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第32回:高音質記録モード「Audio Master」とは?

〜 ヤマハのCD-R/RWドライブ「CRW3200」は本当に高音質か? 〜



 11月上旬、ヤマハから高音質記録モード「Audio Master」なるものを搭載したCD-R/RWドライブ「CRW3200」(ATAPI内蔵型の店頭予想価格25,000円)が発売される。しかし、この突然現われたAudio Masterとはいったい何なんだろうか? 記者発表資料を見るだけでは、はっきりしたことがよくわからない。

 本当に音がいいのか、互換性の面も大丈夫なのか、メディアとの相性問題はないのか……。発売前でもあり、詳細がわからない。ならば、ということでヤマハに取材を申し込み、直接話を伺った。


■ やはり、直接説明を聞いてみよう

 担当編集者から「ヤマハの例のドライブ、今度のDigital Audio Laboratoryのネタにどうですか?」と持ちかけられたのは9月18日であった。もちろん、例のドライブとはヤマハがその前日に発表した、Audio Masterという機能を搭載したドライブである。

 記者発表資料によると、このAudio Masterとはディスク記録時の線速度を通常の1.2m/sから1.4m/sにアップすることで、より高品位な記録を実現。ノイズなどを極力抑えて音楽CDのプリマスタリングレベルの高音質を実現したものであるという。線速度をアップすることにより、必然的に書き込み可能な容量は少なくなるが、デジタル信号の品位の指標であるジッター値を下げ、記録データのばらつきを吸収。ノイズの混入を極力排除し、再生信号の安定性をより高めることが可能としている。

今回、ご協力をいただいた、(左から)ヤマハ株式会社 AV・IT事業本部IT営業部マーケティング担当課長の近藤博氏、同事業本部DS商品開発部・技師補でCRW3200の製品プロデューサーである村田守啓氏
 先日行なわれた「WORLD PC EXPO 2001」でも、どんなものか気になりヤマハブースに立ち寄ってみた。そこでは、大々的な展示というわけではなかったが、新製品として展示されており、説明員に話を聞いてみた。しかし、発表資料以上のことはやはりよくわからない。また、その会場でたまたま会った某ドライブメーカーのマーケティング担当者も非常に気になっていたようで「あのやり方すれば、理論的にも音は良くなる。でも、あれって反則じゃないのかなぁ。そもそも規格にマッチしてるのか?」とぼやいていた。

 やはり、これはヤマハに正式に取材依頼して話を聞いてみるべきだ、ということになり、先週実際にモノを見せてもらいつつ、お話を伺うことができた。お話を伺ったのはAV・IT事業本部IT営業部マーケティング担当課長の近藤博氏と、同事業本部DS商品開発部・技師補でCRW3200の製品プロデューサーである村田守啓氏のお2人。(以下敬称略)


■ ヤマハならではの特色を出したCD-R/RWドライブ

近藤:ヤマハのCD-Rドライブは「CDR100」からスタートし、長い歴史があります。そういった流れの中で、今回「CRW-70」と「CRW3200」の2つのモデルをリリースしました。CRW-70はコンパクトでありながら高速で、単独でMP3再生もできるというもの、CRW3200は高速で高品位、といったものに仕上げています。

 またCRW3200はパワーユーザー向けの製品であり、音にこだわっています。やはりヤマハが出すドライブということで、ヤマハならではの特徴を持たせるために、音にこだわりました。

藤本:確かに楽器メーカーであり、オーディオメーカーでもあるヤマハさんだから、音にこだわったCD-R/Wドライブを出すというのは当然の流れかもしれませんね。

近藤:ええ、ヤマハの社内そしてその周辺には、音にうるさい人たちが沢山います。音楽を制作をしたり、楽器をいじったり、という人がいるのがヤマハであり、当然その中でもCD-Rに関する話題はよく出ていました。

 例えば、「レコーディングした音をCD-Rに書き込んだら、何かしっくりこないものがある」、「CD-Rで焼いたら音が悪い。やはりプレスのほうがいい」、「焼くのなら等速がいい」、「いや※倍速くらいまでなら音がいい」、「メディアは○○がいい」……といった具合です。

 われわれの中で、ある程度の経験則はあり、それに従うことで、音質を向上させるということはできます。でも、せっかくならば、より音質にこだわった製品を作ってみようじゃないか、ということで、今回の製品開発に着手したわけです。


■ Audio Masterとは?

