■ 第100回ってことで 今回の記事で、Electric Zooma!は100回目の掲載を数える。めでたいですな。それにあたり、今までのオコナイを反省する意味でつらつらとバックナンバーなどを眺めているうちに、妙なことに気が付いた。 ほぼ同じ時期に連載スタートしたはずの藤本さんのDigital Audio Laboratoryよりも、いつの間にか9回分も先行してしまっているではないか。これはなにかのインボーかははたまたインプレス社内における権力の差かといろいろ考えたが、なんのことはない、単に藤本さんの原稿の載る月曜日は、祭日の代休が多いから休載が多いのである。 しまったあッ! なんで水曜日掲載にしたんだキーッ! とハンカチの端を噛み噛みしても、いまさらアフターカーニバルすなわち後の祭りである。それではあまりにも悲しいので、100回達成のご褒美として、次回を休載することにする。大変なんだよ毎週毎週雨の日も風の日も原稿書き続けるってのは。まあ家ん中で書いてるから天気関係ないんだけどネ。 そんなわけで、てかいつもどんなわけだがさっぱりわからないが、記念すべき100回目のターゲットは、3月7日に発売になったカスタム・テクノロジーのCinema Craft Encoder Basic(以下CCE-Basic)である。なお、販売はノバックが担当する。
■ 実質的な製品整理と値下げ? まずCCEの製品ラインナップをちょっと整理しておこう。CCEのハイエンドのほうは業務~プロユースなのだが、低価格路線としてはこれまでCCE-Lite、mpEGG! DVD Encoder、mpEGG! DVD Encoder for Adobe Premiere、mpEGG! DVD Encoder for Ulead VideoStudioの4つがあった。これらのうち、for Ulead VideoStudio以外の販売が中止され、CCE-Basic1本にまとまったというわけだ。
なおCCE-BasicにはPremiere用プラグインも同梱されているため、販売終了製品のユーザーへの影響はないだろう。実質的なライバルと目されるTMPGEnc Plus 2.5は、パッケージ版が9,800円、ダウンロード版が4,800円である。そういう意味ではCCE-Basicは実にビミョーな値付けと言える。 また、興味を持っているユーザーが気になるのは、やはりCCE-Liteとの差、あるいはCCE-SPとの差ではないだろうか。そのあたりもにらみながら、早速使ってみよう。
■ 並列から階層へ CCE-Basicの起動画面は、CCE-SPのそれと近い。エンコーダのタスクが表になって表示されるというスタイルだ。ここにエンコードしたいファイルをドロップすると、登録される。以前からCCEシリーズはこのようなドラッグ&ドロップによる操作感を重要視しており、CCE-Liteに至っては起動してもスプラッシュスクリーンみたいなのしか出てこなかった。この点から考えても、CCE-BasicはLiteよりもSPの流れを汲むと考えて良さそうだ。
登録されたタスクをダブルクリックすると、設定ダイアログが出てくる。CCE-Liteではいろいろな設定がタブで並列に扱われていたのに対して、CCE-Basicでは基本的なものを大きなダイアログに盛り込み、さらに細かい設定はそこから掘り下げて、やる人だけやる、といった考え方になっている。
エンコードのモードとして、MPEG-2では従来のLiteにあった「1-pass CBR」以外に、「2-pass CBR」、「2-pass VBR」が追加された。なお2-pass VBRを選択すると、自動的にElementary Streamになる。すなわちオーディオとビデオのストリームが別々に出力されるということだ。なおSuperVideoCDがグレーアウトしているが、これは入力ソースが480×480ドットのときのみ選択できる。ちなみに、画面のリサイズ機能はCCE-Basicにはない。 以下が、それぞれの画質のサンプルだ。
画質的には、やはりVBRに対応したのは効果が大きい。VBRは映像のみのストリームなのでファイルサイズはそのまま比較にならないが、オーディオストリームは750KBだったので、足してもCBRまでにはならないだろう。CCEは元々プロユースのエンコードエンジンなので、あまり低ビットレートのエンコードは得意ではない。いろいろなビットレートで試した限りでは、やはり4Mbps以上で使ったときに真価が発揮できるように感じた。 画質設定に関しては、Liteではビット割り当てとフィルタが別々のスライダで調整できた。しかしCCE-Basicでは、フィルタリングを映像ソースの選択と「簡単-複雑」というスライダで調整を行なうようになった。とりあえずブロックノイズの出具合を確認するため1-passCBRで3Mbpsに設定し、「自然画」でスライダの効果を試したところ、次のようになった。
