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第51回:この時期だからこそ見たい!?
単身テロと戦う一般人「コラテラル・ダメージ 特別版」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 何かと話題の多い作品ですが……

コラテラル・ダメージ 特別版

価格:2,500円
発売日:2002年9月6日
品番:DL-21324
仕様:片面2層
収録時間:約108分(本編)
      約25分(特典)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch)
    日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

 今回紹介する「コラテラル・ダメージ 特別版」は、アーノルド・シュワルツェネッガー30本目の出演作品。米国で起こった同時多発テロの影響で、公開が約半年延期されたことも話題となったので、作品の名前だけをご存知の方も多いだろう。

 主人公はロサンゼルスの消防士「ゴーディー」。彼は取り残された人を救うため、進んで火の中に突入する勇敢な消防士だ。信頼する仲間と共に、充実した日々を送っていた主人公だったが、突然の爆弾テロにより、目の前で妻と幼い息子を失ってしまう。

 犯人は米国に恨みを持つ、コロンビアのテロリストと判明。しかし、外交を優先する政府の動きは鈍く、捜査は一向に進まない。業を煮やしたゴーディーは「政府がやらないなら、俺がやるしかない!!」と、単身コロンビアに乗り込み、妻子の敵を討つ決意をする……。というのが大まかなストーリーだ。

 極めてシンプルな物語。しかも、たった1人でテロ組織と戦うというのが、いかにもハリウッド映画らしい。失礼な話だが、派手なだけで内容の無い、よくあるアクション映画だろうという先入観を持って観賞を始めてしまった。

 しかし、そうした考えは良い意味で裏切られた。シュワちゃんが巨大なマシンガン片手に、テロリストをバッタバッタとなぎ倒していくようなシーンはどこにもなく、あくまで主人公は「正義感の強い普通の消防士」として描かれている。

 確かに、「あんなに筋肉モリモリの消防士が普通なのか?」と問われると答えに詰まる。が、圧倒的な強さが目立つヒーローばかりを演じてきたシュワルツェネッガーが、生身の体と、消防士としての経験だけを武器に敵に挑む姿は、新鮮なものに感じられた。

 「テロリズム」、「消防士」、「復讐」というキーワードばかりが話題になるが、30作目にして原点に戻ったシュワルツェネッガーの映画としても、注目すべき作品ではないだろうか。


■ リアリティを演出する細かい描写

 原点に戻ったといっても、共感できる血の通った悪役が出てくるなど、ハリウッドのアクション映画としてはチャレンジ精神にも溢れている。また、アクションシーン以外の、日常の仕草で新たな魅力を見せるシュワルツェネッガーの演技や、ディティール、登場人物の心理描写の丁寧さも特筆すべき点だ。

 例えば、傷心の主人公の家に「テロの悲劇のヒーローとして、ニュース番組に出てくれ」という不躾な電話がかかってくるシーンにリアリティを感じた。また、コロンビアの実情や、テロリストに詳しいという解説者がTV番組で「今回のテロは、アメリカがコロンビアでしている事と同じだ、犠牲になった人々はコラテラル・ダメージ(目的の為のやむをえない犠牲)だ」と発言、激怒した主人公が解説者の事務所に乗り込み、暴れまわった末に取り押さえられるシーンも、リアルで考えさせられる場面だった。

 さらに、復讐の気持ちだけで進んでいく主人公も、今まで知らなかったコロンビアの情勢や、テロリスト達の背景、不条理な現実を目の当たりにして、苦悩することになる。痛快なアクション映画でありながら、テロリズムを題材にすることで、ある種の深みを持たせることに成功したといえるだろう。

 だが、確かな思想やメッセージを持った作品だという観点で見てしまうと、主題への踏み込みの甘さが目についてしまう。そうした意味では非常に「惜しい作品だな」という感想を持った。

 テロリストを1人の人間として描いている点も素直に評価したいのだが、主人公とテロリスト、どちらの視点を重視するわけにもいかず、結局、双方ともぼやけてしまったような印象を受けた。また、新しいチャレンジをしながらも、映画の終わり方が「従来通り」という感じなのも残念だった。