藤本:そのカギを握るのがAudio Masterなんですね。いきなり本題に入りますが、このAudio Masterとはどういうもので、本当に音がよくなるのでしょうか?

近藤:もちろん、CRW3200の一番の特長はAudio Masterです。これは高品位で音楽の書き込みができるというものですが、オーディオだけでなく、データも高品位で書き込むことが可能になっています。では、なぜ音がいいのか、順を追って説明します。

藤本:お願いします。

近藤:CDを再生する際、プレーヤー側で音が悪くなる要因はメディアなどから発生するジッターです。ピットを書き込んでいったときの長さのブレなどが再生のときの負担になります。そのため普及価格帯のプレーヤーだと、サーボ系の問題で音質が悪くなります。つまりサーボ系で生じる電流がアナログ回路に影響を及ぼし、低音が物足りなかったり、定位が安定しなかったり、高音がザラついたりするわけです。

 この辺については、Digital Audio Laboratoryの中でも何度も触れられていますいますよね。それならばジッターを減らせばいいじゃないか、と取り組んできたわけです。

 3モデル前の製品から書き込みの品位を上げる目的で、光回路を改良した「ピュア・フェイズ・レーザー・テクノロジー」という技術を採用してきました。CD-Rの書き込みの際、発光しているレーザーに戻り光があると、レーザーそのものがノイズを持ってしまいます。この戻り光を減らすためにレーザーピックアップとレーザーピックアップの制御回路を改良したものが、この技術です。

 これによってジッターを20〜30%減らすことができました。この技術は今回も利用した上で、さらに別のアプローチでということで取り組みました。

藤本:具体的にはどのようなアプローチだったんですか?

近藤:アナログ的な発想ではありますが、ピットの長さを長くすれば相対的にジッターが減ります。書き込みの際のブレを固定値だとすれば、長くすれば再生時のジッターが減るという考え方です。

 もちろん、どこまでも長くできるというわけではありません。あんまり長くしたらCDプレーヤーで読めなくなってしまいます。CDプレーヤーが読める範囲というのは線速度1.2〜1.4m/secで書き込まれた情報です。つまり、最大1.4m/secまで可能ということになります。

 さらに、線速度1.4m/sにて各メディアに最適な書き込みをするライティング・ストラテジーも変えなくてはなりません。そこまでの技術を含んだのがAudio Masterなのです。


■ Audio Masterの効果

藤本:実際に1.2m/secを1.4m/secに変えて効果はあったのですか?

近藤:はい。まず、このビームとピットの概念図を図を見てください(下図参照)。このようにした結果、CDプレーヤーで読み込んでどういう出力が得られるのか、RF信号を検出してオシログラフで表示させたのが、以下の2つのグラフです。

【ビームとピットの関係】
【通常書き込み】 【Audio Master書き込み】

 この網の目をアイパターンと呼んでいますが、これがはっきり見えるほうが、ジッターが少なく、安定した再生が可能になります。2つを見比べれば、Audio Masterで書き込んだほうが、はっきりしていることが良くわかると思います。もう1つ注目していただきたいのが、信号のレベルです。つまり、縦軸の長さですが、これもAudio Masterで書き込んだほうが大きくなっています。

藤本:このレベルが大きいといことは、CDプレーヤーから読みやすいものであるということになりますね。

近藤:その通りです。CD-DAを書き込んだCD-Rメディアがカーステレオで再生できないといった話がよくあります。そんなCD-Rと相性の悪いプレーヤーでもAudio Masterで書き込んだものだと、再生できるケースが多くなります。

 ただし、Audio Masterにもデメリットが1つあります。それは、線速度が1.4m/secのため通常よりも長くピットを記録するので650MB/74分のディスクでは63分、700MB/80分のディスクでも68分しか記録できません。

藤本:音楽用にCD-Rを書き込む場合、等速がいいという話をよく聞きますが、CRW3200では何倍速で書き込んでいるんですか?

