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第18回:懐かしくも新しい“空想科学DVD”

ファンなら安い?「メトロポリス メモリアルボックス」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 至上空前のゴージャスなDVDボックス

メトロポリス
メモリアルボックス
価格:12,800円
発売日:2001年12月7日
品番:BCBA-1033
仕様:片面2層(本編) + 片面1層(特典)
収録時間:約107分(本編)
画面サイズ:16:9(スクイーズ)
字幕:日本語字幕
音声:1.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
   2.日本語(DTS)
発売元:角川書店
    バンダイビジュアル株式会社
販売元:バンダイビジュアル株式会社

 今回購入したのは、手塚治虫原作の劇場アニメ「メトロポリス」。監督は「銀河鉄道999」、「火の鳥」のりんたろうで、彼は虫プロ時代にTVアニメ版「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」などの演出も手がけている。脚本には「AKIRA」、「スプリガン」の大友克洋。この顔合わせだけでも期待がふくらむというのに、「制作費15億円、制作期間5年、作画枚数15万枚」という破格の触れ込みには、心躍らせるものがある。

 また、5月の公開当時は、CGとセルアニメを融合させた「究極の作りこみ系映像」が大いに話題となった。詳しいストーリーについては公式ページを参照して欲しい。

 さて、DVD版は3,800円の「通常版」と12,800円の「メモリアルボックス」の2種類が同時リリースされた。発売日の翌日、12月8日にメモリアルボックスの方を購入しようと東京・新宿に出かけたのだが、早くも品切れ店ばかり。結局、有楽町のビックカメラで買うことができたが、ここで改めて手塚アニメの根強い人気を思い知らされた。

 パッケージの内容は、片面2層の本編ディスク、片面1層の特典ディスクの2枚組み。さらに、128ページの解説書と528ページ(!)にわたる全カットのストーリーボードが封入されている。

 この2冊の分厚いブックレットのため、ボックスサイズは2枚組みとしてはかなり大きめだ。外形寸法は約75×42×200mm(幅×奥行き×高さ)。ためしに手持ちのトールケースを詰め込んでみたところ、あっさり4本が収まった。しかも箱材の厚みが4mmほどあり、国内盤の紙パッケージとしては、いまだかつてないゴージャスさとなっている。

 一方、通常版は本編ディスク1枚と8ページの解説書のみ。ごく普通のトールケースで、ごく普通に店頭に並んでいる。映像特典も入っているが、劇場予告編と主題歌のプロモーションビデオだけと、至極あっさりしている。後述するが、メモリアルボックスにはパイロット映像など通常版にはないコンテンツが15本も収録されている。

 さらに、決定的な違いがある。それは音声で、通常版がドルビーデジタル5.1chの1トラックなのに対し、メモリアルボックスは、ドルビーデジタル5.1ch、ドルビーサラウンド、そしてDTSの3トラックが入っている。ここまで本編に通常版と限定版とで差をつけたパッケージは、ちょっと他に思い浮かばない。

 なお、全カットを収録したストーリーボードは、参考資料としてもかなりの価値があると思う。ほとんど漫画原稿並みにきっちり描きこまれた絵コンテには感動してしまった。また、アクション指定は、この道を目指す人には大変ためになるものだと思う。



■ 精緻を極めた映像美

 とにかくこの作品、描きこみがものすごく、画面内の情報量が半端じゃない。高層ビル群や地下工場内などは、CGで描いた後に、手書きで描き足しているという。このため、メトロポリスという雑多な大都会が、実にいきいきと表現されている。建造物の精緻さはもとより、圧巻なのはモブシーンだろう。ここまで細かい事物がチャカチャカと動き回る映像を見たのは初めて。かなり驚いてしまった。

 こうした作りこみ系の背景に対し、人物はあくまで手塚作品らしく柔らかい。この柔らかいキャラクタが細密な背景にうまく溶け込んでいるところが、この作品の一番の見所だ。最新映像と手塚キャラの違和感ない融合。これは立派に手塚アニメの系譜になぞることのできる作品で、かつ最高の映像化作品だと思う。

