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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第40回:テレビの近未来像(?)「エアボード」
~ 最先端技術満載のハイテク家電を試す ~


■ 無線LANの先駆者

 先々週のZooma! で取り上げたNEC SmartVision HD40の時に、LANとテレビの話を書いた。パソコン間のLANでテレビを伝送する技術が我々の前に現われ始めたわけであるが、先週の時点では無線LANにテレビ画像を乗せるという製品がもっと前からあったのをすっかり忘れていた。それがソニーの「エアボード」である。

 初代のエアボードは、2000年9月に発表されている。10.4型TFT液晶のモニター部に、無線LAN規格IEEE 802.11bを使ってMPEG2を伝送するという、うーんなんていえばいいのかな、「ワイヤレステレビ」というような製品である。テレビ視聴がメイン機能ではあるが、メールやWEB閲覧も無線でできるという機能も併せ持っている。この映像とインターネットのデータが混在して無線で扱えるというところに大きな技術的意義を見いだすことができるわけで、家庭内にブロードバンド帯域のワイヤレスLANを導入するといろいろなことが可能になるというコンセプトを象徴する製品と言えるだろう。

 さてこのエアボードの新モデル「IDT-LF2」が、2002年1月下旬から発売になる。初代モデル「IDT-LF1」との間にはモデムポートをLANポートに変更した「IDT-LF1E」が2001年9月にリリースされているが、これは受注生産モデルであり、かつ内容的にはLANとボディカラーの変更のみであったことから、今回の新モデルが実質的なエアボード2号機と言っていいだろう。

 このエアボードの特徴をざっとさらってみると、

といったところがあげられる。

 今回Electric Zooma!では、このエアボード新モデルを発売に先立ってお借りすることができたので、さっそく使ってみることにしよう。なお今回使用したモデルはほぼ製品版と同レベルのものであるが、仕様などは変更される可能性があることをあらかじめご了承願いたい。


■ しっとり落ち着いたデザイン

 液晶モニタ部は、従来機の10.4型から一回り大きくなって、12.1型になった。解像度は800×600ピクセルである。また以前の四角く平たいパネルからウィング型に広がった形に変更され、厚み方向にも立体感が付けられている。カラーも暗めのグレーになり、精悍な印象を受ける。前モデルが名前の通り「ボード」というべき形であったのに比べると、ややテレビ的というか家電的になった感じもする。

液晶モニタ部はサイズが大きくなり、テレビらしくなった 液晶モニタ部の背面。写真はクレードルに立てた状態

 箱を開けて中身を出してみると、付属品が結構多い。液晶モニタ部とベースステーション、およびそれに付帯するケーブル類はもちろんとして、今回からベースステーションとは別のクレードルが付属することになったのである。これを使ってベースステーション以外でもバッテリの充電ができるほか、そのまま電源としても使うことができる。従来機ではバッテリの持ちが懸念されたわけだが、これ以上大型バッテリを積むと重くなって可搬性が減るし、ということでクレードルという方向になったのだろう。いずれにしてもこういうものがオプションではなく標準で付属しているのはいいことである。

標準で付属するクレードル。小型で設置に場所を取らない ケーブルのコネクションとワイヤレス基地を兼ねるベースステーション さすがにコネクタ類がてんこ盛りのベースステーション背面

 ベースステーションにコネクタ類を接続して電源を入れると、SONYロゴに続いてairboardのロゴアニメーションが表示される。インターネットへ接続してみると、最初は「airboard net」というサイトに繋がるようになっている。ここはエアボード会員(というかユーザー)専用のサイトで、チャットや掲示板などのコミュニケーションのほか、テレビ番組表や各方面へのリンクなどがある。自分でURLを入力しなくても、各種サーチエンジンや生活に関係するサイトに飛べるようになっている。

 ブラウザの右上にある「子画面 入」というボタンをタップすれば、いつでもテレビ画面を右下に小さくオーバーレイ表示にすることができる。単純にテレビとして使うというよりは、WEBにアクセスしつつテレビを見る、といった方向性を製品が示唆しているという印象だ。

どんな作業中でも「子画面 入」ボタンでテレビ画像をオーバーレイできる 番組のブラウジングには便利な「airboテレビ」画面 メールの返信画面。よく使う助詞などが上に表示されるのも親切だ

 テレビを見る上で便利なのが「airboテレビ」というページで、画面の約半分程度の面積にテレビ画面を表示し、同時に全チャンネルの番組表を表示する。これにより裏番組の進行がわかったり、放送局のサイトへ飛んで番組情報を見たりといったことができる。年末からお正月番組を制覇するという目的などには最強かもしれない。

 メールなどへの文字入力は、画面上に現われるソフトキーボードから行なう。図のような50音入力のほか、ローマ字入力にすればQWERTY配列のキーボードがでてくるなど、様々なユーザー層に対応していることがわかる。


■ 実際の使用感を探る

 実際に家で使ってみると、1人で見るためのテレビとしては十分な大きさである。重さも寝ころんで膝に立てかけても苦にならない程度。カタログスペックでは、バッテリ込みで約2.1kgであるという。だいたいA4ノートとB5ノートの中間ぐらいの重量であろうか。

 ベースステーションからは室内で約30mぐらい離れてもOKなので、大抵の家では大丈夫であろう。もちろん壁などの遮蔽物で実効距離には多少の影響がでるものと思われる。試しにトイレの中でも使ってみたが(もちろんドアを閉めてだ)、まったく問題なく使用できた。

