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【特別編】AVEXにコピーコントロールCDについて聞く



 3月13日に、エイベックスからPCでリッピングできないようにプロテクトのかかったCDが発売された。これは市販のMP3ソフトなどでリッピングしてエンコードすることはできないし、PC上でCD-Rにコピーすることもできない。

 すでに海外ではそうしたCDが何種類か発売されていたが、邦楽では初のものであり、今後発売される多くのCDにこうしたプロテクトがかかる可能性もある。これが、実際にどんなもので、どういう背景から発売に至ったのか、それによるユーザーにとってのメリット、デメリットはどんなところにあるのか、エイベックスで直接お話しを伺った。

※「圧縮音楽フォーマットを比較する」(その7)は次週掲載の予定です。


■ コピーコントロールCD発売の経緯

 既報のとおり、3月13日(水)にエイベックスから邦楽アーティストの市販商品では初となるコピーコントロール機能を付加した音楽CD、BoAのマキシシングル「Every Heart -ミンナノキモチ-」が発売された。エイベックスでは、これに続き3月20日(水)には、Do As Infinityのベストアルバム「Do The Best」を、3月27日(水)には倖田來未のニューアルバム「affection」をそれぞれコピーコントロール機能付きでリリースすることを発表している。

 これらコピーコントロール機能が付加された音楽CDでは、基本的にPCのCD-ROMドライブでのリッピングはできなくなるという。したがって、MP3ソフトなどはもちろん使えなくなるし、Digital Audio Laboratoryでも取り上げてきたATRAC3やAAC、TwinVQといったソフトは利用することはできず、結果として今普及しているポータブル・シリコン・オーディオプレイヤーへも、このCDから直接データを送ることはできない。

 では、どうしてエイベックスはこのような手段に出たのか、また実際にどんなプロテクトになっているのか、そしてこのプロテクトですべてのコピーユーザーを封じ込めようとしているののだろうか? いろいろな疑問点が浮かび上がる。そこで、こうした疑問を直接エイベックスにぶつけてみることにした。

 今回、取材に応じてくれたのはエイベックス株式会社、会長室企画広報課長の山田敏瑛氏と、実際に技術に携わっているエイベックスネットワーク株式会社取締役、コンテンツ事業部/e-ビジネス推進室担当の松田徹氏。(以下敬称略)

藤本:今回、コピープロテクトをかけたCDを発売されるとのことですが、具体的な内容をお伺いする前に、このようなCDを発売するに至った背景について教えていただけますか?

山田:そもそも、コピーコントロール機能を付加したCDを出さざるを得なくなった理由は2つあるんです。まず1つ目は違法のファイル共有・交換が頻繁に行なわれているということです。たとえばWinMXを使って「浜崎あゆみ」と入れたら、それこそ2,000件以上のMP3ファイルがヒットすると思います。

 もちろん、これは完全な違法行為といえると思います。また、違法行為とは言い切れないまでも、CD-Rへの過度のコピーがかなり増えてきていることも挙げられます。

藤本:CD-Rのコピーというのは、従来からのカセットテープへのコピーやMDへのコピーとは意味が違うということですか?

山田:コピーしている人の感覚的にはそう違わないのかもしれませんが、基本的に音質の変わらないクローンCDができあがるという意味で全く違います。それに、実際の事象が大きく変化しているんですよ。

 具体的にいえば、最近のCDは発売日の前日の夕方に店頭に並びます。それを夕方のうちに買って家でCD-Rへコピーし、元のCDを中古店に売るというケースが増えてきているんです。発売日に持ち込まれたら中古店も高く買いますし、その日のうちに中古店の店頭に並べれば中古店も価格を高く設定できます。

 そして別の人は、それを買って翌日に中古店に売ると……。CDレンタルショップの場合、アルバムは発売日から3週間はレンタル禁止となっているのですが、結局、中古店を通じて同じことが行われているわけです。

