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第62回:アナログ感覚のソフトシンセ「REASON 2.0」


REASON 1.0

 2001年にスウェーデンのPropellerhead softwareが発売した「REASON」というソフトをご存知だろうか? 非常にマニアックなソフトシンセで、いかにもアナログという感覚なREASONはアマチュアからプロユーザーまで多くの人々に受け入れられ、国内外で大ヒットとなった。

 そのREASONが大きく機能強化され、「REASON 2.0」としてリリースされることになった。海外では6月下旬から出荷が開始されており、国内でも8月初旬より発売される予定。国内で発売されるのに先駆けて、製品をお借りすることができたので、今回はこのREASON 2.0を紹介しよう。



■ PropellerheadとREASON

 Propellerhead softwareという会社やREASONというソフトについて、まったくご存知ない方のために、簡単に紹介しておこう。

 Propellerhead softwareというのは、スウェーデンの音楽系のソフトハウスで、これまで「ReCycle!」、「ReBirth」といった非常に著名なソフトを開発してきたメーカー。ReCycle!はそのLite版がSoundBlaster Live!やAudigyにもバンドルされているため、名前だけは聞いたことがあるという方もいるだろう。これは、リズムなどのフレーズサンプリングデータを読み込み、それを各音ごとに細かくスライスしていくというソフト。スライスした結果をサンプラーなどに読み込ませることで、フレーズをバラバラに展開して利用できることから、プロユーザーを中心に多くのユーザーを獲得している。

 またReBirthは、Rolandのレトロ機材であるドラムマシン「TR-808/909」、ベースマシンの「TB-303」をソフトウェア的に復元したソフトであり、DJやハウス系サウンドのクリエイターに人気がある。

 このような斬新なアイディアを元に、次々と製品をリリースしてきたPropellerheadが昨年リリースしたのがREASONというソフト。アナログ時代のシンセサイザやシーケンサ、ドラムマシンなどをソフトウェア的に復元させたというもので、数々のモジュールが別々に存在しており、それらを自由に組み合わせることができる。

アナログ感覚でバッチ接続

 ソフトシンセというコンセプト自体は新しいものではないが、アナログの機材をモジュールごとに復元し、それぞれを自由に配線できるという考え方はなかなかユニークだ。またその配線手段も、リアパネル上で、まさにアナログ感覚でパッチ接続していく。接続するとケーブルが揺れたりするという芸の細かさも受け、多くのファンを作ったことも間違いない。

 アナログシンセをまったく触ったことがない人には、とっつきづらい面もあることは確かだが、難しいことを考えなくても、とりあえずすぐに音は出せる設計になっている。



■ コンセプト、モジュールはそのまま継承

 今回REASONは、2.0へとメジャーアップグレードしたわけだが、1.0のコンセプトやそこで搭載されていたモジュールについては、ほぼすべてを継承している。新機能を紹介する前に、従来からの機能を簡単に見ておこう。

 REASON 2.0は、デザイン的にもREASON 1.0のものが継承されており、パッと見た目にはそれが1.0なのか2.0なのか見分けが付かないほど。引き継がれた機能、モジュールについて、その代表的なものを少し紹介してみよう。

 まず、アナログシンセの音源モジュールである「SUBTRACTOR」。これは2オシレーター、2フィルター、3エンベロープ、2LFOを装備したポリフォニックシンセサイザである。アナログシンセを使ったことのある方なら、すぐに構成が理解できる非常にシンプルな音源ではあるが、結構太いシンセベースのサウンドから、テクノ系のサウンドまで自由に作ることができる。これだけでもかなり遊べる。

 またREASONの面白さは、フロントパネルで操作ができるだけでなく、リアパネルにさまざまなコネクタが用意されていることだ。SUBTRACTORにも単にオーディオ出力の端子があるだけではない。まず音程の入力にはアナログ独特のCVとGATEというものがあり、これを接続することで利用できるようになっている。また、各モジュレーションと接続するための入出力が用意されていたり、エンベロープに入力するためのGATEの端子などもある。

SUBTRACTOR SUBTRACTORの入出力画面

NN-19

 次にサンプラーの「NN-19」。最近はVSTインストゥルメントなどのプラグインでも数多くのサンプラーが登場しているが、NN-19は単なるサンプラーではなく、かなり強力なシンセ機能を搭載しているのが特徴。

 キーゾーンごとに別のサンプルデータを読み込めるマルチサンプル仕様となっていて、ピアノ音源などでは大きな力を発揮する。また、かなり強力なLFOを装備し、フィルタもなかなかの効き具合い。さらに、エンベロープも装備するなど、サンプリングした波形が単純なサイン波であったとしても、先ほどのSUBTRACTORなみの、音色の追い込みが可能となっている。

Dr:REX

 そして、Propellerheadオリジナルともいえるのが、「Dr:REX」というモジュール。これは前出のReCycle!で保存したデータを読み込んで、再生するための音源モジュールであり、ReCycle!で加工したデータを100%活用できるようになっている。

