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第14回:陪審・参審制導入が現実味を帯びた今だから

~日本に陪審制度があったら?「12人の優しい日本人」~

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 陪審制度を描いた映画

12人の優しい日本人
(アルゴ・ピクチャーズ・シリーズ)
価格:4,700円
発売日:2000年10月25日
品番:PIBD-1003
仕様:片面1層
収録時間:約116分(本編)
画面サイズ:ビスタ(スクイーズ)
字幕:なし
音声:1.モノラル(ドルビーデジタル
発売/販売:パイオニアLDC

 陪審「国民の中から選ばれた一般の人々が、裁判の審理に参与する制度。日本では'23年(大正12年)の陪審法で定められたが、十分な成果をみないまま'43年(昭和18円)に施行を停止され現在に至っている」(大辞林 第二版)。

 陪審制度を描いた映画としては、'57年公開の「十二人の怒れる男(12 Angry Men)」が法廷劇の傑作として有名。そして、そのDVDが12月21日に発売される(品番:GXBA-16232、3,980円)。今回は、それを記念するわけではないが、1年以上前の2000年10月25日にDVDが発売された邦画「12人の優しい日本人」を取り上げる。


■ 「十二人の怒れる男」のパロディ?

 「12人の優しい日本人」は、元々東京サンシャインボーイズが、シアターサンモールで上演した三谷幸喜作の舞台作品。それを三谷自らが、映画用の脚本として書き直し、「櫻の園」で注目を集めた中原俊監督が映画に仕立てた。日本での劇場公開は'89年と12年前。ストーリーは、日本に陪審制度があったらという想定のもと動いていく。

 ある殺人事件の審議のため、12人の陪審員が召集される。その審議は、被告が若くて美人であるために、陪審員全員が無罪で一致し、早々に終了して皆が帰ろうしかける。しかし、それを陪審員2号が引き止め、無罪の根拠を問いただし始め、審議は混迷を極めていく……。

 ストーリーはこれ以上書いてしまうと、未見の人にはネタバラシになってしまうので、これ以降は実際に自分の目で見ていただきたい。ただ、この映画の元になった十二人の怒れる男が、誰が見ても有罪と思われる17歳の少年が、1人の陪審員が無罪を主張して、そこに向かってストーリーが展開されるのに対し、12人の優しい日本人では有罪、無罪を行き来し二転三転。ただのパロディに終わらせていない。


■ 三谷幸喜お得意の(?)密室劇

 原作が舞台だったこともあり、出てくる場所は陪審員室がほとんどで、そのほかには、そこへの入り口から廊下、トイレ、中庭程度しか登場しない。陪審員室があると思われる建物の外観も、予告編で少し映るだけで、本編にはまったく登場しない。まさに、三谷幸喜お得意の密室劇だ。しかし、そんな狭苦しい舞台設定の中、撮影には2台のカメラを使用し、中原監督おなじみの360度回転カットも取り入れるなど、映画らしい広がりを出している。

 登場人物についても、12人の陪審員以外は、陪審員室の警備員、ピザの配達員ぐらいしか出てこない。若くて美人との想定の被告人も、回想シーンすらなく、本当に美人かどうかもわからない。そして、その一癖ある陪審員は、クセのある役者が演じる。ということで、配役は以下のとおり。

 12人全員がいい味を出して演じているのは「十二人の怒れる男」に負けていないが、やはり注目は後半のストーリーを引っ張っていく自称弁護士の豊川悦司だ。豊川悦司は、'89年に「君は僕をスキになる」で映画デビュー(少ししか出てないかったけれども……)。

 カルトな人気を呼ぶTVドラマ「NIGHT HEAD」が'92年のスタートだから、「12人の優しい日本人」のころは、知るひとぞ知る存在だった。カツゼツは今よりさらに悪いように思うが、独特の存在感で、怪しい自称弁護士を好演している。


■ 陪審員のいない法廷劇なんて……

 個人的には、法廷劇は陪審制度がないと盛り上がらないと、「LA LAW 7人の弁護士」、「アリー・myラブ(NHKの表記)」などを米国のドラマを見ていて感じる。日本の法廷劇なんて、裁判そのものより、それまでの探偵まがいのような捜査(調査)に主題がおかれていることがほとんど。

 やはり、検事や弁護士のパフォーマンスは、一般人の陪審員に向かって行なうからこそ力が入りドラマになる。法曹の人間だけに向かって話しているのを一般の人が見てもあまり面白くないと思うのだ。

 しかし、ごくわずかな期間だけしかなかった日本の陪審制度だが、ここにきて陪審制度あるいは、参審制度を導入しようと、本格的に検討され始めている。だが、日本に陪審制度を導入することができるのかと、この映画を見ていて考えてしまう。

 というのも、日本では議論するトレーニングをほとんど受けないで大人になる。そのため、一般の人のほとんどが議論する能力を持ちあわせていない。実際、大学の授業で症例検討をしている時に、同級生には早稲田や慶応など一流大学を卒業した人が多かったのに、議論を組み立てられる人がほとんどいないことに愕然としたからだ。つまり、日本の大学教育では、筋道立て組み立てて、それを他人に説明する力はつかないことがわかった。

 そんな日本の大人たちが12人集まって、人の善悪、そして罪の重さを、他人の意見を聞き、自分の意志をもって決めることができるのだろうか……。不安になる。


■ DVDとしてどうか?

 このDVDでは、新たにDVD用ポジテレシネ・ニューマスタ作成をしている。実際の作業としては、オリジナルネガ(完成原版、マスターネガ)を1コマづつチェック、補修、クリーニングし、ニュープリントを起こす。それを、テレシネ作業で、デジタルベータカムに変換。

 さらに、よりフィルムに近い色調、画質とするために通常プリント(ポジフィルム)と異なる、ローコストポジフィルム(ローコンポジ)を起こして、それをURSAダイアモンド・テレシネにかけて色調補正を行ないスクイーズ収録されている。

 その画質は、抜けがよく解像度も高い。ただ、少し色が薄い(彩度が低い)ように感じた。そのため、パッと見の派手さは弱いが、十分高画質の分類に入る丁寧な仕事だと思う。

 それに対し、音声はドルビーデジタルのモノラル日本語のみ。下手に5.1chにリミキシングされるよりはいいのだが、モノラル日本語のみならリニアPCMで収録してほしかった。そこが少し残念。

 映像特典は予告編のみと寂しいが、DVD用ポジテレシネとなっており予告編としては高画質なのが救いか。封入されているのは4ページの解説書(フルカラーではない)のみ。今時の特典満載のDVDに慣れてしまった身には、4,700円は高く感じる。

 しかし、良質の邦画を応援する意味でも、映画の内容でも損したとは思わなかった。これで、しっかり予習(復習?)して、容易を万端整えて十二人の怒れる男のDVDの発売を待ちたい。


□パイオニアLDCのホームページ
http://www.pldc.co.jp/
□製品情報
http://db.pldc.co.jp/search/view_data.php?softid=47905
□20世紀フォックスのホームページ
http://www.foxjapan.com/
□「十二人の怒れる男」の製品情報
http://www.foxjapan.com/dvd-video/cgibin/UserSearch/index_dvd.cgi?id=892

(2001年11月9日)

[furukawa@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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