藤本:それは、確かにCD-Rでコピーしていたり、交換していることは明確ですね。

山田:そうなんです。このことは受注の状況からもはっきりとした数字で現れてきているんです。CDショップからわれわれへの注文はイニシャルオーダーとバックオーダーに分かれています。

 イニシャルオーダーというのは発売の約1ヶ月前にかける注文で、バックオーダーというのは、発売後の追加注文を意味しています。従来だとバックオーダーは発売日からゆるやかに右肩下がりで落ちていくという傾向でした。それが最近だと、イニシャルオーダーはそれほど数は変わらないのですが、バックオーダーがズドンと落ちてしまうんです。

藤本:それはいつごろからの傾向ですか?

山田:ここ1年ほどで顕著になってきましたが、さらに昨年秋ごろから激しく現れるようになりました。

藤本:特定のアーティスト、タイトルがということですか?

山田:いいえ、当社の出しているほとんどのものが、まったく同じ傾向になっています。また、それがエイベックスだけのことであれば、われわれの扱っているものの人気がないということになりますが、どうやら業界全体も同じ状況のようなのです。

 つまり、イニシャルオーダーのCDがコピーされ、出回っているということでしょう。結果としてレンタル店も伸びていないらしいですね。その一方で、ブランクCD-Rの伸びはものすごいようですから。このままでは、われわれも生きていきません。そうなると、新しい音楽も生まれなくなってしまいます。なんとか、この状況を止めなくてはということで、コピーコントロールCDを発売するに至ったわけです。


■ 4月以降はコピーコントロールCDにしていきたい

藤本:海外では、すでにそうしたCDが発売されていましたよね?

山田:はい、昨年から欧米が先行して発売していました。ご存知のようにNapster問題などもあり、日本も対岸の火事とはいってられない状況でした。国際的な音楽業者団体のIFPI(国際レコード産業連盟)の前回の総会が昨年11月にロンドンで開催されましたが、ここでのテーマもCD-Rへのコピー問題とファイル交換の2つでした。

 この総会では、ドイツで1億数千万枚のCD-Rが音楽のコピーに利用されたことなどが報告されました。また、全米レコード協会の発表によると、2001年の全米のオーディオレコードの総出荷枚数が前年比-10%となっています。世界全体の音楽業界が厳しい状態のようで、日本だけの問題ではないようです。

藤本:それを受け、実際に手を打とうと考え出したのはいつごろからですか?

山田:具体的に、早急に手を打とうということになったのは、今年に入ってからですね。とにかくバックオーダーの状況が大きく変わり、もう待ったなしということになったのです。結局1月から本格的に検討して、3月13日からの発売開始ということになったわけです。

藤本:現在のところ、御社の発表によると3枚が予定されていますが、このタイトルを選んだ理由というのはなんでしょう?

山田:特に、選んだというわけではないんです。やると決めたとき、とにかく間に合うものから手をつけたという感じです。つまり制作が終わり、プレスに入っているものは当然ダメですし、関係者の了解を得る必要もあります。こうした条件をクリアしたのが、たまたま今回発表した3タイトルだったんです。

藤本:ということは、今後エイベックスから発売されるCDはすべてコピーコントロール付きということになるのですか?

山田:希望としてはそうしたいと考えていますが4月以降については、まだ決まっていません。


■ CDSを採用した理由

藤本:では、もう少し具体的なお話を伺いたいのですが、コピーコントロールにもいくつかの方式がありますよね。今回採用したのは、どんな方式ですか?

松田:これはMIDBAR Techの「CDS200」を採用しています(著者注:ディスク内のVERSION.TXTを見るとCDS200.0.4というバージョン表記があった)。これは一般のCDプレーヤーにかけるのであれば、なんら問題なく普通に再生することができます。しかし、PCのCD-ROMドライブに入れたときは、専用のプレーヤーソフトが自動的に立ち上がり再生がはじまります。

 これはエクストラ・トラックに入っている圧縮データが再生されるようになっているんです。一方で、Windows Media PlayerをはじめとするPCのCDプレーヤーソフトでCDを再生させることはできません。

藤本:その圧縮データというのは、どんなファイル形式になっているんですか? ATRAC3? WMA?、……?