 映像そのものは、全体的にローコントラストで彩度が高め。シャープネスは低いが、これらの傾向は作品をレトロな印象にするため、すべて狙ったものだろう。ただし、地下など暗いシーンでは、ブロックノイズが若干目立った。どちらかというと前半に良く見受けられたが、クライマックスを迎える後半では、ぐっと少なくなる。また、完全なフルアニメではないそうだが、キャラクタの動きは非常に滑らか。

 実は今回、通常の民生用DVDプレーヤーで視聴した後、パソコンでも再生してみた。DVD-ROMドライブは、IEEE 1394接続のロジテック「LDV-A16040F」。再生ソフトに「PowerDVD XP Pro」を用いて、全編を通してビットレート表示を確認したところ、映像ビットレートは平均して6Mbpsから7Mbps前半といったところ。なかなかハイビットだ。特にラストの崩壊シーンでは、瞬間的には9Mbpsを超えるシーンも見受けられた。

 音声ビットレートは、ドルビーデジタル5.1chが443kbps、ドルビーサランドが384kbps、DTSが1,536kbps。街中や工場内などでは、5.1chによる包囲感が臨場感を増している。ラストの崩壊シーンなど、アクションでもサラウンドが大活躍する。ただしLFEは控え目。爆発や花火など聞かせどころは多いはずだが、ほとんど鳴っていない印象。視聴中はサブウーファの存在自体を忘れてしまった。もっとも、これがLFEの正しい姿なのかもしれないが。

 DTSは環境音の生々しさがアップ。足音などの効果音の解像度が明らかに上がった。BGMの切れも良くなり、特にホーンやハイハット、ピアノが浮き出てくる。


■ 12,800円払った人だけが見られる特典の中身

 気になる特典ディスクの中身は、動画コンテンツが計15本で約42分、そのほかに「メトロポリスMAP」、「人物相関図」、「スタッフ紹介」といった静止画コンテンツが収録されている。

 なかでも、CSのファミリー劇場で放送された「りんたろう×大友克洋の世界」(約24分50秒)、SkyParfecTV!放送の「いよいよ公開 メトロポリスの世界」(約33分20秒)に多くの容量が割かれている。どちらも公開直前の特番だが、特に前者は才能のある人同士の対談ということで、非常に見ごたえがあった。手塚治虫への想いにはじまり、企画へのこだわり、製作過程でのエピソードなどが語られている。

 また、「いよいよ公開 メトロポリスの世界」の方には、ティマ役の井元由香とケンイチ役の小林桂のアフレコ風景といった、どちらかというとアニメ界以外の人がこの作品の制作に対し、どう接したかがわかる内容も含まれている。これはこれで興味深い。特に、初々しい井元由香がラブリーだ。

 もっとも、特典ディスク中で最大の目玉となるのは「ノスタルジックカラー~セピア調」だろう。これは本編の一部をセピア調に脱色処理したもので、その名の通り、よりレトロな雰囲気を味わえる。制作の初期段階では実際に脱色処理が計画されていたそうで、もしかしたらありえたかもしれない「もうひとつのメトロポリス」を楽しめるという、DVDだけの特典だ。ただし残念なことに、約5分20秒と短い上、圧縮ノイズがかなり目立つ。映像ビットレートは平均6Mbpsといったところで、本編よりは少し低目。音声はドルビーデジタル2chのみで、ビットレートは本編と同じ448kbps。

 また、「ジグラット空中散歩~CGテスト映像」も面白かった。本編ではじっくり拝めなかったジグラットだが、ここではCGによる全景をゆっくりと堪能できる。視界を自分でコントロールできるわけではないが、入り口の隠れキャラ(というほど大げさなものでもないが)を確認できたり、豪華なBGMが入っていたり(2ch 448kbps)と、結構楽しめた。なにより、建造物ひとつに「ここまで作りこんでいたのか」と驚くこと間違いなしである。

 そのほか、'97年の東京国際ファンタスティック映画祭や、'99年の釜山ファンタスティック・アニメーション・フェスティバルで公開されたパイロット映像を収録。この頃の映像にはまだCGっぽさがかなり残っており、本編と比べて見るのもの面白い。また、定番ともいえるトレーラーも劇場用特報が4本、TVCMが4本の計8本が収められている。



