すでに9月6日のAV Watchの記事で掲載されているが、先日RolandのDTMに関する新ブランドEDIROLからオーディオインターフェイス、MIDIインターフェイス、MIDI音源などが一挙に発表された。まだ、それぞれの機材を実際に詳しくチェックしたわけではないが、この記者発表会場で各機器を触り、開発担当者に少し話しを聞くことができた。
今回は、その感触と、開発担当者の思いをお伝えしたい。
9月6日の記事でも紹介されているとおり、今回EDIROLブランドで発表された製品は下表の計8製品。
製品ジャンル | 型番 | 発売月 | 店頭予想価格 |
---|---|---|---|
PCIバスオーディオインターフェイス | DA-2496 | 10月 | 75,000円前後 |
USBオーディオインターフェイス | UA-5 | 10月 | 33,000円前後 |
UA-1A | 10月 | 8,000円前後 | |
UA-1D | 10月 | 10,000円前後 | |
MIDIインターフェイス | UM-880 | 9月 | 35,000円前後 |
UM-1S | 10月 | 4,000円前後 | |
MIDI音源モジュール | SD-90 | 11月 | 90,000円前後 |
DTMパッケージ製品 | SONAR Digital Studio (MRSN-90W) | 11月 | 110,000円前後 |
実は、これらのほとんどの製品は8月にアメリカの「Summer NAMM」という楽器関連の展示会で参考出品され、アメリカのEDIROLのサイトにおいて掲載されていた。そのため、既にご存じの方もいたかもしれない。
とはいえ、国内での正式発表は初めてで、DTMの世界においては、久々の大々的な新製品発表であったため、DTMファンからは大きな注目を集めた。そこで、今回はこれらの製品の中から「DA-2496」、「UA-5」、「UM-880」、「SD-90」の4製品に絞り、その詳細を紹介する。
■ DA-2496
DA-2496 |
各端子を見てみると、フロントの左側にはXLR(キャノン)およびフォンジャック兼用の入力が2つあり、これはコンデンサマイクで使用するファンタム電源にも対応している。その右側のジャックは、ギターなどに直接接続できるハイインピーダンス対応。また、リアにもアナログ入力端子が装備されている。
さらに、デジタル入出力も完璧でS/PDIFのコアキシャルおよびオプティカルが、それぞれ装備されているほか、外部機器との同期をとるためのWord Clock入出力も装備されている。
このスペックからも想像できるように、これは初心者DTMユーザーなどをターゲットとした製品ではない。いわゆるプロのレコーディング環境に対応した製品であり、かなりハイエンドのユーザー向けとなっている。価格もストリートプライスが75,000円前後になると発表されているとおり、決して安いものではない。
これまでRolandのDTM製品というと、それなりのパワーは持っているものの対象はあくまでも初心者ユーザーという感じであり、結果としてパワーユーザーからは相手にされなかったのが実情だ。しかし、今回のDA-2496のようなものが登場してくると事情は変わってくるだろう。こうした製品がうまくブランド力をつけ、全体を牽引してくれる可能性も出てくる。
ただし、24bit/96kHz対応で8IN/8OUTもしくは、それ以上のオーディオインターフェイスというのは何もDA-2496が初めてというわけではない。具体的にいえば、以下のような製品が出ている。
メーカー名 | 機種名 |
---|---|
ECHO | Layla24 |
Mona | |
M-AUDIO | DELTA1010 |
Mark of the Unicorn | 1224 |
1296 | |
RME | Hammerhall | STA | DSP2000 |
いずれもアメリカもしくはドイツ製の製品で、日本メーカーは完全に海外に圧倒されていたということになる。EDIROLはこの分野にDA-2496をもって殴り込みをかけたわけだ。
開発責任者であるローランド株式会社・DTMP開発部プロデューサー、倉田政明氏は「スペック・価格的にはM-AUDIOのDELTA1010を意識しています。向こうもかなり価格を下げてきているので、ある程度競合することになるとは思います。ただし、音質面においては我々の製品の方が上であると自信を持っています。またSTAの「DSP2000」は、それよりもさらに挑戦的な価格を付けてきていますよね。しかし、先日、いろいろとチェックしてみましたが、やはり使っている部品などを見てもそれなりのものであり、DA-2496とはグレードの違う製品であると認識しています」と話してくれた。
