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第41回:誰でも使えるマスタリングソフト

〜 Steinberg CLEAN 3.0 〜



 ノイズリダクション&音楽CD作成ソフトとして実績のあるSteinbergの「CLEAN」が、3.0にバージョンアップし、また新たな機能をいろいろと追加してきた。

 今回のバージョンアップの最大のポイントは、スペクトラムのコピー機能だ。この機能を利用することにより、手持ちのCDの曲をBeatlesの「Let it be」を元に60'sサウンドに仕上げようとか、宇多田ヒカルのtravelingを元に今のJ-POP風に仕上げるといったことが可能になっている。まさにマスタリング・エンジニアにしかできないワザを、誰もが手軽に実現できてしまえるソフトになっているのだ。

 もちろん、従来どおりノイズリダクション機能や、CDへのライティング機能などは健在。ほかにも、マスタリングに関するさまざまな機能が追加されている。そこで、実際のサウンドを聞きながら、CLEANの実力を探ってみた。


 CLEANについては、以前このDigital Audio Laboratoryでも扱ったことがあるので、記憶されている方もいるだろう。第19回でバージョン1.5を取り上げており、ノイズリダクションの実験を行なっている。その後2.0にアップグレードされ、ノイズリダクション機能も強化された。2.0が発売されたのが9月初旬であり、それからたった4カ月での3.0にバージョンアップしたことになる。かなり早いピッチではあるが、2.0から3.0へと数字がメジャーバジョンアップしただけのことはある内容になっている。

 今回の目玉機能を紹介する前に、まずCLEANの概要について簡単に紹介しておこう。このソフトは、ヨーロッパではかなりのシェアを持っている音楽用CD作成ソフトであり、「アナログ素材を手軽にクリーンないい音でCD化!」というのをうたい文句としている。

 メーカーはMIDI&オーディオシーケンスソフトで、世界のトップクラスのシェアを誇るCubaseVSTの開発元ドイツStainberg(スタインバーグ)だ。

 ただし、プロユーザーをターゲットにした製品とは少しジャンルが異なり、このCLEANは一般コンシューマーをターゲットとしている。そのため、使い勝手などが初心者向けにチューニングされ、誰もが簡単に使えるようになっている。とはいえ、Steinberg製品だけあり、エンジン部分は非常に高性能。価格からは考えられないすごいことができる。


■ まずはノイズリダクション機能をチェックする

クリーニング画面

 CLEANの一番の特徴は、なんといってもノイズリダクション機能だ。まずは、この性能からチェックしてみることにしよう。

 以前このDigital Audio Laboratoryでチェックした際はバージョンが1.5で、その後2.0、3.0と進化した。Steinbergによればノイズリダクション部分に変化はないという。ただし、1.5から2.0においては、かなり性能が向上しているという。

 検証の方法は、以前行なったのと同じ素材を用い、そこからノイズを取り除くというもの。具体的にはAreareaという女性2人組のユニットの曲に、ヒスノイズ、クラックルノイズ、ハムノイズを乗せたものをそれぞれ用意し、そのノイズを除去する。

 【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ
 AreareaはRINO(ボーカル)、YUKI(ピアノ)の2人からなるポップスユニット。7月1日に2枚目となるCD『唄わなきゃ』をリリースした。3曲入りの、このマキシシングルは全曲ピアノ、ボーカルのみのシンプルな構成ながら心に染みる作品に仕上がっている。

Arearea (C)REALROX
http://www.arearea.net/

【今回実験に使ったサンプル】
【オリジナル】
約469KB(original.mp3)
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約471KB(hum.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約472KB(cracle.mp3)

 CLEAN 3.0のノイズリダクションには、以下の5つのパラメータが用意されている。

 それぞれにオン/オフのスイッチとともに、効き具合を0〜100までの数値で設定することができる。ただ、この設定を適当に行なうのはなかなか難しく、設定によってだいぶ音も変わってくる。これをうまく設定するためには、ある程度の慣れが必要になる。そこで初心者向けとして、ソフトが自動で解析してくれる「自動設定」というモードが用意されている。