「簡単」に設定すると、輪郭ははっきりするが、激しい動きの部分では追従できず、ブロックノイズが出る。反対に「複雑」にすると、輪郭が甘くなるがブロックノイズの出は幾分押さえられる。映像には複雑なところも簡単なところもあり、一概には決められないだろうが、動きの激しい部分だけを選んで、とりあえずひどい画質にならないよう調整してみる、という使い方になるだろう。
そういえばソースのエンコード範囲も、CCE-Basic上で映像を見ながら決められるようになった。入力ファイルの横の[...]のボタンを押すと範囲指定画面が現われる。Liteでは数値(フレーム単位)では指定できたが、エンコーダ上で範囲を決められるのは大きい。しかし普通このボタンアイコンは、ファイル選択ダイアログを出す時に使うものなので、もうちょっと別のアイコンにすべきだろう。 さらにプルダウン機能として、「逆3:2プルダウン」ができるようになったのは、映画やアニメファンには大きいだろう。これは24Pのソースをテレビ用にテレシネしたソースに対して設定することで、元の24Pに戻してくれる機能だ。早い話が放送用に30コマに水増ししたコマのうちいらないコマを削って、元の24コマに戻すのである。
同じビットレートなら、コマ数が少ない方が1コマに割り当てるデータ量は増える。したがって画質向上が見込めるというわけだ。 さらにビデオとオーディオに対して、細かい設定ができるようになっている。ビデオでは、GOPの構造を変えることもできるが、コンシューマ用途ではいじることは少ないだろう。イントラブロックに関して、CCE-SPやTMPGEncではある程度ユーザーが設定をいじることが可能だが、CCE-Basicではスキャン順序が変更できる程度になっている。 一方オーディオは、MPEG-1 Layer2出力となるので、標準的なパラメータ設定だ。
■ 総論 ご記憶の方もおありかと思うが、以前開発元のカスタムテクノロジーにはインタビューでおじゃましたことがある。あの時点でのお話では、低価格なパッケージ製品の投入に関してはまだ市場規模も含めて検討中ということであったが、今回こうしてCCE-Basicという形で登場したところを見ると、そろそろ出してもいい時期になったということだろう。 その背景はいろいろ考えられるが、そろそろMPEG-2の業務ユーザーも飽和点に近くなってきたという表われではないだろうか。業務~プロユースのCCE-SPと今回のCCE-Basicでは、いろいろな機能が差別化されている。これならば低価格でも業務ユーザーからの抵抗も少ないだろう、というポイントをうまく見つけられたというところなのかもしれない。また今まで出していたmpEGGやLiteなどをここでまとめて、サポートを簡略化しようという狙いもあるだろう。 もともとカスタムテクノロジーは、ユーザーの不満みたいなところに非常に神経を使う会社である。今回の実質的な値下げに対して不満があるのは、CCE-Liteを購入したユーザーだろう。しかしLiteのユーザーには無償アップグレードを行なうことで、現ユーザーにも不満がないような措置が執られている。 しかし今の現状を考えると、低価格市場への投入がちょっと遅すぎたような気もする。既にエンコーダ単体をバリバリ使いこなせるユーザーの興味は、さらに応用範囲が広いMPEG-4に移っており、MPEG-2のメインターゲットであるDVD系のユーザー層はもうちょっとエントリー層に下がって、「ボタン1つで勝手にDVDができちゃった、わーい」という楽な方が好まれるようになっているのは、動かしがたい事実だ。次第にブラックボックス化していくDVDオーサリングツールの中には、それなりに速いけどそれなりの画質みたいなエンコーダでも、それほど問題視されない。 CCE-Basicは、安い・速い・綺麗と三拍子揃った非常に高性能なMPEG-2エンコーダだが、エンジン剥きだしみたいなツールが果たしてどのぐらい受けるのか、筆者もちょっと想像が付かない。
□ノバックのホームページ (2003年3月12日)
[Reported by 小寺信良]
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