■ ジャズファンも注目すべし

 この作品、'87年の「マルサの女」で日本アカデミー賞・最優秀音楽賞を受賞した、本多俊之が音楽監督を務めている。彼自身は、どちらかというとサックス奏者として有名だろう。作中の音楽はほとんどジャズで、これはりんたろう監督の指定だという。通常、音楽制作はポストプロダクションとなるため、公開前まで作業が押すものだが、この作品に関してはサクサクと進み、公開前のプロモーションイベントに本多氏が顔を出すほど余裕があったという。りんたろう監督が企画初期段階に出したコンセプトの良さと、本田氏の力量が伺えるエピソードである。

 ジャンルとしてはセクステットくらいのニューオリンズ・ジャズ。この作品の持つノスタルジックな雰囲気を、実にうまく醸しだしている。場面ごとのアレンジも素晴らしい。主題歌のモチーフを使いまわしているだけなのだが、それが全体を通しての統一感を生み出しているという、まるでお手本のような映画音楽になっている。ジグラット崩壊とともに流れ出すレイ・チャールズの「I Can't Stop Loving You」にも、思わず鳥肌が立ってしまった。

 また、ケンイチ役の小林桂は、若手のジャズボーカリスト。日本人でしかも男性という、ジャズボーカリストとしては珍しい逸材だ。スウィング・ジャーナル誌の人気投票でもボーカル部門1位を獲得するなど、国内でも注目が集まっている。この作品ではじめて声優に挑戦し、一途な少年の役柄を好演している。

 ボーカリストといえば、「ナースのお仕事」、「カバチタレ!」といったドラマ俳優のイメージが強いロック役の岡田浩輝も、そういえばロックボーカリスト。彼も本作が声優としての初仕事という。ロックという複雑なキャラクタを違和感なくこなしている。さらに音楽といえば、特典ディスクに主題歌のプロモーションビデオが収録されている。これは通常版にも収録されており、4ビートのメインテーマをバラード風にアレンジしたもの。音声はドルビーデジタル2ch、ビットレートは448kbps。購入前はPCM収録を期待していたのだが……。サントラを買えということか。

 ジャズを使った映画には、マイルス・デイヴィスの「死刑台のエレベーター」や、ジョニー・スミスの「危険がいっぱい」など、「古くておしゃれな映画」というイメージがある(ただしニューオリンズではなくビパップ以降か)。メトロポリスのレトロフューチャーな雰囲気にも、ジャズがぴったりだと感じた。


■ 通常版を買ってしまうか? それとも再販を待つか?

 劇場では未見だったが、今回の視聴で、日本のアニメ界が本気を出すとすごいものができることがよくわかった。また、原作には登場しないロックをはじめ、手塚キャラもスターシステムで多数出てくるし、アトムや御茶の水博士といった隠れキャラファンもDVDならじっくり確認できる。手塚ファンなら間違いなく気になる存在だろう。

 そこで問題になるのは、通常版を買うか、それともメモリアルボックスを買うかの二者択一。一般層には通常版、マニアにはメモリアルボックスというフォーカスだと思うのだが、購入者にとってDTS、特典ディスク、2冊のブックレットに、どれだけの価値を見出せるかだろう。

 メモリアルボックスは現在品薄で入手が困難な状態にある。しかし、バンダイビジュアルによると、次回出荷は12月25日とのこと。店頭で注文すれば25~27日には購入できそうだ。

●このDVDについて
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前回の「太陽を盗んだ男」 のアンケート結果
総投票数478票
[購入済み]
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[買いたくなった]
256票
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[買う気はない]
90票
19%

□バンダイビジュアルのホームページ(エモーション)
http://emotion.bandai.co.jp/
□「メトロポリス メモリアルボックス」の製品情報
http://emotion.bandai.co.jp/cgi-bin/mc.cgi?tfn=01366
□「メトロポリス」通常版の製品情報
http://emotion.bandai.co.jp/cgi-bin/mc.cgi?tfn=01365

(2001年12月14日)

[furukawa@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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