 ただし、Clean! 1.5で試したときにはまともに動作せず、手動で適当に設定したほうがまだマシな音といえた。ところが、2.0以降ではその問題はほぼ解決。現バージョンでは十分利用できる機能となった。

 そこで、今回はすべて自動設定を用いた。その結果、テープ特有のヒスノイズおよび、レコードのプチプチいうクラックルノイズはかなり取り除くことができた。ただし、電源の影響などで入るブーンという音のハムノイズは、あまり取り除けなかった。

 それぞれの結果をMP3で保存したものを以下に掲載しておくので、興味のある方は参考に聴いて欲しい。ただし、MP3にする過程で高音域が消えてしまうなど、ある程度の音の変化が起こっている点はご了承いただきたい。

【自動設定によるノイズリダクションの効果】
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【自動設定】
約473KB(hiss_a.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約471KB(hum.mp3)
【自動設定】
約472KB(hum_a.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約472KB(cracle.mp3)
【自動設定】
約473KB(cracle_a.mp3)


■ サラウンド機能や空間を広げる機能も装備

 CLEANという名称ではあるが、このソフトでできるのはノイズリダクションだけではない。2.0から加わった機能として、サラウンド機能というのがある。これは今流行りのドルビーデジタル対応の5.1chを作ろうというのではなく、アナログでのサラウンドになる。

 とはいえ4chのドルビープロロジック互換なので、作った音をドルビープロロジックのデコーダを用いれば、かなり広がりのあるサウンドにすることができる。また、デコーダのない単なる2chのスピーカーの環境であっても、それなりに広がりのあるサウンドを再生できるようにはなっている。

サラウンド画面

 具体的には、サラウンドの画面において、4つのスピーカーの配置を設定するとともに、音の出るのが前のほうか、後のほうかを設定するだけでOK。特別な知識がなくても、ステレオサウンドを簡単にサラウンドサウンドに変換できる。

FX画面

 こうした空間を広げる仕組みはほかにも用意されている。FXという画面を見ると、ここには「ステレオ感を拡大」というパラメータがあり、これを設定することで、左右への広がりをもった音に加工することが可能。ステレオ感の弱いサウンドでも、それなりに立体的な音になる。

 さらにリバーブ機能も装備されており、併せて使えば、さらに広がりのあるサウンドが得られる。


■ スペクトルコピーで誰もがマスタリングエンジニアに

 さて、ここまでは2.0のバージョンでもほぼ同様の機能が実現されていたが、CLEAN 3.0となって実現された最大の目玉機能というのが、冒頭でも少し説明したスペクトルコピー機能である。

 スペクトルコピーという表現からも想像できるように、この機能は周波数成分の特性をコピーするというものである。が、単純にイコライザを設定するというだけではない。ある曲のもつ空気感のようなものを、別の曲にコピーしようという機能なのだ。つまり、音楽制作の現場でいうところのマスタリング操作を、簡易的な機能ではあるが実現してくれる。

 マスタリングというのは、レコーディングやミキシングを終えたサウンドを最終的に整えて作品として完成させる作業を指すが、実際の操作としてはイコライザとコンプレッサを用いて行なう。非常に単純な操作ではあるものの、これの設定によって曲の雰囲気がまったく変わってくる。そのため、マスタリングにはかなりの知識と音に対する敏感さが必要になり、素人にはなかなか難しい。CLEANでは、それを誰もが実現できるようになっている。

スペクトルコピーの詳細設定

 方法としては、既存の曲からそのスペクトルを元に雰囲気を抜き出し、それを手元にある曲にコピーするというもの。

 試しに、先ほどノイズリダクションの素材として用いたAreareaの曲に対して、Beatlesの「Let it be」のスペクトルをコピーしたものと、宇多田ヒカルの「Automatic」のスペクトルをコピーしたサウンドを作成した。