筆者自身、自分の手元で使っていないので断言はできないが、会場で音を聞き、また少し操作してみた感じでは、かなりよい印象を受けた。倉田氏があげた2製品以外と比較すれば価格的には絶対的に安く、スペック的にも不満はない。ぜひ、実際に使ってみたい製品である。
■ UA-5
UA-5 | 背面パネル |
8IN/8OUTではなくステレオ2chの入出力という制限はあるものの、接続できる端子はDA-2496同様にファンタム電源対応のXLR端子、フォンジャック、さらにライン入出力、S/PDIFのコアキシャル、オプティカルの各端子。オールマイティなインターフェイスに仕上がっている。
記者発表会場では、Windowsマシンに接続し、「Cakewalk Guitar Tracks」というオーディオレコーディングソフトを用いて、ギターを使ったレコーディングを行なっていた。そのレコーディング結果の音は非常にクリアで、聞いただけではリアルタイムに弾いた音とまったく区別がつかないほどであった。
もちろんWindowsだけでなくMacintoshにも対応しており、ドライバもMMEに加えASIO2.0またWDMもサポートしている。開発責任者の伊志嶺馨氏によると、「現在10月の発売に向けてドライバの調整をしている」とのことだが、現在においてもASIO2.0を使った際のレイテンシーを数msecまで追い込んでおり、かなりの性能を発揮できるという。これだけのものがストリート価格33,000円というのだから、うれしい。
最近では、UA-5の競合となるような製品も登場しており、M-AUDIOの「Audiosport Quattro」などは非常に近い。さらには、STAも近い製品を出すという噂がある。こうした競合がある中で、国内、海外それぞれでどれだけのシェアをとってくるかが楽しみだ。
■ UM-880
UM-880(下段) |
A-880は、8つのMIDI入力と8つのMIDI出力を持ち、それぞれをスイッチひとつで自由につなぎかえることができる。複数のコンピュータと複数の音源、複数のキーボードなどを持っている場合、それぞれをA-880に接続しておけば、スイッチ1つで自由に切り替えることが可能なのだ。また、複数のMIDI INからの入力をミックスすることができるなど、自由度は高く、もちろん筆者も愛用している。
ただ、長年使い込んできたモノであるだけに、最近ちょっと調子が悪く、できれば買い替えたいなと思っていたところなのだ。しかし、このA-880も現時点では発売されておらず、欲しくても中古でないと手に入らないし、ほかのメーカーでもこの手の製品はみかけることがない。
そこに、このUM-880がEDIROLブランドで登場した。UM-880はA-880の機能にUSBのMIDIインターフェイス機能を追加したもので、USBモードにすれば8IN/8OUTのMIDIインターフェイスとして使える。またMIDIモードにすればPCの電源がOFFの状態でもA-880と同様の機器として利用できる。
発表会ではFTPの優位性が説かれた |
MIDIインターフェイスも設計によっては、データ転送速度が遅く8ポートも同時に出力するとはっきりとした遅れが生じてしまうものも多い。しかし、UM-880ではそうした遅れがほとんどなく、低ジッター。複数のパートを出力してもまったく問題なく演奏することが可能になっている。
■ SD-90
SD-90 | 背面パネル |
最大の違いといえるのは、音源のエンジン部分。SC-D70だけでなく「SC-8850」、「SC-8820」などはいずれも「JV-1010」というRolandの音源のエンジンを使ったものであった。
それに対し、今回のSD-90のエンジンはRolandの新音源「XV-5080」のものを採用している。エンジンの交換にともない、収録されている音色データも大きく変わっている。SC-D70の場合32kHzでのサンプリングがされていたのに対し、SD-90は44.1kHzフルデジタルでのサンプリングがされている。また波形データは60MBと大容量。とりあえず、デモサウンドを聞いてみたが、確かに非常に迫力あるサウンドになっていた。
ただし、音色数は1,024とSC-D70の1,608音色、SC-8850の1,640音色から減ってしまっている。これについては、「音色数よりも音質で勝負」ということで、こうしたそうだ。
また、この製品はGM Level2に準拠しており、GM2の音色セットを計4つ、つまり256音色×4=1,024音色という構成になっている。もちろんGSフォーマットにも対応はしているが、SC-D70やSC-8850コンパチというモードは持っていないため、厳密な形でのデータの再現性はないようだ。
SD-90用エディターソフト(画面は開発中のもの) |
オーディオのほうは24bitで44.1kHz/48kHzとなっており、前出のUM-5やDA-2496と比較すると明らかにワンランク下という位置付け。とはいえ、MIDI音源で演奏した結果をUSBを通じてデジタルでPCへ吸い上げることができるため、最終的にオーディオとして編集した場合に非常に便利でもある。
またWindows用Macintosh用それぞれにSD-90のMIDI音色やミキサー、エフェクト類を設定するためのエディターソフトが同梱されている。これを利用することで、さらに突っ込んだ音源活用ができそうだ。
ミキサー設定などもグラフィカルに表示する(画面は開発中のもの) |
以上、EDIROLの新製品4つについてのファーストインプレッションを紹介した。 まだ細かく触ったわけではないので、物足りないところもあるとは思う。今後、さらに詳しい情報などがわかりしだい、紹介してみたい。
~ 「EDIROL」ブランド誕生の背景 ~
では、なぜDTMのトップブランドであり、ミュージ郎で親しまれているRolandというブランドを使わず、あえてEDIROLとしたのか。ここにはいろいろと複雑な事情があるようだ。 まず、現状について整理しておくとRolandというブランドそのものは現在でも継承されており、これはキーボードを中心とした楽器のブランドとして存続している。一方、EDIROLはDTMP(=コンピュータミュージック製品とビデオ製品)のブランドとして新たに登場したもので、同様にRolandグループながら、別ブランドで展開しているものにエフェクタのBOSS、オルガンのRODGERSなどがある。会社としては、ローランド株式会社本体があり、その子会社としてエディロール株式会社、ボス株式会社、ローランドDG株式会社……などがあるという構造になっている。 さて、このローランドおよびそのグループ企業はすべて日本の企業であるが、今回EDIROLブランドを登場した背景には海外での戦略が絡んでいる。アメリカ、ヨーロッパにはそれぞれ販社を構えているが、ここが楽器系とDTM系がRolandとEDIROLという別々の会社になっている。いずれも日本のローランドが半分出資した合弁企業。しかし、アメリカのRolandとEDIROL、またヨーロッパのRolandとEDIROLは直接関係のない会社となっていたのである。 この状況でDTM系をRolandブランドで展開するとRolandのほうにサポートの電話などが集中してしまい、困った状況になる。そのため早くからEDIROLブランドを確立させてきたのだが、本家である日本だけがRolandブランドで展開してきたため、国際的ブランド戦略という面で矛盾が生じてきていた。途中、「RolandED」という妙なブランドをつけた時期もあったが、結局今回EDIROLブランドを国内でも正式に打ち出して、世界的に統一されたというわけである。 ただし、国内においてEDIROLブランドはあまりにも知名度が低いことは確か。今回の製品でどれだけアピールできるかが、今後の製品力にも大きく響いてくることは間違いないだろう。 |
□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/top.html
□「DA-2496」の製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/DA-2496.html
□「UA-5」の製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/UA-5.html
□「UM-880」の製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/UM-880.html
□「SD-90」の製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/SD-90.html
□関連記事
【9月6日】ローランド、24bit/96kHzのUSBオーディオインターフェイスなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010906/roland2.htm
(2001年9月10日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp