BSデジタルハイビジョン放送をそのまま録画!

~ レコーディングHDD「Rec-POT」を試す ~

 外付けHDDユニットを採用しユーザーがHDDを交換できるという点や、PCとの連係機能によって、HDDビデオレコーダの理想型に近い、アイ・オー・データ機器の「Rec-On」。

 実は、アイ・オー・データ機器が発売したHDD録画機器はRec-Onだけではない。BSデジタルのハイビジョン放送を、映像品質を劣化させることなく、デジタルデータをそのまま録画できる「Rec-POT」という製品も同時に発表され、すでに発売されている。

 そこで今回は、Rec-Onに比べ取り上げられることも少ないだろう、Rec-POTがどういった製品なのか紹介する。


■ BSデジタルチューナ専用のHDD録画機器

 ではまず、Rec-POTがどういった製品なのか、その仕様をまとめておきたいと思う。

 Rec-POTは、その名前からもピンと来るかもしれないが、HDDビデオレコーダであるRec-Onと同系列の製品になる。ただし、製品としての性格は全く異なる。

 Rec-Onは、本体内に地上波テレビチューナとMPEG-2エンコーダを内蔵し、外付けの専用HDDユニットに、テレビ映像をMPEG-2形式で直接保存できる。つまり、Clip-Onなどの民生用のHDDレコーダに限りなく近い製品と言っていいだろう(Rec-Onの詳しい仕様は、メーカーのホームページ過去の記事などを参照してもらいたい)。

Rec-POTの本体前面。動作状況などを示すLEDと、録画した番組が消去されないようにするロックボタンが用意される
 それに対しRec-POTには、チューナやMPEG-2エンコーダといったものは搭載されおらず、容量80GBのHDDと、インターフェイス関連のコントローラのみが搭載されているだけ。このシステムは、松下電器産業と米Quantumが共同開発した、MPEG-2トランスポートストリームの記録/再生に最適化したHDD「AVHDD」を使用している。

 また、録画や再生をコントロールするようなボタン類も全く用意されず、操作用のリモコンも付属しない。まるで、IEEE 1394インターフェイスを持つPC向けの外付けHDDユニットと言ってももいいような仕様だ。そのため、Rec-POTはRec-Onとは違い、それ単体ではHDDレコーダとして動作させることはできない。

 Rec-POT本体背面には2つのi.LINKコネクタが用意されており、i.LINKコネクタを持つBSデジタルチューナやCSチューナとi.LINKケーブルを利用して接続することで、BSデジタル放送や110度CSデジタル放送、CS放送の録画が可能となる。もちろん、i.LINK端子が用意されているBSデジタルチューナ内蔵テレビと接続して利用することもできる。

 i.LINKで接続するため、BSデジタル放送や110度CSデジタル放送、CS放送をデジタルデータのまま直接保存でき、映像を劣化させることなく録画可能だ。もちろんBSデジタル放送のハイビジョン放送も、ハイビジョンの高画質そのままに録画できる。また、BSデジタル放送や110度CSデジタル放送のデータ放送も番組によっては録画可能。さらに、110度CSデジタルでの放送が予定されているep放送にも、対応予定となっている(蓄積型、双方方向には非対応)。

 ただし、Rec-POTには映像入力端子や音声入力端子は用意されておらず、MPEG-2エンコーダも搭載していないため、地上波テレビ放送の録画には利用できい。また、BSデジタルチューナでも、i.LINK端子が用意されていないものでは利用できない。つまりRec-POTは、i.LINK端子が用意されているチューナ専用のHDD録画機器なのである。

Rec-POTの本体背面。こちらはBSデジタルチューナなどと接続するi.LINK端子が2個と電源スイッチが用意される BSデジタルチューナとの接続はi.LINKケーブル1本のみと非常にシンプル Rec-POTを複数台デイジーチェーン接続して利用することも可能。ただしBSチューナからはそれぞれ別の録画機器として見える

 ちなみに、Rec-POTにはMPEG-2デコーダも搭載していないため、単体では録画したデータの再生もできない。録画した番組を再生する場合には、チューナに信号を転送し、チューナ側でデコードして表示させることになる。こういった仕様は、MPEG-2エンコーダ/デコーダを内蔵しないD-VHSと全く同じと考えていい。

 また、一般のHDDレコーダで可能な、録画中の番組を時間をさかのぼって見るタイムシフト再生は不可能。これは、Rec-POTに録画した番組の再生もBSデジタルチューナに頼る仕様になっている以上、どうしようもないだろう。

