3大シーケンスソフトの1つ「CubaseVST」が、先日バージョン5.1にアップデートされた。5.0から5.1へのマイナーアップデートではあるものの、各CPUへの最適化が図られるとともに、プラグインのソフトシンセやエフェクトの数が一挙に増えるなど、かなり機能強化されている。
そこで、今回はこのCubaseVST5.1というソフトを紹介するとともに、このCubaseVSTによって生まれ、デジタルレコーディングの世界においての標準となった「ASIO」、「VST」といったテクノロジーについても簡単に紹介する。
■ 12年の歴史を持つドイツ生まれの「CubaseVST」
CubaseVST(キューベースVST)とは、ドイツのSteinbergが開発したMIDI&オーディオシーケンスソフトでWindows用とMacintosh用が存在する。その前身であるCubaseが初めて登場したのは、'89年。最初はATARIのパソコン「ATARI1024ST」用に作られたMIDIシーケンスソフトであったが、その後CubaseはMacintosh、さらにはWindowsへと移植され広く普及していった。
そして'97年、その名称を「Cubase VST」と改めるとともに大きく生まれ変わった。このVSTとはVirtual Studio Technologyの略であり、コンピュータ上で仮想的なスタジオを完全に実現してしまう技術であるということを意味している。つまり、単なるMIDIシーケンスソフトに留まらず、HDDレコーディング機能とともに、エフェクト機能やシンセサイザ機能、ミキシング機能なども装備する。まさに1台ですべてがこなせるソフトへと進化した。
ちなみに、CubaseVSTの競合となるソフトもいろいろある。同じドイツ生まれのEmagicの「Logic」はATARIから、Macintosh、Windowsと同じように進化をしてきただけに比較されることも多い。またMacintosh上のソフトとしては、「DigitalPerformer」が国内で大きなシェアを持っている。ほかにも以前紹介した「Cakewalk SONAR」や、まもなく発売されるヤマハの「SOL」なども近い機能を備えているし、さらに上位になれば「ProTools」といったものも存在する。
現在CubaseVSTはWindows版、Macintosh版ともに5.1r1というバージョンになったのだが、ともに機能によって、以下の3つのラインナップが存在する。
詳細な相違点については、Steinberg Japanのサイトを参照していただくとして、簡単に説明すると、まずベーシックなものが「CubaseVST」であり、それにMIDIに関する強力な譜面機能を装備したのが「CubaseVST Score」。ともにオーディオは24bitで48kHzまで扱えるのに対し、最上位の「CubaseVST/32」は、オーディオの32bit処理と、96kHzのサンプリングレートにまで対応したものだ。
プロ用レコーディング機器で有名なApogee Electronicsの「UV22」。これを利用することで32/24bitデータを16bitに変換する際、ノイズのない、きれいな音にすることができる |
なお、CubaseVSTの下には、そのエントリー版ともいえる「CubasisVST」というものがあり、これはSoundBlasterLive!/Audgyなどにもバンドルされているので、使ったことのある方も多いかもしれない。
■ CubaseVSTが、5.0から5.1へバージョンアップ
さて、その3種類あるCubaseVSTが、それぞれ5.0から5.1へバージョンアップした。正確にはWindows版が5.0r6から5.1r1へ、Macintosh版が5.0r2から5.1r1になった。もちろん、5.0ユーザーはSteinberg Japanのサイトからアップデータをダウンロードすることで無償アップグレードできる。ただし、アップデータは28MBもあるので注意が必要だ。今後必要なユーザーに対してはCD-ROMでの配布も予定されているが、具体的な日程などは明らかになっていない。
一方、市販の製品はもちろん5.1になる。また、それとあわせて、12月中旬から「The VST Edition」というものも発売される。これは一番下のグレードのCubaseVST 5.1とSteibergの32bitソフトウェアサンプラー「HALion」のパッケージだ。
現在こうしたソフトウェアサンプラーは各社から出されているが、HALionの評判はいい。機会があれば、こうしたソフトウェアサンプラーについても紹介していきたいと思う。
では、5.1になって具体的にどんな点が機能強化されたのだろうか?
