【バックナンバーインデックス】


第47回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その6:フリーの「Ogg Vorbis」と、QDesignの「QDX」 ~



 これまでで、有名どころのオーディオ圧縮形式については、一通り検証してきたわけだが、世の中探せば、いろいろなものが存在する。今回は、その中からOgg Vorbis、QDX(QDesign music codec)の2つを取り上げる。


 2001年に、MP3でもエンコーダが違うと、結構音質が変化することを検証した。今回のシリーズで、それと同じ実験をMP3以外のオーディオ圧縮形式でも展開してきた。ATRAC3WindowsMediaAudioAACTwinVQ、そして前回のRealAudio。これだけあれば、主だったところはほぼ網羅していると思うのだが、世の中探してみると、ほかにもいろいろな圧縮形式がある。

 その中でも、今話題で、多くのソフトがサポートし始めているのが「Ogg Vorbis」。私自身も昨年、これをいろいろと触ってきたが、この1年でずいぶんと普及が進んだようだ。このOgg Vorbisは、特許フリーをうたい文句に登場した。MP3の開発元であるFraunhofer IISなどが特許を理由に各ソフトメーカーに使用料を請求しているのに対し、こちらは今後一切特許料などを請求せず、誰でも自由に使えるということで、注目されている。

 そして、今回もう1つ取り上げるのがカナダのQDesignが開発した「QDX」という形式。QuickTimeをシステム的に利用する構造になっているため、どちらかというとMacintoshで普及しているようだが、MP3の5倍という高圧縮を打ち出しており、ストリームにも対応している。


■ Ogg Vorbis

 まず一番の注目株であるOgg Vorbisから。前述したとおり、現在では多くのソフトがこれに対応しており、具体的に「Winamp」、「Sonique」、「XMMS」といったMP3プレーヤーにOgg Vorbis再生用プラグインが登場している。また、「SoundForge」をはじめとする波形編集ソフトなどでも、サポートしている。

 オリジナル版は、Ogg Vorbisのサイトにあるソフトで、コマンドラインで使うものだ。しかし、なぜかこの数日、このサイトがダウンしており、最新版を手に入れることができなかった。そこで、このエンジンに用いた、ほかのソフトを探してみたところ「CD-DA X-Tractor」というソフトが見つかった。このソフトでは、GUIでソフトCDからリッピングし、直接Ogg Vorbisに変換することもできる。

 CD-DA X-Tractorの場合、128kbpsから350kbpsまで5段階のビットレートを選択できる。そこで、今回は、128kbpsと160kbpsの2種類を選択して、試してみることにした。

CD-DA X-Tractor 5段階のビットレートが選択できる

WinAmp

 検証の方法は、ATRAC3やAACなどで行なったのと同じ方法、同じ素材を用いた。今回もTINGARAの夜間飛行という曲の45秒と、1kHzのサイン波、20Hzから22.5kHzのスイープ信号を利用し、エンコードを行なっている。

 また、このエンコード結果をefu氏のWaveSpectraでグラフ表示させるため、いったんWAVファイルに変換する必要があるのだが、これにもやはり従来から使ってきたTotal Recoderを利用した。具体的な方法としては、Ogg Vorbisプラグインを入れたWinAmpで再生したものをキャプチャした。

 結果は以下のとおり。

【エンコード結果】
【オリジナル】 【128kbps】
約685KB(yakan128.ogg)
【160kbps】
約859KB(yakan160.ogg)

【スイープ信号】
【128kbps】
約264KB(sweep128.ogg)
【160kbps】
約265KB(sweep160.ogg)

【サイン波】
【128kbps】
約685KB(1khz128.ogg)
【160kbps】
約859KB(1khz160.ogg)

 この結果を見る限り、MP3などとそう大きく変わるものではない。周波数帯域的に見ても、128kbpsでも160kbpsでも18kHz以上が欠けた形になっている。一般的なMP3の場合、16kHzか17kHz以上が欠けてしまうので、ある程度はOgg Vorbisの方が上といえるのかもしれない。なお、スイープデータの結果ではかなり高音まで音が出ているように見えるが、これはグラフ上のことだけであり、明らかにエイリアスによるノイズで出たもののようだ。128kbpsでは18kHz以上は出ておらず、160kbpsでは20kHz以上が出ていない。

 ただ、実際に聞いた音は、オリジナルに近い。微妙な音がしっかり出ており、MP3より明らかにいいサウンドだ。これは1kHzのサイン波の測定結果で非常にいいS/Nが出ていることとも関係するのかもしれない。なお聴感上においても128kbpsと160kbpsでほとんど違いを感じなかった。