 Rec-POTに内蔵されるHDDの容量は80GBということで、BSデジタル放送のハイビジョン放送は約7時間、BSデジタル放送や110度CSデジタル放送の標準画質放送は約21時間の録画が可能となっている。ハイビジョン放送の録画時間が若干短く感じるが、ハイビジョン放送のデータ信号のビットレートは28.3Mbpsと高ビットレートであり、80GBの容量でもあっという間に埋まってしまう。どうせなら160GBクラスの大容量ドライブの採用も考えてもらいたかったところだが、これは今後の課題ということにしておこう。


■ BSデジタルチューナからはD-VHSとして認識される

 Rec-POTは、BSデジタルチューナからはD-VHSとして認識されるようになっており、基本的にD-VHS互換のデジタル録画機器として利用できる。ただ、Rec-POTはHDDを利用した録画機器であり、テープを利用するD-VHSと比べ、使い勝手は大きく異なっている。

 例えば、Rec-POTでは一般のHDDレコーダ同様に、録画した番組の頭出しなどの操作に待ち時間が発生せず、とにかく軽快な操作が可能。D-VHSでは、録画した番組を見る時には通常のビデオデッキ同様テープの頭出しが必要となり、必ず待ち時間が発生してしまうが、Rec-POTではそういった待ち時間が全く発生しない。頭出しのボタンを押せば、一瞬で頭まで戻ったり、次の録画番組に切り替わって、とにかく気持ちがいい。

 また、Rec-POTでは、基本的に録画した番組の削除はできない(後で紹介するソニーのHDDユニット互換モードではその限りではない)。そのため、たくさんの番組を録画してHDDの残量がなくなった場合には、録画済みの番組の中で最も古いものから順に自動的に消去されていくようになっている。

 しかし、このままでは消したくない番組も自動的に消去されてしまう可能性があるため、Rec-POTには録画した番組のロック機能が用意されている。Rec-POT本体前面に用意されている「ロック」ボタンを利用することで、消したくない番組にロックをかけたり、これから録画する番組全てにロックをかける、といったことが可能となる。

 もちろん、ロック数が増えると、それだけ利用できるHDD容量が減ることになり、録画できる番組数が減ってしまう。また、Rec-POTはRec-OnのようにHDDの交換はできない。そうなると、Rec-POTは録画番組の長期や永久保存にはあまり向いていない。保存したい場合には、やはりD-VHSを利用する方がベストといえる。

利用時には、あらかじめBSデジタルチューナにRec-POTをi.LINK機器として登録する必要がある Rec-POTはD-VHSとして登録され、録画用機器として登録すれば、番組録画や予約録画が可能となる


■ 番組の録画・再生はすべてBSデジタルチューナ側でコントロール

 すでに紹介したように、Rec-POTには2つのi.LINKコネクタが用意されているだけで、映像・音声の入出力端子や操作用のボタン、リモコンなどはいっさい用意されていない。そのため、番組の録画や再生などの操作は、全てBSデジタルチューナ側でコントロールすることになる。

 BSデジタルチューナには、i.LINK端子に接続されたD-VHSなどのデジタル録画機器をコントロールするためのGUIが用意されている。そのインターフェイスを利用することで、Rec-POTに番組を録画したり、Rec-POTに録画した番組の再生が可能となるわけだ。そのため、Rec-POT側に専用の操作ボタンやリモコンがなくても全く問題ないのである。

 ただし、BSデジタルチューナのi.LINK機器の操作インターフェイスは、基本的にオンスクリーンメニュー形式で用意されていることがほとんど。BSデジタルチューナのリモコンには、ビデオデッキのリモコンのような再生や停止、録画ボタンなどが独立して用意されていることはない。

 そのため、番組を録画したい場合には、オンスクリーンメニューを画面上に表示させ、そのメニューにある録画ボタンを選択するなどして操作することになる。同様に、Rec-POTに録画した番組を再生させたい場合にも、オンスクリーンメニューを表示させたうえで、メニュー内の再生ボタンを選択することで再生が始まる。つまり、操作性は利用するBSデジタルチューナに大きく左右されることになる。

 実際に使ってみると、当然ながら一般的なビデオデッキと比較して、操作性は大きく落ちる。オンスクリーンメニューを表示させ、そのメニューから目的となる機能をカーソルで選択して操作する、というのはかなり煩雑に感じる。

