■ 今頃アレなんですが…… 今週のお題はPanasonicのDVカメラ「AG-DVX100」である。DVでありながら24p撮影ができるというこのカメラ、発売からすでに2ヶ月ぐらいが経過しているわけが、なぜ今頃? と思われる方も多いだろう。 きっとあれだ、こういう業務用っぽいやつはビデオなんとかとか、ビデオなんちゃらとかいうビデオカメラ系雑誌へ優先的に貸し出されており、わーい俺たちは後回しだぁ。てなことかもしれない。 まあそんなわけで2ヶ月も前に出てれば製品情報などはあらかた知れ渡っており、興味ある人はある、ない人は全然ないとは思うが、一応事前情報として特徴をまとめると、
■ ボディはかなり硬派 一応いつものお約束ということで、ボディデザインをチェックしてみよう。本体は黒を基調としたカラーリングで、モニタ部付近だけシルバーとなっている。見た目からはそれとわからないが、ボディは樹脂製で、金属部分はほとんどない。樹脂といってもかなり硬質のもので、金属と変わらない強度を持つものだ。 見た目の第一印象としては、かなり横幅のある、太めのカメラ。重量はバッテリ込みで1.8kgとまずまず見た目通りの重さであるが、重心が下にあるため、持ったときのバランスがいい。ユニークなのがレンズフードで、外側に張り出した枠を4辺で支えるような構造になっている。正面から見るとスカスカである。 標準でもステレオマイクを内蔵しているが、XLR端子もあり、別途マイクを付けられるようになっている。コネクタが下の方にあり、これも重量バランスの安定に一役買っているようだ。
テープ開口部はかなり広く開く。またグリップベルトもフタの部分に付いているので、開口部を空けたときにベルトがジャマで開かないということがない。このあたりはSONYの「PD150」で問題になっている部分なので、敵の弱点をよく研究していることが伺える。 本体上部のグリップ部には、スタートボタンと簡易ズームレバーがある。これはキヤノンのXL・XVシリーズに以前から採用されているアイデアだ。ここでは敵のいいところを丸ごと取り入れている。
後部にあるダイヤルは、シーンファイルの切り換えである。F1からF6まであるが、ここにシーンセッティングを仕込んでおき、素早く切り換えることができるというもの。またカメラモードとデッキモードの切り替えはボタン1つで行なうことができる。SONY系のカメラではロータリースイッチでいったん電源OFFを経由しないと切り替わらないのでまどろっこしい思いをするのだが、このあたりはかなり気に入った。同じく後部にあるEND SEARCHボタンは、テープを入れ替えても正確にテープエンドを探すことができる、なかなかの優れものだ。またカメラモードのままでも、REC CHECKボタンを使えば、最後に撮った2秒間の映像が確認できる。 メニュー操作は、十字スティックの上下で選択、スティックを押し込んで決定という操作法。ダイヤル式に慣れた人には苦戦しそうだが、慣れれば問題ないと思われる。またこのコントローラは、テープモードではテープ操作に使用する。 液晶モニタは3.5インチと大型で、視野角も広めだ。一方ビューファインダもカラーで、大型のものである。
カメラコントロール部はレンズ左側に集中している。このあたりはハイエンドモデルにはよくある構造をとっている。ホワイトバランスがABとメモリでき、プリセットと合わせれば3つの設定が使用可能。またATW(自動追尾ホワイト)機能もあるので、屋外から室内に入っていったり、急にビデオライトを付けたりした時にも便利。どちらかというとリテイクができない報道・ドキュメンタリー向けの機能だ。
また、目立たない機能ではあるが、DV端子に別のレコーダなどを繋いでおけば、カメラのRECに合わせてシンクロ収録ができる。バックアップにはなかなか便利な機能。スタジオ収録などでは重宝するだろう。 ■ 操作感は上々 では早速撮影に出て、使い勝手を見てみよう。まずDVX100の特徴として、カム式のズーム機構を採用している点が挙げられる。そのためリングによるマニュアルズームとレバーによるズームは、レンズ下のスイッチで切り換えるようになっている。