 実際聞いてみると、確かにLet it beのような空気感になっていることは感じられる。もし、イコライザを用いてこんなサウンドにしろといわれても、普通はここまでうまくはいかないだろう。元々ピアノ&ボーカルのサウンドなので、Autimaticは適当な素材ではなかったが、とにかくずいぶん違うサウンドに変身した。


■ VSTプラグインを2つまで利用可能

 もう1つ、CLEAN 3.0で追加された便利な機能として、VSTプラグインを2つまで利用できるようになったことがある。

 VSTプラグインに関する詳細はここでは省くが、これはプラグイン型のソフトで実現するエフェクトであり、SteinbergのCubaseVSTやNUENDOだけでなく、さまざまなメーカーのアプリケーションで利用できる。もちろん、プラグインソフトのほうも、市販製品、パッケージソフト製品、シェアウェア、フリーウェアなど何百ものソフトがあり、それをCLEANで利用することができる。

 ただし、CLEANで同時に利用できるVSTプラグインは2つまで。さきほど紹介したFXの画面の下にある2つがそれだ。

 CLEANに同梱されているVSTプラグインとしては、「Externalizer」、「StereoEcho」、「Choirus2」、「FuzzBox」の4つのみ。しかも、どれもマスタリング用といった感じのエフェクトではないが、ここにコンプレッサやパラメトリックEQなどのVSTプラグインをインストールして利用すれば、かなり本格的なマスタリングが可能になるかもしれない。

同梱されている4つのプラグイン。左から、「Externalizer」、「StereoEcho」、「Choirus2」、「FuzzBox」

 そのほかにも、マスタリングに役立つ機能として真空管アンプのシミュレーション機能やカーステレオ用に補正する機能など、さまざまなエフェクト機能が搭載されている。いろいろと試してみるのも面白いだろう。

 ところで、このCLEAN 3.0、AV Watchの記事でも取り上げられていたが、発売日が2001年12月28日から、2002年1月下旬へと延期された。その原因はインストーラの不具合とのことで、実際、12月中旬にSteinberg Japanからもらった評価版をインストールしても、あるDLLファイルが見つからないというエラーが出て動作しなかった。

 もしかして、と思って前のバージョンをインストールしてみたら、案の定動作した。プログラム開発の経験のある方ならわかると思うが、こういうバグはなかなか気がつかないものだ。そろそろ、最終出荷版が完成しているだろう。

 ちなみに、前のバージョンは2.0、その前は1.5だったのだが、実は微妙に名称が変わっている。前は「Clean! 1.5」、「Clean! 2.0」だったのが、「CLEAN 3.0」と変わったのである。これはSteinbergのロゴが変更されたのと関係しているのかもしれないが、特に大きな意味はなさそうである。

 最後に購入を検討している方に、価格面でのお得な情報を1つ紹介しておこう。CLEAN 3.0には通常版とアップデート乗り換え版の2種類があり、価格はそれぞれ9,800円、5,800円となっている。2.0の登録ユーザーなら無償アップグレードしてくれるとのことだが、これまでCLEANを購入したことない方でも、アップデート乗り換え版の安いバージョンで問題ない。

 というのも、これは旧製品ユーザーだけを対象としているのではなく、CD-Rライティングソフトのユーザー全般を対象にしているからだ。つまりB's RECORDER GOLDでもWinCDRでも、この手のソフトを持っている人なら誰でもOK。もちろん、CD-Rドライブにバンドルされているソフトで構わないし、CLEAN 3.0を購入したからといって、手持ちのソフトを取り上げられるわけではない。

□スタインバーグ・ジャパンのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□製品情報
http://www.japan.steinberg.net/products/clean20/index30.html
□関連記事
【2001年12月27日】スタインバーグ、28日発売のCLEAN 3.0を発売延期
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011227/steinber.htm
【2001年12月20日】スタインバーグ、音楽用ライティングソフト「CLEAN 3.0」(PC Watch)
〜真空管アンプシミュレート機能を搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011220/stein.htm

(2002年1月21日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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