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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第33回:MPEG-2エンコーダチップ搭載ノートパソコン
~欲しくなっちゃった「VAIO C1MRX」プレ製品版レビュー~


■ エンコーダチップ内蔵って?

 2月の春モデル、5月の夏モデル、そして10月の冬モデルと、それぞれのシーズンにおいて各社から新型のパソコンが発表・発売されるというのが、いつの間にか定着してしまったようだ。新モデルの広告が駅や電車、またパソコン誌をにぎわすようになると、ああもうそんな時期かーなどと思ったりする。

 ここのところ不振が騒がれているパソコン業界であるが、それでも毎回毎回新機能を搭載して飽くことがないってのは、やはりパソコンってものが社会を牽引していくに欠かせないものとなっているからであり、そこに技術が集中しているからということだろう。

 10月20日に、Windows XP搭載デスクトップ型VAIOがフライング発売になったのも記憶に新しいが、これがホームユーザー注目のイベントだったとすれば、その後にはモバイルユーザー注目のノート型VAIOの発売が控えている。

 VAIOに限らずこの冬のノート勢の特徴として、無線まで視野に入れたネットワーク環境への完全対応を掲げたモデルが多い。しかしAV Watch的な注目度はソコではなくてですな、やはりMPEG-2ハードウェアエンコーダ「MPEG2 R-Engine」搭載という新VAIO C1「PCG-C1MRX」がモノスゴク気になるわけである。気になるっつーか、「ノートにエンコーダ積んでいったいオレにどうしろと?」みたいな素朴な疑問と言った方がいいかもしれない。

 筆者が気にするとどこからともなくブツを手配して送ってくるというのが最近のAV Watch編集部の傾向であって、この新型C1も「次週はコレでお願いしますってかこれ以外ダメです」的な念押しとともに新VAIO C1のプレ製品モデルが送られてきた。

 今回は試用期間が短いので若干ツッコミが甘い点もあろうかと思うが、ご了承願いたい。またお借りしたモデルはまだファイナルな製品版ではないので、パフォーマンスその他に関しても変更される可能性があることも合わせてお含み置きいただきたい。

 C1そのものについてちょっと触れておくと、初代VAIO C1というモデルはいわゆる「銀パソ」の代名詞としてのVAIOノートからはちょっと一線を引いたモデルとして、'98年9月に登場した。特徴的な横長ボディにいっぱいの液晶、トップにビデオカメラ、そして小さすぎないキーボードを搭載して、ミニノートで当時時代を席巻した東芝「Libretto」とはまた違ったコンセプトを持っていた。

 つまりわざわざC1を「選んで」、「買って」、「使う」ことが、ダイレクトに「パソコンで遊ぶ」ことに直結していた異色のマシンだったのである。じゃあLibrettoじゃ遊ばなかったのかよぅ、と言われれば、うーんやっぱりあの頃はちょっと遊ぶ方向が明らかに違っていただろう。

 Librettoはパソコンをとことん知り尽くした人が「パソコンのミニチュア」として遊ぶ趣味性の高いマシンというのがスタート地点であったのに対し、C1は最初からパソコンでやるべきことを放棄して違うトコで遊ぶ、という感じだったように記憶している。

 そんなC1も登場して3年、シーズンごとに少しずつ改良が加えられ、今ではVAIOノートのラインナップに独自の位置を築いている。では、早速新VAIO C1を試してみよう。


■ 思い切った改良

銀一色ではない配色が精悍なイメージを醸し出している

 まずパッと目に付くところは、やはりボディカラーの変更だ。

 基本的にはVAIOカラーには違いないが、全体的に暗めにシフトしている。表面の銀色に内部の濃紺とコントラストが強く感じられる配色で、全体に精悍さを感じる。また内部の濃紺をラインとして外側に出すことでアクセントが付き、閉じたときに感じるのっぺり感が少なく、より小さく見えるデザインになっている。

 おそらくこのプラスティックのライン部分にBluetoothのアンテナが埋め込まれているのではないかと勘ぐるのだが、それを逆手にとってデザイン的にいい結果にまとめているところはさすがだ。