ズームレバーは、かなりゆっくりのズームでもよく追従する。同行したCFカメラマンの前島一男氏によると、あまり遅くすると途中で止まってしまう機種もあるということだが、DVX100は低速でも安定したズームが可能。またモニタ内のズームの表示は、よくあるバー状のものではなく、00から99までの数値で表示される。今どのぐらい寄っているのか、あとどのぐらい寄れそうかが量的にわかりやすいので、これはなかなかいいアイデアだ。 レンズに関してだが、ワイコンなしでいけるようにと、かなり広めのレンズを採用したという。ワイド端で32.5mm(35mm換算)だ。この数値は確かに最近のカメラにしてみれば広めではあるが、ワイコンを付ければ30mmを切るものが多い中で、さすがに「ワイコンなしで」はちょっと大げさだろう。特に小型カメラの場合(プロ機に比べてだ)、手持ちで近寄るような撮影が中心となるため、ワイド端の広さは必須である。オプションで0.8倍のワイコンのリリースが予定されているされているようなので、期待したい。
参考までにカラーチャートを撮影して、DVX100の特徴であるガンマモードの違いをご覧いただこう。ビデオガンマは、以下の設定ができる。
またシーンファイルダイヤルには、あらかじめ以下のようなセッティングが仕込まれている。これも参考までに順次撮影してみた。
特徴、といえるのかどうかわからないが、DVX100にはスクイーズ収録モードがない。16:9に設定すると、そのまま上下を切ったレターボックスサイズでの収録となる。スクイーズ記録用としては、今後16:9コンバージョンレンズ(アナモフィックスレンズ)がリリースされる予定なので、それで対応することになるようだ。 またDVXは、レンズもCCDもかなり明るい。現状でも1/8と1/64のNDフィルタが内蔵されているが、せっかくのライカディコマーレンズの持ち味を生かすには、できるだけ絞り解放で使いたいのが人情だ。今回の撮影日は冬の昼下がりとやや斜光気味だが、1/64のNDを入れてもなかなか絞りが開けられなかった。解放で撮るには、別途もっと濃いNDを用意した方がいいだろう。 絞りの開き方にも特徴がある。数値としては、OPEN - 1.7 - 2.0 - 2.4 - …… と閉じていくが、どうも数値の中間にもうひと絞りあるようだ。波形モニタで確認したところ、無段階ではなく段差はあるものの、数値よりも細かいステップで動いている。無段階のように感じる場合もあるが、どうもそれはダイヤルの回転に対して絞りが若干遅れ気味に反応するようなので、感覚がそれにダマされるようだ。 絞りについてもう一言加えると、アイリスのダイヤルはズームリングのすぐ後ろあたりにあったほうが、プロ用レンズに慣れている人には使いやすい、というのが前出の前島氏の意見である。一方SONYのPD150の絞りダイヤルは液晶モニタの付け根のところに付いているため、非常に回しにくい。それに比べれば、まずまずの位置にあると言えよう。
撮影していたときは、DVX100では色が濃すぎるように感じていたのだが、家に帰ってモニタで見てみると、それほどでもなかった。どうも液晶モニタやビューファインダが、クロマが濃いめ、トーンがアンダーめに表示されるようだ。液晶モニタにダマされない目を持つことも大事だが、逆に濃いめのモニタを見てるからこそ撮影時にこれだと選ぶ被写体もあるわけで、そのあたりはユーザーが使い込むことで判断していく部分だろう。 全体的に24pモードでは、CINE-LIKEガンマのせいもあって、丹念に作り込んだ絵という感じになる。だがそれは悪い意味ではなく、いずれにしろいい絵を撮るときには何かしらの作り込みを行なうのが普通だ。それをカメラがやってくれるというだけのことなのである。現実をただ冷淡に写し取ればいいビデオカメラとはまた違ったジャンルのカメラであるという印象が強い。じっくり腰を据えて、芸術作品を一本撮りたくなるカメラだ。 最後にバッテリの持ちだが、かなりいい。一番大きなバッテリを付けて約2時間半電源を入れっぱなしだったが、表示では半分ぐらい残っていた。SONYのようにインフォリチウムではないので正確な残量がわからないのが難点だが、それでもこの手の大型カメラにしてはかなり持つ方だろう。
