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第46回:23年前の話題作が完全版として復活
「地獄の黙示録 特別完全版」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ コッポラの代表作がシーンを追加した「完全版」で登場

地獄の黙示録
特別完全版

価格:4,700円
発売日:2002年7月25日
品番:PIBF-7364
仕様:片面2層
収録時間:202分
画面サイズ:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:1.ドルビーデジタル5.1ch(英語)
   2.ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
字幕:1.日本語字幕
   2.英語字幕
   3.吹き替え用字幕
発売元:日本ヘラルド
販売元:パイオニアLDC

 さて、かの有名な映画監督、コッポラの代表作「地獄の黙示録 特別完全版」である。'79年にオリジナル版が初公開され、2001年には初公開時にカットされたシーンを追加して再編集された「特別完全版」を製作。日本では2002年2月に公開された「地獄の黙示録 特別完全版」である。

 「特別完全版」単体でのリリースと同時に、9月26日にパイオニアLDCから発売予定のオリジナル版も同梱し、32Pの解説ブックレットをつけた「初回版」も8,500円で販売されている。なお、オリジナル版はCICビクターが発売元となって2000年11月に発売されたことがあるが、期間限定リリースであったため、現在入手は難しいと思われる。

 この「特別完全版」で何よりも圧倒されるのはその長さ。本編は202分(3時間22分)にも及ぶ長尺だ。'60年代の映画ならばこの程度の作品は何本か思い当たるが、インターミッションが付いたものがほとんど。しかし、この作品にはそのような配慮はされておらず、オープニングからエンディングまで通しての視聴を強いる。

 '79年公開のオリジナル版では製作者側もその長さを不安に思い、2時間41分にまとめているが、「特別完全版」ではその制約を解き放ち、監督自らがカットされていたシーンを追加して再編集を行なっている。その結果が3時間22分という、最近の作品では珍しい長尺作品となった。

 初回公開時には大ヒットとなり、「名作」という評価が大多数を占めていると言っていいだろう。再編集された「特別完全版」が公開されたときも話題になっている。ただ、個人的には「名作」と思えない。ストーリー展開は起伏に乏しく、状況の解説はナレーションに頼りきり。目玉キャストであったはずのマーロン・ブランドはラスト近くでようやく登場と、映画を「娯楽」と定義した場合、「楽しめる作品」ではないと感じている。

 それなのに、4,700円という比較的高価なDVDをなぜ購入してしまったのか。「戦争映画好き」という理由はあるが、同じベトナム戦争を扱った「プラトーン」のDVD購入にはいまいち食指が伸びないことを考えると、やはり何か惹かれるものを感じていたからだろう。


■ 23年の時を経て蘇る「現代の黙示録」

 ストーリーといえば、ベトナム戦争という対ゲリラ戦闘の泥沼にはまった戦争を象徴するがごとく、鬱々とするような戦場の描写がひたすら続き、主人公の任務も軍規を逸脱したカーツ大佐の暗殺。こんな状況が、山もなく谷ばかりで3時間22分延々と続く。今回購入して改めて視聴してみても、49分もの追加シーンの影響もあって正直つらかった。

 起伏の乏しいストーリー展開は正直あまり評価できないが、それでも劇中の各エピソードは印象に残るものが多い。映画の原題は「Apocalypse Now」で、直訳すれば「現代の黙示録」というところだろう。黙示録といえば、最も有名なのがヨハネ黙示録。この説法書はアルマゲドン(善と悪の最終戦争、転じて世界の終焉)を予言していることで有名だ。

 劇中では、赤ん坊を母親と共にヘリで後送するという良心を描く一方で、ナパーム弾で森ごと敵部隊を焼き払い、村には火をかけるという残虐性を中心に描いている。その最たるものが、ラストで登場するカーツ大佐の「王国」だろう。全体のテーマを個人的に解釈すると、善と悪という概念で割り切ることのできない戦争。それによってもたらされる、戦場という名の日常の終焉。それを日常にいる我々に示しているという意味で「現代の黙示録」なのだと思う。

 「特別完全版」としてシーンが追加されたことにより、各エピソードからわずかづつ表現されるテーマ性が強くなり、より際立ったと感じる。追加されたシーンには、中途半端だったプレイメートの慰問シーンの補足などもあるが、戦場という非日常、もしくはその周辺の準日常的空間にいる人間の狂気を描いたものが多い。

 収録時間が長く起伏が乏しい展開だけに、最初から最後まで連続して視聴するのは正直つらいが、購入後の初見はいつでも見られるというDVDの利点がありながら、通して視聴してしまった。

 そして、何よりも心惹かれるのが映像美。やはりコッポラ。23年前のフィルムなのに、その美しさには圧倒される。実験的なアングルはほとんど存在せず、混乱を感じることのない慣れ親しんだ映像表現が続く。それなのに熱帯雨林の湿った空気感が全編に渡って漂い、戦闘のもたらす破壊と、その美しさが表現されている。

