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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第51回:Premiere LEはパソコンでDTVの夢を見るか
~VAIOで試すLimited Editionの限界点~

■ 過酷なDTVソフト業界

 コンシューマユースのビデオ編集ソフトというのは、商売として非常に難しい局面を迎えている。パソコンでビデオというメディアを扱うためには多くの技術的課題をクリアしなければならないが、第1次ブームの時にコンシューマでの覇権を目指して多くのメーカーが参入してきたため供給過多となり、価格競争がかなり厳しくなってしまった。従ってメーカーにとっては、新規開発費や研究費が出にくい部分となっている。

 パソコンでのビデオ編集において最もメジャーな存在であった「Adobe Premiere」も、この低価格化の波をモロに被った。以前は10万円以上していたこのソフトも、バージョン6.0からはオンラインのアドビストア価格で69,500円という大幅な価格改定を行なったのは記憶に新しい。この価格設定についてはいろいろな憶測が可能だが、割とリアリティのある話としては、事実上対抗馬と言われていたUlead Systemsの「MediaStudio Pro 6.0」(68,000円)への牽制? といったところだろうか。

 しかしプロツールをうたい文句にハイエンド指向でソフトウェアをリリースしてきたAdobeに対して、コンシューマに強いUlead Systemsにはこの低価格路線だけではなく、PC本体やキャプチャカードにバンドルにするには価格が適当な、「Ulead VideoStudio 5」(14,800円)がある。このソフトは機能的にも入門用としてまとまっており、その意味でもバンドル品としやすい。

 パソコンでビデオが編集できるということが広く周知された今、バンドル化は稼ぎ頭だ。巷では、バンドルソフトのライセンス料は1本100円程度と言われているが、例えばPCにバンドルされる場合、PCの売り上げを待つまでもなく、契約が成立した段階でソフトウェア側には売り上げが出る。あちらで10万本、こちらで5万本と複数の契約を取り付ければ、一夜にして数千万円の売り上げが成り立つのである。

 それを逃す手はない、というのはあまりにも深読みのしすぎだろうが、あのPremiereも機能限定版として、「Premiere LE」(アドビストアで9,800円)を3月1日にリリースした。Premiereというブランド力で単体でのセールスも期待されるほか、バンドルもかなり進むのではないかと見られる。パソコンのバンドルが進めば、パソコンでビデオ編集というムーブメントも新たな局面を迎えそうであり、迎えたらいいな、迎えなかったらこっちから迎えにいっちゃうよ、という積極的姿勢の筆者である。

 筆者は元々ビデオ編集業務が本業なのであり、そのムーブメントが盛り上がってくればもうこっちのものである。「どぅわは、どぅわは、どぅわはっは。」と悪代官笑いができるかもしれないではないか。いいなー悪代官笑い。一度そんな濡れ手に粟状態な目に遭ってみたいものである。

 さてこのPremiere LEは、パソコンDTVをみごと牽引することができるのだろうか。「手軽にDTV」をシミュレーションするため、今回はノートパソコンにインストールしてみて、その使い勝手を探ってみたい。ターゲットマシンは筆者所有の「VAIO SRX7」である。


■ パッケージの中身は

Premiere LEの主な同梱物

 Premiere LEの市販パッケージには、ソフトウェアCD-ROM、素材集CD-ROM、ハンドブック、ユーザーガイドが含まれている。Premiere 6.0にはタイトル作成用として「Title Deko」、「Title Express」といったソフトが付属していたが、LE版ではなくなっている。

 一方、初心者がターゲットということで、素材CD-ROMと連動したハンドブックが同梱されているのは売りになるだろう。このハンドブックでは、作業をステップにわけて、一通りの操作方法をおおまかに紹介するという感じだ。

 よくあるCD-ROM付きトレーニングブックのような体裁ではあるが、それにしてはページ数の都合か、やや手順をはしょりすぎかなー、とも思える。実態は、LEで何が可能かを一通り見せるというところなのであり、本物の初心者はこの手順通りにやりなさい、ということではないのであろう。

ハンドブックでは一通りの機能をステップごとに紹介している CDに収録されているサンプルプロジェクト

 付属CD-ROMには、このステップごとのサンプルと完成プロジェクトファイルが入っている。完成品をロードしていじくってみて、あとは自力で覚えるしかないという感じだ。しかしなにもないところから始めるよりは、何か映像サンプルがあって始められるというのはトレーニング法としては悪くない。