松田:暗号化されたものになっていますが、これにどんなフォーマットが使われているかはMIDBARから開示されていません。また、われわれがいくつか知っている情報も、そのほとんどが守秘義務契約を結んでいるため、お話することができないんです。基本的に公開されている情報はMIDBARのWebサイトに載っているので、そちらをご覧になってください。

藤本:このプレイヤーソフトにMacintosh版がないという話を聞きましたが、Macintoshへの対応というのはどう考えていますか?

松田:残念ながら、現時点においてはMacintosh版はないため、対象はWindowsのみとなります。Macintosh版については、当社からもMIDBARにリクエストは出しているのですが、どうなるかはまだわかりません。

藤本:プレーヤーソフトについて、もう少し伺いたいのですが、これはPCにインストールして使うものではないんですよね?

松田:そうです。あくまでもCD上で動作するようになっているほか、データとセットではじめて動作するようになっているのです。

藤本:日本語対応というのはされているのですか?

松田:現時点においては、英語版のままリリースしています。スキンの変更はできるのですが、今回は間に合わせることができませんでした。

藤本:ところで、このCDS200を採用した理由というのは、どんなことだったんですか?

松田:われわれは昨年末から、さまざまなフォーマットについてチェックを進めてきました。サンコム、マクロビジョン、ソニー(オーストリア)ほか、10社以上が似たような技術を打ち出しています。この中でMIDBARのものが、一番早くできて、しかも確実性が高かったため選ぶことになりました。またMIDBARだけでもCDS100、CDS200、CDS300といろいろな規格がありますが、CDS200がプレイヤビリティーを下げないという意味で確実だったんです。

 CDS100ではPCでの再生ができなくなるため、CDS200なら多少いいだろう、と。また、これら各社の技術の中には、PCのCD-ROMドライブに入れると、ほとんどハングアップしたような状況になるものもありました。

藤本:CDS200の場合、プレイステーション2だとうまく動作しないという話を聞いたことがありますが、いかがですか?

松田:これについてはクリアしています。われわれもそれなりの調査はしましたから。2,000〜3,000種類あるといわれるCDプレーヤーのほとんどで動作します。ただし日本のオーディオ機器のなかにはCD-ROMドライブを使っているものがあるため、そうした機器では動作しません。

藤本:ミニコンポなどの中にはMDで4倍速ダビングするタイプのものもありますが、こうした機器ではどうなのでしょう?

松田:これも大丈夫です。再生可能か否かは、CDをオーディオとして再生するのか、一旦データで抜き出してから再生するのかによります。MDへのダビングは前者なので問題ないようですね。

藤本:それでも、再生できないという場合も想定できると思うのですが、その場合、返金などの措置はとるのでしょうか?

山田:返金はしない方針です。商品にも再生できない可能性がある機器について表示していますし、状況を説明して、納得いただくという考え方でおります。


■ あえて波風をたたせて、議論が巻き起こってくれればいい

藤本:では、次にプロテクトの強度について少し伺いたいと思います。基本的に、これでPCでのコピーはできなくなると思いますが、だからといって、コピーが100%なくなるとは思えませんよねぇ? たとえば、音楽用CD-Rにはコピーできるわけですし、S/PDIF出力を用いれば、コピーは可能なはずですよね。

松田:これが完璧なプロテクトであるとは思っていません。実際オークションなどではコピープロテクトがかかっているはずのDVDビデオの海賊版が流れていますよね。それと同じことです。そこまでしてやりたいのであれば、どうぞ、と。明確に自分が犯罪を犯していることをわかっていてやっている人に対しては、何を言っても実行に移すでしょう。それに対しては、法的な手段で対抗するべきです。

山田:そうですね。今回のコピーコントロールCDを出すことの第一義は啓蒙活動にあるんです。これでコピーのすべてが止まるとは思っていません。また、これを出せばすぐに売り上げに対する実効性が出てくるとも考えていないんです。

藤本:啓蒙活動というと?

