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第59回:オンラインセッションを実現するネットワークサービス
~Rocket Network~


 オンラインセッションというのをご存知だろうか? その名の通り、オンライン上でセッションするというもので、インターネットを介してバンドを組んで曲作りができる。

 現在、オンラインセッションのサービスとしてもっともポピュラーなのが「Rocket Network」というサービス。今回は、このRocket Networkがどんなものなのかを紹介する。


 最近、VoIP(= Voice Over IP)なるものが流行っている。Yahoo BBがサービスしている「BB Phone」をはじめとするインターネット電話がその代表格といってもいいだろう。このVoIPは、流行っているというよりも、今後の電話の主流となるといってもいいのかもしれない。

 そこで気になるのが、オーディオをリアルタイムにインターネットにのせられるかということ。電話ができるのであれば、オーディオができるのは当然のように思える。まあ、インターネットラジオなどは、その実例なのだろうが、ここで言いたいのは双方向での利用が可能かということだ。つまり、オンラインでセッションができるかということである。

 しかし、これがなかなか難しい。試しに電話でやってみるとわかるが、微妙に相手からの音が遅れるので、うまく演奏することができないのだ。また、それを実現できるソフトというのも見たことがない。

 どうして、この程度のことができないのか不思議にも思うが、スタンドアロンのPC1台の中でもレイテンシーがあり、リアルタイム処理がなかなか難しいことを考えれば、仕方がないところなのだろう。

 そんな中、先日海外で発売されたSteinbergのオーディオシーケンスソフトの最新版「Cubase SX」では、LAN接続されたマシン同士を、レイテンシーなくオーディオ接続する「VST System Link」が実装された。しかし、これも一般のEthernetのLANではなく、S/PDIFを利用したLANである。



 では、インターネットを使ったオンラインセッションが不可能なのかというと、そうではない。発想を転換して、何もセッションはリアルタイムがすべてではないと考えればいい。シーケンスソフトを用いて作った曲を相手に送り、それに相手のパートを追加して送り戻してもらえば、セッションは可能である。これならば、作った曲をメールに添付すればできてしまう。実際、これまでもMIDIを用いてそうした手法でセッションを行なった人は多くいたし、オーディオを用いた場合でも、同様のことを行なっている人は存在する。

 しかし、実際に試してみるとわかるが、メールではトラブルも多いし、データ容量も大きく扱いづらい。また、人数が増えてきたりすると、誰がどこを変更したかなど、履歴の管理はしにくく、だんだんと複雑になってきてしまう。

 そこで登場したのが、こうしたオンラインセッションの専用サービスである「Rocket Network」だ。これは、メールでデータを添付して送るのとは大きく異なり、スムーズにセッションするための機能が多数設けられている。まず一番のメリットは、データがネットワーク上で一元化されているので、常に最新のデータを読み込むことができる。

 また、各トラックを誰が作成したか管理してくれ、人が作ったデータは勝手には触れず、反対に自分が作ったデータは基本的に自分でのみ変更可能になる。


 もう少し具体的に説明しよう。このRocket NetworkはサンフランシスコにあるRocket Network社のサービスなのだが、シーケンスソフト側と密接な関係がある。現在、このRocket Networkのサービスを利用できるのは以下のソフトになる。

Emagic Logic Audio Platinum(Windows/Macintosh)
 バージョン4.8.1(Logic Audio Silver/Logic Audio Gold/Logic Platinum5は今のところ未対応)

Steinberg Cubasis VST/Cubase VST/Cubase Score VST/Cubase VST/32(Windows/Macintosh)
 Cubasis VSTはバージョン2.0以上、Cubaseシリーズはバージョン5.0以上

digidesign Pro Tools Software / Pro Tools LE Software
 バージョン5.2のみ対応(Pro Tools|HDは未対応)

Cubase VST/32の場合Arrangeウィンドウの側に「rocket Power」というボタンがある

 たとえばCubase VST/32の場合、Arrangeウィンドウの右側に「rocket Power」というボタンがあるのをご存知だろうか? このボタンを利用するためには、あらかじめ「Rocket Control」というプラグインソフトをインストールしておく必要がある。これがRocket Networkの入り口になる。

 同様にLogic Audio、Pro ToolsなどにもRocket Networkへの入り口が用意されている。いずれもソフトとして組み込まれるため、単にデータ通信だけに留まらず、CubaseならCubaseの機能が拡張する形でRocket Networkが利用できる。

 しかし、オンラインセッションをちょっと試してみたいけれど、LogicもCubaseもPro Toolsも持っていないという人も多いだろう。でも、大丈夫。実はRocket Networkを利用するための無料のソフトが用意されているの。それが、以下の2本だ。

■Emagic Logic Rocket(Windows/Macintosh)
 ASTRO SESSIONが提供(Windows2000未対応)

■Steinberg Cubasis InWired(Windows)
 ASTRO SESSIONが提供

 名前からもわかるように、それぞれLogicおよびCubasisの特別版であり、ローカルにデータが保存できないこと以外は、だいたいのことができるようになっている。

 これらの無料ソフトは、ASTRO SESSIONが提供となっているが、ASTRO SESSIONというのはRocket Networkの日本におけるサービス名。リットーミュージックが国内の代理店としてサービスしている際の名称である。そしてRocket Networkを利用するためには、まずASTRO SESSIONにアクセスし、ユーザー登録する必要がある。

