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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第54回:完成度を高めたVideoToaster[2]
~ いよいよリリースされる、伝説のマシン ~


■ 懐かしのVideoToaster

 NewTek「VideoToaster」と言えば、あーあれかと懐かしく思われる方もいらっしゃるだろう。いまだに実働しているものはもうあまりないと思われるが、VideoToasterは今からだいたい10年ほど前に一部で一斉を風靡した、AMIGAベースの映像制作システムである。

 そして時は流れ、AMIGAが製造中止となったことをきっかけに、プラットフォームはPCに移った。開発は非圧縮キャプチャカードとしてスタートし、徐々に拡張していって「VideoToaster for NT」という製品になったのが2000年頃のこと。AMIGA時代のノウハウをいったんちゃらにして(開発チーム辞めちゃったからネ)、コンセプトを継承した全く新しいデバイスとして生まれ変わったのである。

 そして今回新たにリリースされたのが、このVideoToaster for NTの二代目、「VideoToaster[2]」というわけだ。NTというネーミングを外したことからわかるように、VideoTaster[2]はWindows2000 SP2以降で動作する。製品構成としてはI/Oカードとソフトウェアだが、かなりのマシンパワーが要求されるので、ベンダーからのターンキーシステムとして販売されることになるだろう。動作環境に関してはこちらのページを見て頂きたい。なお、システムで200万円程度からになるという。

 コンセプト的にはAMIGA時代のVideoToasterを継承しているVideoToaster[2]だが、時代相応に進化するのは当然。ではかつてのVideoToasterからどのように進化したのであろうか。そのあたりを覗いてみることにしよう。


■ 拡張されたスイッチャー機能

 そもそもVideoToaster[2]は、パソコンベースではあるものの、いわゆるノンリニア編集システムとは違う。ノンリニア編集システムは、あくまでも映像完パケの「ファイルを作る」ことを目的としている。すなわち、「ん、尺もまちがいないね、ぴったしだね、ん、万事間違いないね、ん、ん、」という非常に厳密主義なのに対し、VideoToaster[2]の基本は、とにかく多少のことには目をつぶってビデオアウトをリアルタイムにでーっと出力しちゃえばそれで終わり、という考え方である。「編集番組」対「生放送」と言い換えてもいいだろう。

 VideoToaster[2]の中核をなすのは、「Control Room」というグループだ。これにはビデオスイッチャー、オーディオミキサー、各種プレーヤーなどから構成される。スイッチャーはPGM列、PVW列、Key列からなる1ME+DSKだ。MEにはKeyerが1つある。クロスポイントは最大24で、このうちアナログ(コンポーネント/S-Video/コンポジット兼用)入力は8、そのほかは内部ソース出力を割り付けることになる。SDI入力はない。

メインとなるControl Roomグループ。ここで映像ソースを管理しながら送出する 信号の入出力を行なう巨大なブレイクアウトボックス 画面上に現われる、実物と同じブレイクアウトボックス画面。これとスイッチャーのクロスポイントを結ぶことで、入力をアサインする

 ―ってフツーに書いてるけど……、みんな付いてこれるのかこんなスイッチャーの話に? この段階ですでに読者の8割ぐらいはおいてけぼりのような気がするが、まあわかんない人はわかんないなりにだな、とにかくここにいろんなソースを集めて、一気におりゃあーっビデオ出力するのだって具合に理解してほしい。すなわちこれは、放送送出システムの中核部分をシミュレーションしている部分なのである。まあ本当の放送はそのあとにAPSとかマスタースイッチャが繋がるんだがまあいいやなそういうことは。

 Control Roomにはそのほかに、ソース再生用の各種プレーヤーモジュールがある。VTRのコントロールや編集したプロジェクトファイルといったもののコントローラである。もちろんプログラムモニタやウェーブフォーム、ベクタースコープといったモニタ類のウインドウも、モジュールとして起動する。モジュールはそれぞれが独立したウインドウになっており、配置などは自由。