 個人的に最も大きな改良だと思うのは、マウスボタンに相当するボタン群のデザインだ。この部分は画面上部に付けられたカメラを格納するため、円柱状にえぐれていなければならない。したがって歴代のC1ではこの円柱状のえぐれのため、頻繁に使用するマウスボタンでありながら角がとんがってしまっていて、クリックするたびに指に刺さるという不快な思いをしなければならなかったのだ。正直言ってそこさえなければ、筆者はずっと前にC1を買っていただろう。

 しかし新C1では、その問題が見事にクリアされている。マウスボタンを円柱状にして、細く3つ並べたのである。ボタンは細いが長さがあるため、非常に使いやすい。

 このデザインではフタを閉じたときのピッチリ感は若干後退してしまうが、それよりも日常的に使用するボタンの新しい感触のほうが勝る。実にスマートな解決方法だ。

金属的な外観を持つ新デザインのマウスボタン ホイール型に変更されたジョグダイアル 付属のポートリプリケータ

従来モデルとの比較。左が新しい「C1MRX」

 デザインに関しては細かな変更点が沢山あって、いちいち挙げていたらきりがないのだがもう1つだけ。今まであまり使いでがなかったジョグダイアルだが、従来のダイアル式からホイール(というかローラーだな)式に変更された。

 設置場所もよく、両手でC1を持ち上げたときにちょうど右手の親指で操作しやすい位置にある。iモードのおかげで一躍市民権を得た格好の親指ローラーくるくる方式インターフェイスなので、これを使い勝手がいいと感じる人も多いことだろう。

 その他付属品としては、ポートリプリケータと無線LANカードがある。ポートリプリケータはコンパクトにまとまっていて、サイズとしては電気シェーバーぐらいだと思っていただければいい。

 売りのネットワーク機能は、まずBluetoothは本体内蔵、無線LANはPCカードで提供、有線LANはリプリケータ経由という三者三様の利用形態となっている。モデムは伝統的に本体内蔵だ。

 実際に使用する上での注目ポイントは、高精細度の液晶ディスプレイ。従来機では1,024×480ピクセルであったため、どうしても表示エリアの狭さがC1のネックとなっていた。しかし新C1では、解像度がもう一段階細かくなった。すなわち1,280×600ピクセル表示が可能になったのである。ソニーでは、これを“ウルトラワイドSXGA”と称している。

表示エリアはかなり広い。しかしこれが横20cmとなると……

 確かにこのぐらい表示エリアが広がれば、従来機で感じられた「狭いのぞき窓から世界を見ている」ような不自由感はかなり軽減される。

 ただし、面積がそのままに解像度が上がったため、文字の表示はもうギュギューっと小さい。「画面のプロパティ」でのフォントサイズが「標準」だと、もう一文字の大きさが2mmぐらいになってしまう。これは文庫本の活字よりさらに小さいぐらいだ。

 横サイズを基準に考えてみると、普通1,280ピクセルといえば16インチ液晶モニタ表示で使う解像度である。この場合、実寸で32cmぐらいはあるところであり、それでもCRTよりちょっと小さいよね、と言いながら使うサイズだ。それをさらに20.5cmに押し縮めているわけだから、ものすげえ小さい。

 技術的にはすごいものがあるのかもしれないが、人が文字を読むにはもうかなりギリギリであると思う。これでヘルプやWEBなどの文章を読んだりなんかしたら、眉間にしわ3本立てなければならなくなる感じ。40歳以上ではかなり脱落者が出るかもしれないディスプレイである。フォントサイズは各自が視力に合わせてもう少し大きめにカスタマイズする必要があるだろう。


■ エンコーダの性能をチェック!