■ 編集に関して簡単に では24pで撮影したものを編集するときのことを考えてみよう。AG-DVX100は24pの撮影モードが2種類ある。1つは2:3プルダウンモードで、これはテレシネなどで24コマのフィルムからビデオの60iに変換する際の一般的な方法である。もう1つがAG-DVX100独自の2:3:3:2プルダウンモードで、Panasonicではこれを24pアドバンスモードと呼んでいる。 編集するときには一見ややこしそうだが、実は2:3:3:2プルダウンモードでの撮影が生かされるのは、最終形態が24pであるものだ。例えばフィルムにキネコするとか、DVDの24pでしか作品を出さない、といった限定された状況でしかメリットがない。 現在この2:3:3:2プルダウンモードに対応しているのは、広く知られているところではAppleの「Final Cut Pro」があるが、Windows用でもin-syncの「Blade 2」がある。in-syncといえば、Speed LazorというDV用のハイエンド編集ソフトをリリースしており、ノンリニア編集系の人間にはそこそこ知られた会社だ。 また編集ソフトを援助するコンバータとして、「DVFilm Maker」というソフトがある。これは2:3:3:2プルダウンモードで撮影された60iのAVIまたはQuicktimeファイルを23.976fpsに変換してくれるもの。これを使えば、上記のソフトでなくても、Premiereなど普通の編集ソフトで24pの編集が可能になる。 さて24pでの完パケについていろいろ書いたが、では普通にテレビ番組やビデオ作品として編集するにはどうしたらいいかというと、じつはなにもしなくてもいいのである。撮影するときに2:3プルダウンモードで撮影しておけば、原理的にはテレシネしたフィルム素材をビデオで編集するのと同じなので、その経験があればなんということもない。 また2:3:3:2プルダウンモードで撮影するとビデオ映像としては動きがおかしく見える、とマニュアルにはあるが、実際にはおかしくておかしくてたまんねえぜどわっはっはというほどのことはなく、動きが少ないカットではほとんどわからない。水面のランダムな動きなどを撮ったときに、ちょっとヘンなリズムが出てるなと感じる程度である。 現行の放送で気軽に24pのフィルムライクな映像表現ができる方法として、またとないツールと言えるだろう。参考までに29.97fpsのままで編集したものをそのままMPEG-2にエンコードしてみた。本来は24pに変換してやるのが一番いいのだが、あいにくうちにはツールがないのでそのままである。圧縮によってインターレースの縞模様が強調されている感があるが、映像のトーンや動きの感じは参考になるだろう。
■ 総論 一般的に放送のプロは、NHK関係者以外はPanasonic製品を使ったことがない人が多い。理由はいくつかあるが、DVCProなどでPanasonicが強いのはあくまでも業務用部分であり、地上波ではほとんど使われていないという実情がある。またCS局はほとんどDVCProによる番組制作を行なっているが、これはCSの送出システムが早くからDVCProの送出カート(といってもわかんないか。自動テープ入れ替え装置である)を採用したため、逆算的にしょうがなく制作までDVCProで行なうことになった、という背景がある。逆になぜNHK関係者はPanasonicに縁があるかというと、以前NHKとPanasonicでVTRなどを共同開発していたからである。 まあそんなこんなで今までPanasonic製品に対してプロユーザーは、「業務で使っているという話は聞くよね、でも結婚式撮るわけじゃねえし俺たちはヨ」みたいなスタンスで捉えていた。だがライカと組んでからのPanasonicの製品は、プロユーザーも十分刮目するに値するイメージング機器をリリースしてきている。その中でもAG-DVX100は、24pで撮れるという機能もユニークだが、ビデオカメラとして非常によくできた製品だ。必要なボタンが全部外に出ている操作性の良さもさることながら、被写体を現実以上によく見せるための「作り込んだ絵の良さ」を十分堪能できるカメラに仕上がっている。プロユーザーもここいらで、Panasonicに対する認識を新たにすべき時だろう。 さあDVX100の登場で、この分野では絶対的な強さを誇ってあぐらをかいていたSONYさんが、ざっくり寝首をかかれた状態だ。もちろんSONYもこれを黙って見ているはずもなく、次なる刺客を送り込んでくることだろう。ただSONYサイドの不安材料としては、レンズである。カールツアイスでは、今まで3CCD用のズームレンズを出したことがない。このあたりをどう凌いでくるか、興味は尽きない。また業務用レンジでは「王国」を誇ったVictorの家庭用HDTVカメラが、どんな完成度でモノを出してくるのか、これまた興味津々である。今年はハイエンドビデオカメラが面白いことになりそうだ。
(2003年1月22日)
[Reported by 小寺信良]
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