 最も印象に残るシーンといえば、やはり「ワルキューレの騎行」をBGMにした騎兵隊の襲撃シーン。「普通でない」ワグナーの戯曲をバックに、これも「普通でない」ギルゴア中佐の指揮する横一線に並んだヘリコプター。背景は青い海から黄色い砂浜へと変化しながら、乱れのない編隊を組んだまま移動する機能的な美しさを表すヘリと、自然の美しさを表しながら変化していく背景。この情景をワグナーの戯曲がさらに盛り上げる。

 普段はいわゆる「娯楽作品」を中心に観ているので、このようなテーマ性の高い作品はそれほど好みではないのだが、さすがに「名作」と呼ばれる作品。多くの人に評価されるだけのことはあると改めて実感した。


■ 23年の時を経て蘇る「現代の黙示録」

 画質は3時間22分と長尺ながら、おおむね満足できる解像感を保っている。この「特別完全版」はシーンの追加だけでなく、初回公開時のオリジナルフィルム、それもラッシュ編集前、撮影したままの「デイリー」と呼ばれるフィルムに立ち返っての編集作業を行なっている。23年前のフィルムにしては解像感が高く、ごみ、揺らぎなどもほとんど感じられなかった。しかし、鬱々とした状況を強調するためなのか、全体的にトーンが低めになっている印象を受ける。

 また、編集段階の意図的な改変なのだろうが、シーンによっては色味が異なっている。ざっと見た感じでは、開けた場所での戦闘シーンは赤みが強調され、夜やジャングルなどでは青みが強調されているように感じた。某DVDソフトのように、全編に渡って同じ色味補正が施されているわけではないので、これが公開時本来の色味なのだろう。シーンごとに色味が変わるので、機器の故障かと思う時もあったが、特にジャケットにもなっている夕焼けは、劇中の中でも特に美しいシーン。時に色調補正が強すぎ、雰囲気を壊していると感じるシーンもあったが、全体的には製作者どおりの補正が施されていると思う。

 音声は、ドルビーデジタルのみの収録ながら、オリジナルの英語、吹き替えの日本語とも5.1chで収録。日本語吹き替えは専門用語などが字幕よりもわかりやすく、吹き替えキャストも登場人物とはまっているので、英語音声よりも視聴しやすい。日本語音声はステレオ収録される作品も多い中、5.1chで日本語音声が楽しめるのはありがたかった。

 全編を通してのサラウンド感はそれほど高くなかったが、特にサラウンド感が高いと感じたのはヘリコプターの移動音。例の「ワルキューレの騎行」シーンでもヘリの移動するさまが感じられた。だた、音質は最近の映画作品に比べると多少ノイズが多いと感じる。しかし、映画の視聴には不自然さのないレベル。

 多少不満の残る部分もあるが、1枚で3時間22分という長尺を収録しつつ、5.1chで英語と日本語を収録していることを考えると、妥当なレベルと言えるだろう。DTS収録、2枚組み、という選択肢もあったと思うが、インターミッションが用意されていない本編を考えると、最初から最後まで1枚のディスクで視聴できるメリットの方が大きいと言えるだろう。


■ 映像特典は予告編だけで物足りない

 さて、改めてDVDの仕様を確認してみよう。価格は4,700円。DVD1枚組み。音声はドルビーデジタルのみながら、英語、日本語とも5.1chで収録。3時間22時間の映像と音声を、ある程度以上の高画質、高音質で収録しようとすると、映像特典を削るしかなかったのだろう。

 パッケージの解説では、「オリジナル予告編」、「日本語予告編」と、「撮影監督ヴィットリオ・ストラーロによるデジタル・ハイビジョン・マスター仕様」、「ピクチャー・ディスク仕様」となっている。ピクチャーディスクは4色刷りのフルカラーで、ジャケットの夕焼けを描き、美しく仕上がってはいるが、映像特典は2本の予告編だけ。

 英語字幕も用意され、より深く視聴したい人に向けた仕様になってはいるものの、価格も比較的高価な部類なのだから、配給権など難しいことのわからない消費者としては、やはり価格に見合った特典が欲しい。

 映像特典の定番と言えばメイキング映像だが、以前、この作品の製作中のコッポラを追ったテレビ番組を見たことがある。例えばこの番組をもう1枚のディスクに収録して特典とすることはできなかったのだろうか? 映像業界にはさまざまな絡みがあって、実現は難しかろうとは思うが、どうしても物足りなさを感じてしまう。

 ともあれ、コッポラの代表作を我が家で楽しめることには変わりない。とくに「特別完全版」はこれまで見ることのできなかったカットシーンを追加したもの。オリジナル版しか視聴できなかったことを考えると、この追加シーンをシームレスで視聴できることが最大の特典だと納得することにしたい。

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□パイオニアLDCのホームページ
http://www.pldc.co.jp/
□製品情報
http://www.stingray-jp.com/~pldc/view_data.php3?softid=132770
(2002年8月9日)

[fujiwa-y@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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