 一方、同梱のユーザーガイドがマニュアルに相当するわけだが、こちらのほうはLEではないPremire 6.0(ややこしいな)に付属のものと同じ。したがってLEでは機能制限されている部分も特に注釈なく記述されているため、LEの相違点をよく把握しておかないとなかなか理解も進まないだろう。またこれはあくまでも予想だが、この製本されたマニュアルはおそらくバンドル品には付属しないと思われる。

 この相違点はプレスリリースでもすでに公表されている。また製品にも注記として、相違点を記したカードが同梱されている。とはいってもほとんどの場合、Premiere 6.0を持ってないからPremiere LEを買うわけであって、使ってないものに対してどこが違うのか事前にわかれ、というのも変な話だ。


■ 制限されると不便なのか?

 とはいえやはり気になるのは、LEの機能制限によってどのぐらい不便になるのか、という点だろう。ここでは制限されている代表的な機能ごとに判断していきたい。

● バッチキャプチャ

 映像のキャプチャは、IEEE 1394端子にDVカメラを繋いで行なう。ただしLEでは、テープからのバッチキャプチャ機能がない。したがってユーザーはキャプチャの間ずっとパソコンの前に張り付いていなくてはならない。

 この機能がないLEは不便ではないか、と思われるかもしれないが、VAIOにはオリジナルの「DVgateMotion」というソフトウェアがある。このソフトは一見そっけない印象だが、テープの内容を自動でスキャンして映像リストを取り、そのリストから必要なカットを選んでバッチキャプチャを行なうことができる。LEでできない分こっちを使えばいいので、VAIOで使う分においてはさほど不便を感じない。

LEにはバッチキャプチャがない しかし、DVgate Motionでバッチキャプチャが可能

● トランジションエフェクト

 LE版ではトランジションエフェクトが少ないという点だが、これもクロスディゾルブやページターンのようなよく使うものは入っているので不便を感じない。この辺のエフェクトは初心者がいじくって楽しい部分ではあるので、まあせっかくの楽しみが奪われている感じもしないではない。が、作品制作という本質からは大きな問題ではないと言える。

● ビデオエフェクト

 数が減るどころか、バッサリすべて削除されたのがビデオエフェクトだ。これはトランジションエフェクトが2つの映像のつなぎ目のみに使うものとは対照的に、カット全体にかかるフィルター系エフェクトである。つまり、カットのコントラストをいじったりとかいうようなことは全くできない。

 今のDVカメラは非常に優秀で、さらにファインダもカラー液晶なので、変な絵が撮れてしまって困ることはない。従って映像を補正しなければならないケースは少なくなっている。ただ、これもまた初心者には人気のある機能で、使いゃしないんだけど全く実用性からかけ離れたエフェクトほどいろいろやって遊ぶという傾向を持つ。筆者は無きゃ無いで済むものであると思うが、ほかのソフトから乗り換える人にとっては楽しみが奪われたと感じる人もあるかもしれない。

● 読み込みファイルフォーマット

 制限のうちもっとも気になるのがこれだ。動画や音の読み込みはまず現状の範囲で問題ないと思うが、痛いのはJPEGが読み込めないというところである。現在静止画で最も多く使われているのがJPEGであろう。例えばビデオ撮影と対で考えられているデジカメ撮影だが、この画像がそのまま使えないのはもはや致命的といってもいい。

 ところが一方で、GIFはサポートしている。GIFはご存じの方も多いと思うが、米Unisysが画像に使われているLZW圧縮伸張アルゴリズムの特許を持っており、これを扱うソフトウェアはライセンス料が必要となる。中にはGIFファン、GIF命、の方もいらっしゃるとは思うが、筆者は現状のユーザー環境を考えると、低価格が売りのLEでライセンス料を支払ってまでGIFをサポートする意義はないと思うし、特にライセンス料が発生しないJPEGをサポートしないというバランスの悪さには首をかしげざるを得ない。

● オーディオミキサー

オーディオはタイムラインでバランスを取ることができる

 パネルとして本物のオーディオミキサーを模した画面が出てきて、そこでオーディオレベルをリアルタイムで変更できるのが「オーディオミキサー」だ。LEではこれがない。この点に関しては、いるのいらないのと議論のあるところだろうが、筆者はなくても問題ない思っている。というのは、タイムライン上でカーブを描くことでフェードやパンは調整できるからだ。

 本物のミキサーのメリットは、リアルタイムで調整できること以上に、複数のバランスを同時に調整できるという点が大きい。しかしパソコン上でシミュレーションされるオーディオミキサーは、結局一つしかないマウスポインタを使ってしか調整できないため、複数のフェーダーを同時に動かすことはもともと不可能なのだ。

 またLEでは、オーディオ系のエフェクトが使えないという制限もある。しかし音にまでエフェクトをかけたいという人はすでにかなりビデオ制作を知っている人であるから、LEを使うユーザー層には当てはまらないと言える。


■ DV出力には難ありか?

 編集が完成したら、多くの場合保存用としてDVテープへ出力する。筆者のところにはDVカメラとして「SONY PD-150」がある。これはVX-2000の業務用バージョンであり、リモート制御プロトコルなどは同じなのであるが、これを使ってPremiere LEでテープ出力を試みたところ、映像の途中で必ず黒みが挿入されてしまい、うまくいかなかった。また録画開始ポイントにも大きな乱れが生じてしまい、とても繋ぎ録りとは言えない。一応DVに出はするが、これじゃあどうしようもねぇなといった感じだ。

DVgate Motionは録画補正値を自動調整してくれる

 またもう1つ出力に絡む問題として、エフェクト部分のレベル変化の問題がある。これは、SONYのDVコーデック以外のCODECを利用した際に起こる問題として告知されている

 この2つの問題を解決するためには、Premiere LEから一度完成ファイルをSONYのDVコーデックを使ってファイル出力する必要がある。その後、先ほどのDVgate Motionを使ってテープへ出すのだ。

 テープ出力に関してもDVgate Motionはなかなかの出来で、ちゃんとDVカメラの録画タイミングを自動でキャリブレーションする機能まで付いている。これは実際にテープの頭にテスト映像を録画したのち、自動で繋ぎ録りをやってみて、そのタイミングのズレ具合を読みとり、補正値を決めるという優れたもの。

 正直言って、DVgate MotionがあったおかげでVAIOではなんとかなる、といった感じだ。ということは逆にPremiere LEしかないPC環境では、DVデッキによってはテープ周りでかなり苦戦を強いられることになるだろう。


■ まとめ

 Limited Editionなだけに、制限をクローズアップしていくとネガティブな印象になってしまうわけだが、逆に残った機能も結構多い。例えば編集中にi.LINKでDVカメラを繋いでおき、カメラのアナログアウトをテレビに繋げば、編集中の映像をテレビモニタに表示させることができる。これはノートパソコンのような画面の小さいPCで編集を行なうときには強力な武器となるだろう。例えば旅行先のホテルでだって、ちゃんとした編集環境が得られるわけだ。

 またGUIは上位バージョンと全く同じなので、LEで覚えた操作法は、多くのほかのソフトでも役に立つ。あるいは逆に、現存するPremiere 6.0の解説書もかなりの部分で役に立つことだろう。まさに入門用としての価値はあるというわけだ。

 現在筆者が知るところでは、Premiere LEのバンドルは、ソニーのVAIOシリーズの2001年秋モデル からである。また、Premiere LEを搭載していないVAIOでも、多くの機種に「Adobe Premiere 6 LE 日本語版 優待提供サービス」を展開している。

 以前Adobe製品にはPhotoshop LEというものも存在したが、単に機能制限をしただけの製品は受け入れられなかったと見えて、現在単体売りのラインナップからは消えているようだ。ただし同社製のほかの製品をはじめ、スキャナなどにはバンドル品として付属しているケースはある。その代わりに単体売りでは、同じような価格でありながらオリジナルの機能を搭載したPhotoshop Elementsがかなり好セールスのようである。

 結局LE版のようなものは、入門という役目を終えてしまえば、市販品としては通用しなくなってくる。パソコン買うと付いてくるおまけと割り切れば文句はないが、おそらくPremiere LEも、Photoshop LEと同じような経緯を辿って、バンドルがメインとなってくるのではないだろうか。

 Premiere LEの大量バンドルが行なわれれば、世のDTV人口が底上げされることは間違いないとは思う。近い将来に、入門用としてしっかりしたマーケティングを行なったのちにオリジナルの便利機能を装備した、低価格なPremiereの新シリーズの誕生が望まれるところだ。

□アドビシステムズのホームページ
http://www.adobe.co.jp/
□製品情報
http://www.adobe.co.jp/products/premierele/main.html
□関連記事
【2月4日】アドビ、9,800円の動画編集ソフト「Premiere LE」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020204/adobe.htm

(2002年3月13日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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