 ユーザー登録が完了したら、Rocket ControlやLogic Rocket、Cubasis InWiredをダウンロードできるようになっている。もっとも、ちょっと試してみたいだけなら特に課金されることもないし、カード番号などを入れる必要もないので、気軽にアクセスしてみるといいだろう。





 ちなみに、先日Windows Me上でCubasis InWiredを利用したときは、うまくいったが、Windows XP上でRocket Networkに接続したらどうも調子が悪かった。ここでは、Cubase VST/32をWindows XP上で動作させて試してみることにした。

 まず、rocket Powerボタンを押してRocket Controlを起動しアクセスする。すると、専用のウィンドウが立ち上がり、ここからさまざまな機能を利用することになる。慣れたらこのウィンドウ上だけで操作が可能だが、最初のうちは連携したブラウザを利用するとわかりやすいだろう。

 試しに、ネット上にあるデモデータをダウンロードしてみると、ADSL 1.5Mbpsの環境で1分弱で読み込むことができた。もちろん、すべてオーディオデータ。ローカルに書き込まれたデータ容量を見てみると約11MBなのだが、ネット上には1.51MBとある。どうも、かなり圧縮されているようだ。とはいえ、演奏してみると結構迫力はある。

Rocket Control起動時 専用のウィンドウ(1)

専用のウィンドウ(2) 連携したブラウザ デモデータをダウンロード

作成した人の名前が表示されるとともに、データの色が変化するようになっている

 次に複数のメンバーで、同じデータにアクセスすると、どのようなことになるのだろうか? これは、読み込んだデータを見てみればわかるように、各トラックの頭にそのデータを作成した人の名前が表示されるとともに、データの色が変化するようになっている。

 たったこれだけのことでも、結構便利だ。また、アクセスしている最中に別の人がデータを改変すると、即ユーザーにもその情報が伝わり、数分後にはアップデートできるようになっている。圧縮されているとはいえ、毎回同じデータを読み込んで使うというのは馬鹿馬鹿しい。

 でも、そこはうまいフォローがされている。すでにダウンロード済みのデータはダウンロードせず、更新された新しいデータだけをダウンロードするようになっている。したがって、あまり大きな変化がなければ、すぐにダウンロードが終了する。これはかなり便利な機能だ。

 また前述の通り、人が作ったトラックは勝手にいじることはできない。正確には、EQをいじったり、エフェクトをかけるなど、自由に変更してローカルに保存することは可能なのだが、それをアップロードすることはできないようになっている。なお、自分の作ったパートであれば、EQやエフェクトの情報なども一緒にアップロードすることが可能。



 さて、もう1つ気になるのはアップロード。実際、アップロードするのにどのくらいの時間がかかり、音質の方はどうなるのだろうか。

 まず、アップロードの手順だが、これは非常に簡単。ネット上にオンラインセッションというものを作成し、ここにアップロードボタンを用いてアップロードするだけ。しかし、無料ユーザーはアップロードはできない。

 予め有料ユーザーとしての登録が必要になる。価格はもっとも安いコースで1カ月8.95ドル。12カ月なら99.00ドルとなっている。これはサーバーの保存容量が25MBで、転送データ量が1カ月で200MBという制限がある。1カ月で24.95ドルというコースもあるが、通常は8.95ドルのコースで大丈夫だろう。もしサーバー保存容量が25MBを超えた場合は1MBにつき2.5ドル、転送データ量が200MBを超えた場合は1MBにつき0.03ドルが追加される。

 Rocket Networkでは、オーディオデータの送受信にOgg Vorbisを使っているという話を以前に聞いたことがあった。もし本当なら、なんらかの設定画面があるはず探してみると、確かにプレビュー用にOgg VorbisのVorbis 2というコーデックが採用されていた。また通常はLossLess Codecとなっており、それぞれあまり設定の余地はなかった。

 さっそくアップロードしてみると、まず圧縮作業がはじまり、それからデータ転送が行なわれる。試しに、いつも圧縮の実験に用いている素材である夜間飛行をトラックに貼り付け、アップロードしてみると予想以上に簡単。データ容量的には約8MBが、5.1MBに圧縮されて送信された。

 では、これを反対にダウンロードするとどうなるのだろうか? 結論から言ってしまうと、元に完全な形で復元される。つまり完全に元の形に戻る。試しにefu氏のWaveCompareを使ってオリジナルデータとダウンロードしたデータを比較してみたら、完全に一致した。ということは、ここではOgg Vorbisが使われていないことになる。その代わりに可逆圧縮方式が利用されたということであり、プロユーザーも安心して利用できる環境といえるだろう。

プレビュー用にOgg VorbisのVorbis 2というコーデックが採用されている アップロード時の圧縮作業 オリジナルデータとダウンロードしたデータを比較すると、完全に一致した

 以上、Rocket Networkについて、簡単に紹介した。Rocket Controlには、ここで紹介したもののほかに、世界中にいるメンバーの検索機能やチャット機能、またメンバーに対するパーミッションの設定など、さまざまな機能が用意されている。興味のある方は、まず無料ソフトで試してみてほしい。

□Rocket Networkのホームページ(英文)
http://www.rocketnetwork.com/
□ASTRO SESSIONのホームページ
http://www.astrosession.net/
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(2002年6月24日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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