 AV Watch編集部から借りた東芝製のBSデジタルチューナ「TT-D2000」と、筆者が所有しているソニー製のDST-BX500の2種類のBSデジタルチューナで試してみた。インターフェイスは異なるものの、双方ともオンスクリーンメニューで操作することに変わりはなく、やはり操作性に関しては両機種ともあまり満足できるものではないと感じた。

TT-D2000のi.LINK機器操作用オンスクリーンメニュー。再生、停止、早送り、巻き戻し、頭出しと基本操作のみが可能 DST-BX500のi.LINK機器操作用オンスクリーンメニュー。再生コントロール用と録画コントロール用の2種類のメニューが用意されている

 ちなみに、番組を録画する場合には、BSデジタルチューナに用意されている電子番組表を利用する。番組表を表示させ、録画したい番組を選択し、録画機器としてRec-POTを選択すればよい。これだけで録画予約は完了だ。

 番組の予約録画に関しては、非常に簡単に操作できる。もちろん、すでに始まっている番組の録画も可能だが、その操作方法は接続するBSデジタルチューナによって異なる。

BSデジタルチューナの電子番組表から録画したい番組を選択して、予約録画が可能 録画機器にRec-POTを選択し、デジタル録画するという設定にすれば、BSデジタルハイビジョン放送がデジタルのまま録画される

 ところで、BSデジタル放送では、各番組にデジタルコピーに関する属性が付帯している。具体的には、無制限にデジタルコピーが可能なもの、1回のみデジタルコピーが許可されているもの、デジタルコピーが禁止されているものの3種類に分類できる。当然、それらのうちRec-POTに録画できるのは、無制限にデジタルコピーが可能なものと、1回のみデジタルコピーが許可されているものに限られる。さらに、無制限にデジタルコピーが可能な番組については、Rec-POTからD-VHSにダビングすることも可能だ。

 Rec-POTは、DTCP(Digital Transmission Copy Protection)という、IEEE 1394(i.LINK)向けの著作権保護システムに対応しており、BSデジタル放送のデジタルコピー属性に応じてデジタル録画が可能となっている。そのため、WOWOWやスター・チャンネルなどの有料放送番組の録画にも対応できる。


■ ソニー製チューナ専用HDDユニット互換モードを搭載

 Rec-POTには、D-VHS互換モード以外にもう1つの録画機器モードが用意されている。それは、ソニーが発売しているBSデジタルチューナ専用HDDユニットの互換モードだ。

 ソニーは、同社のBSデジタルチューナ「DST-BX500」や、一部のBSデジタルチューナ内蔵テレビ向けに、BSデジタル放送などの録画が可能な専用のHDDユニット「VRP-T1」という製品を発売している。VRP-T1を対応するBSデジタルチューナに接続して利用すれば、ハイビジョン放送をデジタルのまま録画できるだけでなく、再生時にも録画済みの番組データを一覧で表示して、その中から再生したい番組を選択できるなど、D-VHSにはない便利な機能が実現される。

 Rec-POTには、このVRP-T1の互換モードが用意されており、対応するソニー製のBSデジタルチューナと併用することで、VRP-T1とほぼ同等のHDDユニットとして利用できるのである。実際にDST-BX500にRec-POTをVRP-T1の互換モードに設定して接続してみたところ、録画した番組が画面上に一覧表示され、再生したい番組を簡単に選択できてかなり便利だった。

Rec-POTをVRP-T1の互換モードに設定してDST-BX500に接続すると、HDDレコーダとして認識される 録画した番組が一覧で表示され、使い勝手がかなり向上する

 もちろん、このモードを利用するには、対応するソニー製のBSデジタルチューナまたはBSデジタルチューナ内蔵テレビが必要となるが、それらを持っている人にとってはかなり魅力的な機能だろう。特に、VRP-T1は販売価格が10万円近くとかなり高価なため、ほぼ同等のHDDユニットとして利用できるRec-POTの魅力はかなり大きい。ちなみに筆者は、この機能が搭載されていると知り、速攻でRec-POTを購入してしまった。


■ というわけで、分解してみました

■■ 注意 ■■

・分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。
・この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
・内部構造などに関する記述は編集部が使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません
・AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

 さて、すでにお約束になりつつある分解だが、今回は筆者が購入したものを分解してみた。

 Rec-POTでは、松下電器産業と米Quantumが共同開発したAVHDDというシステムを採用している。内部を見ると、Maxtor製の80GBHDD「D540X」(回転数5400rpm、UltraATA/100対応)と、AVHDD用コントロールチップやi.LINKコネクタなどが搭載されたメイン基板、電源部分という3つのパーツのみという、非常にシンプルな構造となっていた。これを見ると、Rec-POTはHDDレコーダと言うよりもHDDユニットということがよくわかってもらえると思う。