 液晶モニタは、タッチパネル液晶にしてはコントラストも強く、光量もある。テレビの画質は、「airboテレビ」でのはめ込み画面サイズではMPEG特有のざらつきがみられるもののコマ落ちなどはなく、縮小表示のせいもあってまあまあ視聴には不自由しないクオリティが得られている。また映像のプログレッシブ化はかなりうまく処理されており、コーミング系のノイズは見られない。

 フル画面表示にすると、液晶解像度の800×600ドットに拡大表示するせいもあって、絵柄によってはブロックノイズが目立ち、かなりノイジーな感じがする。一番顕著なのはやはりニュース系のハンディカメラの映像のようだ。しかしスーパーのような静止部分はノイズに紛れず綺麗に読めるので、文字に対する認識性は悪くない。ちなみに映像伝送は通信状態によって可変するらしいが、最高で5MbpsのMPEG-2であるという。ノイズ感からすると、3Mbps程度のクオリティを想像していただければ現状がわかると思う。本来ならば動画サンプルをお見せしたいところだが、エアボードには録画機能がないのでお見せすることができないのが残念だ。

 またオーディオであるが、これは典型的なテレビの音。中音域が強調された、人間のしゃべりを中心としたソースを楽しむという感じだ。若干気になるのが、スピーカーに混入するハムノイズである。どうも液晶のバックライトかなにかの発振を拾っているようで、小さい音量ではブーンという音が気になる。音量を上げてもノイズレベルは変わらないので、アンプよりも後のラインで混入しているのかもしれない。もしかしたらこの個体だけの問題かもしれないが、製品版では改善されていることを願う。

【2002年2月9日追記】
 プレ製品モデルで気になったオーディオのハムノイズであるが、後日製品版のAirBoard「IDT-LF2」をお借りできた。それで、確認したところ、製品版ではハムノイズの混入はなかった。レビューでお借りしたプレ製品モデル固有の問題であったようだ。ご了承いただきたい。

 面白いのが、AVマウスという付属品である。エアボードにはライン入力もあるので、例えばCSチューナやDVDプレーヤーからの出力を繋ぐこともできるわけだが、そのときに困るのが離れたところからのこれらの機器のリモートである。エアボードは無線であるから遮蔽物があっても困らないが、これらAV機器のリモコンは大抵赤外線なので、見通せる場所からでなければ使うことができない。

AVマウスでリモコン制御できる。本来は機器の上面に両面テープで固定する 画面上に現われるリモコンで操作する

 そこでAVマウスの出番である。ベースステーションにAVマウスを接続し、先端を機器の赤外線受光部付近に置いておくと、そこから赤外線をビカビカと発射し(いや肉眼では見えはしないが)、エアボードの画面に出てくるリモコン画面を使って外部機器を操作できるのである。試しにパイオニアのDV-535をコントロールしてみたが、離れたところからでもDVDの操作ができるのはなかなか気が利いている。


■ 総論

 世の中的にはメールができる、WEBが見られるというと、「それって中身パソコンなのどーなの」とすぐに色めき立つ傾向があるが、エアボードの場合はやはり汎用性や拡張性のあるパソコンではなく、いわゆる「複合家電」であるという印象を持った。今やインターネットができるからパソコンであるという考え方はできなくなっている。

 今家庭へのパソコンの普及率って50%ぐらいという話だが、それらの家庭すべてでガンガンにCD-R焼いたりテレビ録画したりデジカメ写真取り込んだりしているわけではない。家庭に置かれたパソコンの主要目的は、ほとんどインターネットへのアクセスではないだろうか。

 それだったら無理にパソコンじゃなくてもいい、と考える人があっても不思議ではない。わりとテレビに夢中になる年頃であり、かつこれからネットデビューする中学生や高校生の息子、娘に与えるデバイスとして、エアボードは悪くない選択肢であろう。またインターネットはしたいけどパソコンを覚えるのが面倒という、今までパソコンに踏み切れなかった人のための端末としてもいい。メールなどのプライベートなデータはすべてメモリースティックに記録されるので、家族で使ってもプライバシーを守ることもできるというあたりも、安心できるポイントだ。

 読者の周りにも、これを使ったらよさそうな人がいるのではないだろうか。筆者の周りでも、パソコンに縁のない家庭に育った姪や、メールをやりたがっているおばあちゃんなど、いろいろ該当する人がいる。例えばそういう人たちにパソコンを勧めて、あなたがサポートすることになったとしよう。インターネットとは関係ないパソコンそのものにまつわる難問奇問と10分置きに立ち向かうハメになることを考えたら、いつでもバチンと電源切ってOKなエアボードって、いい選択だと思うのだが。

 すでにパソコンを持っていて自由に使いこなせる人には、エアボードはいまいち魅力的には映らないかもしれない。買っても、劇的に生活が変わるわけではないからだ。ある意味これはAV家電製品を買うときと同じように、「それがあることで変わる生活」まで含めてイメージできなければ買えないタイプの製品と言えるのではないだろうか。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/sd/CorporateCruise/Press/200112/01-1212/
□airbord net
http://www.airbonet.com/
□関連記事
【12月12日】ソニー、無線LANインターネット液晶TV「エアボード」の新型
―液晶を大型化、無線LANアクセスポイント機能も装備
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011212/sony.htm
【7月23日】ソニースタイル、無線液晶TV「エアボード」のEthernet版を先行予約
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010723/sony.htm
【2000年9月28日】ソニー、無線LAN搭載のインターネット液晶TV「エアボード」(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000928/sony.htm

(2001年12月19日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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