 では、MPEG-2ハードウェアエンコーダ「MPEG2 R-Engine」の性能を見てみよう。これが使用できるのは、今のところ「Smart CapturePremium」というソフトウェアを通してのみである。従ってMOTION EYEを使った撮影か、ポートリプリケータを使っての外部ビデオ入力のみということになる。

キャプチャソフトは、新たに「Smart CapturePremium」として生まれ変わった 内蔵のMOTION EYE。写真では見えにくいが、上下にフォーカスダイアルがある

 VAIO標準ソフトウェアとしては他にもDV編集ソフトなどがあり、そこからMPEG-2への出力も可能なのだが、その場合にはソフトウェアエンコードとなる。せっかくの「MPEG2 R-Engine」の使い道が限られているのはなんとも勿体ない話だ。今後のバージョンアップで他のソフトも対応してくれるといいのだが。

 とりあえずMOTION EYEでテスト撮影してみた。撮影可能なモードとしては、最大で640×480ドットの静止画、同サイズのMPEG-2ビデオ、160×112ドットのMPEG-1ビデオの3つがある。各モードでの詳細はココにうまいことまとまっているので、参照していただきたい。

 なんといってもこの中での注目はMPEG2 R-Engineを駆使してのMPEG-2録画。設定では、画質として「スタンダード」と「ファイン」の2種類が選択できるが、プレ製品版だからか「ファイン」で撮影しても、スタンダードと同じファイルサイズになった。おそらく、製品版では改善されるだろう。よって、今回は、ファインでの撮影をあきらめた。

カメラの調整はコントロールパネルの「MOTION EYE」から行なう

 実は午後の日差しが傾いた光線のいい時間を選んでテスト撮影に出たのだが、それがいけなかった。いかんせんカメラ撮影時の動作が、非常に不安定なのである。

 まだ完成品とは言えない状態のためしかたがないのかもしれないが、2カット撮ったらエラーという感じなのだ。で、そのたび再起動したり元に戻った設定を直したりして四苦八苦しているうちに、文字通りの意味で「日が暮れてしまった」のである。

 しかしカメラ部分の改良点として、今回のC1ではスローシャッターが装備されており、暗いところでの撮影に対してフォローしてある。計らずしもその機能にかろうじて助けられたという形となった。

 ここに掲載するショットは、すべてスローシャッターによる撮影である。時間は4時過ぎでしかも日陰であるため、目視ではやや薄暗いのだが、撮影結果としてはそれほどノイズ感もなく、そこそこの写りになっている。

静止画のサンプル。マクロモードなどはないのだが、カメラ前3cmぐらいまで寄れる

【MPEG-2形式】
c1mp2.mpg(10.5MB)
【MPEG-1形式】
c1mp1.mpg(812KB)
MPEG-2での撮影サンプル。編集点が乱れているのはMPEG-2を直接連結したせいであり、再エンコードによる画質劣化はない ビデオメール用MPEG-1モードでのサンプル。従来はこのサイズ、この画質であったわけだ

 撮影サンプルをご覧いただいておわかりかと思うが、さすがにMPEGエンコード特有のブロックノイズなどはほとんど見られない。

 今まではせっかく撮った画像も、キツいMPEG-1圧縮のせいでボロボロだったのが、大きなサイズでしっかり見られるようになった。これはなかなか贅沢だ。

 しかしここまでまともに機能してくれるとやっぱり欲が出てくるわけで、現状ではカメラのほうが圧倒的に力不足であるのは否めない。このあたりのバランスが、今後の課題になるかと思われる。

ライン入力からのMPEG-2サンプル
【MPEG-2形式】
c1line.mpg(10.4MB)

 次にSmart CapturePremiumの入力を切り替えて、AVライン入力のキャプチャを試してみた。ポートリプリケータと付属ケーブルを使って、コンポジットビデオをリアルタイムにMPEG-2でキャプチャすることができる。

 入出力ともコンポジットしかないのが残念ではあるが、それでもHDDが10GBも空いていれば映画2本ぐらいは取り込める。出張の飛行機や新幹線の中で取り込んだ映画を見て時間を潰す、というのもなかなか楽しいではないか。

 このラインで取り込んだサンプル画像もついでに掲載しておこう。

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


■ 総論

 というわけで、新C1をちょっと触ってみたわけだが、C1はビデオカメラではなくれっきとしたパソコンであるので、それに付属のカメラで撮れる映像には自ずと限界がある。ズームもなければオートフォーカスでもないのだ。