村田:速度については私がお答えしましょう。まず結論からいえばAudio Masterを使う場合は4倍速固定となります。「B's Recorder GOLD」を添付していますが、Audio Masterを指定すると、書き込み速度は何倍速を指定していても、無視されて4倍速になるようにしてあります。

藤本:それは、やはり高速対応メディアに対応させるための処置ですか?

村田:実は、開発の段階においては、いろいろな速度を試してみました。それこそ等速から最高の24倍速まで。その結果、4倍速固定としたのです。おっしゃる通り、高速対応メディアの場合、等速や倍速ではうまく書き込むことができません。こうしたメディアに対してもAudio Masterで書き込むことができるようにと4倍速にしたわけです。

藤本:それならば、ユーザーが速度を選べるように1〜4倍速に対応とする方法もあったのではないですか?

村田:このドライブは高速ドライブなので、あまり低速では使いたくないというのがエンジニアとしての見方です。やはり高速のほうが、安定して動作します。また、各倍速でのチューニングに時間がかかるというのも1つの問題です。それなら、あるポイントを絞って徹底的にチューニングしたほうがいいということで、汎用性のある4倍速に設定したわけです。

 その結果、3割程度ジッターが減りました。もちろん今後、Audio Masterが受け入れられて、さらに等速で書き込みたいという声が出てくれば、バリエーションとして考えたいと思います。


■ バッファ・アンダーラン・エラー防止機構で音質は変わる?

藤本:ところで、CRW3200にはバッファ・アンダーラン・エラー防止のためにSafeBurn機能が搭載されていますが、Audio Master使用時にこの機能はどうなるんですか?

村田:Audio Masterでの作動時はSafeBurnは自動的にオフになります。

藤本:それは、やはりSafeBurnを使うと音質が落ちるといことなんですか?

村田:いや、別にそういうわけではなく、4倍速で動作させ、しかも8MBものバッファを搭載しているので、現在のPC環境のほとんどでバッファ・アンダーラン・エラーが生じないために利用しないだけです。

藤本:確かに8MBも搭載していれば、心配ないですね。でも、ついでにお伺いすると、このSafeBurnに限らず、BURN-ProofやJustLinkなど似た技術がいろいろありますが、これらが働くと音質は落ちるものですか?

村田:万が一SafeBurnが働いた場合でも、データを書き繋ぐ部分でC1/CUエラーが発生することはありませんし、聞いてココだ、とはっきりわかることもありません。

近藤:SafeBurnに関して、ヤマハとしては、あくまでもバッファ・アンダーラン・エラーが起きないようにする防止機能であると考えています。

 したがって、他社のようにZoneCLVのときに使うといったアクティブな使い方はせず、最後の砦のように捉えています。ZoneCLVではなくパーシャルCAVを用いているというのも、その考え方の1つの現れです。


■ Audio Masterの互換性は?

藤本:話は元に戻りますが、Audio Masterで音質が良くなるであろう理由はわかりました。でも、これは本当にどのプレーヤーでも再生できるものなんですか?

近藤:先ほど1.2〜1.4m/secという規格になっていると話しましたが、正確にいうとレッドブックには「線速度は1.3±0.1m/sec」とあり、確実に規格範囲内に収まっています。逆にいうとこれが再生できないドライブは規格外製品ということになります。

 それに、'80年代のオーディオCDは線速度が速いものがほとんどでした。だから、最大でも60分強のCDばかりであり、70分さらには80分近くのCDが出てきたのは比較的最近のことです。

藤本:そういわれれば、そうですね。つまり、古いCDには1.4m/secの線速度のものが多いということですか?