 またVideoToaster[2]のインターフェースは、仮想画面をサポートしている。作業を行なうにはかなりのモジュールを開いておく必要があるが、仮想画面をうまく使って切り替えながら使うわけだ。あるいはデュアルヘッドのビデオカードがあれば、2モニタ仕様にもできる。一元的に状態を把握するためには、できれば2モニタのほうが作業はしやすいだろう。


強力なバンドルソフト

VideoToaster[2]に付属の「LightWave3D express」と「FXMonkey」

 次に内部ソースを製造する工程を見てみよう。VideoToasterの伝統に則って、「LightWave3D」(以下LW)が標準で付属している。このVideoToaster[2]バンドルの特別版LWは、「LightWave3D express」という。どこかで聞いたことがあるなーと思う人もあろうかと思われるが、そう、「VAIO PCG-GRX90/P」に付属することになった「LightWave3D express for VAIO」とほぼ同機能と見ていい。

 このLWを使ってCGIを作り出すのも、あるいは3DCG美少女を作るのも結構だが、これには相当の時間がかかる。ビデオ制作システムであるVideoToaster[2]を占有してそれをやるのは効率的ではない。したがってVideoToaster[2]内のLWには、もっと違った使い方がある。

 その1つは、3Dフライングロゴ ジェネレータとしての使い方だ。LWはプレーンな3Dソフトなのでもちろん3Dロゴの制作も可能なわけだが、アニメーション作業は完全に手作業となるため、パターン化した動きの作成にはかえって効率が悪い。そこでVideoToaster[2]付属のLWには、「FXMonkey」というフライングロゴ制作専用プラグインがバンドルされている。ちなみにこのFXMonkeyは、VAIO PCG-GRX90/Pに付属の「LightWave3D express for VAIO」にも同様にバンドルされている。このあたりも戦略的な伏線が見え隠れして面白いところだ。

 もう1つの使い方は、トランジションパターンジェネレータとしての使い方である。LWで作成するオブジェクトに特定のサーフェイスを割り当てた映像を作成しておくと、スイッチャーのトランジションパターンとして使用した際に、そのサーフェイス部分にリアルタイム映像をはめ込んでくれる。つまり3DCGシーンを使ったDVE効果を、LWで自作できるわけだ。このような3DCGとライブ映像とのリアルタイム合成を実装したシステムは過去にも存在したが、多くは汎用性のない特殊な3DCGソフトウェアを習得しなければならず、結局マンパワーが得られずに廃れていったという経緯がある。これが多くの実績を持ち、また汎用性も高いLWで行なえることで、使ってみようという人も多く集まるだろう。

LWで作成したシーンにリアルタイムで映像を貼り付けられる ToasterEditメイン画面。シンプルにも複雑にも自由に使えるGUIを持つ

 内部ソースを製造するもう一つの大きなシステムとしては、いわゆるノンリニアビデオ編集システムに相当する「ToasterEdit」がある。これは一般的なノンリニア編集ソフトの形態を取っており、Premiere程度が使える人ならばすぐに使えそうなシステムだ。

 ユニークなのはトラックの構造で、どれがA/Bロールといった決まりがなく、どこでもクリップが時間的に重なった部分がトランジションとなる。例え1トラックでも重なればそこがトランジションとなるのである。時間がない現場で突然の構成替えをおこなっても、柔軟に対応できるフレキシブルな構造だ。編集結果は、エフェクトも含めすべてリアルタイムで行なわれる。

 使用できるファイルフォーマットも柔軟。オリジナルのRTMEというフォーマットは非圧縮4:2:2:4であるが、そのほかにもAVIであればシステムに入っているコーデックは全部使用できる。

 


制作をサポートするソフト群

 そのほかにも便利な付属ソフトウェアがある。使い方によっては中核にもなるものだが、ここでは簡単に紹介しておこう。

[ToasterCG]

タイトル作成用のToasterCG。文字以外にも簡単な図形も描ける
 放送において、文字情報は非常に重要な位置を占める。そのためVideoToasterにはこれまた伝統的に「CG(Charater Generator)」を搭載する。AMIGA版VideoToasterのCGは、AMIGAのシステムやフォントの問題もあり、日本語を使うのが非常に難しかった。しかしVideoToaster[2]に搭載のToasterCGは2バイト文字対応で、システムに入っているフォントならなんでも使える。