 そのようなハンデがあることは百も承知であったとしても、今までイマイチ使えねえなぁと思わせていたのは、やはりスペック的な限界があることだった。従来機では、動画撮影は1ショット120秒が限界だったのである。さらにせっかく撮ってもチビっちゃい映像がギコギコ動くだけってんじゃ見るたびガッカリで、遊びにも使えない。いやむしろこういうものは、仕事では多少のことは我慢しても遊びじゃ許されんって話ではないか。

 ところがMPEG-2という高画質をこんな小さなパソコンでガンガンに使えるようになると、利用イメージが本格的に広がっていく。動画は1ショット3時間まで撮れるし、しかもVGAサイズである。例えば従来から付属している「MovieShaker」という「全自動プロモーションビデオ発生装置」みたいなソフトがあるのだが、これなんか俄然マジな存在になってくる。

 独自要素が強いC1ではあるが、普通のノートパソコンとしてもかなりの完成度を持っている。少なくとも小さいからガマンしなければならないという点は、ディスプレイの縦が短いということを除いてほとんど見あたらない。サブノートでB5でもまだ大きいと感じているアクティブなビジネスマンが使っても、全然オッケー。

 正直言って筆者は、しょっちゅう外で取引先と打ち合わせ、会社に戻って無線LAN接続、たまに出張有り、なんていう人がうらやましい。C1を買う理由が十分にあるからだ。始めは「コンセプト勝負」だったVAIO C1も、いよいよパソコンとしての成熟期を迎えたということだろう。

 その他にもソソる「VAIO Gear」なんかぬかりなく揃っていたりして、ってなにぃUSBヘッドホンにハンディGPSだとぅ。一体このヒト達はオレの財布をどうしようってんでしょうか。

 そんなすっかり買うつもりになったヒト用の情報として、今回発売になるC1のラインナップは2タイプある。今回試用した「PCG-C1MRX」と、「PCG-C1MR/BP」だ。主な相違点はココを見ていただきたい。

 ざっと見て気が付く大きな違いは、ワイヤレス環境の有り無しに目が行くところだが、実際にWindows XPマシンとして使ってみてのアドバイスとして、それ以外の部分にも注意して貰いたい。

 HDDとメモリの量は、むろん遊ぶには多いにこしたことはない。少なくともメモリは、OSがXPであることを考えると256MBまで欲しいところ。しかしこれらはその気になれば増設もできる。

 決定的な違いは、CPUのパフォーマンスだ。今回テストしたPCG-C1MRXは上位モデルにあたるのだが、Crusoe TM5800 733MHzがWindows XPにとって十分かというと、とてもさくさく動くとは言い難い。これよりさらにCPUのランクが下がるPCG-C1MR/BPでは、おそらくXP独自のGUIは全部カットして使わざるを得ないだろう。

 店頭予想価格は、PCG-C1MRXが23万円前後、PCG-C1MR/BPが19万円前後。実際の店頭でどのくらいの差がでてくるのか確実なところはわからないが、HDDと増設メモリ分程度の差しかないのであれば、迷うことなく上位モデルをお薦めしたい。たとえ今すぐに無線LANを使わなくても、長い目で見ればそっちを選ぶ価値はある。

絵になるパソコンというのもVAIOの重要な機能。これにヤラレがちだ(笑)

 さあ新しいC1は11月17日発売予定だ。

 おそらく店頭でこのC1を目の前にして、腕を組んだりあごを掻いたりあらぬ方向を見上げてブツブツ言ったりする人続出かと思われる。

 なんとかみんなC1を買う理由付けを心の中で行なうわけだ。そして買うわけだ。やべえそんなこと書いてたら、自分でも欲しくなっちゃった。

【追記】前回の宿題であった、カノープスMTV1000のキャプチャサンプルをお約束どおり上げておいた。興味のあるかたは先週の記事を参照していただきたい。

□ソニーのホームページ(Sony Drive)
http://www.sony.co.jp/sd/
□製品情報
http://www.sony.co.jp/sd/products/Consumer/PCOM/PCG-C1MRX/
□関連記事
【10月12日】ソニー、MPEG-2エンコーダを内蔵した新「VAIO C1」
―ボディをツートンカラーに変更し、解像度も向上
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011012/sony01.htm

(2001年10月31日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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