 そのほかにも、ドラムマシンである「REDRUM」やアナログ・シーケンサの「MATRIX」、14入力2出力のミキサーである「MIXER14:2」といったものを、REASON 1.0から継承。またエフェクタ類も、デジタルリバーブの「RV-7」、デジタルディレイの「DDL-1」、ディストーションの「D-11」なども、そのまま引き継がれている。

ドラムマシンREDRUM

シーケンサのMATRIX(上)とMIXER14:2

上から、RV-7、DDL-1、D-11の各エフェクタ



■ 見た目は同じでも強化された面もいろいろ

 以上のようにREASON 1.0と同じモジュールだけを見ていると、あまり変わった感がないのだが、その機能の詳細まで見ていくと、いろいろと強化されていることがわかる。

 たとえば、先ほどのNN-19やREDRUMにおいてはSoundFont2がサポートされ、数多く流通しているSoundFontデータ(= サンプリングデータ)が利用可能となっている。また、SUBTRACTOR、NN-19、Dr:REXなどLFOを搭載したモジュールすべてにおいて、Syncボタンというものが追加されており、テンポと同期したLFOを設定できるようになっている。

強化されたSequencer機能

 一見そっくりだが、大幅に機能強化されているのが「Sequencer」機能だ。従来は画面下側に固定されていたが、それをとりはずし、1つのウィンドウとして自由に動かすことが可能となった。また、機能的にも、いろいろと追加されており、ハンドツールによって画面を移動させることもできる。

 その他にも、ラインツールを使ってベロシティやオートメーションの一括変更や、ズームツールで画面の一部分を拡大することが可能になるなど、以前ちょっと不便だと思っていた部分が改善されている。もちろん、従来と同様にリアルタイムレコーディングをしたり、クォンタイズをかけるといったことは、そのまま利用できるようになっている。



■ 新たに追加された2つのモジュール

 では、REASON 2.0となっての最大の強化点はというと、新たに以下の2つの音源が追加されたことにある。

Marstorm

 まず、「Marstorm」はグレインテーブル(Graintable)シンセサイザーというもの。私自身、この方式のシンセサイザについてはあまり知らなかったが、これは一般的なウェーブテーブル・シンセサイザとグラニュラー(Granular)・シンセサイザを組み合わせたものだそうだ。

 原理的には、単独では音として知覚されないGrainと呼ばれる「なめらかなパルス状の粒」を非常に多数にわたって、空間的・時間的にランダムに配置することで1つの音響を生成する。

 言葉では、何のことだかわからないが、使ってみると確かにあまり耳にしないサウンドが出てくる。中核にあるのは2つのウェーブテーブル・シンセサイザなのだが、これを核にして作りこんでいくフィルタがグラニュラー・シンセサイザという部分なのだろう、非常に変わった効果が得られ、あまり聞いたことのないシンセサウンドとなる。

 ちなみに、ウェーブテーブル・シンセサイザのウェーブテーブル自体はアシッドベース、アコースティックギター、FM音源……と計82種類もあるので、これだけでもかなりのバリエーションである。このウェーブテーブルの波形をリアパネルのパッチを利用することで、直接外部へ出力することも可能。さらに、非常にユニークなフィルター部分は外部からも利用することができるので、組み合わせ次第で、さまざまなサウンドが作れそうだ。

NN-XT

 もう一方の「NN-XT」は、その名称からも想像できるようにNN-19の上位バージョンともいえるもので、サンプラーである。こちらはより編集機能が充実するとともに、フィルタ類が強化されている。

 その最大のポイントといえるのは、単にキーゾーンの設定ができるだけでなく、複数のレイヤーでサンプルを設定でき、それをベロシティーによって切り替えることも可能なところ。また16chのパラアウトが可能であったり、1サンプリングデータごとに、細かくエディットができるなど、かなり凝った音色作りが可能となっている。

 MarstormもNN-XTも、単純な音源でないだけに、より突っ込んだ使い方を習得するためには、それなりの時間がかかりそうだが、非常に使えそうな音源だ。また、従来のREASON 1.0では、プロ用音源として利用するにはやや音質的に痩せているという意見もあったが、MarstormやNN-XTによって、そうした問題も大きく改善しているように思える。

 もちろん、これら各モジュールの機能に加え、エフェクトを利用した活用法やReWireなどを用いて外部のシーケンスソフトと同期させる機能など、ユニークな機能が満載されている。国内版もソフト自体が日本語化されるというわけではなく、日本語のマニュアルが添付される程度なのだが、おそらくREASON 2.0も大ヒットになるのではないだろうか。


□Propellerhead softwareのホームページ(英文)
http://www.propellerheads.se/
□メガフュージョンのホームページ
http://www.megafusion.co.jp/
□製品情報
http://www.megafusion.co.jp/audio/propellerhead/reason2/
□関連記事
【6月10日】【DAL】第57回 DXi2、ReWire対応で機能強化「SONAR 2.0」の実力
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020610/dal57.htm

(2002年7月15日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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