近藤:その通りです。ですから、もし1.4m/secに対応していなければ、古いCDも読めないといことになってしまいます。

村田:また、ドライブメーカーであれば、どこも持っているはずですが、CDの測定用ディスクというものがあります。そこには1.2m/secから1.4m/secのものまで、さまざまなデータが書き込まれていて、これでみんなチェックしています。

藤本:そうだったんですね。でも1.4m/secにしてピットを長くすれば、音質が向上するのが自明の理だとすれば、なぜこれまでそれに対応したドライブがなかったんでしょう?

近藤:それは今までが高速と大容量を求める時代であったということでしょう。各社とも高速化には力を入れていましたが、音質にこだわるメーカーというのは、あまりありませんでしたから。

国内版ではneroそのものは付属しないが、音楽CDなどからAudio Masterモードでも書き込める「neroMIX」が添付される

藤本:最後にライティング・ソフトについてお伺いしたいのですが、これにはB's Recorder GOLDが添付されていますが、他のソフトもAudio Masterに対応する可能性はあるんですか?

村田:現在、国内ではBHAさんのB's Recorder GOLDの対応版を、海外では「nero」のAudio Master対応版をドライブに添付しています。また、ほかのソフトメーカーさんにもドライブや情報を提供しているので、近いうちに対応していただけるものと考えています。

 なお、Audio Masterが対応しているのはディスク・アット・ワンスのみであり、トラック・アット・ワンスには対応していません。


 このインタビューを終えた後、実際にCRW3200を用いて普通の書き込んだCD-Rと、Audio Masterで書き込んだCDを比較してみた。

 まず、見た目ですぐわかるのは、同じデータを書き込んでいるのに、Audio Masterのほうが書き込んだ部分の面積が大きいといこと。線速度が速いため、より大きいスペースが必要であることがよくわかる。

【通常書き込み】 【Audio Master書き込み】

 そして、インタビューさせていただいた部屋にあった、ごく普通のプレーヤーで再生してみたところ、確かに音質の違いがハッキリとわかる。まず「Hotel California」のアコースティックバージョンで聞いたところ、ギターサウンドやリズムのシンバル系における高域や音の広がりという面で違いがよくわかった。

 しかし、次に竹内まりあのアルバムをその場で焼いて聞き比べてみたところ、先ほどほどの違いはわからない。やはり曲によっても、ハッキリ違うものと、そうでもないものがあるようだ。

 もちろん、音質劣化の原因がサーボ系が引き起こす電流の乱れがオーディオのアナログ回路に及ぼしたものであるとすれば、プレーヤーによっても音の違いはいろいろと出てきそうだ。とはいえ、ジッターの少ないオーディオCDを作るというドライブは、なかなか画期的。

 なお、今回説明を省略したが、このドライブにはもう1つ「CD-RW Audio Track Edit」という機能が搭載されている。CD-RWに対してのみの機能で、音質追求の技術ではなく使い勝手を向上させる技術。

 今まで、CD-RWは書き換え可能ではあるが、CD-DAを書き込んだディスクを書き換えるには、全部消すしか方法がなく、かなり時間がかかる作業になっていた。それに対し、CD-RW Audio Track Editでは簡単に1トラックを削除したり、追加したりということが可能になった。新しい順にしか削除できない、既存のトラックの間に挿入できないなどの制限は多少あるが、これならばCD-RWをMDのような感覚である程度扱うことができ、非常に便利な機能だ。

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/01091702.html
□関連記事
【9月17日】ヤマハ、音楽CD専用記録モード搭載CD-R/RWドライブ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010917/yamaha2.htm

(2001年10月29日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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