山田:とにかくこういう問題がおきているということを世の中の人たちが認識していないんです。コピーしたCD-Rを友達どうしで交換していることが、音楽を死滅させる可能性があるということが理解されていない。若い人達の間で、CDはコピーするものというのが常識になっているんですよ。「パパのパソコンでできるから、やってあげるよ」って。これがいけないことだということをまったく知らないんですよね。

松田:私も個人的にはフリーであってほしいとは思うけど、現実とは違うんだなというのが率直な気持ちです。実際、CD-Rのライティングソフトでは、誰でも簡単にCDのコピーができるようになっていますよね。こうしたコピーできるツールを提供しながら、コピーはやめましょうというのは間違いだと思います。説得力がなさすぎます。そこに、こうしたコピーできないCDが登場することで、なんらかの意味を持てるのではないでしょうか?

山田:日本の著作権法は世界的に見ても非常によくできているものだと思いますが、これについて、ほとんどの人が意識していないんです。そこに、こうしたCDを出すことで、あえて波風をたたせて、議論が巻き起こってくれればいいな、と思っているんです。きっとほかのレコードレーベルも追随してくれると信じています。その結果、アーティストや作家へのリスペクトってどういうことなのか、どうやって彼らにお金がまわっているのかを考えていただきたいんです。

藤本:一方で、このCDS200で作られたCDはRedBook規格に準拠していないということを聞いたことがありますが、これはどうなんでしょ?

松田:厳密にはそうなりますので、このCDS200に対応させたCDにはCD-DAのロゴは入れていません。

藤本:ところで、このCDS200を採用するに当たり、CDの制作そのものに、何か大きく変わる点というのはあるんですか? レコーディングやマスタリングなどの手法を変えるといった意味で。

松田:それはないですね。マスタリングまでの作業は従来とまったく同じです。シブサン(3/4インチ)のテープに落とし、プレス工場に頼むだけです。このプレス工場側にMIDBARのシステムを導入しているわけなので、とくに何かをしているわけではありません。


■ 音質の劣化について

藤本:では、これによって音質の変化はないのでしょうか?

松田:音質のチェックはすべて行なっており、現場でのOKももらった上でリリースしています。実際に音を聞いてみてもわからないし、データとしてはまったく変わっていません。

藤本:とはいえ、CDS200だと、ある意味わざとエラーを起こしてプロテクトをかけるような方式だったと思うので、ジッターは大きくなりますよね。すると厳密に言うと音質も変化してしまうのではないですか?

松田:まあ、そうかもしれませんが、それをいったら盤面のプリントを変えるだけでも音質は変わりますからね。その意味では、十分、許容範囲内であると考えています。

藤本:AVEXとしてのお考えはよくかりました。最終的には、これからレコード業界、オーディオ業界がどのように対応していくかですね?

松田:その通りです。RedBookの特許も切れていることですし、そろそろ新しい音楽のフォーマットを考える時期に来ていると思います。レコード会社やメーカー同士がみんなで話し合い、新しいフォーマットができるといいですね。日本で来年からそういう規格を制定して、3年後にリリース。そんなシナリオになればいいと考えています。

□エイベックスのホームページ
http://www.avex.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.avex.co.jp/ir/j_site/press/press020228.html
□コピーコントロールCDのQ&A
http://www.avexnet.or.jp/cccd/
□Midbar Techのホームページ(英文)
http://www.midbartech.com/
□Cactus Data Shieldの製品情報(英文)
http://www.midbartech.com/cactus.html
□関連記事
【3月12日】AVEX、パソコンでリッピングできない音楽CDを国内で発売
 ―パソコンでの再生はエクストラトラックで対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020312/avex.htm
【2月28日】AVEXのリッピングできない音楽CDが販売開始
 ―RioVoltや、MP3対応CDウォークマンでは再生不可
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020228/avex.htm

(2002年3月18日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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