 ところで余談ではあるが、先日、妙なところでOgg Vorbisと出会った。CubaseVSTやLogic Audioといったオーディオ・シーケンスソフトをネットワークに接続し、みんなでセッションするというRocket Networkシステムがある。

 このシステム自体はアメリカのものだが、この日本の窓口をインプレスのグループ会社であるリットーミュージックが行なっており、ASTRO SESSIONという名前でサービスしている。いずれ、どこかで紹介してみたいと思うが非常にユニークなシステムで、オンライン上でメンバーを募って、バンドを組むことができたりする。

 実は、このシステムにOgg Vorbisが採用されていたのだ。ユーザーはWAVやAIFFを使ってレコーディングするのだが、ネットワーク上にデータを送る際、バックエンドで自動的にOgg Vorbisにコンバートしている。そのためADSLなどを用いていたら、ほとんど待ち時間なくデータのやりとりができて快適なのだ。このように、特許フリーのOgg Vorbisは使いやすさでジワジワと浸透してきており、気が付くとMP3に取って代わっている可能性がある。


■ QDX

 さて、次はQDesignの「QDX」だ。Macintoshの世界においては、少しずつその名が知られるようになってきたフォーマットで、高圧縮ができるということで人気を集めているが、Windowsの世界ではあまり知られていない。これに対応したプレーヤーはいくつかあるようだが、QDesignが出している「MVP」というソフトがMacintoshとともに、Windowsにも対応しているため、これを使ってみることにした。

 予めWindows版のQuickTimeをインストールしておかなくてはならないのが、多少面倒ではあったが、インストール作業そのものは非常に簡単に終わった。ちなみに、QDXはQuickTimeが標準でサポートしているフォーマットというわけではなく、QuickTimeのプラグイン的な位置付けになっている。

 実は、当初これをWindows XP上で動作させていたのだが、どうもうまくいかなかった。とりあえず見た目上はエンコードもでき、その結果の再生もできているのだが、その音を聞くと、途切れ途切れになっていて、まともな音楽とはいえない状況だった。QuickTime Playerで再生させても状況は同じだったため、Windows Meをインストールしなおして動かしたところ、きちんと動作してくれた。

MVP 4種類のビットレートが選択できる

 このソフトの場合、24kbps、48kbps、64kbps、128kbpsの4種類のビットレートが用意されている。今回はこのうち64kbpsと128kbpsの2つを用いて実験を行なった。実験方法は先ほどとまったく同じだ。

 具体的な結果は以下のとおり。

【エンコード結果】
【オリジナル】 【64kbps】
約355KB(yakan64.mov)
【128kbps】
約707KB(yakan128.mov)

【スイープ信号】
【64kbps】
約942KB(sweep64.mov)
【128kbps】
約1,881KB(sweep128.mov)

【サイン波】
【64kbps】
約80KB(1khz64.mov)
【128kbps】
約158KB(1khz128.mov)

 音楽データの測定結果を見ると、かなり高域までしっかり出ていて、オリジナルに近い感じを受ける。また見た目だけでいえば、128kbpsよりも64kbpsのほうがスムーズなグラフであるようにも見える。

 スイープ信号の結果でも、高域が切れていない。多少波形が汚いが、それでも期待の持てる波形にはなっている。一方の1kHzのサイン波から見るS/Nは64kbpsで58dB、128kbpsでは54dBと悪く、先ほどのOgg Vorbisのグラフと比較すると明らかに汚い。

 では、実際に音を聞くとどんなものなのだろうか?

 結論からいえば、Ogg Vorbisのほうが明らかにいいサウンドであった。グラフの見た目上は64kbpsのほうがきれいに思えたが、音のほうは64kbpsのほうが明らかに劣化している。128kbpsの方がましではあるが、それでもMP3のほうがいいように感じられる。

 このソフトはMP3の5倍の圧縮率を売りにしているが、それは誇大広告という感じであり、音質の面からすればあまり評価できないものであった。読者の方も、実際に自分の耳で確かめてみて欲しい

 次回は、これまでの結果を振り返るとともに、非可逆圧縮についても少し触れてみたいと思う。

(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/

□Ogg Vorbisのページ(英文)
http://www.xiph.org/ogg/vorbis/
□QDesignのホームページ(英文)
http://www.qdesign.com/

(2002年3月11日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.