Rec-POT本体内部。左がコントロール基板、右が電源部分。このしたにHDDが搭載されている コントロール基板。松下電器産業と米Quantumが共同開発したAVHDDのコントロールチップが見える。基板にも「AVHDD Panasonic」のロゴが見える 搭載されていたHDD。Maxtor製のD540Xという容量80GBのドライブだ

 ちなみに、搭載されているHDDを別のものに交換してみたが、正常に動作させることはできなかった。AVHDDはHDDとコントローラがセットになっているシステムなので、基本的にHDDだけを交換して利用することは不可能と考えていいだろう。

 ところで、AVHDDは松下電器産業とQuantumの共同開発なのに、なぜMaxtor製のHDDが採用されているのか疑問に思う読者もいるかもしれない。これは、QuantumのHDD部門が2001年4月にMaxtorに買収される形で合併している関係で、AVHDDにMaxtorのロゴがついたHDDが採用されていても何ら不思議ではないのである。


■ BSデジタルチューナを持っているなら買う価値あり

 Rec-POTは、HDDレコーダではあるが、Rec-OnのようなPCとの連係機能はなく、タイムシフト再生など、一般的なHDDレコーダにあるような機能も用意されない。当然、地上波テレビ放送の録画もできない。とにかく純粋にBSデジタル放送を録画・再生することしかできない録画機器だ。

 BSデジタルハイビジョン放送を画質を損なうことなくそのまま保存できるが、それならD-VHSでも可能。また、D-VHSならテープを交換することで録画した番組を保存できる。しかしRec-POTでは、HDDの容量以上の番組は録画できないため、番組の保存には向かない。

 このように書くと、Rec-POTの利点がなかなか見えてこないかもしれないが、やはり、HDDを利用しているために、録画番組の頭出しや早送りなどの操作が軽快に行なえるという点は、D-VHSにはない非常に大きな利点だろう。また、これは個人的な意見だが、テレビ番組をテープ録画して保存したとしても、それを後々見返すことはほとんどない。筆者宅にも、過去に録画したビデオテープが結構あるが、それらを引っ張り出してきて見返すことは全くと言っていいほどない。1本のテープを利用して、帯ドラマなどを上書きで録画していく、といった使い方の方がはるかに多い。

 そう考えると、HDDレコーダに録画し、1、2回見たら消す、といった使い方でも全く問題はない。逆に、そのような使い方の場合、軽快な操作ができるHDDレコーダの方がはるかに便利となる。

 また、Rec-POTの販売価格は5万円台と、D-VHSデッキと比較しても安い。これでハイビジョン放送を画質を劣化させずに録画できることを考えると、お買い得感も十分と言っていいだろう。もちろん、HDDユニット対応のソニー製BSデジタルチューナや、BSデジタルテレビを利用しているというのであれば、お買い得度はより高まるだろう。

 地上波用のHDDレコーダとは全く異なる製品ではあるが、一度でもHDDレコーダを使ったことがあるならば、Rec-POTを使っても機能に不満を感じることはないはず。とにかく番組の保存はしないという割り切った使い方ができるなら、買って損をしたと感じることはないと言える。

 ちなみに、Rec-POTは、PCショップではなく家電売り場(BSデジタルチューナ売り場)で売られていることが多いため、購入場所には注意が必要だ。また、家電売り場でも展示されていることもまだ少ないので、購入時には家電売り場で店員に聞くことをおすすめしておこう。


□アイ・オー・データのホームページ
http://www.iodata.co.jp/
□「Rec-POT」の製品情報
http://www.iodata.co.jp/products/video_rec/2002/recpot.htm
□「VRP-T1」の製品情報
http://www.sony.jp/products/Models/Library/VRP-T1.html
□関連記事
【5月1日】【EZ】第57回:やっと出たアイ・オー・データのHDDレコーダ
~ じっくり煮詰めたRec-Onは買いか ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020501/zooma57.htm
【4月18日】アイ・オー、実売5万円のBSデジタル用80GB HDDユニット
―DTCP対応。D-VHSモードとソニー製チューナモードを搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020418/iodata2.htm
【2000年4月26日】松下とQuantum、MPEG-2記録/再生に特化したHDDを開発
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000426/pana.htm

(2002年5月16日)

[Text by 平澤寿康@ユービック・コンピューティング]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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