 ほかにも意外だったのは、映画の中で一番重要であろう爆弾テロのシーンが、比較的おとなしいものだったことだ。現実の悲劇と映画の中の悲劇を比べるのは極めて不謹慎だが、9月11日の事件の前に撮影されたという問題のシーンは、本物の同時多発テロの様子を見た後では、インパクトが薄く見えてしまった。

 だが、「現実のテロはもっと凄いだろ…」とつぶやいた後で、自分の発言の悲しさに気付いて複雑な気持ちになってしまった。「事実は小説よりも奇なり」といったところかもしれないが、テロは映画の中だけで十分である。


■ 特典は良いが、画質と音質はおとなしめ

 ディスクは片面2層を使用。平均ビットレートは7.2Mbps。映像はビスタサイズをスクイーズ収録している。画質は、ざらついたノイズは全体に見られるが、全体のクオリティがそれほど高くないため、特に破綻していると感じるシーンはない。そういう意味では、安心して見ていられた。

 音質は、少し甘さが感じられたが、低音も気持ちよく入っている。特に不満はないが、サラウンド効果が少ないのが気になった。また、画面効果が比較的地味なので、全体的に迫力が不足しているように感じられる。

 激しい戦闘シーンや爆発シーンも随所に散りばめられてはいるのだが、“シュワルツェネッガー主演のハリウッド映画”ということを考えると、もう少し大仕掛けのアクションシーンが見たかったように思う。悪く言うとB級映画の雰囲気になりそうな場面もあった。部屋を揺さぶるような大迫力を期待する人には、物足りないDVDになってしまう可能性があるだろう。

 また、役柄のためか、年齢のためか、煩った病のせいか、シュワちゃんのアクションにもキレが足りない印象を受けた。本国では、「ハムナプトラ 2」や「スコーピオン・キング」で人気のザ・ロックが、「次期シュワルツェネッガー」になるとささやかれているそうだが、体が重そう(実際重いのだろう)に走るシュワちゃんの姿に、少し寂しい気分になった。

Bit Rate Viewerで見た本編のビットレート

 特典は、音声解説や未公開シーン集、メイキングなど。ありふれたものが多いが、「新しい時代のヒーロー」と名付けられたドキュメンタリーが興味深かった。内容としては、監督のアンドリュー・デイビスとシュワルツェネッガーが、同時多発テロから公開に至るまでの苦労や裏話を語るというもの。

 この映画ならではのコンテンツだが、事件後に映画自体が今までとはまったく違う側面を持ってしまったことへの戸惑いや、期待が垣間見えて面白い。映画を見た後でぜひ目を通して欲しいコンテンツだ。


■ この時期だからこそ、見てほしい映画

 見終わった後で、公開が延期された理由がよくわかった。事件後に編集が加えられたという噂も耳にしたが、「消防士がテロに巻き込まれる」というあまりにもタイムリーな偶然の一致には驚かされる。

 映画の中で、主人公が消防士であることの意義は「人の命を救う職業」ということのみ。おまけに「爆弾処理班にいたんだ」の一言で手際良く爆弾を製造し、武器とするシュワちゃんの姿に「消防士という設定は、後からつけたんじゃないのか?」などという失礼な考えが頭をよぎってしまったくらいだ。

 とはいえ、話題性だけでなく、テロを起こす側についても一定の描写がされており、リアリズムも感じさせてくれるハリウッド映画に仕上がっていると思う。何より、志を高く持つ姿勢が気に入った。

 しかし、現在の段階ではやはり「アメリカ人向けのリアリティなのかな」と感じる部分も多い。これを「ハリウッドの限界だ」とかたずけてしまうのは簡単だが、もう少し時間が経った後で、例えばリメイクのようなカタチで撮影されたら、どんな映画になるだろうと考えてしまった。

 最後に、ネタバレになってしまうので詳細を書くのは控えるが、考え様によっては痛烈な皮肉とも受け取れるどんでん返しが待ち受けているので、そのあたりも楽しみにしていただきたい。

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□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ
http://www.whv.jp/
□製品情報
http://www.whv.jp/database/database.cgi?cmd=dp&num=690&UserNum=&Pass=&AdminPass=&dp=

(2002年9月19日)

[yamaza-k@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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