCDに関して気が付いたのは、スミアの出にくさだ。NDフィルタがあるわけでもないのに、反射する水面や夕日を直接撮っても、スミアがほとんど出ない。また出たとしても、線が細くあまり目立たない。もっともこのカメラ自体がフルオートになるわけではないので、無理に出そうとしても出ないよううまくカスタマイズしてあるのかもしれない。が、何に向けてもとりあえずうまいこと撮ってくれるというのは、取り回しの便利さが売りの小型カメラでは重要な要素である。

 一方メガピクセルならではの静止画機能も試してみた。静止画を撮るのは、ズームレバー横のフォトボタンである。本体背面にあるレバーが「テープ」の時はテープに静止画が記録される。このときの静止画サイズは当然テープに記録するので、ビデオサイズの720×480(実質640×480)ドットとなる。レバーが「カード」の時はMMCかSDカードに記録される。このときは1,280×960ドットか、640×480ドットを選択することができる。また光学ズームはビデオの際は10倍だが、カード記録の際は8倍になる。

 手ぶれ補正が光学なので、CCDの有効面積を広く取る静止画撮影時でも手ぶれ補正が効くのはありがたい。というのも、ビデオカメラのフォトシャッターはだいたいボディの横に付いているため、シャッターを押した瞬間にぶれてしまうという、構造的な欠陥を持っているからだ。PV130でわざと手ぶれ気味に力を入れてシャッターを押しても、ぶれた映像は撮れなかった。

 静止画撮影の際に必要とあらば自動的にポップアップする内蔵ストロボは、個人的には「ビデオカメラにストロボってどーよ」みたいにあんまり……いや全然期待していなかったのだが、使ってみると案外いいじゃん、と思えるようになった。というのも、真正面からビヤーっと思いっきり光をぶちまけてしまうようなものではなく、事前にテスト発光してその場に応じた発光量で光ってくれるので、結構自然な仕上がりになったからだ。

 夕闇が迫りつつある時間帯の撮影では、ビデオの方はホワイトバランスをオートで撮ったため、なんとなく色味が浅い画像になっているのに比べ、まったく同じ設定で撮った静止画では、ちゃんと夕暮れ時の色合いになっている。

ビデオ撮影時(左)と静止画撮影時(右、1,280×960ドット、約175KB)の映像比較。同じ設定でも雰囲気のある写真が撮れる

 単にビデオと同じ絵がでっかく撮れるだけ、というのではなく、なんか静止画らしい味があるのだ。手間いらずでこう言う色味が出せ、しかも8倍ズームということで、あれ、なかなかやるじゃねえの、といった印象である。まあ手間いらずといいながら、実はポップアップしたストロボは手で閉じなければならないのだけど……。

 ストロボ自体はそれほど発光の強いものではなく、せいぜい3mぐらいなので、あくまでも補助光として考えるべきだろう。真っ暗なところや離れている被写体に使っても効かない。ってかビデオカメラって光学ファインダがないので、暗いところでは何も見えなくなっちゃって撮れないのな。


■ 総評

 キヤノンPV130は、小型ビデオカメラで不満とされていた「画質」にスポット当てたカメラということができる。思いついてちょっと絵作りしても、ちゃんとそれに答えてくれるだけの表現力を持っている。また操作性も良く、撮りながらでも色々設定を変えられるので、チャンスを逃さない。子供を撮る側としてみれば、これは結構重要な要素だ。個人的にはもうちょっとテープとカードの切り替えが早いと、さらに使いやすかったと思う。

 ただここまで画質にこだわったのであれば、もう今さら「デジタルエフェクトボタン」はいらないのではないだろうか。もっとも「何を言うか、いままではデジタルエフェクトがメニュー奥にあったから使われなかったのだ」とするのであればまあまあそうかもしれない。が、静止画の時には全く使用できないのであるし、カメラで行なうデジタルエフェクトって失敗すると取り返しがつかないので、あんまり使って貰いたくないというのが筆者の本音である。それよりもホワイトバランスや、シャッタースピードがボタンとしてあったほうが、ビデオと静止画両方にとって使い出があるように思う。

 まあそんな今どきの売れ線にすり寄った部分はあるけれども、ここにきてビデオカメラとしての基本性能、「綺麗な絵を撮る」という部分をぐぐっと上げてきたPV130は、メガピクセルというだけで機能的に頭打ち状態だった小型ビデオカメラ群から一歩抜きんでた形になったと言えるだろう。

 すでに最初のDVカメラを使い潰し2台目への買い換えを考えている人は、家電メーカーではなく光学機器メーカーのキヤノンが作ったカメラを選んでみるというのもいいのではないだろうか。細かいところの作りの良さをきっと発見すると思う。キヤノンの弱みであるバッテリの持ちやオートフォーカスの反応に難があるといえばあるのだが、あまり使いもしない機能がごちゃごちゃ付いてない分、すっきりしている。店頭で実物を触ってみて、ぜひあなたの目でその真価を確かめて欲しい。

□キヤノン販売のホームページ
http://www.canon-sales.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.canon-sales.co.jp/pressrelease/2001-07/pr_pv130.html
□関連記事
【7月26日】キヤノン、同社初のメガピクセルDVカメラ
―133万画素CCD、光学式手ブレ補正機能を搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010726/canon.htm

(2001年9月5日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.