まず最初に挙げられるポイントは、G4 AltiVec、Pentium III、Pentium 4、AMDの各種CPUといった最新のCPUへのネイティブ対応。これにより、高速化するとともに、CPU負荷も小さくなっている。
またプラグインのアプリケーションが数多く追加されたのも大きな特長。ソフトシンセであるVSTインストゥルメントとしては、
【JX16】 | 【CS-40】 | 【LM-7】 |
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【Autopole】 | 【DaTube】 |
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【Mysterizer】 | 【Vocoder】 |
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いくつかについて解説すると、まずJX16およびCS40はともにアナログシンセ。JX16のほうはバーチャルアナログオシレーターによるサウンドモデリングと、多機能なフィルターセクションの組み合わせにより「暖かみのあるパッドサウンド、表情豊かなリードサウンド、生き生きとしたメロディライン、斬新なシーケンスサウンド」など、多彩なサウンドの作成が可能。
またCS40のほうは2つのオシレーターの比較的シンプルなパラメーターとなっているため、誰でも簡単に図太いサウンドを作り上げることがきる。一方、LM-7は従来からあったLM-9の後継ともいえるものだが、24bitサンプリングのデータを用い、各パットのボリュームレベルの調整だけでなくピッチの調整も可能となっている。
エフェクトも、それぞれ強力なものが加わっている。たとえばAutopoleは2つのフィルターを組み合わせたもので、それぞれにLFOやエンベロープを用いたモジュレーションをかけられる。またDaTubeは真空管アンプのシミュレータであり、普通のアンプとは一味違うサウンドが楽しめる。Mysterizerは、このパット上でカーソルの位置を変えることによりフィルタの掛かり具合いが奇妙に変化するもの。そしてVocoderはその名のとおりのボコーダー。
これらプラグインのほとんどは、プラグインメーカーとして著名なmdaやFXpansionが、Steinbergに提供したもの。もちろん、これらは新たに加わったプラグインなので、もともとあったVSTインストゥルメントおよびVSTエフェクトはそのまま残っている。最近はフリーウェアのプラグインもいろいろと登場してきたが、これだけ使えるソフトが無償で手に入るのだから、CubaseVSTユーザーなら絶対アップデートすることをお勧めする。
■ プラグインのアーキテクチャ「VST」とは
ここからはCubaseVSTについて、あまりご存知ない方のために、そのコアとなるテクノロジーを2つ紹介しよう。まずは「VST」について。
前述のとおり、VSTはVirtual Studio Technologyの略でSteinbergが提唱する、コンピュータのCPUのみでリアルタイムにオーディオ処理を行なうための技術の総称である。ProToolsがDSPを利用して動作するのに対して、VSTでCPUですべて行なうというのが大きな違いだ。
CubaseVSTは、このVSTをベースに作られたシーケンスソフトで、チャンネル無制限のミキサーがあり、各チャンネルにはイコライザの設定やエフェクトの設定ができるようになっている。
チャンネル無制限のミキサー | 各チャンネルにはイコライザの設定やエフェクトの設定ができる |
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このVSTで特長的なのはプラグインで新たな機能をいろいろと追加できるということ。さきほどのアップデートのポイントにもあったように、プラグインとしてサポートとしているのがVSTインストゥルメントとVSTエフェクトの2種類。
VSTインストゥルメントは、ソフトシンセなどのソフトウェア音源をプラグインとして使用するもので、ハードウェアとしてMIDI楽器がなくてもMIDIの演奏を可能にしている。しかも、最近はソフトの進化によりハードウェアを超える性能を持つにいたっており、最新のシンセサイザはもちろんのことHALionのような強力なサンプラー、ビンテージシンセをシミュレーションするものなど数多くのソフトがリリースされている。
CubaseVSTには、MIDIトラックから直接アクセスすることができる8つのVSTインストゥルメントラックがあり、ここに各種VSTインストゥルメントを設定することにより、さまざまな音源を同時に鳴らすことができる。
一方VSTエフェクトのほうも、各チャンネルにインサーション形式でかけたり、センド・リターン形式、さらにはマスターエフェクトとしてかけるということが可能で、CPUパワーだけでリアルタイムに利用することができる。
標準で35種類(CubaseVST/32は36種類)ものエフェクトが装備されているだけでなく、市販のものフリーウェア、シェアウェアなどを含めると数百種類ものプラグインが存在している。しかも、このVSTは、いまやWindowsでもMacintoshでも広く普及したオーディオ処理技術となっており、CubaseVST以外にもさまざまなソフトでサポートされるようになっている。
■ Win/Macともにオーディオドライバの標準となった「ASIO」
VSTとともにSteinbergが生み出したもう1つの標準的技術が「ASIO(アジオ)」だ。これはAudio Stream In/Outの略で、サウンドカード・オーディオカードとソフトウェアをつなげ、ハイクオリティなマルチI/Oを実現する技術。つまり、オーディオドライバのこと。
WindowsであればMMEやDirectXといったものが一般的なドライバであるし、MacintoshではSoundManagerが標準のドライバである。しかし、最近では、ある程度の性能を持ったオーディオカードのほとんどがASIOに対応するようになっている。
M-Audioの「Delta44」(左)、「SoundBlasterAudigy」(右)もASIOに対応している |
ASIOでは、複数の入出力ポートを装備したオーディオインターフェイスで効率よくコントロールすることができ、しかもレイテンシーを低く抑えることができる。ここでのレイテンシーとは、コンピュータが音を出す命令を行なってから、どれだけの時間差で音が実際に出るかを意味するもので、WindowsのMMEドライバの場合500msec程度もかかっていた。しかしASIOならオーディオカードやドライバの性能にもよるが、普通10msec以下、いいものならば1msec以下に抑えることが可能。
これにより、先ほどのVSTインストゥルメントでは大きなメリットが出てくる。つまり、外部に接続したMIDIキーボードなどを演奏し、VSTインストゥルメントを鳴らす際、遅れがなくなり、まったく違和感なく演奏できるようになるのである。
また最新のバージョンであるASIO2.0では、入力信号を対応オーディオハードウェアに直接返送することにより、遅れの無いダイレクトモニタリングを実現している。さらにASIO2.0対応オーディオハードウェアのADAT sync、LTC(SMPTE)、VITCを使用し、外部機器とのサンプル単位の正確な同期も実現できる。
このASIOは数多くのオーディオカードが対応しているだけでなく、多くのシーケンスソフトでもサポートしており、事実上の標準となっている。
以上、VSTとASIOという2つのテクノロジーに絞ってCubaseVSTについて紹介してみた。もちろん、CubaseVSTには、ここでは触れていないさまざまな機能・性能を備えている。本当の初心者ユーザーにはちょっととっつきづらいところがあるのも確かだが、中級者からプロのレコーディングに用いるユーザーまで十分に満足できるソフトである。
□スタインバーグ・ジャパンのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□CUBASIS VST/CUBASE VST5シリーズ製品概要
http://www.japan.steinberg.net/products/vst5/pc/spectable.html
□ダウンロードページ
http://www.japan.steinberg.net/download/index.html
(2001年11月26日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp