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第10回:古代ローマの繁栄を見る
「グラディエイター デラックス・コレクターズ・エディション」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 古代ローマに思いを馳せる

グラディエーター
デラックス・コレクターズ・エディション

価格:3,980円
発売日:2000年12月22日
品番:SUD-32097
仕様:片面2層 2枚組
収録時間:約155分(本編)
画面サイズ:本編 シネスコサイズ(スクイーズ)
音声:本編 1.英語(DTS ES 6.1ch)
        2.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
        3.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
販売元:株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)2000 DREAMWORKS L.L.C. & UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 唐突だが、私は古代ローマに興味がある。ヨーロッパ文明の礎を築き、古代ローマの国章「双頭の鷲」は、ロマノフ、ハプスブルグなどの紋章に受け継がれ、現代アメリカの国鳥も鷲。きっとローマになぞらえていると想像してしまう(実際の由来は知らないが)。このように、古代ローマ文明は、現在の西洋文明にも大きな影響を与えている。

 そんな大文明に興味はあるものの、文章や解説図だけではなんとも理解しづらい。が、やはり映像の力は偉大で、映画であればその雰囲気を実感できる。昔のハリウッド作品には「スパルタカス」や「ベン・ハー」などに、「古代ローマもの」は結構作品化されていた。けれども、ここ最近の作品で「大作」と呼ばれるのは「グラディエーター」のみ。今回は、そのグラディエーターを取り上げる。

 作品で描かれるのは西暦180年。五賢帝最後のマルクス・アウレリウス帝から、愚帝とされるコモドゥス帝の時代。簡単にローマの歴史を振り返ると、イタリア半島で勢力の拡大始めたころから、1年交代の執政官を元首とする共和政を続け、スペイン、ギリシャ、アフリカなどの地域などを支配下に収めながら勢力を拡大させててきた。

 その後、ガリア(フランス)、エジプトなどを勢力下に置いたユリウス・カエサルの政権掌握を経て、帝政に移行。映画の舞台、180年当時の体制は、皇帝を頂点に頂く帝政。とはいえ、共和政のなごりを残しており、皇帝はいわば「終身制の元首」。マルクス・アウレリウス帝も前皇帝の養子で、血縁は帝位継承の絶対条件ではなく、元老院議員や市民の支持がなければ統治することは難しい。

 ご存知の通り、ストーリーは将軍が奴隷身分の剣闘士になるというドラマティックな展開で、時代背景を知らなくてもかなり楽しめると思う。しかし、私の場合、ストーリーもさることながら時代描写にも惹かれてしまった。ストーリーなどは語り尽くされた感があるので、今回は歴史描写について触れてみたい。



■ ゲルマニア、ヒスパニア、アフリカ、そしてローマ

 舞台となる土地は、ゲルマニア(ドイツ)、ヒスパニア(スペイン)、アフリカ、そしてローマと多彩。当時のローマ帝国の支配領域の大きさを感じることができた。

 中でも特に目を引いたのは、将軍マキシマスが率いる冒頭のゲルマニア遠征。戦場となるのは鈍色の空に染められた深い森。閉塞感を漂わせ「森に閉ざされたゲルマニア」を表現している。少々土地の特徴を強調しすぎているようにも感じるが、逆にいえばわかりやすい。

 この戦場に対峙するのが、カタパルトなどの大型の武器を擁し、双頭の鷲の下、統一された鎧を纏って整然と列するローマ軍。対するゲルマニア軍は、各々が勝手に振る舞い、統制を欠き、誰が司令官かすらよくわからない。両者の対比によりローマの強大さを冒頭から感じられた。

 戦闘の描写も迫力がある。同じ古代ローマを扱った「スパルタカス」では、引きの映像を多用して大軍のスケール感を出していた。対して「グラディエイター」では、舞台が森ということもあり、アップの映像が多いためスケール感こそなかったものの、剣と剣、肉と肉がぶつかり合う肉弾戦の迫力は圧倒的だ。騎上からの剣戟、吹き出す血。木に剣を打ち込んで失うと、すかさず短剣を抜き、戦いを続ける。これまで文章でしか知らなかった古代の戦闘が映像で確認でき、好奇心も満たされた。

 その後も、ローマの広大さを表現するかのごとく、スペイン、アフリカ、そしてローマへとテンポ良く展開。麦実るスペイン、土煙るアフリカなど、それぞれの土地の特徴をわかりやすく描いていた。ただ、コロッセウムの外観などは少々CG臭かったが……。


■ そこかしこに示されるローマの栄光

 「ローマの頂点を極める皇帝に、反逆する奴隷剣闘士」というストーリーを盛り上げるためか、「ローマの栄光」がそこかしこに提示されている。

 マキシマスが腕に刻まれた「SPQR」の刺青を傷つけるシーンがあるが、これはラテン語で「元老院ならびにローマ市民」の略。「ローマを示す記号」と言っても良い文字である。その文字を傷つけるマキシマス。彼の心中を端的に示したシーンだと思う。

 剣闘試合には、スキピオ・アフリカヌスとハンニバルの決戦「ザマの会戦」を模した試合があったり、帝政時代のみならず、共和政時代のローマの強さにも思いを馳せることができた。

 しかし、最も「ローマの栄光」を示すのは、剣闘試合を見る側の市民と、試合を行なう側の奴隷剣闘士の対比だろう。娯楽を楽しむ市民で満員となったコロッセウム。しかし、試合を行なう剣闘士に自由はなく、娯楽として殺されるために舞台に上がる。

 現代の常識で考えれば奴隷制は受け入れられないが、当時はポピュラーなもので、中産階級の市民でも所有していた。そして、マキシマスの所有者は元剣闘士の解放奴隷。奴隷制のもとに築かれたローマが表現されていたと思う。


■ 画質、音質、特典も大満足

 物語の中心となる剣闘試合も興味深い。登場する武器、剣闘士も多彩で、剣はもちろん、トライデントにグラディウス、槍に弓などなど。マキシマスには動物を模したかぶとをかぶった剣闘士が二刀流で迫る。そのほかにも騎兵に戦車、果ては虎まで登場。なるほど、当時の市民は熱狂しただろうと納得してしまう。

 DISC2に収録された「グラディエイターの戦い/血のスポーツ」と題された50分の特典映像では、研究者らが当時の剣闘試合を解説。投網も用いた剣闘士(かぶとは魚を模していたとか)に人気があったことなど、これまで知らなかったことも解説されており、大変勉強になった。

 特典には、その他にも未公開シーンやメイキング、制作日記などが収録されており、それぞれに興味をそそられた。冒頭のゲルマニア遠征シーンは、実はアイルランドで撮られたというのは意外。絶対ドイツだと思っていたのだが……。

 画質は、大満足。暗いシーンでも明るいシーンでも破綻無く、それでいてシャープに見ることができた。音声は、なんとDTS ESの6.1ch収録ほか、ドルビーデジタル5.1chを英語/日本語でも楽しめる。DTS-ESは機材を持ち合わせていないため、聞くことはできなかったが、ドルビーデジタルのサラウンド音響設計は秀逸で、特にゲルマニア遠征シーン、そして剣闘試合のシーンで楽しめた。剣戟の音はもちろん、弓の飛翔音や、虎の咆哮などは特に臨場感がある。

 古代ローマの知識がなくとも楽しめる映画だとは思うが、私は古代ローマの繁栄を映像として見ることができたことに満足できた。


□SPEのホームページ
http://www.spe.co.jp/
□製品紹介
http://www.spe.co.jp/video/dvd/200012/sud-32097.html

(2001年10月12日)

[fujiwa-y@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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