 タイトル(文字)は、常にレイヤーで管理されたベクトルベースで保持される。従って拡大縮小などの変更もスムーズだ。また簡単な動きもここで付けることができるため、本番の映像にオーバーレイした際にエフェクトを使って移動させる必要はない。

 作成したタイトルは、特定のビットマップ形式ファイルに保存せず、アニメーションを仕込んだプロジェクトファイルをダイレクトにスイッチャーに呼び出すことができる。そのため、本番直前での修正などにも迅速に対応できる。このあたりはシステムとしてよくできている。

[Aura VT]
フレーム単位での合成に威力を発揮するAura VT

 難しいビデオ合成では、マスクやキーを使っただけでは完全にフォローできない場合が多い。そのときに素早く使える補助ツールの存在もまた重要だ。


 単体売りもされているAuraは、ビデオソースに対してダイレクトにペイントしたり2Dアニメーションを作成するツールだ。動画をレタッチできるツールとしてはピナクルシステムズのCommotionあたりがポピュラーだが、Auraはそれよりももう少し手書きっぽいテイストを重要視している印象を受けた。


■ 総論

 現時点のVideoToaster[2]では、まだコンセプトのすべてが完成しているわけではない。ここでは特に触れないが、ハードウェア、ソフトウェア両面でまだまだ実装予定の機能が残されている。放送機材は大抵そうなのだが、リリース時に「完成型」ということはあり得ない。実働しながら少しずつ改良され、機能追加されていくのが普通なのである。

 さて、VideoToaster[2]の機能や概要はわかったとして、まだ疑問点が残ることだろう。それは、「誰がこれを買うのか」という点だ。

 AMIGA時代のVideoToasterは、ビデオや映像が好きなアマチュアでも手を出せた。それは機能的にも(あるいは価格的にも)、まだ理解できる範疇であったからだ。しかしシステム的にかなり大きくなったVideoToaster[2]は、もはや素人が手を出せるシロモノではなくなったというのが正直な印象だ。

 つまり、1マシンでカバーする範囲が広すぎるのである。ライブスイッチャーとしての腕を持ち、LightWave3Dを使いこなし、手書きでペイントも描け、ノンリニア編集もできる。これを全部一人できるという人は、世の中にそう沢山はいないだろう。

 理想的な使い方としては、スイッチャーとして機能するVideoToaster[2]を中心にしてあと数台のマシンを繋ぎ、複数で平行作業を行なうのが望ましい。で、こういう体制が取れるのはもはやアマチュアでは無理で、商用ベースでの使用が前提となる。

 想定されるマーケットとしては、CATV局、イベント会社、ホール、ローカル局の報道、中継車といったところだろうか。しかし導入に際して問題になるのは、マンパワーである。このような安価な(もちろん放送機器としては、だ)機材を有効に使うことで、設備投資を大幅に削減できることは間違いない。しかし、マシンのメンテナンスも含めてそれを使いこなせる人がいない、ということがネックになって、導入できないケースが多い。

 しかしこういった発想では、負のスパイラルに巻き込まれる危険性がある。人がいない→機材でカバーせざるを得ない→安全重視の手堅いプロ用放送機材導入→資金が圧迫される→人件費が出せない→良い人材が来ない、という無限ループだ。

 かつての米CATV局が発想を転換して現在の繁栄を築いたように、思い切ってどこかの局が導入に踏み切れば、状況は変わっていくに違いない。それには国内代理店であるD-Stormを先頭に各ベンダーも、放送のシステムインテグレータとしてしっかりした技術的バックボーンが必要になるだろう。愛情を込めて「まあAMIGAですから(苦笑)」で済んでいた時代はすでに終わったのだ。

□VideoToasterのホームページ
http://www.videotoaster.jp/
□製品情報
http://www.videotoaster.jp/products/products_index.html

(2002年4月3日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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